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終わりと始まり

 ピロリーン!と言うメッセージ音と共にムースがその姿をロビーに見せる。


「皆様おはようございます。そしてお疲れ様で御座います。箱庭での五十日が過ぎ、これで全ての恩恵選択者の期間が終了致しました」


 スバル達は全員ロビーに集まり、身支度も済ませてある。

 時刻は九時になったばかりだが、事前にメッセージをムースから受け取っていたから遅刻した者はいない。

 ペインもご機嫌で挨拶していた、理由はコンソールから出した食料品をアイテム欄に収納可能と聞いたからである。

 全員のアイテム欄にティラミス九九九個と表示されていたあの時のペインの喜び様は笑ってしまう。


「では、皆様。エデル様の空間に戻りますので、準備はよろしいですね?」


 俺達はムースに頷き無言で返す。


「では、参りましょう。時計の針よ時限の空間を開きなさい!」


 するとロビーに設置されていた大きな時計が光と共にドアに変わる。

 ムースは身体ををずらして…どうぞ、とドアの方に手を添えて移動を促す。


「凄いな…良し、行こうか!」


 呆気に取られながらもスバルは皆にそう言うとドアノブに手を掛けて回す。


 ガチャン!………キィイイ


 あの時の空間が目の前に広がっている、あの星も見える。

 そして…エデルもいる。目の前の創造神はスバルを見るや話しかけてくる。


「わぁ!スバルー!久しぶりだね!元気で良かったよぉ」


「ああ!エデルも元気そうだな!何の仕事かは知らないが、あれ以来はサボれてなかったのか?」


 以前現れたエデルは休憩と話していたが、スバルからしたらサボりたい気満々みたいな感じだったからである。

 エデルも見透かされていたかもと苦笑いでスバルに話す。


「あはは…ムースが休ませてくれなくてさぁ、凄い緻密なスケジュールを作られて…はぁ。創造したのはボクだけどさぁ、こんな厳しい子になっちゃうなんて予想外だよ」


「…エデル様!何を仰いますか?!わ、私は貴方の創造神として在るべきお姿を崩さぬよう計画性を持って……!」


 ムースのエデルに対する忠義ある話はくどいくらいにまだ続いている。

 エデルは小声で…うん、はい、分かった…と返答していて顔が暗くなってゆく様は男として可哀想になるものがあった。

 エデルがそんなやり取りの最中に他の恩恵選択者の目はスバル達に注目される。

 そして一つ目を選択していた男が口を開く。


「お前ら…三つ目を選んで…どうして五十日も滞在って内容だったのに俺達と一緒にいるんだ?」


 俺達…とは一つ目の選択者全員を指している。その数は十三人程で全員が、全ステータス系スキル一五%上昇を携えている。


「え?いや…うーん、何でだろうな?分からん」


 惚けておいた方が良いと判断したスバルはそう言う。シエン、アカリ、リイサ、ペインの四人は顔を見合わせながら溜め息を吐く。


「…うーん、まぁいいか!俺の名前はシンだ…これからお前らのリーダーになる男だからよろしくな?」


「は?何を言ってんだ…お前、シンだったな?お前がリーダーになる理由が分からん」


 シンの言葉を聞いた瞬間からスバル達や、更には二つ目の選択者達の顔色も変わる。

 そんなスバルの言葉に対して一つ目を選択したシン以外の者達から声が挙がる。


「はぁ、あのねぇシンが貴方達なんかより強いからよ!」

「ははは、まぁまぁリサさん。この人達は知らないんですから。ぷっ!」

「そりゃ無理もないわなぁ?シンが千強者入りしてるランキング700位だなんてな?」


「おいおい…よせよお前ら。可哀想だろう?だが…まあ事実なんだよなぁ?だから俺がリーダーな訳よ」


 何処かで見た光景だとスバル、アカリ、リイサはシエンに顔向ける。


「…う、か、勘弁して下さいよぉ、あんなに酷くは無かったじゃないですかぁ僕は」


 シエン自身もまるで箱庭に来たばかりの自分を見た為にいたたまれない複雑な心境である、それでもあんなに酷くは無いとバツが悪そうに返す。


「あー…切れそう。シエンとは天地の違いで認められそうに無いよアイツは…」


「まぁ、気持ちは分かる…けど我慢」


「あら…時には強引でも知らしめても良いかと?ウフフ」


「本当に面白いのぅ?まぁ、蟻が地面で騒いでいると思えば楽しく聞けるのじゃ、クククッ」


「な、何だと!?お前らには…教育ってモンが必要みたいだな?」


 そんなスバル達のやり取りにクスッと笑いが漏れる。二つ目の選択者達だった…その数は四人。

 その内の笑いが漏れた女性が口を開く。


「はははっ…シンだっけ?アンタやめときなよ?絶対勝てないから…その人達には天地がひっくり返っても勝てない理由がある。恩恵の選択をアンタらが一番間違えたのさ」


「この…クソアマ…。お前らにも教育が必要だな!」


 そんなやり取りをムースとの話が終わり黙って見ていたエデル。

 そんなエデルにスバル話しかける。


「なあエデル、デスモードってこの空間で適用されてるのか?」


「ぷっ!ははは!うん、されてるよ?基本的には箱庭と同じ仕様だからね?でも、プレイヤー間では…HPつまり体力は一残るからね?」


 デスモードと聞いて二つ目の選択者達は驚く。期間は短くても箱庭を体感した者達にとってデスモードは死に直結するモードだからだ。


「ああ、充分だ。ありがとう」


 そう言うとスバルは叫ぶ。


「リーダーになりたいんだったな?シン!二つ目の選択者達はどうする!?認めるか!?」


 すると二つ目の選択者の内のチャラそうな男が口を開く。


「認める訳ないっすよねー?つか、未だに千強者自慢してるとか…状況把握してなさ過ぎで、笑えるっすわ、ぷっ」


「くはははっ!分かるわぁ…。シン、俺達はそう思ってるんだが?どうする?」


 シンに注目が集まるとその表情は怒りで赤くなっていた。殺気を込めた目で腰にある剣を抜き、声を荒げる。


「てめぇら!誰が強いのか分からせてやる!先ずはてめぇからだ!チャラ男!!」


「うわー怠いなぁー、まぁ負ける気しないから良いっすけどねぇ?アーシャにかっこ良い所も見せられるし!」


「はぁ、阿呆な事言ってないで早く終わらせなよリゼル…まったく」


 言いながら先ほど喋っていたアーシャと呼ばれる女性に視線を向けるリゼル。


「とことん…舐めやがって!!」


 ふざけたやり取りを見せられ怒りは最高潮に達しているシン。

 二人は空間の中央に来て武器を構える。

 シンはレイピアと言う剣を構え、リゼルは二刀の短剣を交差して構える。

 ルールはスキル使用無しの純粋なステータスと、実力勝負になり、開始の合図をエデルがする。


「ルールは把握したね?じゃ、開始〜!」


「はぁっ!!」


 合図と共に飛び出し連続で突きを放つシン。その鋭さからシンの仲間達からは、おおっ!と声が挙がる。

 しかしそれはシンの仲間達だけであり、リゼルやスバルの仲間達からは何の声も生まれない。


「…な!?…おっそー」


 連続で放たれた突きは空を突いてリゼルに躱されていく。

 リゼルはそのままシンの懐へ近づいていく、リゼルはまだ武器を使ってない。

 しかしシンのこれは策であった。わざと突きの速度を遅らせて躱させた後に、本気の速度で突きを繰り出す為の。


「かかったな?くらえ!!」


 シンは自身の最高速度の突きをリゼル目掛けて放つ!!


 キィイイイン!と金属がぶつかり合い音と共にリゼルが二刀の短剣を使いシンの攻撃を受け流す。


「なっ!?…ば、馬鹿な!!


 想像した現実とは違う光景に驚愕するシン。


「いやいや、そんな攻撃で勝ちを確信されるなんて…幾らチャラそうに見えても侮り過ぎっすわ!っはぁ!」


 そう言いながら受け流した勢いを利用して十字に短剣を振るうリゼル。


 ザシュシュ!


「ぐぁぁあ!…いってぇえええ!!うぐぅ!」


 十字に付けられた傷と共に倒れ込み叫ぶシン。

 そんな光景を目の当たりにして信じられない表情になっているシンの仲間達。


「そ、そんな?…シン!」


 ほぅ?やるなぁ、受け流しの反動を利用して溜めを作り威力を増して攻撃するとはな。

 スバルは受け流し系のスキルを使いまくっていたので感心していた。


「グレイスヒール!!」


 中級職であるビショップの初期スキルグレイスヒールを使用してシンの傷を癒す女性リサ。


「くっ!…ありがとなリサ…!あの十字切り…クロスペインのスキルに違い無い!くそッ!スキル使用だろ!エデル様よ!?」


 シンはリサに礼を言いながら立ち上がりエデルに訴える。


「…ん?僕には分からないよ?そうなの?…スバルは分かる?スキル使用されてた?」


 何でスバルに振るんだと思うシンは納得がいかない表情だったが、スバルに視線を向ける。


「な訳無いだろ。あれは正真正銘リゼルって奴の技量によるものだ。スキル使用無しで相手の攻撃を受け流し…更にはその反動を利用して溜めを作り威力を増して攻撃するなんて、染み付いてなきゃ出来ない技量だ。いや…本当に感心したよ!」


「…ヤバイっすねー、普段は全く褒められないからメッチャ嬉しいっすわぁ!」


 照れながらも自分の技量を理解してくれるスバルに対して笑顔を見せるリゼル。


「俺はスバルだ、後で色々話そう!」


「そうっすねー!気が合いそうっすね?スバルとは!」


 そんな和んできた雰囲気だったのだが、シンがそれを壊す様に声を荒げる。


「フザっけんなよ!千強者の俺が負けるわけないだろ!」


「そ、そうよ!きっとスキル使用したのがエデル様に分からないからって、あんた達で結託してるんでしょ!」


「た、確かに!!ズ、ズルイですねー!?」


「ふ、ふん!全くだぜ?」


 何とも浅ましき者達だろうか、本当にシステマキングスのプレイヤーか疑うレベルである。

 やれやれと言う表情でリゼルが口を開く。


「はぁ…まだ言ってるんすか?なら言わせて貰うっす!こう見えて俺は百鬼っすよ?これなら納得したっすか?」


 百鬼…それはプレイヤー達の間ではランキング一〇〇位以内にいるプレイヤーを差す言葉である。

 その言葉を聞いてようやくシンの仲間達は黙り、シンも口を開く。


「っち!…百鬼なら仕方ねぇわな。悪かったリゼル。…だが!お前は違うぞ!スバル!俺と勝負しろ!…お前は百鬼じゃないだろうな?」


 勢いのまま勝負しろと言ったものの、スバルも百鬼なら困ると懸念して聞いてくるシンにスバルは答える。


「いや、俺は千強者でも百鬼でも無いぞ?分かった、勝負を受けよう…だが、ルールを変更しないか?」


「そうか、良し。ルール変更だと?」


「ああ…このルール変更はお前らに対しての戒めって所かな?経験するって意味じゃ悪くないしな」


 何を言いたいか分からないシンは答えを促す様に話す。


「だから、変更する内容は何だと聞いてる!」


「お互い残りHP一になるまで勝負は続行と言う変更だ」


 空間が静寂に包まれる。明らかに頭のいかれた奴の言葉でしかないのだから。

 だが、シンは受ける。何故ならスバルは百鬼でも千強者でも無いと分かったからである。


「…良いだろう!その変更受けよう!俺は…優しく無いからな?」


「分かったよ、肝に命じておくわ」


 二人は中央に集まり武器を構えるのだが、シンは先程と同様だ…しかしスバルは素手であった。

 これには二つ目の選択者達も驚きを隠し得ない。シンですら驚愕して、嘲笑する。


「何と言うか…っははは!まぁ、良いか!くくっ」


「そろそろ時間になるからね?なるべく早く終わらせてよー?始め〜!」


 またもや開始の合図と共に動き出すシン、先程とは軌道を変えた連続での突きを…最初から最高速度で放っていく。

 信じられない光景に言葉を失うシンとその仲間達。

 二つ目の選択者達も目を疑っている。

 スバルはそんなシンの繰り出し放った攻撃を、掌で全て受けたのだ。


「…は、はぁ?い、意味が分からない…な、何だよお前…そんなのあり得ないだ…ゴフッ!!?」


 話し終わる瞬間に腹部に受けたことの無いほどの衝撃を感じるシンは十メートル程だろうか、体をくの字に曲げながら吹っ飛ばされる。


「………………え?シン?」


 リサが振り返り倒れているシンを見る。


「がっ…がはっ!…お、おえっ!…はぁ、はぁ!」


 腹部に強烈な痛みと共に呼吸が乱れている感覚が恐怖をシンに与える。仰向けの状態のシンは立ち上がろうとするが身体が全く動かない。

 スバルの打撃により肋骨が数本折れたのだから。


「そう言えば…言い忘れていたけど、俺も優しく無いんだよなぁ…」


 その声がまるで化物の囁きにも聞こえたシンはガチガチと歯が鳴るほどに震えていた。

 近付いてくるスバルは遂に離れていたシンの視界に映る。


「あ、ああ…ひっ、ま、待って…くれ!待ってく、下さいいぃ!ゴホッ!…ッウグ!」


「まだHPは一になってないじゃないか?」


 間違えた…俺はとんでもない相手に喧嘩を売ってしまったとシンは心の底から後悔した。

 これから始まるであろう公開処刑を想像して死ねない死を何度体験するのだろうか?シンは恐怖で震える。


「…降参!こ、こうさっんしますから!ぐぅ!っかは!助けて…下さ、い!」


「まぁこんなもんか?…これで分かったか?ランキング何て意味を成さない現実を受け入れろ!…一度は死んだ身なんだから、これから先は心を切り替えろ!本当に死ぬぞ?お前ら…。リゼル達は…大丈夫だろうが、一応気を付けろよ?」


「あ、ああ大丈夫っすよ!色々とご忠告あざっす!」


 リゼルの陽気さは、この勝負を見てしまったスバル以外の者達にとって有り難かった。


「化物…っすね、良かった…仲良くなれて」


 言いながらも小声で安心を吐露しているリゼルであった。

 リサは大慌てで駆け寄り回復スキルをシンに使う。


「う、っぐ…エデル…様…もういい、早く転生してくれ」


「もう、時間になっちゃったしね?良いよー!先に君達からねー!…ッホイ!」


 そう言うとシン達の身体が光に包まれていく。


「スバル…リゼル…この借りは必ず返してやるからな…」


 二人に対しての憎悪を募らせながら一つ目の選択者のシンと仲間達は星に向かい物凄い速さで飛んでいく。


「んじゃ!君達も!あっ!そうそう!選択した部屋の種類によって、転生場所は違うから〜!ッホイと!」


 今度は二つ目の選択をした者達の身体が光に包まれる。


「そう言うの先に言って欲しかったっすよー!ああ、スバルっち!また会えたらその時に!お互い気を付けながら生きるっす!それじゃあ!」


 そう言うとリゼル達も星に向かい飛んで消え去るのであった。


「さて、スバル達の番だね?余興も楽しんだしね?ぷっ」


「エデル様、お戯れが過ぎました。止めるべき事象ですアレは」


 ムースに指摘され薄々は分かっていたがと言う表情をしながらエデルは謝る。


「ごめん、ごめん、次から気を付けるよ…はぁ」


 全くもってムースの言う通りである。シエン、アカリ、リイサ、ペインの四人はその発言に頷きながらスバルを見つめる。

 何が言いたいか分かっているスバルは苦笑いしながら答える。


「…やり過ぎました、つ、次からは気を付ける…」


「何か…やるせないよね?スバル」


 二人は苦笑いして最後の挨拶を交わす。


「それじゃあスバル達ともお別れだね!少し寂しくなるけど…新たな人生を頑張って生きて!…ッホイ!」


 スバル達の身体が光に包まれていく、少し暖かい光は心地良さを感じさせる。


「エデル!ありがとうな!箱庭…助かったよ!またな!ムースも色々とありがとう!パジャマのプリントされてる絵は内緒に……!」


 言い終わる前に星に飛ばされる五人。


「…スバル様、余計な事をっ!」


「え?パジャマとか着てるんだ以外〜!ははは、それにしても…またな、かぁ。本当に面白いね君は、もうお別れだって言ってたのにさ?」


 そんな言葉と共にエデルが創り出した空間は消え、エデルはムースと共にまた別の空間へと消えて行くのであった。



ここまでで「箱庭編」終了です。


次から短い閑話二つの後から二章です。

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