実現する難しさ
目の前の男が何を言っているのか…分かってはいる、理解もしている。
だが…六種族が真に願う想いだろうそれは、種族に紛れる膿とも言える者達がいつでも立ち塞がるのだ。
人に限らず、魔に限らず、精霊に限らず…全種族に限らずそれは道を外し…気付かず、そして…壊れ、戻しては自らの手でまた壊す。
その内にまた…世界は薄れる…その想いも一緒に。
「…それは、無理でございます…貴方様は?」
「俺はスバルと言う名だ。…何故、無理なんだヴェルゴ?理由があるのか?」
そんな質問をするスバルに対して…ルウが答えた。
「…スバル、それは…素晴らしい事だわ…でもね?種族に限らず…それを望まない人達が多いから無理だったのよ」
「…ええ、その通りでございます」
するとスバルはキョトンとした表情をして言う。
「それ…理由にならなく無い?結局…諦めたんだな…この世界の皆んなは」
「スバル!そんな…簡単な話じゃねぇんだ!…全種族が住める国を作るなんて言葉は本当にスゲェさ?でもな、その道は…果てしなく遠いんだよ」
ルクスは声を荒げてそう答える、しかしスバルはそれを否定する。
「遠い?………遠くても進めるだろ?前に!自分の正義を語る事じゃないだろ…やるべき事は?なら、とりあえずでも良いから進めろよ…足を前に」
全員…何故かは分からない、だがスバルの言葉は不思議と皆の心に響いた。
そう…魔族のヴェルゴにさえも。
静寂が訪れ皆がスバルを見つめていた、各々の想いを募らせながら…そんな中でペインが口を開く。
「…スバル、お主はまだ生きて間もない…素直で真っ直ぐなんじゃ…じゃがのぅスバル、お主以外がそうかと言われたらそれは違うんじゃよ?お主の言葉は皆の心に響く…妾を含め皆は分かっておる。じゃが…それを世界に強要するのも違うじゃろ?それは理解出来るか?」
「…う、むぅ…分かってるよ、すまない皆…言いすぎた。少し昔を思い出してな…重ねる癖が出てしまった」
スバルはシステマキングス時代に過疎状態を打破する為、セブンシリーズのスキル情報を流していた時のことを思い出し重ねてしまっていたのだ。
スバル自身もこれは悪い癖であると分かっていたのだが、感情を抑える事が出来なかったのだろう。
無理も無い…例えペインの鍛錬をこなし戦闘経験を蓄えたとは言え、実際は三十数年しか生きていないのだから。
「くくくっ!そうじゃ!素直が一番可愛いぞい?…何も生き急ぐ必要など無いのじゃよ?…お主らは強い、じゃが…力には心と共に相手を想う気持ちも必要なんじゃ、まあまだ分からんじゃろうが…世界を見て行こうでは無いか?のぅ?スバル達よ」
「……そう、だな。…すまなかった!とりあえず俺にはそう言う目標があるってだけだ。…脱線してしまったな、さてルクスやルウ達と現在の状況と、魔族に占領されてしまった場所や地域の解放について話し合おう」
そんなスバルを見つめるリイサは赤くなりながら見守っていた。
(はぁ…スバルさん…カッコイイですわ…ビギーとして一緒に居たあの時から優しく、勇敢でカッコイイ…)
「…相変わらず、分かりやすいのぅ………」
「………ホント、それなです」
そんなリイサを茶化すような発言は当人には聞こえない、スバルに夢中だったからだ。
そんな状況でも話し合いは続く。
「…この地図を見てくれ」
ばさりと広げた地図に印を書き込みながら説明していくルクス王子。
「ここが…トレニア王国で、隣はレウス帝国…で、毎日防衛戦をしてるのが、国境都市であるリザだ。んで…魔族がこの北に位置して居たんだが…トレニア大陸のおよそ四割のここから北は魔族に占領されているって現状だ」
「もう…そんな所まで来ていたのね…。ルキア海域に居る私達の仲間は貴方達に全面協力します…本当なら、本拠地の仲間達に援軍を要請したかったのだけれど…レウス帝国が余計な事をしてくれたお陰でっ!」
実はルウ達…抗う者達の本拠地はレウス大陸にあるのだ。
しかし、魔族と王国が戦争を始めた途端に…ちくちくと横槍を入れるかのように王国の国境都市リザを攻撃し続けていたのだ。
これにより、国境付近は立ち入り禁止区域となりルウ達は本拠地に戻る事も出来なくなり、仲間達と共に支部を作り身を潜めていたのである。
「ルウお嬢ちゃん…それについて俺達はずっと考えていた事があり、調べていたんだある事を」
「…ある事、ですか?」
ルクスは頷きザイカとミンを見て深呼吸する、意を決して口を開く。
「…まず俺は、いや…五人居る王位継承権を持つ者の中で俺だけは…半血なんだ。…母親は唯の一般人だった。…そんな俺の存在を消したかった連中が王妃派だったのさ」
「…それは…心中御察し致します…だからこそ貴方も、我々も惹かれ合うのですね」
王国で生まれた王子の一人が半血と言う事実はそれだけで様々な過酷な状況である。
現にルクスは幼少の頃、母親共々…食事すらまともに与えられなかった、部屋は離れにある古びた倉庫で母親と暮らし、周囲からは蔑まされる毎日を過ごした。
そんな彼がこんなに明るく信念を絶やさなかったのには母親とザイカとミンの三人が居たからである。
母親は言った、貴方が生まれて来てくれて幸せだと、貴方を幸せに出来ない私を許してね…と。
ザイカは言った、俺とお前の何方が強くなれるかと、もし俺に一度でも勝てたら共に周りの奴らを黙らせようと。
ミンは言った、同じく蔑まされる俺に優しさを教えてくれて、助けてくれたのは貴方の母親とルクスしかいない、ならば次は俺が助ける番だと。
「…ルウ達程では無いかも知れない、俺は母親に…友に救われたんだからなぁ?ははは」
そんな話を笑い飛ばすルクスだが、それは母親や友に助けられたからだと分かっている。
ルウ達は苦笑いしながらそんなルクスを見つめる。
「…なるほどですね、話を聞いた限りですと…私は魔族が駐屯する場所に参加致しませんよ?宜しいですよね?ペインお嬢様」
「まぁ…そうじゃろうな。ルクスの話を聞いた限りでは…
レウス帝国にヴェルゴとザイカに妾か…スバルかのぅ?魔族の占領地にはシエン、アカリ…妖精の三人と抗う者達、王国にはルクス、ミンにスバルか妾じゃのぅ、今の所の考えじゃが、鍛錬次第じゃからとりあえず現状のお主らの力を見た感じではって所じゃ」
「ちょ、ちょっと待って…私達は、その…戦闘は得意じゃないわよっ?」
「魔法が得意です!…動くのは苦手です」
「魔法しか〜使えないんですぅ〜!」
魔法職はスバル達からしたら珍しい、システマキングスではかなりの上級者向けの職業だったからだ。
それには理由があった、魔法力上昇の習得条件は他のステータス系上昇スキルと違い、解放までの回数がかなり少ない。
だが時間経過で再使用可能なCT系スキルと違い、SPを使う魔法は回復手段に時間もかかる上に、短縮する為には序盤からSP回復アイテムなどに資金が費やされてしまう職なのだ。
「…ルウ達は魔法力上昇は幾つまで習得してるんだ?」
「…うっ…全員…魔法力上昇・二よ……」
「うん、まあそんなもんだろうな。魔法力は習得条件が優しい様に見えるが、SP回復を自然回復するスキルを先に習得してない限り…良いところ魔法力上昇・三が限界だろうしな?…ルウ達も鍛錬だな、戦闘タイプが違うからペインとの戦闘訓練は…とりあえずは無しで。…多分、殺気だけで死んじゃうし」
そんなスバルの言葉にルウは反論する。
「ちょっと待って!確かに私達はまだまだ弱いかも知れないけど、殺気だけで死ぬわけ無いじゃないっ!」
「いや、恐らくスバルの言う通りじゃ。ヴェルゴに当てた殺気なら死ぬぞ?お主らは」
ペインの言葉に驚愕するルウ達、確かに自分達はまだまだ弱いだろう…しかし、抗う者の長であるソフィア様に選ばれこの地域に送られたルウは納得がいかなかった。
「あ、因みにヴェルゴは妾との戦闘訓練はパスで良いぞ?スバル達にはヴェルゴのスキル習得を見てやって欲しい」
「え?本当か?凄いな…ヴェルゴ」
「僕達はあんなに苦労したのに…はぁ」
「…やるな、ヴェルゴ」
「あらあらまあまあ…私とシエンさんは本当に辛かったですわね…」
ルウ達は想像するのも嫌であったが、納得がいってないので意気込んで誤魔化す。
「うっ…す、すぐに強くなってやるんだからっ!シエン頼んだわよっ!あんな幼女なんてすぐに追い抜いてやるんだからっ!」
「魔法職のスキル習得は全然知らないんですが!?スバル助けて下さいよぉ〜」
「ああ、分かってる。皆んなのスキル習得は俺が管理する事になる、基本皆んなの動きを見てペインを交えて話し合う。…それぞれの得意な戦闘スタイルを後でペインに報告しといてくれ」
ペインの鍛錬が終わって無い者達は頷きながら了承する。
だが、ルウが放った言葉が混乱を招く…。
「分かったわよ!もう!…言っとくけど!ルクス王子は尊敬しているけど、アンタ達はまだ信頼したわけじゃ無いからね!?特に…シエン!私達の胸やお尻触ったんだから貴重なスキル習得くらい教えなさいよねっ!?」
「………え?シエン…どう言うこと?」
アカリの目が鋭くなりシエンは身体を震わせる。
「……お、い?お前、言ってたよな?…今の僕にはそれで充分とかなんとかっ!!?そんな…うらやまし…じゃなくて、セクハラする為に警戒しに行ったのか!裏切り者がぁぁぁぁあ!」
スバルの悲しみの咆哮が響き渡った。
シエンは己の人生を賭けて否定する。
「違いますっ!ルウ達の気配を感じて近付いた時には、精霊の特性で既に視認出来なかったんですよ!僕は感触の記憶すらありません!」
「…あ、そうか…たしかに」
「ぐっ!?………考えてみればそうか」
「私の胸は触ったじゃないの!」
「………ふぅ。……あれは事故です………」
ボソリと呟く様に発したシエンの言葉にスバルとアカリが反応する。
「………最低っ!!」
「裏切り者がぁぁぁぁあ!!!」
シエンは何故…僕だけいつもこんな感じになってしまうんだろう…自分の悲運さと隠したかった自分がいた事を心にしまう。
シエンが何かの覚悟を決めたその瞬間…鼻をくすぐる良い香りが漂ってきた。
「白熱した議論中に失礼致します。…料理が出来ましたのでお持ち致しました」
「おらっ!食えぇえええっ!俺の最強の料理だぁあ!残さず食えよぇ!?…あ?妖精!?って魔族までいるじゃねぇか!?……ふはははは!俺の料理が種族を…越えた?感動だぁぁぁあ!お前らも食え!」
「あ!な、何て美味しそうな…!早く食べたかったんですよね僕もっ!」
料理は本当に美味しそうなものばかりだったが、これ幸いとエルとドランの言葉に先に食い付くシエンだった。




