表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/100

第十二話 先輩の何なの?

 別教室への移動の途中、前方から上級生が歩いてくるのを見て、理人は、すれ違い様にその胸倉を掴んだ。


「え!?」


 突然の暴挙に、目を疑う。

 いつも笑顔でいる理人の面影はそこにはなく、掴んだ相手を睨みつける目が、ギラギラと獣のように光って見えた。


「理人!」


 そのまま殴りかねない様子に慌てて間に入るも、理人は俺の呼びかけに応じない。


「それ、亜蘭先輩のだろ」


 理人の視線の先には、胸ポケットにささったボールペンがあった。

 真っピンクで、フワフワの素材でできたハートが付いている。ハートの部分には目と口が付いていて、何かを訴えているような何とも言えない表情でこちらを見ている。


 ハートの化け物と目が合ってしまった。

 理人? 落ち着いて? それは先輩の物ではないのでは?


 先輩らしくない物なのに、理人はそれに確信を持っているようだった。


「先輩の筆箱から無くなってた。先輩が持たなそうな物だったからよく覚えてる」


 理人が掴んでいた手を離し、上級生の腹を蹴る。

 蹴られた相手が苦しそうに唸って、床にへたり込むと、その髪を乱暴に掴んだ。


「どんな気分? 先輩の物、手に入れて嬉しかった? それ眺めて楽しんだ?」

「おい! 理人!」


 犯人だって確信持ってても、普通いきなり蹴るか? まだ自白した訳でもないのに。

 いつもと違う理人の様子に戸惑いが隠せない。


「俺がやっと見つけたのに……汚い手で横取りかよ」


 手を離された上級生がふらついて、床に尻もちをついた。

 上級生を咄嗟に庇うと、俺の背中に蹴りが直撃する。


 最近よく痛い思いするな……!


 ご乱心のおじさんの平手よりも、先輩の噛みつきよりもずっと痛い。


 骨が折れていないか心配になりながら、

「やりすぎ」と諭す。


「どこが? あのさ、前から思ってたけど、甲斐くんって先輩の何なの?」


 理人が、俺を見下ろして笑う。


「やさしいだけじゃ、先輩取られちゃうよ」




 その後、その上級生は自分のした事を認め、盗まれた物は先輩に返された。

 理人は暴力を振るったものの、蹴られた側にも非があった事、普段の素行に問題がない事で停学は免れ、処分は課題や先生との面談といった学校内での指導に留まった。


「甲斐くん……。これ、病院代……」


 教室で、理人がおずおずと病院代を差し出す。

 眉を下げ、見捨てられた子犬のような姿に、この前の面影はない。


「本当ごめんね……! あの時は血が上ってて……。甲斐くんを蹴るつもりはなかったんだよー!」


 平謝りする姿に、あの時の理人は、別人だったのではと思えてくる。


「分かってるって、気にしてないから。理人のおかげで犯人分かったんだし」

「甲斐くん……」


 俺を抱きしめようとする理人を慌てて制止する。


「痛いから、まだ痛いからやめて」


 もしかしてお前、怒ると人が変わるタイプの方? 危ないな。


「あの上級生、二年生だったね。先輩に嫉妬して、困らせてやろうと思ったらしいよ」

「先輩と同じ学年か……。大丈夫かな」


 理人から話を聞いて不安になる。

 解決されたとはいえ、気持ちの悪さは残っているだろうし。


「大丈夫じゃない?」と理人は言った。


「あいつ大怪我して入院したよ。学校も変えるみたいだし」


 入院?


「何で?」


 意外な結末に驚く俺に、理人は、

「バチが当たったんじゃない?」と言った。




 昼休み。

 俺は、小鳥に餌を与えるように、先輩の口にお菓子を運んでいた。

 俺の日常に先輩が戻ってきて嬉しい。


「マジで良かったわー。犯人見つかって」

「うちらも犯人探ししてたんだけど、亜蘭くんのファンが暴走してストーカー化してると思ってたから、男はノーマークだったんだよね」


 先輩のお友達が、それぞれそう言った。


 いつも仲良しだから、お二人も先輩の事をすごく心配していたんだろうな。


 そういえばと、気になっていた事を聞く。


「あのペン、先輩のだったんですね。ピンクのハートが付いてる……」


 あのハートの化け物。


「姉から貰った」


 例の初めての時にがっついて、相手を貧血で倒れさせたという……。

 変わった趣味してますね。


「あれを持っている事に理人が気づいて、それで犯人が分かったんですよ」

「なんで? あいつが俺の私物、知るわけないだろ」


 沈黙が流れる。

 言われてみれば、確かに。


「そういえば、足りないんだよな」と先輩は言った。


「謝罪が?」と先輩のお友達が聞く。


「返ってこない物がある。捨てられたのかな?」

「えーあいつまだ隠し持ってるって事? やっぱストーカーじゃん」

「俺達で、もう一回制裁しとく?」


 怒りが収まらない先輩のお友達が、報復をほのめかす。


「退院後また制裁されたら、流石に凝りそうですね」


 それを聞いて、時が止まってしまったように先輩達が固まった。

 その表情が知らなかったと物語っている。


「え? どういう事?」

「大怪我して入院したって、学校も変わるって聞いたんですけど……」

「は? 何で?」


 先輩達が知らなかった事を、理人はどうして知っていたのだろう。


「まあ、自業自得?」


 気まずそうに先輩のお友達が言う。

 話題を変えるように、もう一人のお友達が、俺を窘めた。


「ていうか甲斐くん落ち着きすぎ! 亜蘭くんが酷い目あったんだよ? もうちょっと怒ってもよくない!?」


 それを聞いて、俺と先輩の目が合った。


「お前、めちゃくちゃ怒ってたよな」


 先輩は、そう言って笑った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ