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第十八話 大人しくグミ食ってろ

 卑しい人間……?

 卑しい人間って言った? 今、この人……。


「おい、卑しい人間って何だ」


 兄が男に噛み付く。


「ラーメン一杯を楽しみにするような庶民だって、一生懸命生きてるんだぞ!」


 気持ちは分かるけど、何かそう言い返されると恥ずかしいな。


「あー……」


 先輩が気まずそうな顔で言う。


「文都のお兄さん、俺の兄が失礼なことを言ってすみません」


 兄。


「兄!?」

「先輩、お兄様がいたんですね。先輩の口からお兄様の話聞いたことないから、てっきり……」


 そう話すと、何故かすごい形相で、先輩のお兄様から睨まれ、兄共々縮み上がる。


「今までニューヨークで仕事してて、あまりこっちにくることもないから、話す機会がなかっただけ」


 先輩は、そう言うと、俺だけに聞こえるように、

「兄はちょっと古風な吸血鬼なんだ。だから会わせたくなかった」と耳打ちした。

 

 よく見たら、身長は大分違うけど、肌が白い所とか整った目鼻立ちが似てるかも。お兄様の方が目が鋭い気がするけど。


 先輩のお兄様がため息を吐き、

「亜蘭、お前が謝る必要はないだろう。まだ低脳な人間達と付き合っているのか?」と言った。


「我々は、提供を受ける、提供するのドライな関係だ。そこに敬意を払う必要はない。彼等は私達の気分が良くなる為の存在に過ぎないのだから」


 それを聞いた俺の兄が、わなわなと震え出す。


「俺達一般人の働きがあってこそ、お前ら上流階級の生活があるんだぞ! お互い様って感覚が大事なんだ! 今の世の中、搾取する側がいつされる側になるかなんて分からないんだからな!」


 お互い違う話題のこと話してるのに、何で噛み合ってるんだろう。


「さすが文都のお兄さん、神」


 先輩は、俺の兄の話を聞き、目を輝かせて感心する。

 先輩、そんな事ないですよ。絶対、昔言われた嫌な事とか思い出して、日頃の鬱憤をはらしてるだけですから。


「亜蘭くんのお兄様なのに全然可愛くない! 全然似てないし!」

「なっ!? 何だと!?」

「どうせ今までろくに亜蘭くんのこと構ってやらなかったんだろ? 今更何かしてあげようとしたって、距離感あるのバレバレだからな! 俺なんて亜蘭くんから尊敬されてるし、髪だって乾かした事あるんだからな!」

「……兄貴、もうそれくらいに……先輩のお兄様が灰になっちゃうから……」


 魂が抜けてしまったみたいに、先輩のお兄様が立ったまま意識を失っている。

 図星だったのかな。




「亜蘭が心配だったんだ……」

「はい、分かります」


 先輩のお兄様の車で、お兄様の話を聞く。運転席にお兄様、後部座席に先輩と兄、なぜか助手席に俺。何で俺がメインで聞き役なんだろう。


「亜蘭くん、グミ食べる?」

「いただきます」


 どうして俺の兄は、後部座席で先輩とお菓子を食べてるんだろう。モッチャモッチャするな、やめろ。


「亜蘭は小さい頃は病弱で、あまり遊んでやれなかったんだ。体が丈夫になった頃には、俺は勉強で忙しかったし、その後も仕事で忙しくて構ってやれなかった」


 語り出したぞ?


「だけど、ずっと気にかけていた。卑しい人間達と仲良くすることに理解できず、俺の所に連れてくることも考えたが、亜蘭が幸せならそのままでいいと思っていた。つい、この前までは……そう、亜蘭が動物園で倒れたと聞くまではな」


 ん?


「よりによって炎天下、長時間、野外を歩かせるなんて……。それに昨日だって銀に触れて気分が悪くなったというじゃないか」


 急に冷や汗が止まらない。


 後部座席から兄が、

「あれ?動物園で倒れたのは文都の方だろ?」と声をかける。


 余計な事を言うな。大人しくグミ食ってろ。


「何……? まさかお前、その時亜蘭と一緒にいたのか? そもそも亜蘭とどういう関係だ」


 お兄様が眉間に皺を寄せて、俺を睨んでくる。

 関係を問われると、辛い所があるのでやめていただきたい。


「だから、それは俺のせいだって説明しましたよね?」


 先輩が、不機嫌な声で言う。

 車内の温度が急激に下がっていくような気がした。


「いや、俺のせいです。だけど、もう二度とそんな事はありません。俺が守ります」


 お兄様が目を見張る。

 深いため息を吐き、きっちりと整えられた髪をくしゃくしゃとかき乱すと、お兄様は俺を不服そうに睨んだ。


「非力な人間に何ができるって?」


 前に先輩にも言われたな。


「お兄様に信頼してもらえるように努力します」


 後部座席から兄が、

「ところで、心配したお兄様は、亜蘭くんをニューヨークに連れて行こうとしてたのかな?」と声をかける。


「は……? そうなんですか?」


 怒りのこもった先輩の声に、お兄様がビクッと体を震わせる。


 兄が運転席のシートに腕を置き、お兄様の耳元で、

「もう思い通りになる年齢じゃないでしょ。卑しい人間の俺でよかったら、弟の扱い方、教えてあげようか?」と言った。


 余程、屈辱的だったのだろう。

 お兄様の顔が赤く染まっていくのを、俺だけが見ていた。

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