勝敗の果てに
箱庭での二日…恩恵により実質四日目が過ぎた。スバルてシエンの勝負の結果が分かる日である。
スバルは初日からぐっすり八時間程の眠りについていた、恩恵を加味すれば約十六時間は寝てしまった計算だ。
しかし眠りについてしまった当の本人は何ら焦った様子も無く、実質二日目からトレーニングを始めて今日に至る訳だ。
対してシエンは凄まじい程にオブジェ技をこなしていた…しかも独自の配置を編み出していたのもあり自信たっぷりである。
現在四人はスバルのトレーニングルームに集まっており、ムースに勝敗を決めるために来てもらっているみたいだ。ムースにはスバルとシエンの習得スキルの開示してもらい虚実なき真実を伝えて貰い勝敗を決める為に来てもらった訳である。
さて?結果は分かっているけど…僕が見たいのはその先の展開さ、スバル。ニコリと笑うエデルの目は真剣だった。
創造神エデル…創造できると言うことは…裏を返せば破壊も出来るのだ。エデルは破壊神でもある、破壊を願えば破壊を、創造を願えば創造を。それがエデルの存在意義であり仕事だった。
「願わくばスバル…君と、そしてもう一人が正しい道を選択してほしい。僕は君達を信じているよ?」
傲慢とは言わば努力の賜物であり、息抜きの感情にも近しい。
でも…それを理解せずに行動するのは横暴な素行にしか他ならない。もう一人は心配無いだろうね…でもスバル…君はどうかな?どんな答えを出すかな?そして…転生に覚悟を持って導き出して欲しい。
何たって僕は君達に惹かれて呼び出されたのだから…信じてるよ。別の空間でトレーニングルームの様子を見守るエデル、遂にトレーニングルームでは結果が報告される瞬間だった。
「皆様お集まりしましたので…今回の勝負の結果をご報告致します」
ムースの声がトレーニングルームにこだまする、すると急に笑い声が聞こえてきた…声の主に視線を向けるとシエンだった。
「ふふふ…ハハハハハ!!…おっと…すみません、つい勝ちが分かってしまっていたのでね?」
「…へぇ、あっそう。なら邪魔しないで結果を聞こうぜ?」
勝ちを確信していたシエンは煽る為に笑い出したのだ、全く…本当に子供みたいな事しやがって。
そう思いながら煽り返すスバル。しかし、アカリやリイサからしてみれば、どっちもどっちみたいな状況なのでスルーする。
「では先ずはシエン様の習得スキルを………シエン様の習得スキル数二四、最高スキルはステータス系スキル…【攻撃力上昇・五】という結果になりました」
「…な、何だと?…これは」
「…オブジェ技を使ったにしても…凄い結果!」
「あらあらまあまあ…オブジェ技を使って四日で【攻撃力上昇・五】ですか…計算上は無理ですわね?」
これは…俺はやはり傲慢だったのかも知れないな…それにシエンを誤解していたのかも知れない。
恐らくシエンは独自のオブジェ技の配置を見つけたのだ、試行錯誤の鬼畜の果てに…愛を感じないとか勝手に決めつけ思っていたが…リイサの言う通り、俺は傲慢だな。
例えビギーの一件があろうとも、全てを敵にしてしまうような行為や行動は今後やめよう。そう心に誓うスバルだった。
「当然です!皆さんもオブジェ技はご存知だったのでしょう?しかし僕はその先を探し見つけていたんです!僕の見つけた独自の配置なら約千二百の数値が出せるんです!」
「…凄いな。素直に賞賛するよ…シエン」
「…うん…普通に凄い…鬼畜の果てを開拓した!」
「…あらあらまあまあ、本当に素晴らしいですわね?ウフフ」
まさかスバルからも素直な台詞が出るとは思っていなかったのか、少しシエンは優しい表情になり戸惑いながらも口を開く。
「え…あ、いや!その、ありがとうございます…。ま、まぁ最後にスバルさんの結果も見ましょう、健闘していたとは思いますから…」
「…ああ、そうだな。先に…謝っとくわ…なんかごめんなシエン、お前がこんなにも愚直に鬼畜を破ったプレイヤーだったなんてな…本当ごめんな?」
シエンは驚愕の表情を浮かべながらも表情が完全に和らいでいく自分が分かっていた。自分こそ謝る部分があったと理解してはいたからだ。
そうシエンも売り言葉に買い言葉は承知していたし無駄な煽りをした態度を後ろめたくなっていたのだ、しかしスバルの言葉によりそれは無くなる。
「い、いえ大丈夫です。僕も…色々と煽ってすみませんでした。…貴方はランキング一位では無かったかも知れませんが、オブジェ技を知っている時点で千強者に等しいプレイヤーだと思いますので…これからよろしくお願いしますね?」
「…そう…だな。俺も、パーティ関連に関して嫌悪していた過去があってな…それをお前にぶつけてしまっていた節もある、色々と曝け出したお前達とならパーティを組んでも良いかもな!」
シエンはその言葉に満面の笑みを浮かべて返す。
「そうですよ!僕もスバルさんも仲間です!もちろんアカリさんやリイサさんだって!まぁ…パーティリーダーの件はアカリさんかリイサさんになりましたが、お互いこれからもよろしくお願いしますスバルさん!」
「ああ!よろしくなシエン!…あ、でも何かシエン勘違いしてるみたいだけど…俺が先に謝ったのは嘘偽りなく本心だが、それには勝敗の結果も含まれてる意味だったんだけど…?」
「え?」「…ん?」「あら?」
聞き間違えたか?とでも言う様な顔でキョトンとした三人は、一瞬の間を置いてムースに報告を促すような視線を向ける。
「宜しいですか?…スバル様の習得スキル数………三七、最高スキルはステータス系スキル…【攻撃力上昇・七】となりました」
「…そ、そ、そんな馬鹿な!?セブンシリーズ…だって!?」
「…………嘘!?……速すぎる…異常!」
「………流石に笑えませんわね…」
そう、システマキングスをやり込んできたプレイヤー達だからこそ分かる異常なまでの習得速度の速さだった。
セブンシリーズと呼ばれるスキルの習得条件は多少違いがあるものの、基本的には莫大な回数を達成する事なのだが鬼畜の要素が更に加わるのだ。
ステータス系スキル五迄は回数達成のみだが、六からは回数にプラスして鬼畜要素が追加されている。
しかし回数自体も基本的には鬼畜要素なのだ。一から三までは順に百回、五千回、二万五千回と達成水準はまだマシな方だ、しかし四から二五万回、五は百万回となっていて、更には回数はスキル習得時に自動的にゼロからのスタートになる仕様の為、挫折するプレイヤーが続出した訳だ。
六の達成回数は五百万回に追加で【受け流し】と呼ばれるスキルを使用して五千回敵の攻撃を受け流す事。これは少しコツが要るんだが、オブジェ技にも一応適用出来るのだ。
恐らく中には知っているプレイヤーもいるかも知れないが、コツを掴めなければ愚直にプレイした方が良いので恐らく存在しても極少数だったと思うがな。
そして【攻撃力上昇・七】…セブンシリーズと呼ばれるスキルだが、何と2千万回と回数が跳ね上がる。更に追加要素が完全に運ゲーな要素だった。
追加要素は【非真面目なサイコロ】と呼ばれる七七七の固定防御無視ダメージを与えるスキルを使用して、三回連続で当たりを引くことだった。因みにスキルを使用して当たりを引く確率すらランダムと言う完全に運ゲー要素のネタスキルだ。
そうして得た【攻撃力上昇・七】のスキルは現在ステータスの攻撃力が一〇〇%上昇すると言う実質二倍以上のチート級な効果だった。
今回の勝負でセブンシリーズまで習得出来たのは運だ、運が無ければ三日と少しで到達しても【攻撃力上昇・六】だったろう。
「よって勝負の勝者はスバル様となります!」
唖然と立ち尽くしながらスバルを見つめる三人に対して口を開くスバル。
「あー、えっと…説明する?」
「…お願いします!」「…うん!」「…あらまぁ、教えてくださいます?」
三者三様の反応を見せた三人は当たり前だと言わんばかりの表情を浮かべながらも、スバルをあせらせる訳ではなく早く真実が知りたいと言う探求者の様な目をしていた。
スバルにとってはその眼差しがとても嬉しかった。恐らくこの場にいるプレイヤー達は鬼畜に絶望して諦めたりする様な部類のプレイヤーでは無いと目を見れば分かったからだ。
「分かったが…まずシエンを賞賛したい。俺が昔に流したオブジェ技から独自の配置を探求して結果を確立させたプレイヤーはお前しかいなかった…良く頑張ったなシエン」
「…え?い、いや、僕はただ単純に作業する事も好きですし、先を…目指していましたから。三年しかプレイしてませんでしたがね…俺が流した?もうそれ位じゃ驚かなくなっている僕がいますよ、ははは」
シエンは口にしてはいないが、もはやスバルをランキング一位本人と信じているのだろう。アカリとリイサも一瞬驚いたが二人の会話を聞く事にしたみたいだ。
「いや…寧ろセンスの塊と言っても良いくらいだぞ?ランキング一位の俺が太鼓判を押すよ。シエン…お前はこの先必ず強くなる」
余程に嬉しかったのだろうか?シエンはスバルにそう言われた瞬間に後ろを向き天井を見上げている。まるで褒められた事で男泣きした姿を見られたく無い様に。
「…確かに。…途方も無い壁にぶつかるはず…」
「ええ…その通りですわ…」
落ち着いたシエンが振り向いて話を戻す様にスバルに促すが、シエンはこの結果を知った後に気づいてしまったのだ。
「…すみません。…それでスバルさんは…いや、僕は何となく分かってます。…僕の配置したオブジェ技より更に先があったんですね?」
「その通りだシエン。…見つけたのは一年前位になる、オブジェ技の配置は円形に配置したオブジェクトをなぎ払いで一周する裏技だが…俺もシエンの様に可能性を追いかけたんだ。そして見つけたんだ…」
軽く言った訳ではない言葉だ、三人はスバルの話を真剣に聞いている。
「配置出来る最大オブジェクト七つを前方に左右交互前方六十センチの間隔を空けて五つ置く、この時真ん中を一人分が通り抜け出来る幅も六十センチだ。残り二つは攻撃始めと最終地点の真ん中に二メートルの間隔を空けて配置する。難しいのはやり方なんだ…」
「…やり方、ですか?」
「ああ…最初と最後のオブジェクトには縮地系の攻撃スキルを使い左右交互の五つには【受け流し】のスキルを使いながら剣の刃先、側面を二回当てながら五つをすり抜けるんだ。【受け流し】習得に必要な逸らし回数はもちろん、この方法を使えば【受け流し】の回数も最大で五百くらい稼げる」
三人は絶句する、何故なら【受け流し】のスキルは敵の物理攻撃を無効化するスキル、習得条件がまず敵の攻撃を一万回逸らすと言う条件なのだが、この逸らし成功の判定がまず辛いのだ。
それがオブジェクトには判定が甘くなっているとスバルは検証を経て裏技に組み込んだのだ。
「…で気になるオブジェ技のヒット数判定だが…確認済みの数値は下限で三千弱で最大は…一万三千程だった」
「…す、凄い、その数値なら、パーティ全員が転生時に【攻撃力上昇・七】を修得出来る…!」
「…セブンシリーズが…約三日…草も生えない…」
「あらあらまあまあ!楽しくなってきましたわね!ウフフ」
楽しく…?ああ、そうか…そうだったんだ…。
俺は、楽しくシステマキングスをプレイしていたじゃないか?人生を捧げるほどに…!
どうして一瞬とは言え忘れていたんだろう…一番忘れてはならない気持ちを!
「…ははは、はーっはっはっは!あっはははは!」
突然笑いだしたスバルに驚く三人、どうしてしまったのだろうか?と表情を引攣らせる。それに気付いたスバルか口を開く。
「…はぁはぁ、いや、すまん。そうだよ…楽しいんだ!俺はスキル修得が苦痛で鬼畜で楽しくて仕方がなかったんだよ!重ね重ね…シエン!悪かった!初パーティだから、そこは素人だけどよろしくな!」
「何を言ってるんですか!僕の方こそすみませんでした!ランキング一位を疑ったりした僕こそ…!」
シエンの言葉を遮る様にスバルは手を出して言葉を静止させる。
「シエン…やめないか?俺達はこれからパーティを組む、俺はリーダーなんて柄じゃないし、さっきも言ったがパーティ関連は素人だしな、はは。…勝負は俺が勝ったよな?なら、俺達四人の間にランキングだ、千強者だ、百鬼だなんて話は無しにしよう!」
「いや!ですが僕が一番この中で…!」
今度はアカリが手を出し言葉を遮る。
「…敗者は君…でも君も充分凄い…私達に差は無い…鬼畜の先に楽しさを知るパーティなんだから」
「…アカリさん。…嬉しいお言葉ですが、僕は…!」
最後にリイサが手を出して言葉を遮る。
「あらあら…もうそろそろ野暮になってきますよ?…それにさん付けとかもやめませーんか?ウフフ」
「それ賛成ー!」
「…多数派の勝ち…きまりー」
「リイサ、さん。…ははは、慣れませんね」
勝敗の果てにスバル達の得たものは大きい。今後の重要な要素でもあった"パーティの結成"が成り立ったのだから…ぶつかり合って尚も。
創造神エデルは様子を見守っていた、その顔には満面の笑みが浮かんでいる。
「…あはは!楽しいから、か!あはははは!本当に面白いね!スバル達は!うん!…信じて良かったよ!」
良い選択が出来たみたいだね?スバル。君はもう大丈夫だね!箱庭に来てパーティ関連の話が出た時から、明らかに君は心を閉ざそうとしていた…心配だったよ不安定な状態だったからね?
でも…ちゃんと助言してもらえて良かったよ?あの助言から君は心を開く勇気を出したんだからね。
感謝しなよ?…もう一人の想いを馳せた人に。
「よーし!んじゃ、早速…真オブジェ技のコツを全員に教えていくから慣れてくれよ?」
待ってました、と言わんばかりの表情で頷く三人。これからスバル達のパーティとしても、個人としても育成の期間が始まる。




