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94.群がる爪牙②

 モッチの研究室で用いられている分析魔具は、国の検知システムと仕組みは似ている。もともと、モッチが検知システムについて独自で解明を試みていた際、一部の仕組みを模倣した装置が出来上がった。冒険譚から現れた命の検知。つまり、エネルギーの出現を観測することが出来る。

 はじめは、目撃情報と照らし合わせたり、リキやミツカに協力を仰ぎ現地で魔物を目視したりして、精度を高めていった。その結果、魔物の大量出現を検知、および予測することも可能になってきた。

 モッチは、ライムたちが異端渡りと接触して得た情報をもとに、改めて魔物の出現について分析し直した。すると、偶然冒険譚から迷い出たり、自らの意思で抜けだしたりした魔物は、出現してからも行動範囲は広くなく、やがてまた冒険譚へと戻っていくことが分かった。反応がもとの場所へと戻り消滅するのである。しかし、冒険譚内部で何かしら異常があり、追い出されたり逃げ出したりして出現した魔物は、その冒険譚を避けるように遠くまで移動していることも明らかになった。


 腕の長い猿の魔物が大勢、木々の枝を飛び移りながら迫る。ライムは丹田に波動を集中させ、息を吐き出しながら怒涛の正拳突きを繰り出す。少し離れたところで、リキが分厚い素足で地面を踏みしめ、宙を張り手で打つ。地面から砂が浮き上がると、リキの手掌の形を成し、リキが激しく突っ張ると砂の手掌が撃ち出された。波動と砂で、猿の魔物たちが弾け飛ぶ。

「ライム、存分に暴れよう!」

リキの掛け声に、「はい!!」と勢いよく答えるライム。

 木々が折れた箇所は、空から地面が丸見えだ。巨大な嘴で啄むように、怪鳥が舞い降りてくる。

「火花 牡丹!」

ユウヒが無数の炎の玉を噴射し迎え撃つ。

「ユウヒちゃん、その調子よ」

ミツカがユウヒの横に並ぶと、深紅の葉をユウヒの周囲に舞わせる。みるみるうちに葉は炎へ吸い込まれ、1つ1つの炎の玉がますます燃え上がり大きくなった。

「魔力切れの心配はいらないわ、ほら、たっぷり」

ミツカが特製ドリンクの瓶をゆらゆらと振り、微笑む。ユウヒは「き、厳しい・・・」と苦笑した。

 迫る敵の大小に合わせ、太刀筋や纏う風の量を調整しながら、トラヒコが無双する。しかし、背後から迫る6本足の熊へ迎撃が間に合わない。

「させないっすよ!」

ネガが、手をかざすと、6本足に赤い光が纏わりつき、動きが緩慢になる。その状態は長く続きはしなかったが、トラヒコにすれば足止めに十分であった。振り向きざまに刀を薙ぎ払うと、風の斬撃が飛び、一刀両断した。

「数が多い。魔力切れに注意しろよ」

トラヒコの言葉に、「そっちこそっすよ」とネガが笑う。


 ジャンベとモッチのもとに、トラヒコとネガが駆けてくる。

「モッチさん、さっきこれを意図的に引き起こしている犯人がいるって言っただろう?それは確かですか?」

問いかけるトラヒコの目を、モッチはじっと見つめて答える。

「君は、どう思う?」

トラヒコは、追ってきた魔物たちの群れに向かって刀を構えた。代わりにネガが答える。

「モッチさん、現場を見てはっきりしたって言ったっす。今回の大量出現、魔物の種類に統一感がないっすよね。なんだか、別々の冒険譚から寄せ集めてきたって感じっす」

群れを切り伏せ、トラヒコがまたモッチを振り返った。

「それに、おそらくBランク級の魔物がゴロゴロしている。おまけに、妙に統率が取れている。嫌な予感がする・・・敵は想像以上にヤバい奴かもしれない」

モッチがそれに頷き、ちらっとジャンベに視線を向ける。ジャンベは、モッチを守るために周囲を警戒してはいるが、それにしてはやけに汗をかき、呼吸が乱れている。

「ジャンベ、大丈夫っすか?」

ネガがジャンベの顔を覗き込む。ジャンベがネガに視線を向けるが、焦点がすぐには定まらない。

「ネ、ガ、さん・・・」

「おい、あの症状か?」

トラヒコも、刀を構えたまま後退りし、ジャンベへと近寄る。

「大丈夫・・・です、制御できています。あの、今のボク、普通の冒険譚みたいに呼ばれている感覚ではなくて、あの『7』の時と同じような、誰かの話し声を聞いてる感覚なんです」

ジャンベの足が、じわじわと森の奥の方へと向く。

「俺がついて行く。モッチさん、あとは・・・」

トラヒコがそう言いかけた時、まさに森の奥から、激しい地響きとともに今回の戦いで1番の巨体が現れた。ライオンタウンに建ち並ぶ家々よりも遥かに大きい。弧を描きながらも鋭く伸びる2本の角。ぶるる、と鼻を鳴らすその姿は巨大な猛牛だ。

「ほう、良い体躯をしているな!」

リキがやってくる。頭を抱えながら、リキの脇を抜けて行こうとするジャンベをそっと制し、「トラヒコ、ネガ。ライムに加勢してやってくれ」と言って頷いてみせた。


 こん棒を振り回していた巨人を一撃で跳ね飛ばしたのは、さらに体格の良い毛むくじゃらの巨人であった。その巨人は、ユウヒとミツカに目を留めると、下品な笑みを浮かべて勢いよく迫ってきた。

「うへ、気持ち悪っ」

ユウヒが地面に魔法陣を展開し、巨人がそれを踏むと火柱が上がった。

「仕方がないわよ。わたしたち、可愛いもの」

ミツカが悪戯っぽく笑うと、手を優雅に振り、身体をくねらせながら火柱を抜け出してくる巨人へツルを巻き付けた。

「そうですよね、モテ過ぎちゃうのも困りもの」

ユウヒが悪ノリし、ツルに沿うようにして杖の先を向ける。

「火花 朝顔」

杖先から伸びる炎がくねくねと巨人の身体に巻き付くと燃え上がる。巨人が咆哮をあげてのたうち回り、ツルを引きちぎりながらこちらを向いた時、先程の下品な笑みは消えて、憤怒しているようだった。

「うそ、しぶとすぎ・・・」

ユウヒとミツカが後退りする。巨人が吠え、拳を振り上げた時、どこからともなく紫色の閃光が巨人の首を貫いた。一瞬で、巨人の目から光が消えると、轟音を立てて巨体が崩れ落ちた。


 「な、なに?」

ユウヒが、閃光の放たれた方をきょろきょろと窺い、首を傾げてミツカを振り向くと、何故かミツカは顔を赤くして俯いていた。

「待って、心の準備が出来てない・・・」

ユウヒがきょとんとしていると、草をかき分けて、1人の男が現れた。山吹色の長髪を後ろで一つ結びにしている。細い目の奥から油断のない視線をこちらへ向けてはいるが、手にした弓は構えられてはいない。そして、ミツカの姿をみとめると、細い目が少し大きくなった。

「ミツカ、か?」

ミツカが小さく咳払いをして、両頬を軽く叩くと、努めて何事もなかったかのように応じた。

「あら、ココノハ。お久しぶり」

 2人へ交互に視線をやっていたユウヒが、やがて何かに気がつくと、「へえ~」と漏らしにんまり笑った。

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