排除された要素とオブジェ技
プレイ年数も解放条件に含まれているのかもしれないと考え言葉にした時、後ろから声を掛けられた。
振り返るとアカリがいる…何故かリイサもいた。スバルが発言した言葉に引き寄せられたのかも知れない。
アカリは始めスバルをにわかプレイヤーと見ていたが、シエンとのやり取りを見ている内に、本当にランキング一位なのでは?と考えていた。
「…プレイ年数が…関係あるの?…ナインシリーズの解放に?」
「…え?あ、ああ。…可能性の話だが、恐らくは当たってる筈だ」
にわか認定されていた筈のアカリからナインシリーズと言うワードが出たのでスバルは驚いた。信じ始めているという表れに感じたからだ。
へぇ…やはりランキング五十位なだけあって思考に柔軟性があるな。
強くなりたい気持ちがある者こそ鬼畜と謳われたシステマキングスを生き抜く事が出来る、更に強者とは事実を受け入れる柔軟性を持ち合わせているとスバルは思っていた。恐らくアカリは素質がある…鬼畜に耐え抜く素質が!
「あらあらまぁまぁ!では聞いてみましょう!ムースさんに!ウフフ」
リイサも気になっているのだろうな、何せ俺がナインシリーズと言った時…彼女だけが否定も肯定もしなかった。これはつまり事実ナインシリーズの存在を認めていると捉えられる。自分は知っている…何故隠している?いつ聞こうか迷っていたがちょうど良いかもな。
「賛成だ、君にも聞きたい事があったしなリイサ…。ついでに片付けたかった疑問もこれで処理出来るな」
「あらあら…まぁ?それはそれは楽しみですわ…」
一瞬リイサの眼光が鋭くなる。凄いな…この感じが殺気やプレッシャーと言われる類の…だが、舐めるなよ!
「楽しみにしてろ…」
ニコリと満面の笑みで返しリイサに返すスバルの眼光はより鋭かった。
アカリがぶるりと身体を強張らせ二人の会話を終わらせる様に口を開く。
「…っ!…余計な話いらない。…今、メッセージ送ったから…」
スバルとリイサはお互いから視線を外しアカリの言葉に対して頷く。
ピロリーン!ムースさん度々ごめんなさい…と三人は心の中で思ったであろう、ムースがパジャマを着ていたからだ。
「先程ぶりでございます。…して質問とは何で御座いましょうか?」
「…あ、ああ。何か寝ようとしていた所にごめん…システマキングスのスキル習得条件にプレイ年数が関係しているスキルや、プレイ年数自体が解放条件になっているスキルとかがあった場合どうなるのかな?ってさ」
実はスバルは内心焦っていた。忌み名シリーズ解放はナインシリーズを一つ習得するのが条件なのだ。
もしプレイ年数自体がナインシリーズ解放の条件または習得に関係していた場合、全員のプレイ年数から推測するに最低でも八年はかかると考えていた。
最強スキルの忌み名シリーズ解放に八年もの歳月をかけなくてはならない、最強スキルを知っているスバルにとっては悲しくてならない状況になるからだ。
「…エデル様に伺いを立てる内容と判断します故、少々お待ち下さいませ」
「何だと?…あ、いやすまん。分かった」
「…スキルの重要な問い…仕方ない」
「…あら、でも寧ろ答えは既に出ているようなものかと…この反応を見る限りでは」
確かにリイサの言う通りだ、ムースがエデルに伺いを立てるという行為は俺が言ったのが全て事実である、と認めている様にしか見えなかったからだ。
「…確認が取れました。エデル様のお声だけになりますが、エデル様がお答えになって下さいますので…どうぞ」
「…っと!やあ、皆んな久しぶり?うん、久しぶりと言っておこう!いやーやっと休憩出来るよー…ふぅ」
「忙しい所ありがとうなエデル。実は…」
「うん!気にしないでよスバル、休憩出来るし助かったよ逆にね?プレイ年数自体が解放条件のスキル等があるかどうか?だったよね?…あった、って表現かな?」
言葉を遮られながらも説明するエデルの話に三人は顔を見合わせながらも引っかかる思考をエデルにぶつける。
「…あった?」「…あったんだ」「…あらあらまぁまぁ…過去形ですね?」
「その通り!もうプレイ年数やプレイ時間に関しての縛りは消してるから僕がね?…いやぁ!ごめん!そこら辺はムースは知らない事実だから責めないでね?最初の説明ではムースに伝達し忘れていた僕のミスだからね、ムースもごめんね?」
「な、な、何と言う慈悲深き配慮…!!私の知識が無くエデル様に予め聞いておかねばならない事でございました!エデル様が謝る事など何一つございません!わ、わた、私こしょ!…私こそ到らない知識で面目至極もございません!」
忠義を尽くす最上級のムースに苦笑いが漏れているエデル。エデルと対極にいるようなムースとの会話は疲れそうだなエデルも…とスバルは声に溜息を混ぜながらも安堵する。
「ありがとうエデル。一つ…解決したよ、助かった」
俺がエデルに礼を言う隣ではアカリとリイサは何やら話し合っている。
「…きたこれ!…ナインシリーズわくわく!」
「…あらあらまぁまぁ、アカリさんってば!ウフフ」
アカリは目を輝かせていた、これからナインシリーズを習得した時のステータスや、動きとか何とかを想像してるのかも知れないな。何故って?俺がそうだったから見ていたら分かる。
「気にしないでよスバル!また何があったら呼んでね?休憩もしたいからさ?たまには…さーて!仕事に戻るねー!ムースも一緒に借りてくよー話し合いたい事があるし。バイバーイ!」
陽気な声が途切れた瞬間ムースはいつもとは違い一瞬にして消えていった、まさにパッ!って感じだろうか?
静寂が訪れたのも束の間…俺はリイサに質問する。
「次は君だ…リイサ。君はナインシリーズを知っていたよな?」
アカリは嘘?という様な表情をしてリイサに疑念の目を向ける、リイサは少し考えてから話し始めた。
「…まぁ、特に理由は無いかしら?強いて言うなら…そうね!貴方が困ってる顔が見たかったから?かしらね?ウフフ」
「ふざけるなよ…?」
「あらまぁ…冗談なのだけれども…ね?」
何か調子を狂わせられるなリイサには、実際この感じ…気を許せる雰囲気に感じられないしな。
「分かりました…ふぅ。私は確かにナインシリーズの存在を知っていました…プレイ年数が関係している事も。しかし、それをどう知ったのか?を教える気はありません。理由は…いりませんよね?」
何だと?!…コイツ本当に何者なんだ!?ナインシリーズ習得時にもそんな事は記載されてなかった筈だ。
俺がナインシリーズを習得したのは恐らくプレイ速度が合っていたからだ。シエンとの勝負でも使う予定の裏技など、まだ存在していなかった場合のプレイ速度…恐らく八年か九年。
「な、何故プレイ年数が関係しているのが分かっていたんだ?この箱庭に来て、更には三つ目の恩恵を選択しなければ分からない…考えすらしない様な要素のはずだぞ!?」
「あらあらまぁまぁ…スバルさん。貴方も傲慢ではありませんか?」
「何?どう言う意味だ?」
リイサは歩き寄りながらスバルに話す。
「私は…私のやり方で…紐解いていった事実があります!…ただそれだけの事では無いですか?貴方だけが何でも知っている気でいるのは傲慢です。…危ない思考になってますので少しだけ注意しておきます」
言われて俺はハッとする、そう柔軟な思考である事や推測するのも今回みたいな利点のあるやり方だ。
だが、俺一人で行動した訳じゃない…あの時リイサが何も言わないのは当然だ。
リイサにとっては情報を開示したり、新たな事実が出た場合…人はあらゆる面で傲慢になる。
俺も…俺が知らないのに何故お前が…って思考になっちまってたな。反省反省…。
リイサを見つめながら両手で顔の頬を叩く。パァン!と乾いた様な音と共にその行動にキョトンとするリイサ。
「…ごめんリイサ!…野暮だったわ。どうでも良かったわ、とりあえずプレイ年数が排除されただけでも良かった」
「あらあらまぁまぁ…そうですよ?感謝しときましょー!私にも!分かりましたか?ウフフ」
「ああ、ありがとうなリイサ」
「あ、あらあら…そんなにまじまじと見つめられながら素直にされると照れます…」
少し頬を赤らめたリイサはそそくさと自身の部屋のドアノブの前に移動する。
「…こほんっ!では、私はそろそろトレーニングをしないといけないので!ウフフ」
そう言いながら部屋に消えていったリイサ、それを見つめているスバルとアカリ。足早なら去り方に呆気に取られていた二人だったがアカリが口をひらく。
「…あの感じ…スバルの事が…好きかも知れないよ?」
「は?まじ?」
「…ガチ!…いや多分…恐らくきっと…希望的観測」
聞いている端から言葉の格が下がっているのが分かる。からかってるのか!とアカリに視線を移すと、アカリは少し悪い子ぶった表情でニヤリとこちらを見ていた、打ち解け始めたって事にしておこう。
苦笑いで返すとアカリも移動して自身の部屋のドアノブに手を掛ける。
「…んーまぁ…私もそろそろ…いく。…今は信じてる、私もごめんね…またね。おつー」
「おう、気にすんな。おつー」
言いながらアカリも部屋に入り消えていく。真っ白な部屋にはスバルのみとなる、若干飲んでいた美味しいコーヒーに名残りが湧くが部屋の前に移動するスバル、そして部屋のドアノブに手を掛ける。
「さて…俺もトレーニングを利用して見ますかね?っと」
カチャ…パタン!
「へぇ…割と広いな?十二畳くらいか?快適に過ごせそうだな」
室内は十二畳の和洋室っぽさがある独特な雰囲気に包まれていて端にはムースが説明していたコンソールがある。恐らくコンソールの存在が独特な雰囲気の原因かも知れないな。
「さて、早速コンソールでオブジェ技の設定しないとな…」
オブジェ技とはオブジェクト裏技の略称である。オブジェクト裏技を発見したのはもちろんスバルである、しかしスバルはある時この裏技を皆にワザと知らせたのだ。
その理由はシステマキングスのプレイヤー人口の減少を無くし、逆に増やす為であった。
「…ふ、まさか、またこの裏技を俺も使う事になるとはな…」
やり方自体は簡単だ、破壊不能のオブジェクトがあるのでそれをひたすら攻撃するだけ。
準備が鬼畜だった、破壊不能オブジェクトが七個も存在する特定のダンジョンがあるのだ。
更にその七つのオブジェクトを攻撃しながらまずはズラす、決められた配置場所まで。完全に配置してから攻撃すると成功した配置の場合、一回の攻撃で六百五十四回ヒット数に加算されるバグを見つけた。この裏技を使用すれば四日後には攻撃力・五まですら取れてしまうだろう。
普通ならば配置の手間を考えた場合、かなりの労力と時間が必要になる…しかし室内のコンソールがあれば万事解決する正に破格な恩恵である要因の一つである。
まぁ…それには更なる配置が…あれ?…眠い…色々あったからか…駄目だ…瞼を開けてられない…。
ふらふらと閉じゆく瞼でベッドにうつ伏せのまま倒れ込むスバル、あっという間に眠りに落ちるのであった。
–あるプレイヤーのトレーニングルーム–
「はぁ!…はぁはぁ…少し…休憩にしますか、例えオブジェ技を…スバルが知っていようと私には勝てない。私のオブジェ技は更に独自の配置を見つけた新しい裏技なんですから…」
邪悪な笑みを含みつつシエンは休憩に入る。彼もまた鬼畜の中にひたすら探求を絶やさないプレイヤーだった。
しかし…彼は知る事になる。さらなる高みにいる鬼畜プレイヤーを。
そうして来たるべき日が遂に来る。




