第四話 新しい家族
________私は、学校で居場所がなかった。友達も、普通に話せる人もいなかった。
先生も頼れない、誰かに相談もできない。
そんな私の唯一の心安らぐ場所、それが『家』だった。父と二人暮らしでも、決して寂しいとは思わなかった。
私のたった一つの居場所。
正直、それを壊されるくらいなら二人だけの方がよかったから。
これは、私がおかしいのだろうか?
自分の居場所を壊されたくなくて、他人を拒絶する。意地っ張りで、我儘。そんなことは判っている。けど、誰だってある感情ではないのか。
誰かが、自分の中に入ってくることへの拒絶。誰かが手を差し伸べてくれる、そんな優しさへの渇望。
拒絶されることへの恐怖。
……本当は私だって、もっと楽しく生きたかったのに。
♢ ♢ ♢
「……」
「美音把ちゃん……?」
黙り込み俯いた私を、怪訝に思ったのか、梨乃さんが顔を覗き込んでくる。私は、泣きそうな顔を見られたくなくて、また顔を逸らした。
梨乃さんは、気まずげに口を閉じ、何も言わない。
この居心地の悪い空間にいるのは、いい加減嫌だった。
_________逃げよう。
私は帰りたくないし、向こうもきっと私に対して良い感情は抱いていない。
行ったところで誰も得などしないのだから。
ちらりと梨乃さんの後ろを見る。彼女の隣に並んだ数馬は、相変わらず不機嫌そうにしているが、この際そんなことはどうでもいい。
どちらかを突き飛ばし、後ろのベンチに叩き付ける。後ろにリュックがあることを考えると、数馬が妥当だろう。
リュックがクッションになってもそこそこの衝撃は来る筈。そこを狙って逃げよう。梨乃さんも倒れ込んだ数馬を放ってこちらを追って来れないだろうし。
_____さて、やるか。
ぐっと拳に力を込め、手を少し強めに引いた。
先刻まで握られていた梨乃の手を振り払う。
驚いたように瞠目する梨乃の視線から逃げるように、数馬の方を向く。
「美音把ちゃ…」
「……ごめんなさい」
小さく呟くように謝罪する。そして、目の前の数馬を力いっぱい突き飛ばした。
「は……!?」
不意打ちだったためか、思っていたより体勢を崩した数馬。彼の身体は勢いよく後ろのベンチに倒れ込んだが、そこまで派手な音はしなかった。恐らく、私のリュックがクッション代わりになったのだろう。
ちらりとその様子を確認しつつ、駆け出す。
走って走って、二人の姿が見えなくなるまで、ひたすら駆けた。
₌
「はぁっ、……っ」
撒いたか、と後方を確認し、誰もいないことが判ると、ふぅと息を吐く。
気付くと雨が降っていたようで、服も髪もずぶ濡れになっていた。川原まで歩き、橋の下に入る。
今更雨宿りをしても遅い気がするが、このまま雨に打たれるよりは余程マシだろう。
「しかしこの雨じゃ、公園に置いてきたリュックは無惨だろうな」
中に入っていた本もおそらく、再起不能だろう。
数馬に下敷きにされた上に、雨に打たれてぐしゃぐしゃになってしまっては当然だが。
_________すまない、本とリュック。君たちの犠牲は忘れない。
心の中で合掌しつつ、これからどうしようかと思案する。帰る家もなく、雨は土砂降り、その上自分もずぶ濡れ。風邪を引くコースまっしぐらだ。
服についた水気を絞りつつ、ため息を吐く。
…………それでも帰る気にはならなかった。




