あの時②男達の友情
「もう…こうなったらスイーツを食べ尽くすのじゃ!良いか?二人とも!」
そんな発言をドアの隙間から聞いたシエンは、女性達のやり取りから逃げた事に安堵する。
「…どうだ?シエン…皆んなは戻ったか?」
まだロビーには居たのだが、恐らくもう戻るだろうと判断しながらシエンは話す。
「いえ、まだですが…もう戻ると思われます。残りの日数をスイーツ食べ尽くしに…みたいな話で纏まったみたいですから」
「…良し、ならばゆっくりドアを閉めてくれ…」
お互い頷きながらドアを閉めるシエン、しかしこの時の自らの不注意により、この後に待ち受けるある種の修羅場が待つとはスバルも知らない。
シエンとスバルは安堵して溜め息を吐く。
二人は安堵しながら会話して時を過ごす…そんな会話が部屋の隙間から聞いているペイン、アカリ、リイサの三人に駄々漏れになっているとは知らずに…。
(駄目ですわよ!こんな事!きちんとドアが開いていた事を伝えなくては!)
(そんな事言っとる割には…ずっと聞いとるくせにのぅ?アカリ)
(ま…まあ確かに…リイサもだけど…私も言い出せなくなったから…聞いちゃってる)
「とりあえず…その時までの残り日数はゆっくり過ごそうぜ?」
「はい、そうですね。…所でスバル、そ、相談があるのですが…」
(男の相談とはのぅ?色恋沙汰だったりしてのぅ?くくくっ!)
(よ、止しましょう!そんな内容ならこっそり聞くなど駄目ですわ!)
(………た、確かに…よ、良し!ドアが開いてたか、誰が教える?)
シエンはふとアカリとの出来事を思い出し目の前の唯一の男、スバルに相談するか一瞬迷う。
しかし…アカリとの出来事は内緒であるので、自らが抱きつつある感情についてスバルに相談する事にしたシエンは口を開く。
「ス、スバルは…パーティ内に好きな人とかいますか?」
(おおっ!?色恋沙汰じゃー!二人に好きな子がおるか分かりそうじゃぞ!?)
(さ、流石にこれ以上は…ま、マズイですわよ!?アカリちゃん!つ、伝えて下さい!)
(…わ、私だって無理だよ?!…し、暫く、待機ッ!)
「え?す、好きな人?…は、恥ずかしいな。なんか、面と向かって言うのは…シエン…」
「……………え??」
このスバルの言葉には続きがあるのだが、恥ずかしいから一拍おいて話すこのスバルの話し方には大きな誤解を全員に生じさせる結果となった。
(な、何じゃと?!明らかに童貞だと見ていたのにソッチに手を染める程の夜の暴君だったのか?!)
(あ、あ、あ、あわわわわ!?そ、そんなまさかですわーーーー?!)
(………う、嘘っ?!……ボーイズ的な?!)
女性陣には誰一人としてドアを閉めようとする者はいなかったのである。
それどころか聞いてはいけない話を聞いたガールズトークが炸裂して盛り上がりを見せる始末である。
「…アカリ…リイサ…ペイン…皆んな大好き、かな?…こんな事、シエンと二人きりじゃなきゃ言わないわぁ。あー恥ずかしい!」
しかし…スバルの言葉には続きがあり、それを聞いて女性陣とシエンは落ち着きを取り戻すのであった。
「あ、ああ、そう言う意味ですか。…ほっ」
(…な、何じゃ…わ、妾はてっきり、のぅ?)
(あ、あらあら…い、嫌ですわペインちゃんったら!)
(…ま、まぁ!良かった!…うんうん!)
「お前…何を想像したんだよ!ったく…!」
「いや、ははは!申し訳ありません、一呼吸置かれたのでソッチだったのかなぁ?と………ははは」
「はぁ、俺は異性なら女が好きだよ?シエンこそ、そんな質問するって事はパーティ内に好きな子でもいるのか?…俺にはそういった感情で好きな奴は、パーティ内にはいないぞ?」
どう言う理由でシエンの反応が鈍くなったかを理解したスバルは語り誤解を解く。…スバルはその道ではない事を主張して。
スバルにはパーティ内に異性として好きと言う感情を持つ相手はいない、との事実に若干残念がるリイサ。
「ぼ、ぼ、僕?!ですか?!……じ、実は、その」
「………え?マジでいるの!?ペインじゃないよな?千年経ってるし実際は……なあ?」
(ほぅ?スバルぅ…!!貴様の気持ちは確かに把握したのじゃぁぁあ!…転生したのちの特別授業じゃのぉお?!)
「あ、い、いえ。そ、その…」
「…ま、まさか?お胸の大きい方でございますか?」
スバルの差す、お胸の大きい方、とはリイサであるが…流石に巨乳などと言う訳にいかず遠回しに表現するスバル。
まさか全てを聞かれているとも知らずに…。
リイサが怒ると思いアカリとペインは視線を向けるが、当の本人は赤面しながら顔を伏していただけである。
(お、お主も…分かりやすいのぅ…スバルが鈍感過ぎて苦労するじゃろうが)
(………本当それなです。分かりやすい…)
(…はぅ!な、な、何を?!……うぅ飛び火ですわぁ…)
「ち、違いますし言い方!はぁ…ア、アカリの事が…そのですね、最近…気になってまして」
「そうか………マ、マジのやつ?」
「は、はい」
顔を赤くしながら頷くシエン、どうやら本当に気になってしまってるらしい。
(ほぅ?ほぅほぅ?ほー?…らしいがのぅ?アカリや?)
(…あらあらまあまあ、これはこれは?アカリちゃん?)
リイサまでもが此処ぞとばかりにニヤリとした笑みを浮かべてペインと共にアカリに視線を向ける…アカリは真っ赤になっている。
(うっ……………むぅうう!し、知りませんよぅ!)
「そ、そうか。………まぁ、俺も経験無いし何も言えないけどな?ははは。でも、好きな子が出来るって凄いと思うよ?シエン」
「うぅ…え?……凄い?ですか?」
「ああ、だってその子を…必ず守り通す意志を持つ意味にもなるからな?例えその結果が駄目だったとしてもな?」
「………そうですね、うん、確かに!今の僕にはそれで充分です!ありがとうございます!スバル!相談して良かったです!」
「いやぁ、大したアドバイスとかしてないけどな?シエンが大丈夫なら良かったよ、ははは」
(中々に良い台詞を言うもんじゃのぅ?スバル…鈍感じゃがのぅ。まあ、今は色々あるからのぅ…ゆっくりと考えるが良いのじゃ、シエンも…アカリものぅ?)
(………言われてみたいですわね……はっ!私ったら、な、何を?!)
(………ん、分かってる、聞いてしまった以上は…いつか答えは…出さなきゃ)
真剣な表情で決意を固めたアカリは、いつかその時が来るまでは…と、心に決めるのであった。
「はい!…いやぁ、良かった!アカリと事故とは言えキスしてからと言うもの…心が乱れていたもので、ははは……あっ?!」
ついつい気持ちが緩んだシエンはとんでもない事を口走ってしまう、しまったと言う表情をしてスバルに視線を向ける。
「…………あれ?俺の耳が正常なら今さシエン?……キスしたみたいな事を言わなかった?…なぁ?シエン君?」
お互い童貞、キスもした事ない男達の友情にヒビが入る音がしたスバルは…ゆらりとシエンに問いかけながら近寄っていく。
(お、お主ら…鍛錬期間中にか?!何を乳繰りあっておったのじゃ!?)
(あら…まあ?全く!うらやまし…じゃなくて、鍛錬中に事故とは言え、そ…その、キスをした話!詳しくお聞かせくださいますわね!?)
(だ、だ、だから事故!!た、ただの事故だったの!だからその後も何も無いよぉ!……っあ!?)
リイサとペインに詰め寄られながら言われて態勢を崩したアカリの身体がドアにもたれ掛かる…そして。
キィイイイ…ドサッ!
三人は重なりながらスバルの部屋に入ってしまう。
シエンはアカリと目が合いお互い顔を真っ赤にさせる、スバルは何事かと表情を硬ばらせるが、シエンに先に詰め寄る。
ペインとリイサも先にアカリに詰め寄る。
「とりあえず…話を聞かれていたと言う事は後回しだ。さあ、シエン君…説明してくれないかな?鍛錬中にキスしていた話についてだ?男の友情を…お前はぁぁあ!!」
最早、スバル自信ですら意味不明な言動ではあるが…心根では羨ましいとしか思ってないのであろう、その目には薄っすらと涙が見えた。
「さあアカリちゃん…素直に話しましょうねぇ?ウフフ…駄目じゃないですかぁ?そんなうらやまし……不謹慎な事を皆んなが頑張っていた鍛錬中に!さぁ、話しましょうねぇ…?」
「妾が箱庭で滞在中の完璧な鍛錬計画中に…何を乳繰りあっておったのじゃぁぁぁあ!!そこに座れ二人とも!!」
アカリは詰め寄る仲間に対して恐怖と絶望を抱き叫ぶ。
「あわわわ!…シ、シエン!内緒って言ったのにぃい!」
「ご、ご、ごめんなさぁあいぃいいい!」
謝るシエンの声と共に二人は座らされて一時間に及ぶ説明の後にやっと理解されて解決する事になるのだが…ペインが口を開く。
「なるほどなぁ、まぁ、俺たちも悪いなそりゃ。人数を分けちまったから起きた事故でもあるしな…」
「まぁ、理解したのじゃ!仕方ないのぅ?こんな事もあるからのぅ?くくくっ!…さて、スバル次はお主じゃな?千年以上の妾が実際には何じゃ?言うてもらおうかのぅ?」
「…あら……ですわね!スバルさーん?お胸の大きい方ってだーれでーすかっ?…ウフフ」
途端に血の気が引いていくスバルはこの後…二時間に渡りペインとリイサに絞られて謝るのであった。
そうして男達はドアは最後まで閉めようと誓うのであった。
ーヴァルハラの世界・イゴ村ー
王暦百十二年…四月二十二日。
雨が降る夜のイゴと言う村の隠れ家に傷付いたザイカの姿があった。
ペシェードと言う街から離れ逃げる道中に王妃からの刺客と戦い負傷したのだ。
王妃直属の刺客を十人相手にして傷は負うものの、一人で返り討ちにした結果である。
しかし、ルクス第五王子達の状況は絶望であった…ルクスには味方が二人しか居ないのだ。
負傷しているザイカ、そして密偵のミンと言う男の二人しかいない状況。
「ふぅ…潮時…かも知れねぇな?…お前らには死んで欲しくねぇんだわ、俺は」
「な、何を仰っているんですかっ!!うぐっ!…どうかご辛抱をっ!我が盟友に手紙を出しておりますので!!」
「…や、やめてくださいよ!そんな弱気な事っ!ルクス王子様っ!うぅっ…!」
ザイカはペシェード街を出る時に盟友に手紙を送っていたのだが、実際に援軍として見込める日数で言えば二日はかかる想定だった。
その二日が経ち援軍が無いこの状況は最早…援軍は来ないと言っているようなものであった。
「ったく、お前らは…俺なんかの話に乗ったばかりによぉ本当にまぁ…。でも、お前らみたいな奴らがもっといりゃあよ?…この腐った王国も、人族のいく末も、魔族を倒す活路も見えるかも知れねぇんだがな?…腐った王国に、力の無い俺にこれ以上従う義理はない、ヤバくなったら直ぐに逃げろ、これ最後の命令だから」
苦笑いしながらも最後の発言だけは鋭い目付きで二人にそう話すルクス。
「……ぅう!何を、我等こそっ!ち、力至らず!ぐ…!」
「ううっ!…何でもいい…!何故?!ルクス王子の様な方がこんなっ!?くそっ!くそっ!」
二人にはどうする事も出来ない状況が歯痒く焦燥と自分への怒りが入り混じる、そんな中でポツリとルクスが二人に尋ねる。
「落ち着けよ…なあ?知ってるかお前ら?希望の光って話をさ」
世界が絶望への道を辿るその時に現れる人族の希望の光在り、と受け継がれているおとぎ話であった。
内容は…希望の光が勇者であり絶望が魔王でそれを討ち倒す話である。
当然二人も知っている。ヴァルハラに生まれた者として、世界のおとぎ話として知らない者はいない程なのだから。
「え?と、当然知っておりますが…?一体何故?」
「………何か閃いたのでございますか?!」
そんな返答に腹を抱えて笑いだすルクス。
「はははははっ!あはは、あー…すまねぇ、いや何、そんな光が現れるのを待つしかねぇのかなぁ?ってな?いや悪りぃな…忘れてくれや?」
二人は自暴自棄になられたのかと心配したが、杞憂であろうと安心する。
だが…そんな奇跡が起こる事を願わずにはいられないルクスは二人を見つめ歯痒く思うのであった。
次話から第二章になります。




