鍛錬と衝撃
空気を完全に変える為でもあるが、重要な鍛錬内容の再確認をしようと口を開くスバル。
「はぁ、良し!切り替えよう!鍛錬の内容の再確認をする。先ず始めに戦闘経験では全員ペインに及ばないから、ペインに指導して貰う形になる。ペインの指導は基本午前中に行い、午後からは全員で欲しいスキルの習得を目指す。シエン、アカリ、リイサの三人は忌み名シリーズ解放が最優先事項だ!皆んな良いか?」
パーティ全員がスバルに頷いて返すとペインが言う。
「腹が減ったのじゃあ…とりあえず食事にせんかのぅ?」
「…俺はそう言う気分じゃないから…皆んな食事が終わったら、俺の部屋のトレーニングルームに来てくれ」
「あ、あらあらまあまあ…分かりましたわ」
リイサが若干歯切れの悪い返事を返してくる、スバルはそれを聞いて足早に部屋に向かう。
部屋に着いたスバルはトレーニングルームに移動して、今回ペインが出現した要因であるアップデートの内容を整理していく。
・特定のモンスターが自我を持って話せる様になった事。
・モンスターの攻撃パターンがかなり違う事。
・忌み名シリーズが増えた事と習得した瞬間に、そのシリーズの全スキルを解放出来る事。
・忌み名シリーズ習得は例外を除き一人一つになった事。
・隠しボスがいて出現する確率はかなり低いが、その強さの討伐難易度が過去最高な事。ソロでは忌み名シリーズが無ければほぼ不可能に近い。
・隠しボスのみしか立証されてないが、モンスターを仲間にする事が出来る要素が生まれた事。
最終大型アップデートと言うべきだろう数々の変更点を整理するスバル。
転生後の星…その世界や、自分達にどんな影響が及ぶかは分からない。
だからこそスバルはやれる事はやっておきたかったのである。
「何を深妙な顔をしておるのじゃ?」
ペインは考え整理していたスバルにそう声をかける。
食事を済ませたスバルを除くパーティ全員がトレーニングルームに移動してきたのだ。
「いや、これからの事だったりな?色々考えて整理してたんだよ」
「…ふむ、そうか。まぁ、悪い事ではないのぅ」
ペインはそう言うと考える仕草を見せながら口を開く。
「…じゃが、妾がスバル達との戦闘に関して気付いた要点をクリアしてからじゃのぅ、先ずは」
「まぁ、そうだな…早速始めるか!」
「…ペインは厳しいですからね、ははは」
「…ペインは強い…でも絶対勝つ!」
「あらあらまあまあ…?食後に辛すぎる運動ですわね…」
パーティ全員が頷いて了承しながら苦笑いしている。
スバル以外の三人は既にペインと鍛錬していたのだが、やはり恐ろしい位に強く…忌み名シリーズを習得してない状態の三人には倒す事は無理だったのである。
だが、仲間になったペインのステータスは五分の一にまで低下している為、アカリはやる気満々である。
「…もう、その…な、仲間じゃからのぅ!転生後に死んで欲しくなど無いからのぅ!…厳しくいくのじゃ!」
照れながらも最後に厳しくいく、と言われて苦笑いする三人。
スバルは笑ってただただペインを見ていた。
「…スバルは特別に厳しく!…したい所なんじゃがのぅ。…スバルには妾からは特に何も無い、これは皆には後々説明していくのじゃ」
「…え、あー、うん。分かった、なら俺はリセットされたスキルを再習得してるから。そっちは終わったら声をかけてくれ」
スバルはペインの言いたいことが分からなかった訳では無い。ただただ…全員でやりたかったなぁ、と心の隅で思いながらもオブジェ技の準備をするのであった。
「…さて、ではシエン、お主から始めようかのぅ?」
「うっ…お手柔らかに…」
胃が痛くなる様な表情を浮かべているシエンは覚悟を決めて鍛錬を始めるのであった。
一〇分後………
「……詰みじゃ」
「…っ!?つ、強い、ですね」
す。シエンも曲がりなりにもシステマキングスのプレイヤーとして積み上げてきた自負があったのだろう。
負けを認めはしたがその表情には悔しさが表れている。
「…シエン、お主の注意するべき点は"懐に入られた場合の対処法が無い"事じゃ。これはのぅ…シエン、言い換えればお主には接近した場合の脅威を何も感じない、と言う事じゃ」
「……しかし僕は、アーチャー職です…近接されても仕方がないかと…?それを補う為のパーティの提案でもありましたし…」
ふむ…自身の注意点を補うと言う意味では悪くは無い…しかしその先を想定しないのは、やはり平和的な場所で生まれた故かのぅ?
「まぁ、間違いでは無いのぅ…じゃがのぅシエンよ?仲間達それぞれに自分の力量と同等の敵と相対した場合…どうするつもりじゃ?」
「………え?………た、確かに言われてみればその通りです…」
指摘された部分を想像して認め柔軟に考えられたのじゃろうな…そこら辺はやはりスバルの仲間と言う事かのぅ。
「更に…いや、うむ、今から言う事は全員に関係ある事じゃから言うとくぞ!良く聞いておくのじゃ!スバルもこっちに!」
パーティ全員で把握するべき問題だと判断したペインはスバルも呼ぶ。
「…はぁ、はぁ、ふぅ!…はいよー、今行く」
リセットされたスキル再習得の為にオブジェ技中だったスバルは、中断し息を整えてからペイン達の場所に歩いて行く。
「…うむ、では先ずスバル、シエン、アカリ、リイサ…お主らは自身の職をどの立ち位置に見ておるか聞いておくのじゃ」
何かの言葉遊びでもしているんじゃなかろうか?と三人は首を傾げている中でスバルが即答する。
「オールラウンダー」
「うむ、そうじゃな。スバルは理解しているのは分かっておったがのぅ…三人はどうなのじゃ!」
「え、遠距離職です!!」
「……近接職!」
「あら、立ち位置ですか?メインサポーターかしらね?」
「ふむ…リイサは惜しいがまぁ概ね間違いは無いのじゃ。…じゃがのぅシエン、アカリのお主らは居残りじゃ!」
シエンは頭を抱え、アカリは目が点になって固まっている。
「妾はお主らの職を聞いた訳では無いのじゃ!立ち位置は何なのかの話じゃ!シエンよ!」
「…は、はいぃ」
鋭い表情で名前を呼ばれて、まるで親に注意された子供の様な声を出すシエンは若干怯えていた。
「お主の立ち位置は本来…サブアタッカーじゃ」
「え?…サブ…アタッカー?」
シエンはキョトンとした表情でペインを見つめる。
それもそのはずだ、ずっと遠距離職とのイメージしか無かったシエンにしてみれば、サブアタッカーと言う立ち位置は少し嬉しい呼ばれ方だからだ。
「そうじゃ、シエンの役割は先制攻撃と更にはメインアタッカーとの連携でのダメージ底上げや、そのまま敵に何もさせないでトドメを刺すと言う、中々に難しい立ち位置なんじゃ」
「………僕の立ち位置が…サブアタッカー…!」
ペインの内容やサブアタッカーの響きがシエンのこれまでの漠然とした理論を粉砕していく。
「そして、シエンは今後メインアタッカーの立ち位置であるアカリとコンビを組む仲になるのじゃ、お互い連携の強度を上げておくのじゃぞ?」
「………メインアタッカー…ってのは?」
アカリが自分の立ち位置の説明を促してくるが、それに答えるのはスバルだった。
「アカリの立ち位置メインアタッカーは、圧倒的なまでの火力が第一だ、しかし当たらなければ意味は無い…だがアカリは回避力のステータス上昇もセブンシリーズまで習得したり、速さに自動バフが掛かる付随アビリティも習得している…だから何の問題も無いよ?」
「その通りじゃスバル。安心するが良いぞアカリよ?お主は生粋のアタッカーじゃが、力任せの脳筋では無いことは皆分かっておる」
スバルやペインの話を聞いたアカリもこれまでの戦い方を一度リセットする方が良いと考える。
「そして…リイサ最後はお主じゃが…実力を隠しておるな?」
「あら……嫌ですわペインちゃんたら!もう!そんな事無いですわ!」
ペインの言葉に驚愕を隠しきれなかったシエンとアカリはリイサに視線を向ける。
リイサは否定するが、スバルが指摘する。
「…だろうな、はぁ。リイサ…俺は過去に忌み名シリーズのスキルを使わざるを得ないプレイヤーと対戦した事がある…ランキング2位だったと言うお前だ。あの時の戦いは…
ははは、楽しかったなぁ…お前だって楽しかったろ?」
「ええ…ドキドキしていましたわ!私の改良に改良を重ねた対プレイヤーへの脱出不可能なハメ技を抜け出すんですもの!カッコよかっ…はっ!」
語るに落ちたと言うのはこの事である。最後に言いかけた言葉にスバルは照れていた、リイサはやられた、と赤面している。
「全く…リイサの立ち位置の話もしたかったがのぅ…リイサならば理解しておるじゃろうし。何より隠した実力では何も言えんのじゃ!…デカいもんぶら下げおってからに」
最後の発言を聞いた瞬間、視線を送る口実を得たかの様に男達はリイサのソレに視線を流そうとするが…前回よりも速いアカリとリイサの目潰しにより二人は地面に倒れ伏すのであった。
「…全く!服装を次から変えてきますわ!!!」
「……また!…シエン…大きい方が…」
ペインはやれやれと呆れながら苦笑いを浮かべながら男達の目の回復を待つ…そして話は再開する。
「…では良いかのぅ?リイサは今後は仲間に実力を隠さないと約束するのじゃ、お主の本来の立ち位置はヒーラー兼バフデバッファーの立ち位置なんじゃ。本当の戦闘になった場合…迷惑じゃからのぅ?」
「………肝に命じますわ」
ペインの言葉は正当である、リイサが仲間に実力を隠していて仲間が傷付くなどを想定しての注意。
リイサもいつか話そうとしていた感じはあったのだがな…まぁ仕方ない。
少し暗い顔をしているリイサに近づき、軽く肩を叩くスバルが口を開く。
「まぁ…いつか話せる時にでも話してくれたら良いさ。余り気にするな」
スバルはシステマキングスをプレイしていた頃の唯一のフレンドビギーとリイサを重ねてしまっていた。
あの時も…こんな風に直ぐに接する事が出来ていればと思うスバルだった。
「…は、はい!」
「…あはは、その意気だ!皆んなでやれる事を頑張って行けば良いさ」
珍しい反応の仕方に思わずスバルは笑ってしまう。
ペインが最後に、と口を開く。
「して、スバルじゃが…お主の立ち位置オールラウンダーは全てをこなして貰わなければならんのじゃが…まぁスバルなら問題無いじゃろ。妾もパーティに加入して仲間になった事で幾ばくか負担を軽減してやれるしのぅ」
「ああ、大丈夫だ。ペインが仲間になってくれたしな?助かるよそう言う話を仲間にするのって…俺は慣れてなくてさ」
ペインは髪を変化させ、まるで拳を握り親指だけ立てた仕草を作り皆に見せつける…任せろと言う事だろう。俺は同じ仕草を笑顔でペインに返す。
「…うむ、こんな所かのぅ?重点的な部分は…良し!ならば早速鍛錬を再開するかのぅ!連携を磨きたいならば、シエンとアカリは話し合うが良いぞ?各々は今言われた部分を意識して、妾、スバル、リイサの三人で基本的な攻撃の組み立ては話しておく、とりあえず以上じゃ!」
そう言うとペインはリイサと今後の攻撃の組み立てについて早速話し合いに移る、スバルは先にスキル習得を今日の目標分がやりたいと二人に伝えてオブジェ作業に戻る。
残されたシエンとアカリの今後のサブアタッカーとアタッカーについてや、連携を強化したい話があった二人。
アカリが声をかける。
「…シエン、あっちで少し…話そ?」
「…あ、は?は、はい」
シエンの一瞬の変な間に首を傾げるアカリだったがシエンが直ぐに反応したので気にする事は無かった。
アカリとシエンのお互いの立ち位置の話は白熱してぶつかり合い場所を変える事になった。
この後…ロビーへと場所を変えた二人にある出来事が起きていたのだが、それはまた別の話。
話し合いの末、お互いを尊重しあい認め合った二人はさらなる先を目指す為に、仲間の為に頑張ろうと約束を交わすのであった。
-数日後(箱庭滞在日数残り十二日)
スバルが何かを失った日から二十日…実質四十日後。
遂に…シエン、アカリ、リイサの三人も忌み名シリーズ習得となる日が来た。
スバルより習得に時間が掛かった理由は、合間合間に鍛錬の成果を見ながらレアアイテムをドロップさせるボス攻略や、パーティ内での一騎打ち、ソロでのボス戦闘で個人的な経験の底上げを行うなど、パーティ自体の底上げをしながらだった為だ。
その成果の実りを分かち合う為に今はロビーに集合しているスバル達。
「…遂にこの時が来ましたね、前から決めていた通り…僕は土龍シリーズを選択しますが、皆も良いですね?」
パーティ全員が頷く、がリイサだけ反応が鈍かったのをスバルとペインは見逃さなかった。
シエンがリセットスキル表示YESを押す…。
《おめでとうございます。忌み名シリーズスキルを解放致しました。スキル「抗う者」シリーズ=攻撃力、防御力、回避力、耐久力、魔法力、属性、全解放。
全ステータス系上昇五〇〇%プラス、属性は全属性耐性五〇%プラス。》
シエンの体にオーラの様なものが発生してシエンは喜ぶ。
「…やった!ありがとうございます…皆さんの、特にスバルが居なければ僕はこんな所まで到達出来ませんでした…本当に、ありがとう!」
「…よ、よしてくれよ、俺も涙もろいから…シエンが頑張った証だろ!」
スバルは照れながらも目頭が熱くなるのを耐えてシエンの背中を叩いてそう言う。
そんなやり取りを見れば、いつもなら笑っているリイサだったが…今は暗い顔をしている。
「…ちょっと痛いですよ!…でも嬉しいです、早速…土龍シリーズを………え?こ、これって!」
どうした?とリイサ以外がウィンドウを覗くと…。
《 シエン様と確認致しました。
「光と闇」シリーズにつきましては闇スキルはスバル様。
光スキルはリイサ様。となっておりますので他の忌み名シリーズを選択して下さい。》
と言う説明に変化していたのだ。リイサがナインシリーズに到達した時点で変化した可能性が高いと判断したパーティ全員はリイサに身に覚えは無いか聞いてみる。
「…いつか、が今なんじゃないか?リイサ」
スバルの言葉に体が僅かに揺れるリイサ。
誰にでも隠している事などある、とスバルに言った事があるリイサ。
次は自分が真実を話す時…皆を仲間として想っていたリイサは覚悟を決めた表情を見せ語り出す。
「……私の名前は、リイサ・西音寺・アルフィーナ…システマキングス開発元の社長の一人娘で、母は他国出身で開発チームの主任ですわ…皆さんを死なせてしまった原因と関係があります…」
「へ?」
間の抜けた様なスバルの声がロビーにこだました。




