アップデート後の世界ヴァルハラ
ここから二章「王国編」です。
「凄いな…まるで宇宙を列車の窓から眺めて旅行しているみたいだな」
「そんな感じのアニメとかありましたよね、確かに…綺麗ですよねこれは」
「わぁ、凄い、ね?転生するって…テンションでは無いけど…」
「あらあらまあまあ!本当に綺麗ですわね!ウフフ」
「…これは千年生きてきた妾でも…見た事ないのぅ!絶景じゃのぅ!」
新しい世界に転生する迄の景色を楽しむスバル達だったが…星に光が触れた瞬間に頭にメッセージ音が鳴り響く。
ピロリーン!
《あなたたちはこの世界に生まれました。この世界ヴァルハラでは生まれた子にギフトとしてランダムな異能を授かります。異能はスキルとは別になりますのでご注意下さいます様お願い致します。選択した恩恵別により転生場所はランダムですのでお気をつけ下さい。ムースより》
苦笑いしながら五人はメッセージ読んだ、何故なら恐らくだが説明を忘れていたであろうエデルの顔と、それに対して注意するムースが思い浮かんだからである。
「異能かぁ…システムキングスのアップデート内容も流石に最終大型なだけあるよな」
「ですね、実際…この内容ならかなり続いたんじゃないですかね?まだまだありそうにも思っちゃいますから」
「…確かに、ね。これだけのアップデート内容はシステムキングス始まって以来…だったねー」
「私もプレイヤーとして楽しみたかったのでアップデート内容はいつも知らなかったですが…これ程とは」
「隠しボスの妾も内容の一つじゃしのぅ?因みに隠しボスは後二匹おるからのぅ?」
皆アップデート内容について感想を出すなかで、とんでもない事実を暴露してきたペインに注目する四人。
「な、何じゃ…照れるんじゃが?」
「もっと早く言っとけやぁぁあ!今は時間無いだろうし仕方ないがっ!転生したら情報話せよ!?」
「うるさいのぅ…わ、妾のポジションを取られるのが怖かったんじゃよ」
そんな風に言われたら何も言えなくなる四人であった。
そんなやり取りをしている間に、スバル達の光は海岸の崖付近に降り注いだのであった。
-ヴァルハラ世界・ルキア海域付近-
王暦百十二年…四月二四日…その日、ルキア海域付近の崖に光の粒が飛来する現象が目撃されていた。
後に人々はこれを希望の光と呼ぶ者や、災厄の知らせと叫ぶ者もいたとされる。
そんな光景を見つめる男が此処にも居た、ルクス第五王子である。
彼は現在さらなる王妃からの刺客に追われ、隠れ家のあったイゴ村から脱出して逃げている最中であった。
イゴ村は海岸に近い村であり、漁業を生業にしている村でもあったために船を見つけたルクス一行は刺客が来た場合の逃走経路として用意していたのだ。
そんな風に刺客から逃げている最中に見た光の飛来は、ルクス王子の胸を高鳴らせた。
もちろんザイカやミン、その二人と戦闘中の刺客の五人もその光の粒が飛来するのは見ていた、しかし一瞬である。
ルクス王子だけは馬を止めて飛来した先の崖を見つめている。
「くっ!はぁっ!!…っん?!……王子!?どうされましたかっ!?船は崖下に隠しております!早く移動をっ!」
「はぁっ!はぁ!!此方へ!…王子!!王子っ!?」
迫る何人かの刺客を相手にしながらもザイカは叫び、側にいるミンも呼びかける。
「………希望の光…かぁ、逃げるか…活路を見出すか…なら答えは決まってるっ!!!ザイカ!ミン!あの光の元へ行くぞっ!刺客なんてほっとけ!無視だ!急げぇ!!!」
一瞬困惑する表情はその声に反応した自身の身体により、消されてゆき、二人は急ぎルクス王子の両脇を固める様に馬を走らせる。
ルクス一行は遂に光の飛来した付近に辿り着く…しかしそこには何も無かったのである。
「くそっ!…はぁ!はぁ!悪りぃな二人ともよぉ…希望の光…所詮はおとぎ話だったみてぇだわ、ははっ」
「っ王子………!最後までお供致しますともっ!!」
「…へへっ!そうですよ!我等二人…死のうとも貴方の忠義に尽くしますよ!!」
言いながら二人は追いついた刺客に武器を構える、背後は崖に前方には刺客…王子は笑いながら剣を抜く。
「あーっはっはっは!最高じゃあねぇか?なぁ?ババアの刺客のクソどもが…聞いたかよ?俺には信頼出来る友が二人いるんだからなぁ…最後に友と暴れるのも悪くない終わり方だわな?はっはっは!」
そう言うと三人は笑い合い、最後かも知れない戦闘に覚悟を決める。
放たれた刺客は五人…その内の一人が話し始める。
「残念ですよ?貴方が…王妃様の邪魔さえしなければ。その命を友と散らす事も無かったでしょうね…」
「邪魔するに決まってんじゃねぇか!…魔族に繋がった強欲な人族に成り下がり民を見捨てた………あのババアを消すためなら俺ぁなぁ?何でもやるって決めたのさ!!」
「フッ…そうですか。惜しかった、ですがね?実際、貴方が書かれた密書が各国に渡れば王妃は…ですが、これが現実…力無き者など無力と勉強出来て良かったですね?」
皮肉を混ぜながら話す刺客の名前は無い。
いや対峙する王妃直属の刺客達に名は無いが、刺客を統括する統括長のみ名がある…グロール…無音の死神と恐れられる程の者である。
何故わざわざ王妃が名を付けたのか、王妃の力の象徴にする為である。
ー飛来した付近から五百メートル程離れた茂みー
「異能の確認や説明をウィンドウで見てたら…いきなりな展開になってきたんだが?」
「全くですね、でも少し不味いですね…あの三人の方の方が圧倒的に不利です。強さのオーラも負けています」
「………いーなー、シエンの異能『魔眼』いーなー」
「どうされます?助けるか…助けないか、どちらにしましょうか?」
「むぅ…妾はこの世界では異業種となるらしいのぅ?…あんまり可愛くないのじゃ!」
真剣な話をしているのがスバル、シエン、リイサの三人しかいないのがスバルは不安になる。
「はぁ、とりあえず異能の確認は後だ。シエンだけ確認しといてくれ…とりあえずはあの三人を助けよう。身なりから見るに…恐らくは貴族かそれに近い人間の筈だ、損は無いはずだ。異論はあるか?」
全員無いと頷き助けに向かう事にするスバル達だったが、全員で向かうのは危険があるとしてリイサが懸念を訴えたのだ。
この意見も確かにと頷くスバル達はパーティを分け救出に向かう事にする。
スバルとペインの二人で救出に向かう役目と、別方向からの攻撃など不確定要素への対処として、シエン、アカリ、リイサが茂みに隠れ周囲を監視する役目に分けたのだ。
「良し!なら三人は周囲の監視を頼む、危険があった場合はこっちに合流して編成を組んで対処しよう。…それじゃあ行ってくる!」
「妾の特別鍛錬をこなしたんじゃから大丈夫じゃろうが、油断はするでないぞ?…ならば行ってくるのじゃ!」
スバル達パーティは真剣な表情で頷き合い、スバルとペインは飛来付近へ、三人は周囲の監視へと配置につくのであった。
ー飛来付近の崖ー
ザシュッ!!!
「ぐっ!………く…そっ…」
刺客の一人が地面に倒れ伏し、周りには血潮と大量の血が流れ出ている。
ザイカとミンの善戦により刺客の一人を倒したルクス達。
「ちぃ!しぶといですねぇ…ならばこうしましょうか?」
刺客の四人が一斉にミン目掛けて突撃していく、それを援護する為にザイカが走り出す。
「アイアンボディ!!アーマーアップ!!守護の構え!」
連続でスキルを使いミンを庇うザイカに四人の連続攻撃が繰り出される。
「黄金騎士団…絶対防御の団長…ザイカ・サハール!!いつ迄もちますかねぇ!?あっはっはっは!」
「ぐぅ!ううぐ…ぐっ!うがっ!」
「ザイカ!!くそっ!お前らぁぁあああ!!」
防御系スキルを使いながらも自分のせいで攻撃されているザイカを、黙って見ている訳がないミンは攻撃に移る。
だが、これは罠である。
「…あーあ、お馬鹿さんですねぇ?…それっ!!」
ザンッ
四人の内の一人がミンを斬りつける。
ザンッ!ザシュッ!!
「ぐっ!がっ…ぐはっ!!!」
「ミンっ!?……畜生!!畜生畜生畜生!!!力さえ…俺に圧倒的な力さえあればぁぁあ!!」
無慈悲な光景にルクスは思いを咆哮するが結果は変わらない。
数カ所を斬りつけられたミンは吐血しながら倒れる、斬りつけられた脚からは出血が酷く最早逃げる事も出来ない傷であった。
「次は…ザイカ!貴様だ!!」
そしてザイカも防御系スキルを多様してはいるがルクス王子を守りながら、王妃直属の刺客を負傷しながら四人相手にするのは無理であった。
そもそも王妃直属の刺客達の強さは王国屈指であり、他国への牽制も出来た程なのだ。
王国が近隣の国々から侵攻されない理由の一端を担う存在の刺客達は当然の様に強いのである。
実はこの世界ヴァルハラでは、生まれつき異能が与えられる故にスキルを軽視する傾向や、習得の難しさに異能だけでの強さを重視する者が多かったのだ。
しかし、刺客達は鍛錬を自らに課して【攻撃力上昇・四】まで習得している者も多い。
「ぐっ!………かはっ!!!うぐぅ!!」
刺客四人の連続攻撃に限界を迎えたザイカの身体は膝をついてしまう、そこに刺客の攻撃が容赦無く浴びせられる。
ザイカは笑顔で目を瞑り最後の一言を発する。
「ルクス…王子………力及ばず申し訳ありません…!」
「くそっ!!!…馬鹿野郎がっ!俺も、直ぐに行く!」
ギギィィイン!!
「鍛錬が足りんのぅ?お主は。スキルの使い方もまるでなっとらんのぅ…」
やられたと思っていたザイカはその音に目を開ける。
刺客四人の攻撃を長過ぎるその髪でいとも容易く弾く幼女がルクス達の目の前に現れた。
ルクスはこの瞬間…あの時感じた鼓動の高鳴りが間違いでは無かった事を確信する。
「髪で移動するの反則だろぉがぁ!ったく!あー、えっと助けいるか?」
「…え?あ、ああ?た、助けてくれんのか?」
更に現れたこの男から言い表せない様な力をルクスは感性で感じたのだ、第六感とでも言うべき感覚で。
そんな男からの提案に呆気に取られて聞き返すルクス。
「ああ、その代わり何だけどさ?…実は俺達はこの場所の生まれじゃないんだ。別の大陸の端の端の孤島で生きていた訳、まぁ、色々あってな師匠としていた人に外の世界を見てこい!見たいにこの場所に大魔法で送り出されたんだけど…現在地の情報が欲しくてさ、駄目かな?」
救出に向かう途中にペインと話し合い作り上げた設定を話しながらこの世界ヴァルハラや、現在の場所の情報を貰うための算段だった。
「そ、そんな事で良いのかぁ?もっと金とか珍しいアイテムとかは要らないのかよ?」
「要らんのぅ?妾達は別にそんな物に興味は無いしのぅ」
「まあ、今は必要として無いしな!さて!んじゃコレ使ってあげて、そこの倒れてる人に」
スバルは予め用意していた完全回復グミを渡す。
他のMMORPGでは大体がポーションなどでHPを回復するのだが、システマキングスはグミが回復アイテムになっていた。
こんな斬新な部分もシステマキングスを好きだった一つのスバルであった。
因みに完全回復のグミは赤いグミである。
「あ、赤いグミだと?!こんな高級品をっ!?良いのか君はっ?!」
「え?…あ、ああ。情報を貰う人の従者が死んだら後味悪いだろ?師匠に貰った品だから気にしないでくれ」
この様子を見てスバルは今後アイテムを簡単に渡すべきでは無いと判断する。
恐らく赤いグミはかなりの貴重品である事がルクスの反応から分かったからである。
「す、すまん!急いでミンに食わせる!俺はルクスって名前だ!そこの盾を構えてる奴はザイカだ!後は頼む!」
スバルは頷くとペインと睨み合いをしている四人の刺客に視線を向ける。
「…と言う訳でな?お前らには情報の為に死んでもらおうかな?」
「貴様………異業種を従えているのか?何者だ?」
「妾は可愛らしい女の子じゃろ?異業種などと吐きおってからに…その口を引き裂いてやろうかのぅ?くくくっ!」
ゾクッ…四人の刺客はそんな言葉を無邪気に放つペインに戦慄する、圧倒的なまでの力の差を身体が本能で認識してしまった故の反応である。
「ペイン…俺も怖くなるんだけど?まぁ、良いだろ?お前らはここで死ぬ、だから意味はない。理解した?」
「ふっ…刺客が四人だけだと、何故そう思う?当然、万が一に備えて伏兵を用意してあるわ!」
そんな声と共に数十の刺客がルクスやスバル達を囲う。
その数はおよそ二十以上にもなった、ザイカは突如現れた救援に安堵したのも束の間、険しい表情を浮かべ立ち上がる。
「……っぐぅ!はぁ!はぁ!…お前達、逃げろ!刺客の数がこれでは勝ち目はない!」
「なかなか根性はあるのぅ?じゃがのぅ…邪魔になるからこれ食べてどいておるのじゃ!」
ペインは髪の毛を操りザイカの口に赤いグミを放り込む。
すると、途端にグミは口の中で溶けてなくなりザイカの身体から傷が一瞬で消えていく。
「っぐ?!………なっ、何だと?!完全…回復…!?」
完全回復グミの貴重さを知っていたザイカにとって、簡単に他人に使用したペインに驚きを隠せないザイカ。
「隙あり!!」
途端一人の刺客がザイカの方を向いてるペイン目掛けて飛び出し攻撃を仕掛ける…だが。
「隙なんて無いんじゃが?遅いのぅ?」
言いながら攻撃を仕掛けてきた刺客をその強化された髪で絡め取り捕縛する。
「ぐっ!う、ばっ!馬鹿な!?全く動かない!?」
「髪千黒渦…」
ペインはそう呟くと一本の髪の毛をピンッと指で弾く。
「ぐっ?!…ごっ?!ぎゃ!ごばぁぁああ!!」
絡め取っている髪が振動と共に捕縛していた刺客を渦の様な動きで切断していく…ゾシャリと言う形容し難い音と共に切断部分が地面に落ちる。
先程まで人の形を成していたと言われても分からない様な姿と血の池が地面に出来る。
そんな様を見るスバルはえげつないとは思うが、その様を見ても吐き気などは無い。
スバルはトレーニングルームであらゆる鍛錬を行い、死の恐怖さえ鍛錬していたのだから。
「…はぁぁぁ。この血の匂い、くくくっ!久しぶりじゃのぅ!?血が滾ってきたのじゃ!!」
「えげつないスキル使うなぁペインは…俺もやるかな」
「…っぐ!編成を組め!一人では歯が立たない!五人一体の確殺陣を使え!!」
「させるかよ!流閃花!!」
スバルは抜刀の構えをして踏み抜きながら剣を抜く、その踏み抜きは敵の包囲していた半分の数をすり抜ける程の速さである。
カチャ!振り抜いた剣を鞘に納めた瞬間…。
「な、何と言う速さかっ!?見えな…がはっ?!」
驚愕の言葉と共に十人の刺客達は胴を半分程まで切り込まれていたのだ。
吐血しながら空を見上げる様に仰向けに倒れ絶命していく刺客達の血しぶきはまるで…血の花を表している様であった。
一瞬にして王妃の刺客を十人も葬ったスバルを見ていたルクス一行は唖然としていた。
「つ、強い…いや、最早…次元が違う!」
「…王子!これは…希望の光ですねっ!うぅ!」
「ああ…ああ!希望の光はあったんだな!これならこの状況も…王国すら変えられるかも知れねぇ!!」
王子と聞いたスバルはこれはラッキーだったと思うのであった。
貴族やそれに近い存在と見ていたのが、まさか王国の王子であるとは。
ペインも同様に考えながら走り出す、残りの刺客に向かって。
「…ば、ばかな!王妃直属の我等をまるでものともしないとはっ!その強さ…どんな異能だっ!?」
「異能?ああ、あったなそんなの…スキルしか使ってないがな?」
そう答えながら残りの刺客にスバルも走り出す。
「あ、あり得ぬっ!!異能を使わずしてその強さなどっ…あり得んのだぁあ!」
「何方も使わなくてもお前ら程度なら…問題ないがな!」
言いながら一人…二人…三人…瞬く間に異能もスキルも使わずに切り捨てていくスバル。
刺客達は思わず後方に逃げるのだが…そこには幼女の姿をした死神がいた。
死神の幼女は笑いながら容赦無く命を刈り取るスキルを叫ぶ。
「往生するが良い!…髪閃の糸!!」
そう叫ぶとペインの髪が数本集約され集約された髪の毛の色が白くなる、その白く集約された髪は逃げる刺客を追い一人…二人…三人…四人…五人…あっという間に六人を串刺しにしていったのであった。
スバルとペインは残り三人にまで数を減らした刺客に視線を向け歩み寄る。
「何だ…これは?現実なのか?こんな強さっ…!馬鹿げている!」
「だ、駄目だ!一人だ!一人逃げられれば良いのだ!」
「な、なら俺が逃げる!お前達は時間を稼ぐのだ!!」
王妃直属の刺客とは思えない言葉を吐き出すこの様は、スバルとペインと対峙した時点で仕方ないとも言える。
「終わりじゃな?…お主らも弱過ぎじゃったのぅ?さらばじゃ…矮小な弱き者よ」
言いながらペインの髪が三人の首をなぞると鮮血を上げながら切り落とされ、残された身体が痙攣しながら倒れ込むのであった。
「良し…とりあえず終わりかな?…ルクスー!もう大丈夫だ!とりあえず来てくれ!」
スバルのそんな言葉と共にルクス、ザイカ、ミンの三人は話しをする為に、疲労した身体を立ち上がらせるのであった。




