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抗う者とルクス王子

 中央広場の出店買い漁り事件により、注目を集め始めたスバル達は憩いの宿エルドラへと移動する事になる。


「シエン…そのローブ被った人達…だれ?」


「え?…あ、ああー、えっと…とりあえず人目の付かない場所で紹介しますね?あはは」


 何故だか苦笑いしながらアカリに答えるシエン、そんな様子に首を傾げるアカリであった。


「…にしてもよ?災難だったなぁスバルはよ?」


「うるさい!黙れ!…くそっ!人の優しさをっ!!」


 あの事件以降…スバルは機嫌が悪過ぎて誰も話題に触れなかったのだが、そこはルクス王子の雰囲気なのだろう、普通に話しかけていた。


「ははは!気持ちは分かるぜ?俺だって女は信用出来ねえって思ってるからな…おい、ここだけの話で秘密だぞ?…俺ぁまだ女を知らん」


 気持ちは分かると諭しながら耳打ちをするルクス。


「…な、何?!…ルクスっ!」


 スバルはそれを聞いた途端に手を出し、熱い男の友情の握手を交わすのであった。


「やれやれじゃ…これだから男は単純なんじゃよ…」


 そんな二人を見ながら吐き捨てるペインだったのだが、そんな言葉にリイサが言う。


「ペインちゃん?…後で聞かせて下さいねぇ?ウフフ」


 途端に背中に冷たいものを感じて冷や汗をかいてしまうペイン。

 リイサはスバルに関して何かあった場合すぐに顔色が変わるのを知っていたはずのペインは焦る。


「………お、お手柔らかにのぅ?」


 どんな尋問が待ち受けているのかと、千年を戦い抜いて来た闇夜の化身はそう思うと…体をブルリと震わせるのだった。


「やれやれ…着いた…お腹空いたし早く」


 そんなやり取りを見ながらも一同は憩いの宿エルドラに到着する。

 アカリは空腹のため言いながら扉を開く。


 ガチャ…リィン!


 フワリ…と微かに鼻をくすぐる様な落ち着く香りに包まれるスバル達。


「…良い香りがする。さっき来た時は無かった驚きだな」


「そうなんですか?僕は初ですからね…それにしても落ち着く良い香りですね」


 女性陣…ペインすらもその香りを楽しむ表情をしている。

 落ち着きを取り戻したスバルが、ハッとしたように受け付けで笑顔になっているエルに対して口を開く。


「す、すまないな。つい、良い香りで…」


「構いません、先程は本来の憩いの宿エルドラのおもてなしでは無かったので…逆に申し訳ありませんでした」


 つまり本来の憩いの宿エルドラでは、入った瞬間からこんな安らぐ気持ちにさせてくれる訳か…良い宿だなぁ。

 そんな様子で感心しながらもスバルはエルにお願いしていた予約の件について話す。


「…ありがとう。そう言えば予約の件なんだが…席を三つほど増やして貰えると助かるんだが、出来るかな?」


「はい、すぐにでもご用意致します」


「助かるよ」


 笑顔でお辞儀してから予約されていたであろうテーブルにあっと言う間にイス、マナーハンカチ、ナイフやスプーンが運ばれ用意される。

 その動きは正に宿の女将であり、プロであった。


「お待たせ致しました、皆様どうぞこちらの席へ」


 そう言われ皆はそれぞれが予約された席へと座る。


「憩いの宿エルドラのおまかせ料理は、一度に全て持って来ますので、お待ち頂いてる間はこちらのお菓子かツマミ物を…お飲み物はワイン、水、果汁水をテーブルにご用意しておりますので。料理が出揃うまでの間に御賞味してお寛ぎ下さい…では失礼致します」


 そんなエルが去った後にテーブルの上に用意されたお菓子や飲み物を見るスバル達…。

 お菓子は手作りなのであろうか出来たての様に良い匂いがする。

 クッキーや小さなシフォンケーキ、生クリームやチョコクリームが添えてあり食欲を唆る匂いだ。

 飲み物は全て水々しさを放っていた。

 ワインはボトルのまま特製の木箱に入れられており室温による味の変化を無くす工夫がしてあると木箱に書いてあった。


「とりあえず…全員好きな飲み物を選んで話そうか?」


 そんなスバルの言葉で皆は飲み物をコップに注ぎ、お菓子を皿に乗せていく。

 各々が喉を潤したの確認したスバルが話し始める。


「さて…先ずは改めて、俺の名はスバルと言う、次にシエン…アカリ…リイサ…ペイン…俺達はこの世界の端の端の孤島で師匠に育ててもらったんだが、ルクス達に会ったあの日に旅立ちの日だと言われて特殊な転移魔法を施されてトレニア大陸に飛ばされてしまったんだ」


 なるほど、とルクス達やローブを被る三人は頷いてスバルの話を聞いている。


「そしてルクス達に話を聞いた俺達は、ある程度の話し合いをつけたので先ずはその事実を言わなければならない…俺達は攻撃力上昇・七を師匠の地獄の鍛錬により全員が習得している…しかし」


 その言葉に思わず立ち上がるルクス達とローブを被る三人の反応を見て手を前に出すスバル。


「まあ、落ち着いて続きを聞け…しかし、師匠はその習得条件を俺達には教えてくれなかったんだ。…師匠はいつも言っていた、自ら鬼畜の道を切り開くのだ…とだけな?」


「くっ!…そ、そうか…それは残念だ」


 ザイカは思わずと呟く。


「だが…攻撃力上昇・六までなら…俺達はルクス達に習得条件を話しても良いと…結論を出した」


 そんな発言を聞いた途端にルクス達の目には希望が宿る、攻撃力上昇・六の習得条件など出回る事などあり得ない秘匿中の秘匿を教えて貰える。

 つまり自分達はまだまだ強くなれると言う事である。

 現在のルクス達の状況で一番欲しいのは…己の強さの底上げ、限界を超えた力を手に入れなければ打ち倒せない巨悪の存在が…トレニア大陸には蔓延って(はびこって)いるのだから。


「ほ、本当かっ!?スバルっ!?」


「ああ、お前とは男の友情も芽生えた事だし…俺が直々に習得のコツを伝授してやる!ルクスはザイカとミンにそのコツを教えてやってくれ、反復する意味もあるからな?」


 満面の笑みを浮かべながらも、その目は微かな未来を見据えて鋭く真剣だった。


「すまねぇな!…スバルっ!…本当にありがとなっ!」


「スバルよっ!すまない!恩にきるっ!」


「スバルさん!ありがとうございますっ!」


 第五王子とは言え王族であるルクス、そんなルクスが頭を下げるその様を…本来なら止めるべきザイカとミンも同様に頭を下げるのであった。


「頭なんか下げるなよ!気にするなルクス!お前とは男の友情を交わした…どうて…紳士同士なんだ…!あ、ペインとの鍛錬に関しての助言だが…頑張って生き残れとしか言えない、すまないが」


 そう苦笑いで話すスバルとは対照的に途端に青ざめた表情に変わるルクス達であった。

 そんな最中…ひそひそと話していたローブの三人組だったのだが…。


「ルクス達の鍛錬については詳細な内容や、日数についてはペインと俺で話そう。…そして、君達なんだが…シエン説明して貰えるか?」


 シエン以外は正体を知らない為に、連れて来たシエンに説明を促すスバル。


「あ、はい!…えっと、彼女達は妖精族の方々でして…」


 その言葉…彼女達…の部分を聞いた瞬間アカリの体がピクリとして目が鋭くなる。

 アカリを気にしながら説明していたシエンの表情が強張っていく。


「おいおい!マジかよっ!?まさか抗う者かっ!?」


 妖精族と聞いたルクスが青ざめた表情から真剣な表情へと変わり話す。


「ええ、その通りよ。ルウと言います」


 パサッ…とフードを取り顔を見せる青髪の妖精ルウ。


「その通りです!私はラム!」


 同じく顔を見せる黄髪のラム。


「…こ、怖いよぉ〜!リムだよぉ〜!ひぃ〜!」


 怖がりながら顔を見せる赤髪のリム。


「全員…女の子…へぇ?」


 凍り付くような視線をシエンに向け言い放つアカリ、それには触れたく無いスバルはシエンを見捨て妖精達に話を聞く事にする。


「…そ、それで何故、君達がシエンについて来たんだ?」


「いえ、違うわ!シエンが私達に来て欲しいって頼んで来たのよ!?」


「先にこのローブが御礼だって言ってたです!」


「…全員にくれたよぉ〜!ありがと〜!」


「全員を…連れ込んで…何を…しようと?」


 そんなアカリの言葉に焦るシエンは、ルウ達に言い放つ。


「い、色々と抜けてます!!話の脈絡がなさ過ぎて…誤解される様な言い方をしないで下さいよっ!!」


「ぬ…抜くっ!?…むぅ!」


 更に状況が悪化するシエンであった。

 しかし、一向に話が進まないやり取りを見ていたペインが口を開き話す。


「やめんかアカリ!シエン!お主らの恋愛事情を混ぜ込むでないのじゃ!…ルウよ、こやつらはほっといて最初からあった事を話してくれんかのぅ?」


 ペインに指摘されたシエンとアカリは顔を真っ赤にさせて椅子に座り顔を伏すのであった。


「え、ええ分かったわ。…ここから少し離れた場所にこの地域周辺の抗う者のアジトへ繋がる隠し通路があるのだけど…最近、人種売買を生業にしていたならず者集団に見られてしまったみたいなのよ…」


「それは難儀じゃのぅ…何故バレたんじゃ?」


「恐らく…その集団に周辺を探る異能持ちの人が居たからでしょうね」


 異能と言う言葉を聞いてスバル達は…はて?と首を傾げる様子を見せスバルが言う。


「…あ!俺達…シエン以外で異能分かってるんだっけ?」


 苦笑いしながらアカリとリイサは首を左右に振る。

 どうやらアカリは復活したみたいだ。


「わ、忘れてましたわぁ…ウフフ」


「わ、忘れてた」


「と、とりあえず後で確認しておこう…ははは」


 渇いた笑いをして誤魔化すが、ルクスやルウ達は驚いていた。

 異能はこの世界においてスキルより重要視されているのだから、スバル達の価値観の違いに驚愕せざるを得ない。

 しかし、それはルクスやルウ達が…真の意味でスキルの重要性を理解していないからである。


「ま、全く…流石はシエンの仲間達だわ…。それで私達…色々とあってシエンに助けられた訳ね?だから信用したのもあるの。更に最近…抗う者ルキア支部の皆で話し合った案件があってね?…ルクス王子に会って提案をしたかったし、シエンの誘いは私達にも利があったからここに来たってわけ」


「ほう?…俺見たいなの王子に相応しくない男に提案ってのは何なんだい?ルウお嬢ちゃん」


 お嬢ちゃんとルクスはそう言いながらも真剣な眼差しでルウを見据えている。

 そんなルクスに対してルウは向き合い話す。


「…トレニア・ルクス・アルフレッド第五王子様…貴方だからこそなのです。…我等「抗う者」は貴方こそが…この腐敗した王国を切り開くであろう最後の希望なのです」


「………どう言う意味で話しているんだ?」


 一層と鋭くなった眼差しに一歩も引く事のないであろう態度を示し話を続けるルウ。

 そんな様子を黙って見守る周りの者。


「ルクス王子…貴方だけでございます…我々を、堕族と見ずに対等に扱っている方は…この世界で…貴方だけしかおりません。…我等が長であり、七星に位置するソフィア様も…そう仰っておりました」


「し、七星だとっ!?さ、三人目の七星が居たのかっ!」


 そう本来であれば、七星に達しているのは世界の認識では二人。

 魔族の頂点に立ち、魔神の異名を持つグリード・ヴァルヘイム。

 精霊族の頂点に立ち、迅神の異名を持つルルキアラ・アウラ。

 そこに到達していると話す、ソフィアと言う人物に驚くルクス王子とザイカとミン。


「はい、事実であります…しかしソフィア様も直接お力は貸せないと申しておりました。すみません…ですが!ソフィア様はルクス王子を信頼し心は共にある、と伝えて欲しいと!」


「……何言ってんだ謝るな………充分過ぎる激励と…心の支えだっ…!」


 ルクスはそう言いながら無言でルウ達にも頭を下げる、ザイカやミンも同様に。

 その目には薄らと涙を溜めて。


「………ありがとうございますっ!」


「……う、嬉しいですっ!」


「うえ〜ん!泣いちゃいますぅ〜!」


 言いながら頭を下げるルウ達…そして話は本題に移るのであった。


「…すまないなスバル達…して提案とは?」


 そんな様子を見守るスバル達に御礼を言って、ルウに促すルクス。


「あ、はい!提案はこちらの手紙に…どうぞ」


「…すまない、少し読む時間を貰う」


 全員が頷きルクスは手紙を読み始める…数分経った後にルクスが口を開く。


「…なるほどな、こりゃ中々にソフィアって方も俺好みな方みたいだなぁ!」


「ほう?…手紙には何と書いてあったんだ?」


 臆面も無く聞けるのは、やはりスバルらしいと言えるだろう。

 まるで下心の無い声の通りはルクスは好きだった。


「はははっ!手紙の内容はなぁ?…共にトレニア大陸に巣食う闇を一掃しようって内容だ、更には有効な攻撃を仕掛ける期間まで書いてあるしなぁ!一気にやる気が漲るってもんだなぁ!」


「ふむ…手紙の内容を俺とペインにも後で見せてくれ…攻撃を仕掛ける日数に間に合う様に、鍛錬期間を擦り合わせるからな」


「…ははは、はは。うっ、わ、分かった」


「では提案は受理されたと見て良いでしょうか?」


 そんな言葉にルクスは向き合い話す。


「ああ!喜んで協力させて貰うっ!これから…よろしく頼むぜぇ!」


「あ、ああ…はい!ルクス王子っ!」


 万が一にも断られる可能性もあった為にルウ達はその返答に安堵して感謝した。


「どうやら方針は決まったようじゃのぅ?ならば詳細は食事が終わってからにせんかのぅ?妾は腹が減ったのじゃ」


 急にペインが雰囲気を和やかなものに変え話す、余程に腹が減ったのだろうとスバルは思うが…考えてみれば出店の品を食い尽くしたペインがもう空腹を訴えている事実に苦笑いするスバルであった。

 しかし、次の瞬間…突然ペインはガバッと顔を天井に向けて話す。


「………ふむ?独特のこの感じ…なるほどのぅ?人族のみと判断して侮りおったのぅ?…皆すまんが、妾はちと準備運動してくるのじゃ!すぐ戻るのじゃー!」


 そう話していたかと思えば、話しながら憩いの宿からその姿を消すペインであった。


「………ペイン、あいつ。…まあ心配いらないか」


 皆キョトンとしていたが、スバルだけは何と無く気付いたのだった。

 憩いの宿エルドラの天井…では無く建物を越えた上空よりの視線に見られていると言う事を。


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