表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/100

第十九話 どういうタイプが好きなの?

「いやー高級車の乗り心地っていいね」


 俺達は今、ラーメン屋さんに来ている。

 当初行こうとしていた、先輩のバイト先近くの店ではない。

 結局、みんなほとんど何も食べていなかったこともあり、兄が別のラーメン店を指定し、お兄様が車を出した。


 さてはあいつ、お兄様が語り出した時、すでにラーメンの事考えてたな。


 出汁の香りが漂うカウンターに、兄、お兄様、俺、先輩の順で並んで座る。


 あれから、お兄様は急に静かになってしまった。


 それにしても静かすぎない?

 実はめちゃくちゃ怒ってたりして……。


「先輩、お兄様が急に静かに」


 右隣りの先輩に、声量を最小限に留めて話す。


「反省してるんだろ」


 反省……なのか?


「お兄様はどうして人間を見下してるんですか? 昔、何かあったとか?」

「さあ……。兄との関わりあんまりなくてよく分からないけど。多分、誰かと深く関わることなく、勉強と仕事で忙しいまま今に至るから、人間だけじゃなくて、自分以外との付き合い方が分からないんじゃない? 俺にも過干渉だし」


 お兄様は学歴社会が産んだ闇ですか。


「ちょっとかわいく思えてきました……。けど、お兄様よくラーメン屋に来てくれましたね。人間が作る物なんて口にしないとか言いそうなのに」

「そんな事言ったら、俺達食うものなくて死ぬぞ」


 空気の読めない兄が、

「高貴なお兄様には不釣り合いなお店だったかな?」と言って笑う。


 ヒヤヒヤしながらお兄様の方を見ると、お兄様は兄を見て、

「ここはあなたのお気に入りの店ですか?」と聞いた。


 敬語。


「急なキャラ変やめろよー、こんな小汚い店、低脳な人間が来る所だ! とか言えよー」


 ちょっ、兄貴、横見ろ横。ラーメン屋店主からの刺すような視線!


「俺の働いてる会社の近くにあるから、昼はよく来るんだよね」


 そう言うと、兄は名刺を取り出し、お兄様に渡した。仕事柄いつも持ち歩いているらしい。


 それを見て、

「お兄さん、マジでカッコいい」と先輩が感心した。


 あんな紙切れで先輩からカッコいいを貰えるなら、俺は百万枚配る。


 お兄様が名刺を見て、

甲斐公都かいきみとさん。飲食店向けのシステム販売ですか……」と呟く。


 それを聞いて、兄が、

「なんか文句ある?」とまた喧嘩を売る。


「私の会社がホテルや飲食店を経営しているので、繋がりがあると思いまして」

「あーお兄様、ホテルの支配人とか似合いそうだよねー」

「支配人ではないですが……」


 お兄様の丁寧な口調が、逆に怖い。

 ところで。


「先輩、どうしてずっと手を握っているのでしょうか?」


 席に着いた瞬間、先輩は俺の手を握り、自分の膝の上に引き寄せた。

 それからずっと、どこにも行かないように捕まえているみたいに、俺の手をカウンターの下で拘束している。

 若干、先輩側に傾いた体を、左隣のお兄様に気取られないよう、俺は脅威の体幹で耐えていた。


 俺の問いに対する、先輩の返答はない。

 眉間に皺を寄せ、不機嫌にも見える顔で、何かを真剣に考えている。


 先輩は、少しの沈黙の後、

「お前、どういうタイプが好きなの?」と俺に聞いた。


 先輩……?

 どうしてこのタイミングで、そんな質問を?

 俺の好きなタイプは先輩ですが?


 先輩と俺が付き合っていると思っている兄が、

「亜蘭くん、健気だねー」と言う。


 俺を食欲の対象として見ている先輩が、

「早く言え」と迫る。


 先輩を好きな俺が、

「かわいい人です」と答えると、何も知らないお兄様が、

「おい人間、さっき聞きそびれたが、亜蘭とどういう関係なんだ」と古風な吸血鬼モードに。


 それを聞いて、真の何も知らない兄が、

「内緒にしといた方がいいのかな〜?」とニヤつく。


 ムカつく顔やめろ、お前が一番何も知らないんだぞ。


 先輩は、俺の答えに納得しなかったようで、

「かわいいはダメだ。他のにしろ」と言い放った。


「放っておけなくて、守ってあげたい……。やめましょう! この話題は!」


 何だこの羞恥プレイは。

 先輩は、何でチベットスナギツネみたいな顔してるんですか?

 

 カウンターに次々とラーメンが置かれる。

 湯気の立ちのぼる透き通ったスープに、油がうっすらと浮かんで、キラキラと輝いて見えた。しっとりしたチャーシューに、半熟の味付け卵と海苔が乗っていて、細めのストレート麺によくスープが絡む。


 ふと隣を見ると、先輩が天使のような微笑を浮かべていた。


 先輩、お美しいです。

 こんなおいしいラーメンを食べたら、どんな種族の垣根も越えられる気がする。

 いつか、お兄様も人間の事を好きになってくれるかもしれない。




第19.5話 かわいいはダメだ


「亜蘭、最近悩んでいる事はないか? それか欲しいものとか」


 ニューヨーク帰りの兄が、俺に聞く。

 何で悩んでいる事の次に言う事が、欲しいものなんだ? 脈絡ないな。


「特にないですね」


 そう言うと、分かりやすく兄が項垂れた。

 意気消沈ぶりがサングラス越しでも伝わってきて、正直ウザい。


「いや、欲しいものはあります」

「よし、亜蘭が欲しいものはなんでも買おう。その前にまずは部屋に行こう。亜蘭に似合いそうな服を買ってきたんだ」

「血を吸いたい人間がいる」


 兄が唖然として、彫刻のように固まった。


「だけど、中々吸わせてくれなくて」


 兄は、急に緊張感のある声で、

「ドナーからの提供で十分だろう」と言った。


 そうだった、兄はこういう吸血鬼だ。


「まあ、俺の気持ちなんて分からないでしょうから、もういいです」


 それを聞いて、兄がこの世の終わりみたいな顔をする。

 だから、そういう所がウザいんだって。


「美しい容姿は獲物を惹きつけるためにある」


 仕方ないというような顔で兄は言った。


「吸血鬼らしく誘惑すればいい」




 誘惑、誘惑、誘惑……。


「先輩、どうしてずっと手を握っているのでしょうか?」


 文都がおずおずと、こちらを窺う。

 こいつ、そういえばモテるよな。この前もバスで……。


 思わず手を握る力が強くなる。


 誘惑ってなんだ? 何すればいいんだ?

 吸血鬼らしくって言われても、誘惑なんてしたことないからな……。


「お前、どういうタイプが好きなの?」


 文都が、困惑の表情で俺を見る。

 なんだその顔。


「早く言え」


 もったいぶるな。


 文都は、俺から目を逸らすと、

「かわいい人です」と言った。


 はぁ?


「かわいいはダメだ。他のにしろ」


 俺にない要素はダメだ。かっこいいとか強いとか言え。言え言え言え。


「放っておけなくて、守ってあげたい……」


 こいつのタイプ、俺と正反対なんだけど……。どうやって誘惑するんだよ。

 それより、何でさっきから、そんなに言いにくそうにしてるんだ?


 はっ……。


 その時、浮かんできた一つの仮説に、俺は、雷に打たれるような衝撃を受けた。


 こいつ、さっき俺の兄の事、ちょっとかわいく思えてきました……って言ってたな。


 放っておけなくて、守ってあげたい……?

 そういえば、お兄様はどうして人間を見下してるんですか?とか、やけに兄のこと気にかけてたし。


 大体、何でこいつが助手席で兄の話聞いてたんだ? 今も隣同士だし。


 俺の隣で、文都が世界平和を願うみたいな顔でラーメンをすすっている。


 おい、幸せそうな顔でラーメン食いやがって……。

 俺に血を吸ってもいいって言ったくせに、俺の兄が、好きなタイプ……?


 怒りで逆に笑えてきた。

 俺が、どれだけ我慢してるか分かってないみたいだな。


 お前が兄を好きになるなんて、俺は絶対認めないからな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ