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薄幸少女の青春  作者: 一ノ瀬梨央
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第五話 新しい家族

_______これからどうしよう……。


行く宛も無く、頼れる知人がいるわけでもない。


完全に詰んでいる状況に頭が痛くなる。いっそホームレスにでもなってやろうか、と荒唐無稽なことを考えながら、膝に顔を埋めた。


例え何処へ行っても、私は邪魔になる。


それなら、いっそ


「__________消えられたらいいのに」



「……ん」


気付くと眠っていた様だった。


あれからどれくらい時間が経ったんだろう。雨はまだ、止んでいなかった。


「これからどうするか。」それを考えることすら、億劫になっていた。ぼんやり橋の下から降り続く雨を見つめる。


雨にいい思い出はなかった。


自分がイジメに遭い始めた日、母親が出て行った日、祖母が亡くなった日、あの事件があった日。全部雨が降っていた。暗い思い出にまとわりつく、その雫から目を背けるように視線を雨から外した。


バシャバシャ!


足音が聞こえる。誰か近づいてくる気配がした。


誰が近づいてくるのかは分からなかったが、ただ漠然とした恐怖が襲った。


怖い。足がすくんで、動けない。


恐怖と不安で頭が真っ白だ。


逃げようと体に力を入れても無駄だった。ぼうっとして、動けない。


何故か、身体が熱い。視界がぐらりと揺らいだ。


「あーくそ、やっと見つけた!帰んねえのかよ。無視かよ、てかお前寝て………あっつ!何だこれ、熱あんのかよ。めんどくせえな」


ぼんやりとした頭で、身体が持ち上がるのを感じた。


______誰だろう。なんか、ふわふわしてる。久しぶりだなぁ……。誰かに抱っこされるの。



暖かい感覚。心地好い微睡みから抜け出し、ゆっくりと目を開ける。力の入らない身体を、何とか上半身だけでも起き上がらせ、そこから見える景色に眉を寄せた。


この部屋、何か見覚えが………。


まだ覚醒し切っていない頭で、辺りを見回す。


そして、おもむろに視線を横に向けた。


……………………………………。


「っきゃああああああああ!?」


なんでお前が此処にいる。


視線の先には、数馬がいた。彼は私が寝ているベッドの横で、熟睡している様だった。先刻の悲鳴で起きなかった辺り、彼も疲れている様である。


いや、冷静に分析している場合じゃない。


取り敢えずここは逃げるべきなのだろうか。見たところ、此処は私の部屋のようだ。つまり三階。


三階。


……人類って三階から飛び降りても平気なのかな。


下らないことを真剣に考えつつ、ちらりと視線を横に向ける。


数馬って人が寝ていて良かった。危うく昏倒させなければならないところだった。尤も、十中八九返り討ちに遭うだろうが。


コンコン


ひたすらに馬鹿なことを考えていると、部屋の扉をノックする音が聞こえてきた。


どうやら、誰か来たようだ。何となく気まずいのもあって、私は再びベッドに潜り込んだ。狸寝入りである。


「美音把ちゃん、入るわよ」


何処か聞き覚えのある、優しい声色で誰か入ってきた。


「なんか、悲鳴が聞こえたけど、目が覚めたの?


あら、数馬君寝ちゃったのね」


私のすぐ隣で眠っているであろう数馬に苦笑し、また私に声をかける。優しい声だった。まるで本当の母親のような、そんな慈しみが込められていた。


「美音把ちゃん、薬置いていくからね。起きれそうだったら、下に降りてきてね。」


変に意地を張らずに、きちんと返事をできたら良かった。小さく良心が疼いたが、結局私は黙り込んだ。


パタン


扉が閉じられる音を聞いて、ふぅと息を吐く。


今の人は恐らく、父が再婚相手と言っていた梨架湖さんだろう。


家に自分と父以外の人間がいる。そのことに不思議と嫌悪感は抱かなかった。


むしろ、誰かがいた方が新鮮で良いなんて、思ってしまった。


なんだ、結局私も寂しかったんだ。


そこまで考えて、その思いを振り切るように首を振った。


______私がいると、駄目になる。私がいたら、そんな心地好さも、幸せも、壊してしまう。


父の幸せが壊れないように、早く出て行こう。


私はこれから、一人で生きていこう。大丈夫だ、きっと生きていける。


一人でも_______そう、独りでも。


弱気になりそうな思考を完全に断ち切り、静かに起き上がった。


さて、どうしよう。数馬って人は、まだ起きれそうにないな。相当疲れているようだ。これなら多少音を立てても気づかないのでは無いだろうか。


下の階には、少なくとも梨架湖さんはいるだろう。彼女に見つからずに玄関から出るのは少々難易度が高すぎる。


となると、窓から行くしか無いのだが______。


「クシュッ」


「っ!?」


吃驚した。とうとうこちらの心臓を止める作戦を決行してきたのかと思った。


くしゃみをした数馬は心なしか震えている様だった。それもそうだ。


雨に濡れ、私を探し回り、恐らく私を此処へ運んできたのも彼。


疲労が溜まっているのも納得だ。というか全部原因私の所為だった。ごめん。


流石に見て見ぬふりをするのは気が引けたので、手近にあったブランケットを手に取る。


取り敢えずこれでもかけておこう。

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