憎悪持ちし愚者と力に魅入られし愚者
ールキア海域付近より北にある森ー
スバル達がルキア海域付近の崖に降り立つより一週間前、ある森では人族と魔族が占領地を争い戦闘を繰り広げていた。
そんな森に行きずりに近い形で、人族に加勢する者達がいた。
「クソがぁぁぁぁあ!はぁ!」
雄叫びと共に強引に目の前のスケルトンに一撃を喰らわせるシンの姿と援護魔法や、遠距離攻撃により次々とスケルトンを攻撃している仲間の姿である。
「シン!はぁ!はぁ!ここは片付いたわっ!一旦退いて前線を維持しましょう!」
「はぁ、はぁ!…まだだ!こんなじゃ…奴等にはまだ勝てないっ!俺一人で回数を稼いでくるから、リサとお前らで前線を維持しておけっ!…でりゃあっ!!」
言いながら森の中心部へと消えていくシン。
止める間もなく消えていくシンを見て心配になるリサは、転生前にシンが戦ったスバルとリゼルを思い出す。
あの二人は強過ぎたのだ、しかし転生した後は関係無いのだから変なプライドは捨てて欲しいと願うリサ。
「…シンっ!……ふぅ!皆んな簡易的な柵を作りながら前線を維持するわ!あと…隙間をわざと開けながら設置してね、そこから抜けようとする残党がいたら攻撃出来るからね?さあ!二人で二時間置きに交代しながら作って!」
残されたリサは皆んなに指示を出しながらシンの安否を祈るばかりであった。
シンはそんなリサ達を残しながらも、敵の魔族を倒しながらひたすら森を突き進む。
斬って斬って斬って斬って…休み、また斬って斬って斬って斬って…休みを繰り返すシンの顔は何かに取り憑かれた様な表情をしていた。
「はぁ、はぁ!今に…!今に見ていろよっ!スバル、リゼルっ!お前らに勝つ為に俺は常に最前線で戦ってんだ!…次は絶対に負けねぇ!!!」
この森はルキア海域より北に数百キロ離れた場所に位置する、ラドキアと言う街の近くにあるシスの森と言う場所である。
シン達はラドキアの街に降り立つと、街の人々や王国兵士達に手厚く迎えられたのだ。
そして、街に駐在する王国兵士長とラドキアの貴族に協力して欲しいと頼まれ、スキル習得の回数を稼ぎながら己を鍛錬しようと全員で承諾したのである。
「この世界ヴァルハラに転生して…三日か、戦闘経験を積む為や、スキル習得を早める為に無茶をしたんだがな…習得出来たスキルは四つか…ふぅ!もう一押し行くか」
シン達は予め《創造の魂》と言う、創造神エデルにより与えられた特別アビリティを所有しており、全ステータス系上昇は二まで習得済みなので余裕だと思っていた。
しかし、これは最早ゲームの世界では無いと初日に思い知らされた。
シスの森での初戦闘時で十数人いた仲間の内、残り十人にまで仲間が死んでしまったのである。
これはシン達の驕りが招いた故の結果であり、必然であったのだ。
シン達は中級職のスキルを駆使して初日の戦闘を切り抜けたが…シンとリサ以外の仲間の心は恐怖に染まってしまうと言う結果になる。
二日目にシンは転生者を集め攻撃、防御、支援のパターンを決めて行く。
結果は全員生存…全員の恐怖を取り除いたのである。
シンは面倒見が良い気質で仲間達からは好かれていた。
だが、リサは見抜いている…彼の奥底に眠るスバルとリゼルに対しての憎悪を。
リサはその事について言及したが、当然そんな言葉に耳を傾けなかったシンは今日まで必死に戦ってきた。
睡眠時間など二時間程しか取れていない状況でも、シンは憎悪により気持ちを切らさずに戦っていたのだ。
「…俺がっ!強ければっ!あいつらはっ………死ななかったんだよっ!畜生がぁぁぁぁあ!!」
目の前にいるスケルトン数体に連続で攻撃していくシン。
スケルトンは盾を構えるが…間に合わない、シンの攻撃の前に数体のスケルトンは倒されて絶命する。
「はぁ、はぁ、やっと…慣れてきたなレイピアと長剣の二刀持ち…」
これもまたシンがこの世界で生き抜く為に、スバルとリゼルに勝つ為に編み出した自身の底上げである。
「…ふぅ、そろそろ…戻るか…おっ!後二回の回数で攻撃力上昇・四か…ははは!やっと来たな、奴等を倒す第一歩だ!」
先程リサ達が居た場所に戻るシン…彼はこの時の自分の行動が如何に愚かだったかを知る事になる。
リサ達と共に前線にいた方が…彼は幸せだったのかも知れない。
「ん?………柵があるが…壊れているのか?」
リサ達が作っていたであろう前線の柵が壊れているのを見たシンは浮かれ気分を消して警戒度を上げる。
足元にヌルリとした感触を感じたシンはそれを確認して目で追っていく。
「…血の跡?ちっ!…リサっ!!」
前線があったであろう場所の奥からスケルトンが数体現れる、血の跡が続いている場所からだ。
「どけっ!はぁぁぁあ!」
数日とは言え上達しているシンの剣技により、斬り伏せられるスケルトン達は一瞬にして地に伏せ倒される。
更に血の跡を追って進むシンの目に飛び込んで来た光景は余りにも絶望的なものだった。
「はぁ、はぁ!…その手を…離せっ!貴様ぁぁあ!」
一人の魔族がリサの首を掴み持ち上げていた、リサは魔族の腕を掴み離そうと抵抗しているが、身体中に傷が付いており血を流し弱っているのは明白であった。
「…っぐ、ぅう!…か、かはっ!…に、にげてぇ…!」
魔族は上半身が裸で、スーツの様なズボンを履いているが蛇の尻尾が生えており頭からは獣を剥いだ様な被り物をしていた。
「あん?…また雑魚かよっ…本当にてめぇらみてぇな人族なんぞに封印されてた、御先祖様のジジィババア連中には驚くぜ逆にな…」
「…手を…離せと言ったよな?」
魔族の背後に素早く移動したシンは、そう言いながら渾身の連続突きを放っていた。
「お?…へぇ?てめぇはまあまあマシじゃねぇか?まぁ、マシって程度だがな?」
まるで日常的に会話する様に話しながらも、シンの高速の突きを躱していく魔族。
魔族はリサを乱暴に木に投げつける。
「ごほっ!かはっ!…きゃっ!?」
激突する瞬間…シンが回り込みリサを受け止める。
だが、魔族は笑みを浮かべ己の手を突き出す…鋭利に尖る爪先と共に。
シンは躱せないと見た瞬間…異能を発動させる。
「ちぃいいっ!疾風!!」
シンの異能『疾風』は自身の戦闘速度を三倍にする、リサを抱えながら超人的な速さで魔族の攻撃を回避する。
魔族は無表情になりながらも驚いた声を漏らす。
「……あ?へぇ!…やるじゃねぇかよ!お前は他の雑魚とは違うみてぇだなぁ!?…マシよりは上のお遊びにはなりそうだなぁ?」
途端に抱きかかえていたリサが体を震わせる、シンは強く抱き言う。
「リサ?…大丈夫だ、俺は負けない。必ず奴を倒してみせる!」
「………違う、違うの!…勝つとか負けるとかの次元じゃないのよっ!あいつは…あいつは…セブンシリーズなのよっ!…逃げましょう!…あっ!?」
絶望的な言葉をリサから聞いたシンは魔族に視線を向けると…魔族は笑みを浮かべ二人へと手を伸ばしていた。
「俺の名はジルクニル・バースだっ!…この森にいる人族はお前らが最後だから、楽しませてくれよぉ〜!!」
更なる絶望を声に出してジルクニルはシンとリサに襲い掛かるのであった。
ーレウス帝国・中央都市セントリオン・会議室ー
スバル達がルキア海域付近に降り立つより三日前、ある国で動きがあった。
トレニア王国と戦闘を繰り返していた、隣国のレウス帝国である。
その戦闘についての報告や会議が行われようとする場にある一団の姿があった…リゼル達である。
「ホッホッホ!君達が精霊女王が連れて来た新しい護衛の者達かぁ…これまた強そうですな!ホッホ〜」
この男の名はアザリッド・グリン・ロードと言い、代々レウス帝国の大臣を務める家系の者である。
「そうですね…私の元に力になりたいと言い、来てくれた者達です。種族の壁を越えての助力はとても嬉しき調べで御座いました」
この精霊女王こそ精霊族の頂点、世界でたった二人しか居ない七星到達者…ルルキアラ・アウラ。
「まあ、色々あったんすけどねぇ〜。とりあえずはアウラちゃんの護衛を了承したんすよね〜」
「色々、ねぇ………ぷっ!あははは!取引したって言っときなさいよアンタはっ!」
ピクリとその発言にアウラが反応するが、特に言及はしない。
「おいおい…アーシャ…はぁ。少し静かにしてろよな」
呆れた様にアーシャに対して、余計な事は言うなと暗に言う男の名はクルト。
「………仕方ない、脳筋は大抵うるさいと相場が決まっているものだ」
クルトに対して無理矢理にでも理解しろと言わんばかりに諭す男、名をシンゲンと言う。
「うるさいよ!もうっ!…分かったわよ!静かにしてればいいんだろ?ふん!」
「悪いっすけどアーシャ…もう少しでまた戦闘出来るから我慢して?」
リゼルは苦笑いしながらアーシャに謝る。
「あ、ああ。分かったわよ」
二人は箱庭にいる時から付き合っている為にアーシャは少し頬を赤らめながらも、リゼルの苦笑いを見て納得する。
「………もう良いか?会議を進めたいのだが?アウラ女王よ…次回からはもう少し教育してから連れて来てくれ、良いな?…グリン報告を」
「申し訳ありません…レウス帝王」
レウス帝国の王…レウス・エッジ・エルフレッドはアウラに苦言しながら戦いについての報告を聞く。
「…アウラ…女王っ…調子に乗るのも今の内っすよ?」
誰にも聞かれない程の呟きをしたリゼルの心には…確かに邪悪なものが宿っていた。
彼もまたこの世界と転生により歩んでいく…そう、仲間達と共に。
その歩みが間違えなのかどうかは、誰も知らない。




