第三話 新しい家族
「あの、手放してくれませんか……?」
手首をがっしりと掴まれてしまったのだ。これでは、例えこの男の子が不審者であろうか何だろうが、逃げられないではないか。
振りほどこうと、もがくが痛くない程度の強い力で掴まれており、外れない。
「ちょっと、……っ!」
抵抗する私にかまいもせず、男の子は、携帯電話を取り出し、どこかに電話を掛け始めた。
「梨乃か。見つかったぞ、10時26分近所の公園で捕獲」
「人違いです!冤罪です!」
その男の子にあわせ、適当に放してくれるように叫ぶ。
あれっ?りの?……梨乃、さんって、確か_____
「っいた!美音把ちゃん……!」
考えている間に昨日のお姉さんが息を切らして、走ってきた。呼ばれた名に言いようもない拒絶感を感じ、押し黙る。
「良かった、見つかって。千春パパ心配してるよ。帰ろう?」
梨乃さんは小さな子をあやすように優しく声をかけてくる。同じように優しい手つきで、手を差し伸べてくれる。
_______けれど。
「どこに帰るの?彼処は貴方達の家であって、もう私の家じゃないわ」
優しく差し伸べられた手を振り払い、冷たく言い放つ。まだ納得ができなかった。
初めて会った人間に、突然「これからは家族だ」と言われて、すぐに心の整理がつく人間などいるのだろうか。
苛立ちをそのままに、梨乃から顔を逸らす。
「っ……!?」
次の瞬間、頬に鋭い痛みが走った。一瞬何が起こったのか判らなかったが、すぐに頬を叩かれたのだと理解する。
「……お前、最低だな。我儘とか思わねえのかよ、梨乃のこと何も知らないくせに」
「ちょっと数馬!」
頬を叩いた相手____数馬と呼ばれた男の子は、私に対して敵意を隠すことなく睨みつけてくる。梨乃は慌てたように彼を窘めるが、数馬は、依然として私を睨みつけたままだ。
「美音把ちゃん、大丈夫?ごめんね、数馬も悪気があった訳じゃないの。……取り敢えず、一度家に戻ろう?」
頬も腫れてるし、冷やさないと。梨乃さんはそう言って私の手に触れる。
彼女に握られて、初めて自分が手をが強く握り締めていたことに気づいた。
無意識に食い込んだ爪と、叩かれた頬が痛かった。でもそれ以上に苦しかった。
____嫌だ、嫌だ。帰りたくない。
帰って何を話すのか。今更、説明を?弁明を?
それとも、今の件で謝らせられるのか?
視線を少し上に上げると、私を尚も睨みつける数馬と、心配そうに眉を寄せる梨乃が、目に入った。
何だ、これ。全部私が悪いみたいじゃないか。
自分が情けなくて、惨めで、泣きたくなった。
帰る場所が無い、頼れる人もいない。
自覚すると、余計涙が耐えきれなくなる。昨日といい、最近おかしい。私はこんな泣き虫じゃなかった筈なのに。




