自己紹介と三つ目の恩恵
扉を開けるとそこには真っ白な部屋があった。広さは大体二十畳位の部屋だろうか、扉が閉まると同時に扉は消えていった。スバルは先に扉を選択していたであろうプレイヤー達を見る。
男性一人に女性二人、この扉を選択している時点で上級者であろうと予測するスバル。システマキングスはそれ程に鬼畜ゲームと理解しているからだ。
目の前には石造りの変わったテーブルがあり、それぞれのプレイヤーがテーブルの前の石のイスに座ってる。空いているイスに向かうとイス自体に名前が彫られているのが分かった。
自分の名前が彫られているイスに座ると目の前にウィンドウが表示されメッセージが流れる。
〈お好きなお飲み物をお答え下さい〉
「あー…コーヒーを、ブラックで」
スバルの返答にウィンドウが反応して消える。すると目の前に光の粒の様なモノが現れカップの形を成していく。
コーヒーの良い香りがする。素晴らしい機能?だな。
「ありがとう…うん。美味い」
誰に言ったわけでも無かったがとにかくコーヒーは美味しかった。
「あらあらまぁまぁ…随分と美味しそうに飲まれますね?ウフフ」
金髪のロングヘアーの女性がスバルに話しかける。顔立ちの良さ、艶かしい雰囲気に一瞬呑まれそうになるがコーヒーを飲んで紛らわす。その豊満な胸に視線を流さない様に。
「…ああ。美味いよ?飲むか?」
「あらあらまぁまぁ…せっかくですが大丈夫ですよ、ウフフ」
「そうか、分かった」
「いきなり女性に自分の飲んでいる物を勧めるとは…変わった方ですね」
急に会話に混ざってきたのは先程エデルに質問していたシエンという名前の男だ。
「そうかも…な。すまん、俺は人生の大半をシステマキングスにあててたからさ。色々と不快にさせてたら申し訳ない」
「あら?私は大丈夫ですよ?変わった方ですね?と思っただけですよ、ウフフ」
思われてたんかーい。と心中で呟きながらも苦笑いしながらコーヒーをまた一口。
「…うん。…変わってる、君…」
片口まである髪型の前髪ぱっつんショートな女の子にまで言われてしまう。女性よりは、女の子と表現してしまったのは、背が小さいからの印象であって先程の女性と胸を比較したからではない。断じて無い、絶対違うから。
そんな変わってなくないか?と言いたくなったが、苦笑いでその子にも返す。
ピロリーン!
何かを知らせるような効果音が部屋に響く。システマキングスのシステムメッセージ音だ。何か緊張がほぐれるな。
「長らくお待たせ致しました。これより各恩恵を選んだ方々には順次、説明をおこなってまいります。先ずは一つ目の恩恵を選択された方々から説明していきます。選択されていない方は内容を聞けませんので、雑談などしながらお待ち下さいます様にお願いいたします」
各恩恵を選んだ者以外は中身が分からない使用か…やはりこれは三つ目を選んで正解だったかも知れない。
恩恵選択後に話を聞いて変更する者が出るくらいの内容だった場合、聞かせるわけにはいかないはずなのだから。俺の予測通りなら良いんだがなぁ…少し不安は残る。
「すみません、私の名前は知っているでしょうが皆さんの名前を聞いても良いですか?軽く自己紹介などしたかったので」
ムースのアナウンス通りに雑談も兼ねての自己紹介なのだろう。嫌な顔をした訳でもなく頷く三人。
「良かった。先ず僕から自己紹介しますね、名前はシエン。最高ランキングは五〇〇位前後、得意職はアーチャーでした、皆さんよろしくお願いします」
へぇ…やはり上級者だったか。システマキングスにおいてランキング五〇〇位前後は上級者である。千強者と呼ばれるランキング順位一〇〇〇位以内のプレイヤーを指している。システマキングスのプレイヤー達が勝手に作った境界線の呼び名みたいなものだ、シエンも千強者プレイヤーという訳だ。
「よろしくー」
「あらあらまぁまぁ千強者さんでしたか、よろしくですわ!ウフフ」
「ふーん…よろ」
この反応ぶりだと俺以外の二人も最低でも五〇〇位以内に位置する千強者プレイヤー以上っぽいな。
自己紹介を次に回す為に送り手を向けるシエン、小さい女の子…いや、ショートヘアな女の子に。
「…名前はアカリ。…ランキング五〇位…得意職は格闘系全般…よろ」
なるほど百鬼プレイヤーか。百鬼とはランキング一〇〇位以内のプレイヤー達を指している言葉でシステマキングスのプレイヤーなら知っていて当然の知識だ。
「よろしくー」
「あらあらまぁまぁ!百鬼プレイヤーさんまでいらっしゃるとはよろしくですわ!ウフフ」
「よ…よろしくお願いします」
シエンは若干気圧され気味だったが他には何の反応も無かった。最後は金髪のロングヘアーの女性か。
「あらあらまぁまぁ、わたくしはリイサと申します、ランキングは…二位です。得意な職は全般ですが、一番好きな職はヒーラーですわ。よろしくお願いしますね?ウフフ」
「よろしくー」
「なっ?!二位?!本当ですか!?」
「…?!…凄い…本当??」
俺以外は驚愕している。まあ無理も無い…ランキング三位以内はシステマキングスがサービス開始した当初から不動の順位になっていたんだしな。
ランキング二位か…二度戦った事があるが、強かったな…本当に何でも出来る強さだった記憶がある。特に自己完結型のバトルヒーラーは強かった。
自己完結型とはシステマキングスにおいて自信で攻撃、回復、バフ、デバフが回せる事を意味するのだが…完璧にこなせるプレイヤーはかなり少ない。理由?スキル習得が鬼畜だからに決まってる。
「あらあらまぁまぁ…わたくし気になってましたよ?シエンさん、アカリさん、わたくしといずれも千強者プレイヤーの位置ですのに貴方は…全く微動だにしない反応でしたね?貴方の自己紹介が楽しみですわ!ウフフ」
「ああ、そんな楽しい事も無いんだが…名前はスバル、ランキングは…一位。得意職は剣士職全般だけどまぁ一応全部出来るかな?よろしくー」
「ランキング一位…不動の王…貴方が…?!」
「………驚愕!……本当に本当?!」
「あらあら…貴方…それは嘘では済まされませんよ?」
初めて人から尊敬や畏怖の視線を受ける、若干殺気とも言えるような視線も混ざっているが。
「いや、本当だよ。全ステータス系スキルはナインシリーズまで解放済みだったしな」
「ナイン…シリーズ?」
「…はぁ。…嘘つき…ステータス系はセブンシリーズまでしか無い…にわか」
は?何を言ってるんだ?ステータス系の最高であろう到達レベルはナインシリーズに間違い無いんだが?百鬼プレイヤーのアカリまで知らないってのはこちらの方が混乱するんだけど…一体どういう事だ?
「あらあらまぁまぁ…嘘つきさんになってしまいましたね?ウフフ」
「いやいやいやいや…嘘な訳無いだろ。俺はシステマキングスプレイ歴十五年だぞ?ずっとソロだったが、嘘を吐くメリットが無いんだが?」
「ああ…なるほど。大丈夫ですよ?確かに僕達みたいなプレイヤーに萎縮したとしたら分かる話ではありますからね?」
「…仕方ない。…ドンマイ」
こいつら…後で覚えておけよ?自分達の狭い世界で争う事が如何に無駄か…いや冷静になろうスバル君よ。
「はぁ…もう何でも良いよ?他人の解釈は自由だし。それよりも三つ目の恩恵についてだ、俺の予想ならば恩恵の選択である程度のプレイヤーの線引きをしているんじゃないかと思ってるだが…どう思う?」
「まあ良いです。…線引きは分かるんですがね…何故?と言わざるを得ないんですよね」
「…三つ目の恩恵は…滞在日数五〇日が恐らく…ヒント…でも賭けみたいに思って選んだ…私は」
「あらあらまぁまぁ…滞在日数五〇日…新たに転生する予定のわたくし達に何の恩恵があるのか?一つ目、二つ目の恩恵を蹴った結果として非常に興味深いですよね?ウフフ」
そうある程度の予測だとそこ位までしかないんだ。しかし、転生する場所がシステマキングス同様の星、スキル習得が鬼畜な事を加えた場合の俺の予想…それは時間に関する恩恵。
まだ説明はされてないが、滞在日数五〇日の時間に関する恩恵があるんじゃないだろうか?と言う予測。システマキングスは鬼畜ゲームと名高いからこその予測。
ピロリーン!
「お待たせ致しました、三つ目の恩恵を選択した皆様にこれから恩恵の説明をさせて頂きます」
システムメッセージ音と共に真っ白な部屋に現れたムース。何処からともなくとはこの事だ。
「遂に…か」
「三つ目の恩恵、箱庭の滞在日数五〇日と有りましたが…滞在中一日の経過時間速度十二時間=一日に変更。更にオブジェクト等の使用可能、一定種類までのボスモンスター又はモンスターとの戦闘訓練可能、HP残りーの極限体験コーナー有り、アイテム所持枠・所持数上限最大強化済み、箱庭から星に転生する時に発生するタイムラグ無し、個室部屋シャワー完備、ダブルベッド有り、となります」
きたわ…きたわこれマジで…!!やはり時間に関する恩恵だったか!実質約百日あり更には転生時の恩恵者達にラグが無いとの意味だ、これは否が応でも三つ目の恩恵選択者の方がスキル習得に関してスタートから抜きん出る結果になるはずだ。
最初からアイテム所持枠や所持数が最大強化済みとかもかなりヤバイ。本来ならばプレイ時間数で解放されていく要素の部分が最大強化済みなのだから。
更にオブジェクト使用可能でステータス系スキルの習得や鬼畜なスキル習得が格段に楽になる裏技を俺は知っている…最高過ぎる。
「す、凄い…時間はシステマキングスにおいて一番貴重な要素ですし、他の恩恵も破格ですね!」
「…うん!…当たり!!」
「あらあらまぁまぁ…これは本当に破格な内容の恩恵ですね!ウフフ」
シエン、アカリ、リイサも同じ気持ちだろう。この三人ならば百日後にはステータス系スキルオール五迄なら余裕だろう。
「説明をご理解頂けましたら各々方の後ろをご覧下さい。自身の部屋のドアを御用意致しました。雑談やパーティを組む等の会話は現在のこの部屋でも可能ですが、各部屋にボイスチャット機能もありますので御自由にお使い下さい。先程の恩恵使用時には私にメッセージを頂けましたら使用可能ですのでお声掛け下さい。…さて以上で説明を終わりますが、皆様のキャラメイクは如何されましょうか?基本構築は部屋選択者の最低年齢にまで引き戻した本人の姿にしておりますが?」
「いえ、僕はこのままで」
「…いじらない」
「あらあらまぁまぁ、素敵な機能ですがお断りしますね?ウフフ」
「…俺も大丈夫だ。しかし…なるほどな。通りで身体が軽い訳だ」
「把握致しました。では質問ある方はいらっしゃいますか?」
スバルの年齢は本来ならば三十三歳のハイパーメタボリックニート野郎なのだ。それが周囲は違和感無くスバルと会話していた事や、声質の若々しさや身体の軽さで疑問があった。最初は新しい身体が用意されていたのか?と考えたが、他のプレイヤーが自分自身に取り乱していなかった事などから途中から気にしなくなっていた。
今の見た目はシステマキングスに出会った頃と同じ外見。髪全体は長く目の当たりは隠れる位の普通の髪型だ。まあ多少の…ボサボサ感じてはあるが不潔では無い。
にしてもパーティ…か、正直な話パーティってのは苦手だ。もちろん俺だってずっとソロだった訳じゃないがパーティ関連に良い印象を抱いてないのも事実だ。嫌な思い出もあるしな…唯一のフレンドを失った出来事が蘇る。今じゃ無くて良い。
それより…なんて言うか…転生する先は本当の現実でのシステマキングス。ゲームじゃないと言う感覚がまだ正直なところ実感出来てない。これはやはり危険な思考だろうか?
だからこそ変化は必要な筈だろうな…今後の為にも。恐らくこれからは本当の意味でシステマキングスで生きる事になるんだろうし、いや…でも最高だし幸せだ。
他の三人も考えている為か、お互いに考えている姿を見せながらも違和感を感じていないし俺自身も感じない。
「…質問は無い様ですね?ではこれより三つ目の恩恵を発動致します!…が一つ注意点を。皆様はこれより第二の人生が始まるかと思いますが、より死に近い世界と言う事を事前に頭に入れておくのが良いでしょう」
全員が真剣な表情になりムースを見つめて頷く。
「では…創造神エデル様に従事する者ムースの名において箱庭の使用五十日を使用可能とする!!」
ガチャン!!と大きな音と共に真っ白な部屋に大きな時計が現れる。
「では皆様、私ムースに御用がある場合はメッセージをお願い致します。それでは失礼します」
そう言うとムースの身体は半透明になりながら消えていった。
さて!始めるか!忌み名シリーズスキル迄の最短習得までのプランはもう頭の中で出来てるからな!早速…と自身の部屋のドアノブに手をかけた時だった。
「皆さん!少し聞いてもらえませんか!提案があるのですが…」




