ペインと失った日
絆の指輪を選択した瞬間、横たわるペインの体が光に包まれ傷が消えていく。上半身を起こし四人を見て口を開く。
「…妾も知らなかったんじゃが…早かったのぅ…」
無事にペインは復活したのだが、ペインが恥ずかしそうに開口一番そう言うと、分かると頷き全員は苦笑いしていた。
だが、立ち上がるペインの状態に大問題が発生した、何とペインが羽織っていたであろう漆黒のマントが無くなっていたのだが、それだけなら大した問題でも無い…しかし、問題はマントの外れたペインにあった。服を一切着ていなかったのだ…これに男性陣が驚愕して声を上げる。
「…へ?…お前!ペイン!服はどうし…痛っ!?いってぇえええ!!」
「…あ?!ペイン!貴女…裸じゃ…痛っ!?目がぁぁぁあ!!」
スバルはリイサに、シエンはアカリに目潰しを食らいその場に転がる哀れな男性陣であった。若干…鼻の下を伸ばした様な表情を見破られたのだろう。女性陣が冷ややかな表情で笑顔を見せ転がる二人に口を開く。
「……何を鼻の下を伸ばしてるんでしょうか、この人達は…本気で潰しますよ?…まずは目を逸らさなかった事を話して頂けますか?」
「…激しく同意できる…千年生きてたペインでも見た目は女の子…いやらしい目をしてた!…スケベ以上のスケベ。…弁解してみろ変態共」
正に散々な言われ様だったが、確かに男性陣は声を荒げて否定は出来なかった、若干鼻の下を伸ばした事が事実だったからだ。しかし、男とは哀しい生きものである…シエンとスバルは痛みの取れた涙ぐむ目を開けて、視線を送り合い何とかこの窮地を脱せないか考える。言い訳する事こそ愚の行いだとも分からずに…。
「す、すまん…俺はペインの服が何故消えたのか?ってのも一緒に考えたから、服はどうした?って聞こうとしただけだよ…?俺はな?シエンは…裸とか言ってたから知らないけど…」
何と言う事態であろうか、シエンはすぐさま唯一の男同盟に裏切られたのである。シエンは驚愕の表情を浮かべてスバルを見るが、スバルはすぐさまそっぽを向くかの様にシエンから目線を逸らす。
「…なっ?!……ぼ、ぼ、僕だって!まさか服が無くなると思わなかったので、ペインの姿が裸のまま復活したから驚いただけの事ですよ!」
「……はぁ、下らない争いは辞めぬか…裸ぐらいで騒ぐでない。妾は…千年生きておるのじゃぞ?妾にとってはこの姿のが落ち着くんじゃよ…それにのぅ、髪の毛で隠れておるんじゃし、大丈夫じゃ」
ペインの言う通り大事な部分は髪の毛で隠されている為見えないのだ、しかしアカリとリイサはそう言う問題では無いと言う。確かに…この姿のまま転生して大丈夫な訳がない。結局は話し合いの末、コンソールで服や下着一式を何着か出してもらい、これからは着用すると言う事になった。
「………では、今回は許しますが…お二人共!分かってますわね?次は無いと言う事を!貴方もですよ!?ペインちゃん!」
「…反省して…猛省しなさい…いい?」
「…別に妾は幾ら見られても気にならんがのぅ?ま、良いのじゃ…なんかすまんのぅ、二人には悪いが。童貞のお主らには歓喜する事象であろうがアカリとリイサも…その、な?仲間じゃからのぅ?」
「…あ、はい。分かりました」「…は、はい!」
男達は悟ったのだ…次は間違わない様に、と。正直に生きて謝るのが一番良いと。その後は女性陣だけで今後の話を進める中…スバルとシエンは正座したまま話を聞いている、ペインは苦笑いしながらたまに気に掛けてくれていた。話し合いが終わり今後の箱庭での滞在中の目標が決まり女性陣が去った後、スバルとシエンは大きく溜息を吐き出す。
「…はぁ、女って…恐いな…」
「…ですね、何か…言い過ぎじゃないです?って思っても喋れなかったですよ…」
その後…男達は無言で握手を交わし泣いた。そして明日からまた頑張ろうとお互いを励まし合うのであった。
-翌日(箱庭での滞在日数残り三十二日)-
ぶっ通しで忌み名シリーズ習得を果たしたスバルは寝坊していた。ロビーには先に起きてテーブルを囲う四人の姿があった。四人は箱庭の時計を見る…朝の九時を回っている正直一番の功労者であろうスバルを寝かせてあげたかった気持ちはあるが、話し合いで決定した鍛錬にはスバルの存在が大きいので迷っていたのだ。
シエンが最初にスバルを起こしに行ったのだが全く起きなかったので、順番に女性陣が起こしに行けば起きるのでは?とペインが言いだした。アカリとリイサは二人で行こうと話し一緒に二人が起こそうとしたのだが…二人は顔を赤くして帰ってきてしまう。
「………お、大きい、見ちゃった…」
「…あ、あ、アレ位でアカリさんったら!う、うふふふ」
何を見てきたんだとシエンとペインは顔を見合わせるが、二人は興奮気味のアカリとリイサに視線を向け溜息を吐く。
「お主らのぅ…もう良い、妾が起こしてくるのじゃ」
「………あれ程に僕らを責めていた割に…何を見たんですかね…いえ、見られてしまったんですかね?…スバル」
ペインはやれやれとスバルの部屋に移動する為に立ち上がり、シエンは遠い空を見つめる様な目をしながら涙が出そうになる…同じ男として、僕だけは貴方の味方ですなどと呟いている。
ガチャ…パタン!
すぅ…すぅ…と寝息を立てて眠りについているスバル、布団が蹴り上げられ下着一枚の姿で仰向けで寝ているスバルがいた。…ああ、なるほどのぅ、確かに大きいのぅ…。そう思いながらもペインは蹴られた布団をスバルに優しく掛け直す。お主もなかなか…災難じゃのぅ?クスッと笑みが溢れるペイン…その時。
「……ん、うーん…」
ゴロリと体の向きを寝ながら変えるスバル、掛け直してる最中だったペインを抱きしめたまま向きを変える。抱き枕の様に抱かれたまま身動きを取れなくなるペインは僅かに頬を赤らめる。…な、何を恥ずかしがっておるのじゃ!妾は千年を戦い抜いた隠しボスなのじゃ!こんなたかだか数十年生きたかどうかの小僧に!な、何を…妾は…!…見た目より…意外と筋肉質なんじゃのぅ…って妾は何を!?
思わず抱きしめ返してしまうペインの顔も先程のアカリやリイサ同様に赤くなっていた。
…う、駄目じゃ!早く抜け出さなくては!もがくが全く起きないスバル…その内にペインは今日くらいはもう良いかと諦めて寝る事にした…。
ガチャ…
「ペインー?どうですか?皆んなで様子を見に来ま…」
「…どう?…スバルは起き…」
「ね?ペインちゃん!スバルさんったら全く起きな…」
男女が抱きしめ合い寝ている光景が三人を凍らせる…千年生きてきたペインも流石にバツが悪そうな表情をする。
「…聞いてくれぬかのぅ?…妾は布団を掛け直していたんじゃよ?…お主らは掛けないで見ていただけみたいじゃがのぅ?その最中に…寝返りをうったスバルにと言う状況じゃ…」
三人は凍ったまま動かない…目も点状態で動かない…ペインはどうしたものかと思っていると…。
「ん、んー!うーん…ふぁあああ…うるさいなぁ…何だよ……え、え?!」
逆に起きたスバルの目には一体何が起こっているのか分からなかった…起きたらペインを抱きしめていたし、更に全く動かないパーティメンバーの三人が目の前にいたのだから。ペインが苦笑いでこちらを見てくる、唯一動けるペインに話を聞いてみるスバル。
「…お、おはよう。で…どう言う状況?これ…」
「…あ、ああ、そのじゃなぁ…その前にスバル…先に離してくれんかのぅ?」
状況を考えながらも抱きしめたままの腕を慌てて振りほどくスバル。
「す、すまん!………あー、何となく見えてきたかも。…俺さぁ、寝相めちゃくちゃ悪いんだよなぁ。…全裸では無かったか、良かった。ペイン…お前、布団掛け直そうとした?」
「あ、ああ。その通りじゃ…見えとったぞ?ぷっ!ふふ」
「…その報告はいらん!…はぁ、おーい!お前らもいい加減起きろー!誤解だからー!事故だから!」
思考停止中の三人は…ハッと動き出す、まるで麻痺攻撃されていたのではなかろうか?と思える様な動き。
「…あ、え?…そ、そうですよね!事故ですよね!は、はははは…」
「…時を止められた…気がしたほど…驚いた…あっ」
「で、で、ですよねー?私達ったら何を…ウフフ…あっ」
シエンの渇いた笑いは何となくは男だから分かるが…アカリとリイサは何故に俺を見て顔を赤くしているんだ?ペインが起こしに来たんだろ?この状況を見て何を恥ずかしがって………え?ペインだけじゃ無かったのか?まさか?
「………なぁ、ペイン。起こしに来たのお前だけ…だよな?」
「………スバルよ、何を見られてもお主はお主のままじゃ……失うモノなど何も無い」
「もういい!お前ら全員部屋を先ずは出て行け…ロビーで待ってろ…!」
スバルの言葉に全員すぐさま部屋を飛び出していく、脱兎の如くとはこの事だ。スバルは数分程…ある意味では失ったナニかに目を落としたが涙など出ない…男としての心など渇いてしまったのだから。それからスバルは顔を洗い、歯を磨いてロビーに向かう。
ロビーに出ると四人は顔を下に向けたままだった、ドアが開いた音に多少ピクリとしていたが無言で顔を伏している。そりゃ…そうだろうな!はぁ…無言で居たいのは俺の方だよ…、そう思いながらもイスに座るスバルはコンソールでコーヒーを注文する。コーヒーを飲むスバルの溜息がロビーにこだまするのみでロビーには静寂が支配している…そして。
「…俺は気にしない…だから、お前らもいちいち…俺の部屋で起きた事を気にするな…いいな?」
四人は顔を上げ頷くがアカリとリイサ更にはペインの三人は顔を赤くしている。…シエンは視界を隠す様に手で顔を顔を覆いながら言う。
「僕だけです…僕だけは貴方の気持ちを理解してあげられる…ううっ!」
「…シエン気をつけろよ?次からは起こすのはシエンだけにしてくれ…はぁ」
「…まぁ、余り気にするでないぞ?」
「…ま、まぁ…生きてたら色々ある…ごめんね」
「…そ、そうですよ!…色々ありますよ!…申し訳ありませんですわ」
スバルは女性陣を一瞬睨みつけるが、失った何かは帰っては来ない。シエンの同情した様な視線がスバルの心に突き刺さる。
そんな男としての成長を経験したスバルは今後の鍛錬の予定を再確認する為に口を開く。




