第十三話 お前になら守られてやってもいい
先輩から、物が無くなるという話を聞いた日の放課後。
俺は、教室を出た先輩を廊下で呼び止めた。
「先輩!」
「あ……悪い。この後、先生との相談があって、先帰ってて。話あるなら明日の朝……は、友達に返す物があって早く行かないといけないから……」
俺の呼びかけに、先輩は、珍しく歯切れの悪い返事を返す。
「待ってます」
先輩の顔に、意外そうな表情が浮かぶ。
「いつ終わるか分からないけど」
「大丈夫です。何時間でも待ってますから。明日の朝も、先輩と同じ時間に登校します」
何でお前がそこまで? とか余計なお世話とか言われるかもしれない。だけど。
「先輩、俺は知りたいです。先輩に何が起こっているか。先輩が辛い思いをしているのに、俺がそれを知らないのは嫌です」
先輩にとって俺の存在が、食欲の対象にすぎなくても。
「お前……もしかして……」
言ってしまってから気づく。
これってある意味、好きだと告白しているようなものでは?
先輩との関係が今日にて終了してしまうかもしれない? そんな。
「怒ってる?」
「え……?」
「俺が一方的にやられてることとか、それをお前に相談しなかったこととか」
俺が一番怒っているのは、不甲斐ない自分に対してですけど……。
先輩は、
「俺は、心配されるほど弱くないけど」と言った。
確かに。先輩は、俺の助けなんていらないくらい強いです。肉体的にも精神的にも。
気落ちする俺に向かって、先輩は見惚れてしまうような笑みを浮かべた。
「だけど、お前になら守られてやってもいい」
終業式の前日の夜。
事件が収束し、あっという間に日々が過ぎていった。
明日の終業式を終えれば、みんなが待ちに待った夏休みが始まる。
俺は、リビングテーブルの上に置いたスマホを前に、葛藤していた。
先輩に何が起こっているか知りたいと言った俺の言葉を、先輩は、そのままの意味で捉えたのかもしれない。
あの日、俺のスマホに自分の連絡先を入れ、スケジュール管理アプリをインストールした先輩は、俺とスケジュールを共有した。
違う! 違うんです! そういう意味じゃなくて!
俺、束縛する彼氏みたいだな。
何となく気が引けて、一度も見ていなかったけれど……。
これは、結局言えずにいた夏休みのお誘いをするために、先輩の予定を知るチャンスだ。
先輩、すみません! 予定、拝見させていただきます!
カレンダーに並ぶ、予定の数々。
バイト、映画、食事、友達らしき人の名前……。
スケジュール管理アプリが、先輩の空いてる日がほぼないという悲報を知らせる。
それと同時に、色々な疑問が浮かんでくる。
先輩、バイトしてたんだ……。安全なバイトかな? たちの悪いお客さんに絡まれてたりしないかな?
あと、この友達らしき人の名前は、いつも教室に来る先輩達かな? そうであってほしい。
映画は一人で? 食事って書いてあると何か大人な感じがするけど、先輩、悪い大人に誘われてたりしないよな……。
「束縛すると嫌われちゃうよ?」
俺の背後で、お風呂上がりの兄が言う。
「お前、亜蘭くんに、予定は逐一俺に報告しろとか強要してるの? やだねーこわいねー」
兄の胸倉を掴んで揺さぶる。
「ちょっやめっやめて! 俺は、亜蘭くんには亜蘭くんの世界がある訳だから、お前がそこに口出しするのは違うぞと言いたかっただけで!」
そんなことは分かってる。分かってるけど……。
「じゃーん」
終業式の朝、理人が俺に向かってスマホの画面を見せる。
そこには、お揃いの黒いシャツにキャップ姿の先輩と、理人のツーショット写真が映し出されていた。




