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逆襲のアルテミス  作者: 加藤貴敏
最終章「一番星を見つめて」

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「そして雷は昇る」前編

カンディアウスは身構えていた。あえて攻め込まず、相手に時間を譲っていた。バチバチと周囲にうねる、インディゴとシアンの電気。どこに行くのか、何になるのか、未だに定まってないその電気の中で、エメリスとレグリムは、力を溜めていた。リッショウの中に、電気を溜める。その方向性はきっと間違ってないはず。でも何か足りない。そうエメリスとレグリムは焦っていた。その時、ふとエメリスが思い出したのは、アグリオスたちの戦いだった。捕まった相方を助ける為に、自分の電気を浴びせていた。そこでピンと来た。

「貰うよ」

「え?」

千雷槍(トゥイグロピオ)!」

エメリスは雷槍を放った。でもそれは宙に浮くインディゴの雷の塊に向かっていき、更に強化された。しかもその後、インディゴの雷槍はシアンの雷の塊にも向かっていき、その電力を吸収した。インディゴとシアン、2つの力が融合したその雷槍は、美しく2色に輝きながらも、ぼんやりと二又の雷槍となった。

「なんか出来たぞ」

驚くレグリムの傍らで、エメリスは壁を越える何かを掴みかけられたような気がした。そしてそんな二又の雷槍がカンディアウスを襲う。カンディアウスは期待していた。その力はどんなものかと。だから遠くで迎撃するのではなく、あえて受け止めた。

「ぐっ・・・」

クウカクの地面を踏ん張る。しかしその力は、カンディアウスの期待を満たすものではなかった。

「フンッ」

両籠手から溢れ出したダークグリーンによって、二又の雷槍は弾き返された。勢いよく飛んでいって、くるくると回りながら、二又の雷槍はバラバラに霧散していった。

一方、エッグモンスターをやっつけたヘル達は、恐る恐るドロドロの何かを観察していた。

「これ、生き物」

「(え?そうなの?アテナ達は造られたものかもって言ってたけど)」

「このドロドロ、テムネルかも」

「(マジか)」

そこにイエンが近づいてくる。

「ヘル、さっき、聞こえた?」

「(何を?)」

「割れたところ、向こうから話しかけてきた」

「(え!いや・・・ボクは全然聞こえなかった。何て言ってた?)」

「(余計な真似はするなって)」

「(え、何それ。まさかカルベスの声?)」

「んー。多分違う」

カルベスではない何か。でも邪魔をしてきたことは事実だから、きっと敵だ。もしかしてエッグモンスターのボスとか。この前、イシュレとイエンが倒れたことに何か繋がりがあるのかも。ドロドロのゼリーを見下ろしながら、ヘルはもしかしたらとんでもない何かに目をつけられたんじゃないかと不安を募らせた。



第115話「そして雷は昇る」



「(2人はまた声が聞こえたり、頭痛くなったり、気絶しちゃうかも知れないから。あのカルベスの残骸みたいなテムネルは僕が浄化するよ)」

「・・・うん」

天空島、ゼファングの1体。その中に蠢く、漆黒の光。光の中の自我は、記憶の欠片たちをただ観察していた。自分が何者かは分からない。でも何故か流れてくる記憶。それはとある青年があてもなく街を彷徨うもの。はたまた、大きな液晶画面を見ながら機械を操作しているもの。漆黒の光が遠い記憶を観察している状況を、ゼファングもまた観察していた。自分の魔力を奪われないように抑えつけながらのゼファングにも、遠い記憶が少しずつ流れ込んでいく。

「で、何なんだこいつは」

装甲車を降りてきたテンベカ軍人。そう言って今度は軍人とグラバードがエッグモンスターの遺体を観察する。

「どこから来たかは全く分からないそうですよ」

次第に街の人達も、安全と分かったのか集まってきた。でも別の軍人達が危ないからと街の人達を遠ざけていく。そんな一方、ヘルは視点を飛ばした。天空島に上がっていって、ゼファングたちを見渡す。解析の魔法を使えばゼファングの内部で蠢く漆黒が視える。

「(よし)」

魔法の手で、分離の濃縮魂子を握りしめる。

「(・・・分離(ラズデーレ)!)」

障害物も、邪魔するものもない。ヘルの魔法は一直線にゼファングに突き刺さった。そして見えない衝撃波が広がって、ゼファングから勢いよく漆黒が飛び出ていった。

「(やった)」

一瞬、ガクッとひざを曲げるゼファング。でも持ちこたえて、ゆっくりと振り返った。その先には、蠢く漆黒の光があった。ヘルはすぐさま魔法の手で浄化の濃縮魂子を握りしめる。しかしその時だった、ヘルの目の前の空間が割れたのは。空間の穴からエッグモンスターが飛び出てきて、ヘルに激突した。

「(ぐはあっ)」

吹き飛んでいく、浄化の濃縮魂子。

「ヘルっ」

ガンニアーが駆け寄っていく。でもその直後、空間の穴から次々とエッグモンスターが飛び出てきた。

「マジかよ」

ポンッポンッポンッと、まるで向こうから誰かが砲撃でもしてんじゃないかと思うほどに軽快に飛び出たエッグモンスターは、10体。それで満足したのか、空間の穴はスッと閉じられた。地面を転がりながら脚を出し、頭を出し、ぎょろりと眼球を覗かせる。しかし全員がヘルを狙う訳でもなく、エッグモンスターたちは街に散らばっていった。

「くっそ。おいヘル、どうすんだ」

それから3体はその場に残り、キョロキョロしながらヘルやガンニアーを睨みつける。

「(とにかくお酒!お酒をかければエッグモンスターは無力化出来るから)」

「また出たぞーー!」

街がまた騒がしくなってしまった。これはやっぱり、意図的な妨害。そうヘルが気を取り直そうとする間にも、エッグモンスターがヘルに向けて真っ白い光球を吐き出す。とっさに横にジャンプしたが、その先には別のエッグモンスターがいて真っ白い光球を吐き出してきた。

「(うわあ)」

右半身を固められてしまったヘル。思わず倒れこんでしまう。更に真っ白い光球を吐き出そうとするエッグモンスターだが、そこにガンニアーがやって来て、思い切り頭をぶん殴った。イシュレもやって来て、光壁を作ってヘルを守る。

分離(ラズデーレ)

パラパラと、ヘルの体を覆う塊が剥がれて消えていく。

「(ふう、ありがとう)」

立ち上がりながら、ヘルは視点を飛ばす。エッグモンスターは脅威。でもこいつらに構ってたら敵の思うつぼ。だからこんな状況でも、テムネルを消すのが優先。しかし天空島を広く見渡しても、テムネルは見つからなかった。

「(そんな、テムネルに逃げられた。ヒカリン、追いかけられる?)」

<やってみる>

天空の城。アルカナの部屋のバルコニーにやってきたトルム。

「なんだよ」

「街を見てみろ」

「へ?」

視点を飛ばしたトルム。

「な、どうなってんだ、あれ」

「まったく騒がしい。決闘に水を差すなど、腹立たしい。お前はあの怪物を始末しろ」

そう言うとアルカナは足早に部屋に戻っていった。それからアルカナが向かったのは地下礼拝堂。

「どういうつもりだ」

礼拝堂に入るなりアルカナは声を上げるも、女神像は静寂だった。

「あれでは決闘が台無しだ。お前の思惑が何か知らんが、あの騒がしさは、絵にはならない。怪物どもは排除する」

そしてアルカナは階段を上がっていった。女神像は、静寂だった。

天空島を飛び降りたトルム。風を操り、風に乗って空を滑っていく。街に降り立ったトルムは早速1体のエッグモンスターに狙いを定めて、その顔を風の刃で切り裂いた。頭を無くしたエッグモンスターだが、瞬時に元通りになった様子に、トルムは呆れて溜め息をつく。するとエッグモンスターは反撃にと、真っ白い光球を吐き出す。トルムにとって、そんなものは簡単に風で跳ね返せる。

風砲(ピストベット)

スカーレットに光る一直線という、集束した強烈な風はエッグモンスターを猛烈に吹き飛ばした。ガシャンッと大きな音を響かせて建物に激突させた。でもエッグモンスターは無傷だった。転がって立ち上がり、また真っ白い光球を吐き出してきた。トルムは颯爽と距離を詰め、物理的にその顔をぶん殴る。おまけに卵のような胴体もぶん殴る。エッグモンスターはまた転がっていく。

「硬いな・・・」

ジーンとする拳をぐーぱーしながら、トルムは想像した。だったら竜巻を起こして、粉々にしてやろう。でも直後に辺りを見渡した。街の人間が逃げ惑っていた。アルカナは、街を破壊することは望んでいない。だったら竜巻はダメだ。けど相当強い力でなければ倒せない。ならどうすれば。そんなトルムに、エッグモンスターは真っ白い光球を吐き出す。とりあえずかわした直後、鞭みたいな首を一瞬で伸ばして、エッグモンスターはトルムに噛みついた。

「なにっ」

噛みつかれたトルム。右腕をすっぽりと覆われ、その大きさに一瞬だけ怯んだ。でも直後に感じたのは、妙な違和感だった。とっさに風の刃を生み出し、エッグモンスターの頭を切り落とした。当然のように、またニョキっと頭を生やすエッグモンスター。そんな時だった、1人の男性が原付バイクに乗ってエッグモンスターに突撃してきたのは。そしてパシャッと、ジョッキに入っていたビールをその頭にぶっかけた。

「こいつの弱点はこれだ」

そう言うと男性はバイクを唸らせ、颯爽と走っていく。

「マジか」

トルムは拍子抜けした。確かにエッグモンスターがフラフラしている。必死にトルムを睨みつけようとしてるものの、狙いが定まらないのか、吐き出された真っ白い光球は街路樹に当たった。今の内に。飛び込むトルム。

風刃(クリベット)

斧のように作り出したスカーレットの刃。それを思い切り胴体に振り下ろす。

「くっ・・・」

まったく割れない卵の胴体。それどころか傷もつかない。ただ吹き飛んだだけのエッグモンスターは立ち上がることも出来ず、バタバタするだけ。

「どうなってんだ、こいつ」

そこに忍び寄る、もう1体のエッグモンスター。トルムの後方から、頭を瞬時にびよんと伸ばす。

「くっそ、また来た」

背後から両肩を挟まれて、トルムはとっさにエッグモンスターの頭の中に直接風の刃をぶちまけた。それでも解放されない。そしてその違和感を理解した。何故か少しだけ力が抜けるのは。――こいつ、魔力を・・・食ってやがる。

はっきりと魔力の流れを感じた。自分の体から、魔力が吸われていく。少しずつ力も出なくなる。トルムは焦っていた。どうすれば・・・。力を出せば吸われる、でもこうするしかない。

「うおおっ」

自分の周囲に範囲の狭い竜巻を作り出したトルム。風の刃が空に昇っていけば、エッグモンスターの頭はそのままちぎれていった。

「ふう、くそ、ほんと、何なんだこいつは」

トルムが距離を取ってすぐ、また頭を生やすエッグモンスター。気が付けばまた別のエッグモンスターもやってきた。でも同時に、そこにヘルがやってきた。

「(え、街を守るの?)」

「アルカナが、こいつらは始末しろって」

「(そうなんだ。でも1人じゃ危険だよ。トルムは蘇りし者だし)」

「どういう意味だ」

「(エッグモンスターって、蘇りし者達の魔力を食べちゃうから。それに胴体は霊鉄だから魔力を吸収して、魔法は効かない)」

「はあ?・・・なんだそれ」

「(今のところ、1番の方法はお酒で酔わせて物理的な兵器で殻を壊すことなんだ)」

「そうなのか。だったら・・・オレにはどうしようもないのか」

「(大丈夫。協力すれば何とかなるよ)」

周囲には3体のエッグモンスター。でも1体はフラフラ。でもそんな時だった、1体のエッグモンスターが何やら頭と脚をしまって、ただの卵型になったのは。同時に別のエッグモンスターがトルムに噛みつこうと頭を伸ばす。それをとっさにかわすトルム。その直後、ヘルはその頭にワインをかけた。すぐにふらつき出すと、そのままベタンと伸びきった。

「(これで時間は稼げる)」

ふとヘルは思った。あの胴体だけになってるエッグモンスターは、お酒をかけられないと。だから頭を出すのを待っていた。でもそこに、不気味な時間が流れた。

「あいつ、何してんだ」

「(分かんない。動かなくなっちゃった)」

するとその直後だった、パキパキと音がした。ヘルは直感する。え、生まれる?・・・。最初の異変は、形そのものだった。まるで粘土細工のように、ゆっくりと、でも確実に、胴体には無数の凹凸が形成された。そしてまた、バリバリ、ニョキっと鞭みたいな部分が出た。

「(え・・・)」

しかしその鞭の部分は、灰色だった。今までは黒だった。でもそれが更に太くなって、灰色がかった。明らかな変化だった。しかも次々と出てくる脚は4本から10本になった。そして11本目には、頭が形成された。

「(し、進化した・・・)」

でもすぐさま、ヘルはそのエッグモンスターの頭に残りのワインをかけた。その直後、ヘルの魔法の手は頭突きされた。粉砕されるワインボトル。

「(な、そんな・・・お酒が、効かないの?)」

ぎょろりと眼球を覗かせるエッグモンスターが狙いを定めたのは、トルムだった。口を開けて砲身を覗かせ、そして真っ白い光球を吐き出す。トルムが強風を起こせばそんなものは簡単に吹き飛んでいくが、直後にエッグモンスターは宙に浮き、10本の脚で掴みかかってきた。

「(うわあ!)」

太く筋肉質な脚は強靭で、とっさに作ったヘルの光壁を簡単に粉砕した。吹き飛ばされるヘル。ふとトルムを見るとゴリラの姿に変身していて、生み出した強風で10本の脚をすべて抑えつけていた。

「(やっぱり蘇りし者を狙うんだ。気を付けて)」

「どうってことない。風は魔法じゃないからな。吸収されないらしい。おらああ!」

両手を構えて、更に猛烈な強風を起こしたトルム。それはエッグモンスターだけを覆う範囲の竜巻だった。吹き飛んでいくエッグモンスター。その過程で頭も脚もバラバラにちぎれてボトボトと落ちてきた。胴体だけになってクルクルと飛んでいく。そこでイシュレが作った決闘用の光壁に当たって跳ね返る。そこで急に止まった。そして空中で、また10本の脚と頭を生やした。

「あれは、無限に出てくるのかよ」

「(多分。でもあの殻を割れば、倒せる。動きは止められなくなったけど、同じくらい硬いものをぶつければ殻が割れるってことは確実だよ)」

「同じくらい・・・」

ふとトルムが目に留めたのは、酔って動けない2体のエッグモンスター。

「あいつを飛ばしてぶつけたらどうだ」

「(ん!それ、良いと思う。でもものすごい速さで飛ばさないとだよ?)」

「最速の風を生み出す。お前がセットしろ」

「(セット・・・分かった)」

ふと頭と脚を全部しまったエッグモンスターは、まるで隕石のように突撃してきた。ドカンッとアスファルトの地面が大きく陥没する。そして素早く頭と脚を出し、トルムとヘルに掴みかかってきた。強い魔力を込めたクウカクなら攻撃を防げると分かったヘルはそのまま防御に徹し、トルムはまた小さな竜巻を起こしてエッグモンスターを吹き飛ばす。瞬間的に暴風になる竜巻。またイシュレの壁まで打ち上げられるエッグモンスター。そこでヘルは酔い潰れているエッグモンスターの1体に意識を向け、転移させた。

「(目の前に出すよ!)」

「あぁ」

パッと消え、パッとエッグモンスターが転移させられたのは、トルムのすぐ目の前。トルムは暴風を集束させた。それはまるで構えた両手から解き放たれる、暴風のレーザービーム。すると酔い潰れエッグモンスターは暴風に乗って打ち上げられ、イシュレの壁に押さえつけられてるエッグモンスターに猛スピードで激突した。

「(やった)」

跳ね返る酔い潰れエッグモンスター。その殻は空中でもよく見える程に、勢いよく割れていた。しかし進化した方はというと、割れてはなかった。

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