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96.群がる爪牙④

 「創造主?」

リキが、土俵から拳を離すと、ゆっくりと立ち上がる。

「ノーツァルパント、という者のことか?」

リキが立ち上がったのを見て、バーンクロウは紅の翼を1度大きく広げると、それを畳みながら立ち上がった。

「ほう。主の名を知っておるのか」

バーンクロウは興味深そうにリキを見つめる。リキは相変わらずゆっくりとした動作で、土俵際へと向かうと、宙から白い粉状のものを掴んだ。塩、のようだ。リキはそれを、土俵上へと撒く。

「詳しくは、知らん。冒険譚を生みだした者だということくらいしか。しかし、バーンクロウ、お前も冒険譚から現れた魔物の類だろう。それならば、ノーツァルパントのことをそう呼んでいてもおかしくはない」

リキが、バーンクロウへ促すように宙を指さす。バーンクロウがリキの真似をして宙から塩を掴むと、投げ捨てるように勢いよく撒いた。

 土俵の四方に、塩と砂でできたかのような幕がおりた。

「我は、他の魔物とは違う。お前たち人間が、Sランクの冒険譚と呼んでいるもののなかで、はじめの何冊かは創造主自らがお書きになった。創造主は、我のような者をその本の統治者として生み出された。創造主を模倣してプロローグが量産した本の魔物と違うのは、そこだ。我は真に、主から創造されたのだ」

バーンクロウの言葉を聞きながら、リキは四股を踏み、仕切りを続ける。

「それは、メイン・ストーリーとやらの登場人物、ということなのか?」

リキが、努めて何気ない様子で尋ねると、バーンクロウの顔がやや強張った。

「ほう。そこまで知っておるか。しかし、そのような問いが出てくるということは、メイン・ストーリーがどのようなものかまでは、知らぬようだな」

バーンクロウは、「だが、我らの邪魔にはなりそうだ」と、リキに向けて手をかざす。しかし、すぐに怪訝な表情になる。能力が、かき消された。

「うむ、お前が素直に土俵を清めてくれて助かった。これを発動するための条件は、双方が土俵へ塩を撒くことだ。その後の仕切りは、こちらでさせてもらったが、それについても礼を言う。邪魔をせずにいてくれて感謝する。これで、俺たちは心置きなく、純粋な『力比べ』のみで競い、勝敗が決するまでは土俵からおりることは叶わない」

リキが、改めて土俵に拳をついた。バーンクロウはリキを消し飛ばそうとかざした手をおろし、牙を剥き出して笑うと、やはり改めてリキの姿勢を真似した。


 木々の間から、梟の栞の面々が魔具製銃を発砲してくる。ユウヒは太い幹の陰に隠れ、杖を握りしめると、「火花 牡丹」を後方へ撃ち返した。向こう側の位置を確認する余裕はなく、振り返ることなく乱射する形となったが、いくらかは追手に当たったようで、爆ぜる炎の音と悲鳴が森の中に響いた。

 息を整えると、ユウヒは幹の陰から出ないよう慎重に立ち上がると、駆け出す。

「もしかして、あれが・・・あいつの言ってた、梟の栞って人たち?」

木々を縫うようにして走っていると、おもむろに開けた場所へ出た。そしてすぐ、ユウヒは敵に囲まれたことを察知した。杖を構えてその場でぐるっと回転し、炎の障壁を作り出す。間一髪、魔具製銃から放たれた攻撃が、炎の渦で防がれた。ユウヒは杖の先で地面を突き、その渦を一気に外側へと拡散した。ユウヒを包囲していた梟の者たちが怯む。その隙にユウヒは駆けだそうとしたが、ふと、先程まではなかった「植木鉢」が足元に置かれているのに気がついた。次の瞬間、植木鉢から凄まじい速度で大量の芽が出てそれが四方八方へと伸びていき、梟の者たちへと向かうと、先端に現れた鋭く長い棘が手当たり次第に身体を貫いてゆく。至るところで悲鳴が上がり、棘に貫かれた者たちは体内の水分を吸い取られたかのようにぐったりとして地面へ落ちる。植木鉢の中央から、1本の茎が伸び、その先に鮮やかな花を咲かせた。

「ユウヒちゃん、あの梟の面をした人たちに、心当たりがある?」

ミツカが現れ、鮮やかな花に触れると、茎がしゅるしゅると音を立てて縮み、伸びて行った棘たちも回収されるように植木鉢へと戻ってきた。あっという間に、植木鉢には小さな花が1輪咲いているだけの状態になった。

「ミツカさん・・・えっと、たぶん・・・知ってるかも?」

ユウヒが曖昧に笑う。その時、いくつもの紫色の閃光が、ユウヒとミツカを避けるようにして飛んでいき、隠れて2人を狙っていた梟の者たちを射抜いた。樹上から、ココノハが軽やかに着地した。

「あちらから3人、君と同じ年頃の男たちが駆けてくる。もしかしたら、君たちの仲間か?」

ココノハがユウヒへ尋ねているうちに、茂みの向こうからトラヒコが現れ、すぐ後ろからライムもやってきた。少し遅れて、息を切らせたネガ。トラヒコが呼吸を整えながら、慎重にココノハを見つめる。

「あ、大丈夫、この人はミツカさんの恋び・・・じゃなくて、お知り合いなんだって」

ユウヒが説明すると、ライムがすぐにココノハへ笑顔の会釈をした。そしてすぐ、真面目な顔に戻る。

「強敵と遭遇して、今、リキさんが足止めをしてくれています。でも、敵は・・・リキさんでさえ、どのくらい足止めが出来るか分からない程の強さだと思います」

ライムの説明に、ココノハが頷き、ミツカを振り返る。

「木の上から、リキが土俵を展開しているのが見えた。もしもリキが敗れることがあれば救出してこなければならない。モッチやあの少年の行方も気がかりだろう、君たちはそちらを探していてくれ。私がリキの元へ行ってくる」

そう言い残し、ココノハは弓を手に、矢のような速さで森の奥へ駆けて行った。


 「あの人は、信用出来るんだな?」

トラヒコが、ユウヒに問いかける。ユウヒはミツカにちらっと目をやると、頷いた。

「うん。さっきも、うちらのこと何度も助けてくれたし」

ユウヒの答えを聞くと、トラヒコはココノハが去った方角を見つめた。

「リキさんは、おいらたちを逃がしたら、自分も逃げるって言ったっす・・・」

ネガは、そう信じたいというような口振りだ。

「うん・・・でも、僕たちが逃げ切ったって、どうやって判断すると思う?リキさんはきっと、限界まで戦って足止めをしようとする・・・そうだよね?」

ライムの言葉に、「ああ」と返したトラヒコはまだ、森の奥から視線を外さない。

「ギルドへ応援要請はしたっすか?」

ネガが、はっと思い出したようにミツカへ問う。

「ええ、ついさっきね。でも、モッチちゃんがとっくにしていると思うわ。だけど、ライオンタウンからここまではかなりの距離だから、すぐに駆けつけることは難しいでしょうね」

ミツカが呟く。ライムが頷くと、ユウヒに視線を向けた。

「ジャンベは、どうしたの?」

ネガも、身を乗り出す。トラヒコもこちらに振り向いた。

「あの、ふらふらって冒険譚に呼ばれちゃうやつ、あれがきたみたいで。だけど、いつもと違って、なんか『7』の本みたいに特別な冒険譚かもしれないって」

ユウヒがそう言うと、トラヒコも頷いた。

「ああ。いつもの『呼ばれる感覚』じゃなくて、『誰かの話し声を聞いている感覚』だと。そもそも、ジャンベは全ての冒険譚に呼ばれているわけじゃないよな?俺たちと本拾いには何度も行ったが、あの状態になることの方が少なかった。何か法則性があるのか・・・?」

トラヒコが腕組みをする。しかし、すぐに「いや、今はそんな場合じゃないな」と切り替えた。

「あのココノハって人は、遠距離攻撃の能力だろう?リキさんを救出するためには、離れた場所から攻撃して敵の意識を惹きつけることも重要だが、1つの地点からでは奴を相手にするには危険過ぎる。もう何人か、遠距離からの攻撃が必要だ。それに、実際にリキさんの身体を運ぶ役もいる。そして、怪我の具合によっては一刻も早く回復をしなければいけないかもしれない」

トラヒコの言葉に、一同が頷いた。


 地響き。

 樹上に展開された土俵。四方を囲んだ幕が霧散するようにして消え去った。土砂が轟々と音を立てて滑り、土俵が崩れ落ちてゆく。

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