中央広場の悲劇
シエンはルクス王子を知っている者だとしてルウ達の表情は真剣なものになる。
「ルクス王子がイゴの村に?…そう、ならば抗う者の従者として会って話したかった用事もあったし…良いわ」
「…なるほど、それは有難いですね。ならば早速…と行きたい所ですが、その前に…」
シエンはそう言うと周囲のならず者達の死体に近づき低級の魔法を放つ。
「火砲!」
手のひらから放たれた火の魔法により四つの死体は灰になる。
「あ、あなた?!魔法まで使えるのっ!?」
シエンはそんなルウの質問にキョトンとする、そんなのある程度は使えて当たり前では無いかと。
しかし、実はこの世界ヴァルハラにおいて、魔法を扱える者は少なかった。
精霊族は逆に魔法の扱いに長けている種族であったが、人族で魔法を扱える者を見たのはルウ達にとっては初めてだったのだ。
「低級の魔法しか使えませんがね?一応は使えますよ…さてとこちらの騎士ですが…」
言いながら騎士の死体に近づき考えるシエンは黄金騎士団員である証などが無いかを調べるかどうか迷う。
自分が素手で殴った結果により兜は肉片だらけで、フルプレートには風穴が空いている為に、持ち運び難い状態になっていたからだ。
すると騎士の腰にある物を見つけたシエンはそれを外して見る。
短剣の様だが立派な装飾をしており、鞘から抜き取ると刃に文字が刻まれていた…黄金に輝く心あらんことを…と。
(皮肉なものですね…人の心は黄金の輝きを見て濁ってしまうんですから…この騎士の様に)
文字を確認して刃を鞘に収めながらそう思うシエン。
何故シエン達はこの世界の文字を読めるのかは、システマキングスを基軸にこの世界を創造したエデルのおかげであり優しさだったのかも知れない。
この世界ヴァルハラの一日の時間や、一年単位での時の流れの概念がスバル達の知識と同義であったのだから。
それはルクス王子達と会話して分かった事だが、ルクス王子達の言葉が分かる時点である程度は予測をしていたのだから。
「これをザイカさんに見せて話を聞かなくてはね…」
トレニア王国の黄金騎士団団長ザイカ・サハール…聞けば彼も少し前に刺客十人を返り討ちにしていた。負傷したとは言え彼もまた王国随一の強者である事に変わりはない。
しかし、何故…団長のザイカは単独行動なのか?そしてシエンと対峙した騎士団員。
(ザイカさんが単独行動している…又はせざるを得ない理由が聞けそうですし)
「ねえ?貴方…えっと…」
「あ、これはすみません。僕はシエンと言います」
名乗る状況では無かった為に忘れていたと苦笑いしながらそう答えるシエン。
「ん、シエンね。イゴの村に行くのは良いけれども、見つからないでルクス王子に会う手筈とかあるの?」
シエンは言われキョトンとする、そして口を開く。
「え?………よ、妖精には息を止めてる間に存在を視認出来ない力があると…先程言っていたので…」
「……あ、え…ええ!もちろんそれは分かっているわ!でも、その…タイミング?とかあるじゃないっ!?そう言う事を考えてるの?って意味よっ!?」
シエンに言われて忘れてましたとい明らかな反応だったのだが、ルウは別の懸念の意味と主張する。
「はは…ならば、これを被って村に入りましょう」
そんなルウ達に対してシエンはアイテム欄から、全身を隠せるローブを渡す。
「あら、ありがとう…って何このローブ!?」
「す、凄い力を感じるのです!」
「わぁ〜!良い肌触りぃ〜!」
箱庭での鍛錬中にエレメントユニコーンと言うボスモンスターからドロップしたレアアイテムだ。
《エレメントローブ》にはそれぞれドロップした瞬間に属性が決まるため、全部で五種類ある。
光と闇属性はかなり特殊な属性であるため存在は確認していない。
効果は五属性耐性二〇%プラスとドロップした瞬間に付いた属性の魔法威力を五〇%上昇させる、魔法職であれば喉から手が出るほどの一級品である。
しかし、スバル達のパーティ内に魔法職特化の者はいない為…悲しいかな倉庫番装備としてアイテム欄にあったのだった。
「ああ…それ差し上げますよ。まだ七個位ありますし、僕は使いませんので。…適正な方に使われた方が装備も喜びますし、効率的です。ルクス王子に会って頂けるお土産としてお持ち帰り下さい」
そんな事を軽く言うシエンに対して、ルウ達はポカンと口を開けて固まってしまう。
これ程の装備にお目にかかるなど滅多に無いルウ達は、そんな装備がまだ七個もある衝撃と、軽々しく差し上げるなんて事を口走るのだから…固まってしまうのも無理は無いのであった。
「ほ、本当に一体何者なのよ、アナタ…」
「僕はまあ…この世界の端の端の孤島で師匠に育てられてこの大陸に来たんです、だから世の中の状勢には疎いんですよ」
もちろん嘘の設定であり、スバル達パーティ内で決めた設定である。
「し、師匠とかとんでも無く強そうね…まあ、とりあえず良いわ!後はルクス王子に面会した場で話しましょうかしら?…アナタの事についてもね?」
「…分かりました、では移動しましょうイゴの村へ」
その言葉に頷くルウ達はイゴの村へと向かうのであった。
ー漁業の村・イゴの中央広場ー
イゴの村人にとって、集合広場にはそこまで人が集まる場所では無いのだが…今は数人の村人が出店の周りに集まっている。
「おい!お主!これは何じゃ!?」
「お!お嬢ちゃんお目が高いねぇ!そいつぁエビって食材の最上級品…キングイゴエビだ!」
ペインはスバルに駄賃を貰った後も出店で買い食いし続けていた。
既に出店のイカの姿焼は食い尽くし、更にはタコの串焼きや、タコの唐揚げ、イゴ産のししゃも焼などを食い尽くしていた。
そんなペインが目を付けたのは、イゴの村周辺のルキア海域でしか取れない超高級品…キングイゴエビ。
一尾で漁業を生業とするイゴの村人の半日の収入分の値段が付けられる程の価格である。
イゴの村人の一日の平均収入は約二〇〇〇ゼルである。
兵士の一日平均日当が五〇〇ゼル、騎士で一五〇〇ゼルとなっているトレニア大陸では、中々の高収入である。
そんな収入の半日分が一尾に消える、超高級食材と聞いてペインは思わず喉を鳴らしながら答える。
「…ゴクッ!…店主よ!店のキングイゴエビを全てよこすのじゃ!!」
おおー!?っと言った驚きと歓声が出店周辺に湧き出す。
「だ、大丈夫かい?お金は足りるかいお嬢ちゃん?俺の店のキングイゴエビ全て買うってなると…五十尾あるから…五万ゼルになるんだが?」
「勿論じゃ!!…ん、むぅ?…た、足りないのじゃ…」
店のキングイゴエビ以外の食材を全て食い尽くしていたペインの所持金は…たったの二〇〇ゼルしか無かったのだ。
「そ、そうかぁ…流石に俺もキングイゴエビをオマケしてやる訳にはいかねぇしなぁ…」
「…わ、分かっておるのじゃ………はぁ…」
周囲に集まる村人も、店主でさえも心の底から残念そうにキングイゴエビを見つめる幼女の姿に居たたまれなくなるのであった。
するとそこへ…救世主が現れる。
「…通してくれ、すまん。…おい、ペインお前何をしでかしたんだ?なぜに村の人達がこんな集まってるんだ?」
「スバルぅう!」
現れ声を掛けたスバルに抱き付くペイン。
「なっ?!こ、こら!やめなさい!ペインお前こら!離せっ!!」
「…キングイゴエビ…五十尾…買って」
「は、はぁ?エビ?…さっき渡した金で買えば良いだろ?二万ゼルくらい渡してただろ?」
その言葉に周囲の村人と店主は苦笑いしてペインに視線を送っていた。
ペインもその言葉にビクッと身体を一瞬震わせ話す。
「も、もう無いのじゃ…残り二〇〇ゼルしかないのじゃ」
「は、はぁ?!…な、なぁ店主、こいつどれ位食べたのか教えて貰えるか?」
「あ、えーとキングイゴエビ以外の品は全て購入して頂けまして…ありがとうございます!へへ」
途端…スバルは厳しい表情になり村人や店主が凍りつく。
スバルは転生前から何に対しても無駄使いしない主義であったのだ。
そんなスバルからしてみればペインの行為など唯の散財にしか過ぎないのである。
(全く!無駄な使い方をしてくれたな!転生前にも感じていたんだよなぁ、女性に良くある…今日のご褒美理論が世間で美化されたり正当化されていた記事とか見た事あるが…論外だ!第一に誰も何も文句言わないんだからご褒美とか何とか要らないだろ?無駄使いしている事実を、ご褒美と言うワードに転化させているだけにしか過ぎない!ペインにはそこら辺をきちんと理解して貰わなきゃな!)
「ペイン…こっちを向け…良いか?お前がしたのは…」
話し出すスバルに周囲に集まる村人も店主も怒られる…と切ない表情で見守ろうとした矢先…。
「…スバルぅ…ごめんのぅ…許してくれんかのぅ?」
スバルの話しを遮りペインは…最上級の猫撫で声を発しながら潤目になり、更には上目遣いでスバルの服をギュっと握り締めスバルを見つめてきたのである。
「…………っ!!?……か、可愛い」
「…………っな!?何て……無垢な可愛いさだ」
周囲に集まる村人や店主が呟く…だが、見た目より厳しそうなスバルは納得しないのだろうな…と全員がスバルに視線を向けると…。
「………うっ、ま、まあ…給金内って事もあるし、こ、今回は良いか…!」
何かに負けてしまうスバルは顔を真っ赤にしながらそう言うのであった。
(くくくっ!…やはり童貞…じゃのぅ!ちょろいのぅ?スバルや?)
やり手の雰囲気を胸中で匂わせながら童貞のスバルを手玉に取るペインであった。
(童貞など妾の様なやり手の女に対して弱いからのぅ?まだまだ経験不足じゃのぅ?スバルよ!くくくっ!)
そんな風にほくそ笑み馬鹿にしたようにスバルを手玉に取るペインだったが…ペインもまた知らない。
そんな女性の心を掴むのもピュアな恋愛感情を持ちし童貞なのだと言う事を…恐らくは。
そうしてペインはスバルから離れて注文を促す。
「店主…注文したキングイゴエビを買うから勘定を頼む」
「ありがとうございます!合計で五万ゼルになります!」
聞き間違えたのであろうかとスバルは固まってしまう。
そんなスバルに声が掛かる。
「あ!…スバル!良かったもう集まっていたんですね?この人だかりは何ですか?」
言いながら現れたのはシエン…その後ろには顔を隠しローブに身を包んだ三人がいる。
声をかけられたスバルはシエンの方を向くが、口をパクパクさせながらまだ固まっている。
「あ、シエン…間に合ったかな?…仕立て屋があったから…リイサと見てた…ど、どうしたの?スバルは」
「遅くなったと思いましたけど…間に合いましたわね!スバルは何故…か、固まっていらっしゃるのですか?」
アカリとリイサの方を向いたスバルの目は鋭くなり、まるで恨みでもある表情を見せる。
そんな表情を向けられる二人はブルリと身体を震わせ首を傾げる。
「おいおい…何だよこの集まりは?こんな集まるなんて珍しいなぁ。…スバル…おめぇ何があったんだぁ?目が逝っちまってるぞ?」
ルクス王子も中央広場に着き約束した時間になる。
すると…固まって口をパクパクさせ色んな感情が渦巻いていたスバルがやっと言葉を発する。
「女なんて…女なんて…信用出来るかぁぁぁぁあ!!」
哀れな童貞…いや、手玉に取られたスバルの魂の叫びが中央広場に響いたのであった。
ートレニア王国・宮廷内の王妃室ー
その部屋は明るく優雅な装飾に包まれていた。
トレニア王国現王妃…トレニア・シェリル・アルフレッドの部屋である。
彼女はテーブルにある切り分けられている高級な果物を一つ取り口に運ぶ。
「…ふふっ、甘いわぁ」
そんな風に部屋で寛いでいたシェリルに何処からともなくと声が聞こえてくる。
「シェリル様…報告があります」
「あら?…なぁに?可愛い可愛い子猫ちゃん?」
子猫ちゃんと言われたこの人物の名前はゾイ、王妃お抱えの三光の一人であり、刺客の統括にも就く強者である。
「お戯れはおやめ下さいシェリル様。…少々厄介な事態かと思う報告がありまして」
そう言われたシェリルは表情は変わらないが声が若干低くなる。
「………なぁに?ゾイ」
「ルクス達に差し向けた刺客の者達二〇数名…更には堕族出現情報である付近に差し向けた野党共と黄金騎士一人との音信が途絶えていると…部下から報告がありました」
「ふぅん?…ふふっ…ルクスも中々やるじゃない?ねぇ?堕族の件に関しては貴方に任すわよ?ゾイ。…ルクスも手負いでしょうし、暫くはほっといてあげましょ?ふふっ」
「御意に」
そう言うと部屋にゾイの気配は無くなりシェリルは呟く。
「ふふっ…いつ迄、頑張れるかしら?卑しい卑しい半血の貴方がっ!あははははは!これからも楽しみね?ルークースー?」
言いながら窓の外の景色を見る目は鋭く、嫌な笑い声が部屋にこだまするのであった。




