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第二十四話 嘘だと言って

「亜蘭くん、希惟、俺、文都。この順でいこう」


 部屋に戻り、ホテルの方の手によって並べられた、四人分の布団を前に、兄はそう言った。


「お兄さん、俺は文都の隣がいいです」


 先輩! 俺もです!


「亜蘭くん、あいつの隣に寝たら、何されるか分からないよ?」


 先輩と希惟さんが寝たら、お前をボコボコにしてやるからな。


 提案に対し、希惟さんが、

「それで、あなたはいいんですか?」と兄に聞く。


「え? どういう意味?」

「私と隣同士で、何とも思わないんですか?」


 す、すごい自信だ。


「確かに、希惟さんみたいなイケメンが隣にいたら、緊張して眠れなそうですね」


 俺は別の意味で眠れないけど。


「おい、なんで兄が隣だと緊張するんだ」


 俺ですか? 寝てる間に殺されかねないからですよ。


「いや今更、俺は緊張しないけど。まぁでもそう言うなら……俺と希惟、チェンジする?」


 おいバカ! そしたら、先輩、兄貴、希惟さん、俺になるだろ! 一番最悪なパターンだから! しかもそれじゃ結局、兄貴と希惟さん隣同士のままだろ。


「お兄さん」


 先輩が兄の腕を掴み、上目遣いで訴える。


「文都、俺、お兄さん、兄。一択です」


 先輩? それもおかしいですよ? お兄さん避けてるじゃないですか。


「そうする」


 兄貴が先輩の可愛さに負けて全面譲歩!


「それぞれ希望があるみたいですから、話し合いではなく別の方法で決めるのはどうですか?」


 グダグダな兄を見かねて、希惟さんが助け舟を!


「別の方法?」




 布団の上で輪になるよう、向かい合って座る俺達。その中央にはカードの山。


「布団の上で、みんなでババ抜きって修学旅行みたいだね」


 明らかにウキウキしている兄に、希惟さんが、

「そういうものですか?」と聞く。


「あ、もしかして修学旅行、行けなかった感じ? 留学行くと修学旅行の時期と被ったりするんだよね? ごめん、無神経で。友達と行けなくて寂しかったよね」

「いえ、親しい友人はいなかったので」


 触れてはいけない希惟さんの過去に触れてしまい、気まずい沈黙が流れる。


「じゃあ一抜けした人の意見で決まりって事で」


 兄が先輩の手札からカードを選ぶ。

 先輩は、兄へ手札を向けながら、俺に向かって片目を閉じた。


 ウ、ウィンク……!

 俺、息してる? 可愛すぎて死ぬかと思った。

 先輩、それは俺に任せとけって意味ですね? でも、ババ抜きって所詮運ゲーだろうし……。


 自分の番が回ってきた希惟さんが、兄の手札からカードを選ぶ。

 兄の反応を見てカードを抜くと、御目当てのカードを引き抜けたようで、希惟さんはペアになったカードを山に捨てた。


 え? 何らかのテクニックがあるの? いや、偶然ですよね?


 俺に、希惟さんの手札からカードを抜く番がまわってくる。


 ひ、表情が変わらない……。

 あれ? ババ抜きってこういうゲームだっけ?


 戸惑っている内に、先輩が俺の手札からババを引く。


 あっ! 先輩! ダメです、そのカードは!

 あああー先輩がガーンッて顔にー!


「何か質問しながらやる?」


 兄はそう言うと、先輩の手札からカードを選びつつ、

「亜蘭くん、俺のこと好き?」と聞いた。


 は!?


 兄がカードの上で手を動かす度、先輩の顔に安堵と失望の表情が浮かんだ。


「あ、はい。好きです」


 一瞬、動きを止めた兄が、ババを引き受ける。

 あいつ、先輩にババ持たせとくの耐えられなかったんだな。


 続いて希惟さんが、兄に、

「じゃあ、私の事はどう思っていますか?」と聞く。


 これを引けとばかりに、兄の手札から一枚だけ高くカードが主張している。


「え、好きだけど? 最初はムカつく奴だなと思ってたけど」


 希惟さんは迷わず、そのカードを引いた。


 どうしよう、俺も希惟さんに質問しないといけない?


「もし先輩に好きな人ができて、先輩がその人と付き合うことになったら、寂しいですか?」


 希惟さんの手札からカードを選ぶ。

 やっぱり表情は変わらない。


「もちろん。だけど、亜蘭が幸せならそれでいい」


 あ、ババが戻ってきてしまった……。


 先輩の目が、俺の目を真っ直ぐ捉えた。

 珍しい鉱物のような美しさに、思わず魅入ってしまう。


 先輩は、

「この中に好きな人がいる?」と聞いた。


 え……? もしかして、俺の気持ちに気づいて、そんな質問を?

 これって、正直に答えたら先輩に告白するようなものだよな。

 でも、さっきも結局、兄の妄言に邪魔されて言えなかったし……。

 先輩、その質問から、俺は逃げません。


「います」


 先輩が俺の手札から引いたカードに皺がよる。


「お前な……」


 え? 笑っ…いや、怒っ…。笑ってるけど、怒ってる!

 えええ……まさか、告白して怒られるなんて……。

 そうですよね、食欲の対象ごとき俺が、先輩の事を好きとか許せないですよね。ううう。




 結局、一抜けした希惟さんの希望により、希惟さん、先輩、俺、兄の順で寝ることになった。

 希惟さんと兄は、仕事で疲れてしまったのか、布団に入ってまもなく眠りについたようで、今は静かに寝息を立てている。


「文都、寝てる?」


そう囁いた先輩の方に、寝返りをうつ。


「先輩、寝付けないですか?」

「お前のせいで、イライラして眠れない」

「す、すみません……」


 猫がぬくもりを求めて擦り寄るみたいに、先輩が俺の布団に入って、体を寄せた。


「俺、すごい傷ついてるから。慰めて」


 わあーーー!! またそういう事を!

 先輩がそんなだから、俺が勘違いするんですよ。

 勘違いさせられるのも嫌いじゃないですけど、俺、ずっとこのままの関係なんて嫌です。


「先輩に認めてもらえるよう、頑張ります」

「俺は応援しないぞ」

「分かってます。俺が勝手に頑張ります」

「じゃあ、俺も勝手にさせてもらう。俺が絶対、お前より先に誘惑する」


 ん? 誘惑?


「先輩? それって……」

「眠くなってきたから話しかけんな」


 えええー!? いやいやいや、この状態で? 俺、こんな心臓バクバクいってる状態で寝るんですか?

 ていうか先輩、誘惑って何ですか? 先輩も好きな人いるって事ですか!!?


 うっわーーー……。嘘だろ……。先輩に好きになってもらえるなんて、羨ましすぎる。

 どこのどいつですか? そいつは。

 それに、こんなにかわいい先輩に、誘惑なんてされたら……。先輩、誘惑って何するんですか? まさか、けしからんような事じゃないですよね? そうだとしたら、俺はそいつを殺しに行きますよ?

 俺以外の誰かを、先輩が誘惑してる所なんて、見たくないです……。


 だけど、先輩、今までそんな素振り全く見せなかったのに、急にどうして。

 思えば、この間のラーメン屋さんの時から、先輩の様子がおかしかったような。

 今日もホテル着いて早々、兄貴と磯遊びするって言うから、おかしいなって……。


 …………。


 兄が、隣で幸せそうに寝息を立てている。


 いやいやいや。ないないない。

 いや? 先輩、やけにキラキラした目で、兄のこと見るよな。

 あんまり人を褒めることないのに、兄の事だけは、カッコいいとか、神とか褒めてるし。

 バイキングの時もずっと一緒だったし、布団の順番も、希惟さんを避けたんじゃなくて、兄の隣が良かった? いや、まさかそんな。


 …………。


 ちょっと待って! さっきババ抜きの時!

 先輩、兄貴のこと、好きですって言ってた!! しかもどこか憂いを帯びた表情で!


 嘘だろ……。嘘だと言ってください先輩……。よりによって、こんな奴を……。

 先輩、こういう奴がタイプなんですか? 希惟さんみたいな人だったら、先輩の幸せを願う気持ちが湧くかもしれないけど、顔だけがいい、ただのバカですよ?

 先輩、その恋は絶対、認められません……!




 眠りについた先輩を起こさないように、先輩の背中にそっと腕を回し、髪に顔を寄せる。

 普段、気安く触れることのできない髪に触れると、指の間を抵抗なく髪がするすると通った。


 うわっ、ツヤツヤサラサラ……。俺と同じホテルのシャンプー使ったのに。 

 さっき、傷ついてるって言ってたけど、食欲の対象の俺が、実は先輩の事を恋愛対象として見てた事、やっぱりショックだったのかな。

 俺が諦めない事で、また先輩を傷ついてしまうかもしれないけど、これだけは譲れないんです。


 腕の中に、先輩の温もりを感じる。

 艶のある髪も、息遣いも、怒ると汚い言葉を吐く口も、何もかもが可愛く思えて仕方ない。


 俺が先輩を諦める事なんてできない。

 こんなに息が詰まるほど愛しいのに。




 こうして一泊二日の旅行は幕を閉じた。

 肝心の先輩と希惟さんの仲が良くなったのかは、正直よく分からない。

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