最強スキルと約束
やられた…いや寧ろ浮かれすぎていたのかもしれない。運営がやりそうな可能性を何故見抜けなかったのか、悔しい気持ちになるスバル。
スバルの驚いた声に反応したシエン、アカリ、リイサ、ペインの四人はスバル駆け寄る、習得に関して何か問題が発生した可能性があると見たのだろう。物凄い勢いで詰め寄ってくる仲間に若干のたじろぎを見せるスバル。
「な、何か問題でも?!」「…大丈夫…?!」「…何があったのですか?!」「…お主!何を驚いたのじゃ!?」
「あ、いや…すまん。スキルは習得出来たし問題は無いんだが…いや、実はな?アップデート後の仕様変更についてってのが、説明欄に追加されていて…色々変わっていて驚いたんだ…皆んなにも見せるから見てくれ」
そう言いながら自分の周りに三人とペインを集めるスバル。良いの?!とキラキラ目を輝かせた子供みたいに食い付く4人はスバルのウィンドウを覗く。
表示されているメッセージ内容を確認していく四人は驚きの連続だった。
《おめでとうございます。忌み名シリーズスキルを解放致しました。スキル「抗う者」シリーズ=攻撃力、防御力、回避力、耐久力、魔法力、属性、全解放。
全ステータス系上昇五〇〇%プラス、属性は全属性耐性五〇%プラス。》
《スバル様と認識致しました。「光と闇」シリーズの闇スキルを全解放致しました。
闇に選ばれし者=限定シリーズの特別アビリティ。闇耐性プラス一〇〇%
闇の宴"やみのうたげ"
効果時間三十秒、CT二時間、自身の闇属性スキルの威力が三百%プラス。
黒雨"こくう"
CT六十秒、虚空より現れる六六発の闇の弾丸を操り攻撃するスキル。
光と闇"ひかりとやみしょうかん"
このスキルの使用可能条件を満たしていません。》
《下記から忌み名シリーズを一つお選び下さい。》
《「水神」シリーズ=流水制空、水面流し、漣受け、水神召喚。
「炎帝」シリーズ=無邪気な業火、揺らめく大炎、炎帝の槍、炎帝召喚。
「眠り姫」シリーズ=薔薇の行信、フランエーテル、眠り姫の加護、眠り姫召喚。
「光と闇」シリーズ=光の宴、闇の宴、黒雨、閃光、光と闇召喚。
・アップデート後に新たに五大元素神追加。
「雷帝」シリーズ=電光雷火、雷震、雷帝の化身、雷帝召喚。
「土龍」シリーズ=大地の呼吸、土龍の牙、土龍の翼、土龍召喚。》
《 ~アップデート後の仕様変更について~》
・選択した忌み名シリーズのスキルは全解放されます。
・光と闇シリーズはスバルと???限定のシリーズ。
・光と闇シリーズのみ、他の忌み名シリーズとスキルを併用可能。
・最初から選択出来なかった光は???限定。
そう、本当に驚いた。何故なら、最強スキル忌み名シリーズは本来なら全て使えたのだが、アップデート後からは一人一つ、との仕様になっていたのだ。つまりは先着順になっている変更だ、しかし何故だ?どうして俺だけ闇のスキルも使える内容なんだ?…分からない、柔軟に考えてもこれだけは理解不能だった。スバルがそんな風に思考しているとペインが話しかけてくる。
「…妾には余り理解出来ぬ内容で、つまらんかったが…うーむ…この内容は凄いのかスバル?」
内容を見終わった者が次々と口を開き話す。
「まだ、まだ枠が充分に…ある!スバル…ありがとうございます!これ程の驚愕と幸福感は初めてかも知れません!!!」
「…雷帝シリーズ…!かっこいい…ホスィ…!」
「………闇は…スバルさん………光は……全く……はぁ」
「ん?リイサは嬉しくないのか?」
「い、いえ!そんはずないです!う、嬉しさが突き抜けてため息しか出ませんでしたの!う、うふふ」
はて?と言うべき反応のリイサは慌てて別の話題を振る。
「そ、それより!スバルさん!どうして貴方だけ、忌み名シリーズを二つ習得出来るのですか!?」
「う、うん…確かにそこなんだよなぁ」
急に迫られながら話されたスバルは、揺れた双丘に一瞬目をやってしまい口籠もりながら応える。確かにリイサの言う通りなんだよな、どうして俺…ともう一人の人物だけが忌み名シリーズを二つ習得出来るのだろうか?…駄目だ、判断する材料が少な過ぎるし、予測の道筋すら浮かばない。そんな話しをリイサとしていると、何かを見つけたシエンがスバルに言う。
「…あれ?…あ!……ス、スバル!これ見ました!?恐らくスバルが二つ習得出来る答えがっ!」
「なんだと!?」「…見たい!」「…う、見ますか…」
シエンの言葉にすぐさま駆け寄りウィンドウを覗く三人、ペインはコンソールを操作して出した、ティラミスを食べ始めていた。知らない話題がどれ程に退屈で蚊帳の外かを物語る悲しい光景である。
「…………は、ははっ、マジかぁ……こりゃ反則だわ…」
言いながら更にスクロールした後の内容を見たスバルは目頭が熱くなる、それを手で覆い隠しながら誤魔化すが…周囲にはその気持ちが痛い程に分かってしまう。
《これでシステマキングスのアップデートは最後になりますが、最終アップデート内容は数年でクリア出来るような内容では無いと我々開発チーム共々思っております。そして、最後に我々開発チーム一同、運営より…最初に忌み名シリーズを見つけるまでプレイして頂けたスバル様に開発チーム一同より、運営より敬愛の意を込めて。》
システマキングスをプレイし、最大限に楽しんでくれてありがとう…最後まで探求を諦めないスバルにそう言っているかのような内容なのだ。そんなスバルに特別な御礼を用意していた開発者チームや運営に、今度は違う意味で、やられたと感じるスバル…その表情は今は晴れやかだった。
「……今まで……ありがとうなシステマキングス…。なぁ…皆んな!次はアップデート後の星に転生するが、世界がどうなってるか分からない…でも、精一杯楽しもう」
スバルは言いながら…もう一つの忌み名シリーズを選択する………それは……とその時である。
その言葉をティラミスを食べながら聞いていたペインがぴくりと反応する。
「……んぐもぐ、ゴクン!…古き人生への別れは終わったのかのぅ?…お主らはこれから転生したら新たな人生を歩むのじゃろう?ならば、気持ちを切り替えろ…、楽しめる者…とはお主らにはまだまだ早過ぎるわ!」
ティラミスを食べ終えたペインは真剣な表情を浮かべながら話し終えると…ビキッ!!っとトレーニングルームの床にヒビが入る程のダメージを脚で踏み込み叩き出すペイン。現最強の敵に相応しい程の殺気を放ち、黒いオーラを体から滲ませながら、髪の毛をあらゆる形状に変化させスバルににじり寄る。幼女の様相からは想像出来ないであろう殺気は、周囲を包み込み身震いさせる程だ。
「…急過ぎるだろ、まだ約束した日じゃないぞ?」
「…約束した日………のぅ?約束したのは妾とじゃろ?いちいちムカつく小僧じゃのぅ!」
「ペインちゃん……!」「…あ!二人とも!」「…通る道が…今きた…それだけの話っ!…離れろ!」
二人の様子から遂に約束の時が来たのだろうと判断したアカリは、シエンとリイサにこの場から離れる様に叫ぶ。
即座に剣を構えるスバルに苛立っているペインは形状の変化した髪の毛で攻撃する、剣、槍、鎚、斧など様々な形状である。
「…くっ!?…受け流し!!…ぐっ!…がはっ!」
受け流しは最強スキルでは無い、ペインの攻撃を全てを受け流す技量はスバルには無い。脚、脇腹に被弾してしまうスバルは苦痛の声と共に、被弾した場所を押さえ床に膝をつく。
「…受け流し、じゃと?妾を…舐めておるのか!小僧!」
「…うっ、はぁ、はぁ!…な、何イラついてるか分からんが、お前こそ…孤独に慣れすぎてる恐怖感が駄々漏れだぞ!…ぐっ!、はぁ、はぁ!俺も同じだったからな…!」
膝をついた床には赤く染め上げる様に血の斑点が落ちていく。スバルは現在全ステータス系スキルを四百%プラスしている状態で体力のおよそ四十%を今の被弾で失っていた。ペインは現時点で最強の力を持つ隠しボスと言う事を再認識したスバルは、それでもペインの瞳の中にある孤独感を見抜いていた。…当時システマキングスをソロでプレイし続けたスバルにとって、痛い程に分かる気持ちだからである。
「同じ?じゃと?…妾は…妾は!…ぐっ!?…かはっ!」
そう言いながら吐血し体の節々から血が垂れ始めるペイン…忌み名シリーズ最強スキルのステータス系上昇を打ち破る為にペインは自身の奥の手とされるスキルを使用したのである…自身のステータスを百五十秒の間五倍にして、三十秒の間敵の防御力を五〇%無視する固有スキル【ペインバースト】…その代わり、ダメージの半分を自身にも反映すると言う、必着前提の諸刃の奥の手である。
「…ペ、ペインっ!…そうか、また俺のせいで…うっ…うう…!ごめんな…!」
スバルはペインのその姿を見てどんな力かを理解したのだろう、約束を果たす為に…最強スキルを使わなかった自分の驕り、判断力の甘さで咄嗟に忌み名シリーズを使えなかった自分への怒り、モンスターでは無く人を傷付けてしまった恐怖、自身や相手の血を流した姿を見てしまった衝撃、色々な感情が入り混じりスバルは泣いてしまう。
死んだら死ぬだけ…と言っていた自分は理解出来ていると思っていた、しかし理屈では無い。人は事実を見聞きしただけでは学ばないのだ、己の身に起きて初めて理解するのである。システマキングスをプレイしていた頃ならば通る理屈だが、転生後の世界ではそんな理屈はない、と忠告してくれていたのだろうとペインの透けた優しさにも詫びたかったスバル。
「………スバルよ、他の者も、聞け。妾は千年の間…孤独じゃった…戦い続けるだけの空虚な存在でしかなかったのじゃ…かはっ!はぁ、はぁ…しかしのぅ、お主らと共に過ごすのは…そうじゃのぅ、認めると恥ずかしかった部分もあるのじゃがのぅ…うっ!はぁ、はぁ…楽しいのぅ」
ペインの話に真剣な表情で聞いている皆が涙を流していた、シエン、アカリ、リイサもシステマキングスの上級者に値する程のプレイヤーであった為、ペインの状態が諸刃のスキルを使用した結果だと分かっていたのだ。
「…本当もう少し言いたいが…時間が無い…コフッ!…行くぞ!スバル!」
「…ああ…ああ!来いペイン!最強スキルを体感させてやる!!」
全速力で突き進みスバルの目の前に現れたペインは諸刃のスキルを使っている為にやはり速い。
「捕縛乱・傷の糸!!」
スバルに対して放たれたペインのスキル【捕縛乱・傷の糸】は自分の髪の毛を自在に操り、硬質化された髪の毛でダメージを与えながら相手の動きを封じるスキルである、一時的に強化されたペインのスキルは恐らく凄まじいだろうと目の前にいたスバルは思う。
「水面流し!」
変幻自在に襲いくるペインの強化された髪はスバルの発動したスキルにより、スバルに当たらない…否、ピチャ…当たったであろう感触があるにも関わらず当たっていない事象。
「くっ!…水の…感触かっ!?」
「水面流しの前には、あらゆる物理、魔法、状態異常攻撃は無効化され意味を成さない!!」
「………ふふ!はははは!やるでは無いか?ならば…こうじゃな!」
言いながらペインはその視線をシエン、アカリ、リイサの三人に向け、その内の一人にスキルを放つペイン。
「飛翔針・黒羽!!」
三十以上はある髪の針をリイサに放つペイン。リイサは咄嗟に身構えるが、ペインの放ったスキルは速く間に合わないと判断して防御態勢を取るリイサ。そんなリイサの前にシエンとアカリが援護しにくる。
「霧雨の矢!!」「練気衝撃波!!」
流石はシエンとアカリである、ペインの視線を読み誰に攻撃するか読んだ二人は、すぐさま範囲スキルを放ちペインのスキルを撃ち落としにかかる。何方も前方広範囲を攻撃出来るスキルで手数なら圧倒的に優っているはずだった、しかし強化されたペインのスキルの方がダメージは優っていたのである。
撃ち落としたのは二十程で、残りは三人を目掛け飛翔してくるペインのスキル。
「流水制空!!」
命中するとペインすら確信した瞬間…リイサを中心に半径三メートルの水のバリアが突如現れて三人を包むように守ったのである。攻撃を受け切った水のバリアは霧のように消えて無くなる。
「…っく!?…厄介なスキルばかり使いおって!…はぁ、はぁ…!」
「…ペイン…!!終わらせてやる!お前のその千年の呪縛も孤独も必ず!………水神召喚!!!」
途端…水潮が空間を裂き流れる、その中から青い甲冑を身に付け白のマントを羽織る存在が現れる。腰には刀の様な長い剣が差してあり、正に剣士か侍という様な風格がある。何より力の圧が生半可では無かった、現にシエン、アカリ、リイサの三人はその圧力に膝をついてしまっていた。顔は兜により覆われているが恐らく男だろう。恐らく…とそう思った理由は鋭い眼光が物語ったのかもしれない。
「…呼ばれたか、我が主人よ。誰を屠るのだ?」
「…ペインって言う奴を…仲間に…目の前にいるあの子を倒したい!苦痛無く一撃で倒せないか?!」
「造作も無き事よ…我は後の先を極めし五大元素神・水神である!小娘よ…覚悟されよ」
ペインはその存在に畏怖した感情を持ちながらも敬った言葉を漏らす。
「な、なるほどのぅ…、これが最強スキルと言われる所以なのじゃな…!ふふふ!かはっ!…たかだか千年では小娘と言われても致し方ないのぅ?…覚悟など…とうに捨ててしまったのじゃよ?水神様よ…!」
「是非もなし………一閃・水抜く歩き…」
水神はまるで水上を歩いてるかの如く歩く度にピチャリと水音を出しながらペインに向かい歩き出す。ペインは身構えるが、気付くと水神の姿は無くペイン含めた全員がその姿を見失ったのだ。背後からピチャリ…と水音が聞こえた。
「…………終焉也。では、またの機会を我が主人よ」
「…え?いや、まだペインは…あ、おい!」
そう言い残しスバルの声には反応せずに水潮の空間が現れて消えて行く水神。
途端ぷしゃっ!と言う音と共に床に崩れるペイン、慌ててペインに駆け寄る四人。体中に切り傷があるがまるで血管に沿う様な異様な切り傷に驚愕するスバル達、その体を抱き抱えるスバル、漆黒のマントは血が染み込んで重くなっていた。
「……………最強スキルのぅ……見事じゃ…」
「ペイン!…ごめんな!痛いよな?…すまない…」
「ペイン………」
「…頑張れ…ペイン…乗り越える!」
「ペインちゃん……こんなに血が…」
「……泣きすぎじゃ…お主らは…今は心地よく感じるがのぅ…復活して従属したらしごいてやるから覚悟しておくんじゃぞ?」
そう言いながら目を閉じるペイン。
はぁ…やれやれじゃ、お主らは優しすぎるのじゃ…ムースの説明を聞いたり、スバル達と話しておって分かったのじゃよ。転生後に一番必要なものは優しさより傷みを知る事じゃ…自分で命を刈り取る恐怖と傷みをまずは知らねば。傷みを知らない者が何を楽しく生きて、人に優しく出来ようか?水神に比べれば千年でも足りんだろうが…それでも伝えたかったのじゃよ。
「……ペイン!?」
お主らなら…もう伝わっていたかも知れないがのぅ?それでも戦闘経験を皆に教えてやるくらいは出来るしのぅ。
さて、そろそろ眠るかのぅ…暫しのお別れじゃな。
四人が見守りながら息絶えたペイン。その表情は晴れやかであり、清々しかった。そして突如メッセージ通知が来る四人、直ぐにウィンドウを開き確認する。
《おめでとうございます。隠しボス、ファントムペインを討伐致しました。報酬として、二つの選択肢からお選び下さい。》
•「従属の首輪」隠しボスステータスのまま同行させる事が出来るが、スキル習得などは出来ない。扱いもNPCプレイヤーでは無く、モンスターに分類される。
•「絆の指輪」元ステータスから五分の一の能力値に下がるが、お助けNPCプレイヤー扱いとして同行させる事が出来る様になる指輪。スキルの習得をさせる事も可能。
内容を見た四人は顔を見合わせながら頷く、この内容なら答えは決まっているのだから。
絆の指輪なら…ペインの全てを解放してやれるのだから。




