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逆襲のアルテミス  作者: 加藤貴敏
最終章「一番星を見つめて」

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「すべてを包み込む嵐」後編

ヘルは視点を飛ばした。まるで空を飛ぶように天空島へと視界だけ飛び上がり、そしてまるで着地したかのように、実際に歩いているかのように天空島を見渡す。しかしただ視ているだけでは、ゼファングに変化はなかった。そこで解析(アンリズ)の魔法を使ってみる。見た目だけでは分からない、内部の構造や、魔力を感知する魔法だ。

「(あ、真ん中のゼファングだけ、テムネルがあるよ)」

「うん」

「(でも戦ってないし、動いてない。戦いに割り込んでいきそうにはないね。何してるんだろう)」

「ちょっとずつ増えてる」

「(え、それって、やっぱりマズイよね?消した方がいいのかな)」

瞳をふわっと虹色に光らせるイシュレ。

「アグリオスたちに宿ってたテムネルと同じ」

「(じゃあ、もしかして、後で戦いになったら、いきなりテムネルで強化する為に準備してるのかな)」

ふとイシュレは小さく首を傾げた。アグリオスの時には感じなかったものを感じた。さっきよりも、思念の強さを感じる。まるでそれは小さな”意識”のようだと。意思があるなら、感情が読める。

「そうみたい。戦うより、もっと大きくなりたいみたい」

「(そっか。少ないテムネルだと簡単に消されちゃうからって、隠れて大きくしてるんだ。これって、ずるいのかな?ボク達が消しにいったら、場外乱闘になっちゃうのかな)」

「じゃあ、大きくなった後でも、消せるくらい強い浄化の魔法の濃縮魂子、作っておく」

「(うんそうだね)」

レグリムも、エメリスと同じようにリッショウに自分の力を注いでいた。シアンに輝くレグリムが、まるで流れ星のように美しく突撃していく。そしてダークグリーンを纏うカンディアウスがそんな流れ星を振り払い、そこにシアンとダークグリーンの花火のような爆発が散りばめられていく。

千雷槍(トゥイグロピオ)

駆け抜けていくインディゴの光。それもまたカンディアウスによって叩き払われて、また美しく爆砕していく。街の人々は夢中だった。普通に格闘技でも観ているかのように。

「まだまだ足りぬ!」

突き抜けていくダークグリーンの拳。ぶん殴られたエメリスとレグリムは吹き飛んで、堪えて、空中で体勢を整える。それでも直後カンディアウスは笑った。

「受けてばかりだと退屈だ。力を見せてやろう」

ふとダークグリーンに包まれたカンディアウス。するとその姿は虎のような体格をした人間へと変わった。

「この方が闘いやすい」

そして籠手を携えた両腕を叩き合わせ、ダークグリーンの火花を散らせた。

「行くぞ」

クウカクで作った足場で踏ん張り、カンディアウスは飛び出した。

雷刃十層(クリグロ・ディシアーソ)!」

向かってくるカンディアウスに、レグリムは両足に雷刃を纏って迎え撃った。ガシンッとぶつかり合う。散りばめられる2色の火花。それでもダークグリーンは瞬間的に形を変え、津波のようにレグリムを押し退ける。しかしその最中にも、負けじとレグリムは雷刃を剣に変えてぶん投げた。ブーメランの形をした剣が、シアンの光に乗ってカンディアウスに飛んでいく。その直後、ダークグリーンは瞬間的に形を変え、突風となって剣を吹き飛ばした。

「くっ・・・」

悔しそうなレグリムの傍らで、同じく雷刃の剣を作り出したエメリスがカンディアウスに襲い掛かる。するとダークグリーンは瞬間的に形を変え、マグマのように重たくエメリスに襲い掛かった。壁のように分厚いダークグリーンに阻まれ、エメリスは後退せざるを得なかった。攻めも守りも完璧なダークグリーン。それは街の人々から見ても、実力の差があった。

「いけー!」

「一気にやっちまえー!」

イシュレと一緒に濃縮魂子を作ってるヘルは、ふと街の人々の声に耳を傾ける。同時に声から伝わってくる感情も読み解く。みんな楽しんでいる。でもどっちが勝ったらどうなるんだろうって、子供が思っていた。

天空の城を護るように立ち尽くすゼファングたち。その1体の、体の中の中心に微かに燃え上がる魔力。漆黒に揺らめくそれはまるで心臓のように、ゼファングの全身に更に魔力を巡らせていく。ゼファングはそもそも魔力の塊。それを憑代にして、同時に糧にして、漆黒の魔力はまるで細胞のように増えていく。しかしそこで、ゼファングは抵抗した。魔力を奪われていることに気が付いたから。

イシュレは瞳を虹色にふわっと光らせた。

「止まった」

「(んー?)」

「増えるの、止まった。ゼファング、テムネルと戦ってる」

「(え、でもテムネルって、アルカナが出してるんじゃなかったっけ?)」

「・・・テムネルは、誰のものでもない。きっと、小さいテムネルを運んでただけ。でも今は、もう自我もある」

「(そっか。テムネルって、どこから来たんだろう。勝手に来たのかな?)」

「分かんない。でも植物の種みたいに飛んでくることはあると思う」

「(ふーん。じゃあアルカナはそれを使ってただけで、自分の中から出してた訳じゃないのか。あ、じゃあ、ボクたちが消しても、場外乱闘にはならないんじゃない?ちょっと聞いてみるよ)」

ヘルがスタスタと歩いて行った先はグラバードのところ。

「(ねえ、ゼファングにテムネルが入り込んでるんだけど、危険だし、ボクたちが消しても場外乱闘にはならないよね?)」

「テムネルって、パワーアップの黒い魔力だよな?アルカナのもんじゃないのか?」

「(違うみたい。自我もあるって)」

「ゼファング、どうなるんだ?」

「(そりゃあ・・・どうなるんだろう。イシュレ、どうなるの?)」

「ゼファングは意識が乗っ取られて、自我があるテムネルは、体を持つことになる」

「その自我があるテムネルってのは危険なのか?」

「分かんない。普通はただのテムネルに自我はない。でもあのテムネルは危険かも」

「何でそう思うんだ?」

イシュレはふとゼファングを視た。そしてのその中に脈打つテムネルの感情を視た。その直後だった,

まるで遠い記憶が一瞬にして湧き出るように、とある顔が浮かんできた。ハッとするイシュレ。

「・・・テリッテ」

きょとんとするヘル。イシュレは頭を巡らせる。なぜ、あのテムネルの思念を覗いたら、テリッテの顔が浮かんできたのか。だからこそ、イシュレは更にテムネルの思念を覗きこんだ。次に浮かび上がったのは、ファウンデイルの顔だった。

「・・・えっ」

驚いたイシュレに、ヘルはぴくっとする。

「(何が視えたの?)」

「あ・・・あのテムネル、まさか・・・カルベス」

「何だって」

グラバードですら驚く中、イシュレは再びテムネルの思念を覗いていく。次に視えたのは、イシュレの知らない男女。大きな食堂で、共に食事していた。それから、記者会見のシーンも視えた。そこでイシュレは確信した。

「あのテムネル、カルベスの残留思念。記憶がかけらばっかり」

「(そっか。そもそも、魂も、記憶も、魂子なんだよね?死んだらバラバラになる。じゃあ、あのテムネルは、ただの断片で、カルベスが復活する訳じゃないんだね?)」

「・・・かけらがいっぱい集まったら、カルベスの魂と記憶が元通りになるかも」

「(げっそうなの?)」

「自我の意思なのかは分からないけど、ちょっとずつかけらを集めてるのかも」

「(どうする?グラバードさん。消すなら今の内じゃない?)」

グラバードはふと考え込んだ。例え今、カルベスが生き返ったところで、もうロードスター連合王国も、血剣術の族たちも、カルベスを受け入れることはない。つまり権力として返り咲くことはない。しかしそれとは全く別の次元で、テムネルという力を破壊の為に使う権化として復活するのなら、それは絶対に避けなければならない。

「・・・・・そうだな。対処しておこう」

「(うん。もう濃縮魂子の分離と浄化、出来てるから、やっちゃおう)」

ヘルとイシュレは頷き合った。今はまだ、ゼファングもテムネルの思念を抑えつけていられる。なら今の内に。分離の濃縮魂子を作っていたイシュレは、狙いを定めた。その時だった、イシュレは突然の頭痛に襲われた。

「(イシュレ!どうしたの?大丈夫?)」

倒れこむようにうずくまるイシュレの手から転がっていく分離の濃縮魂子ボール。その瞬間、イエンは振り返った。

「来る!」

バリンッという強烈な轟音。沢山のガラスが一斉に粉砕されたような響きと共に現れた空間の穴。そして――。

「(ええー!)」

空間の穴からゴロンッと出てきてのは、エッグモンスターだった。いつものように卵のような外殻から、にょきっと出てきた鞭のような脚と、頭。ギョロッと眼球を蠢かせて、まるで初めてやってきた場所を観察するように辺りを見渡す。

「(何で!急に)」

ヘルがうろたえてる一方、ふっと頭痛が軽くなったイシュレは、空間の穴を見た。その先は漆黒で、宇宙のような煌めきすらない、塗りつぶされた黒だった。

<余計な真似をするな>

目を見開くイシュレとイエン。穴の向こうから声が聞こえたと思ったら、その空間の穴は一瞬で塞がった。その声は頭の中に直接流れてきたもので、ヘルやグラバードには聞こえていないようだった。そしてエッグモンスターはイシュレに狙いを定めて、大きく口を開けた。

「(あ、マズイっ)」

エッグモンスターから吐き出された、真っ白い光球。絵具で塗りつぶしたような無機質な白。それに当たってしまうと、得体の知れない塊に体を覆われてしまう。ヘルはとっさにクウカクで壁を作った。間一髪、イシュレの目の前で真っ白な光球はクウカクにへばりついて固まった。

「(アテナの作った霊鉄の矢が無いと倒せないから、呼んでくる。それまで足止めお願い)」

「うん」

ヘルが転移で消えていった一方、カンディアウスとエメリス達の戦いは美しくも激しい肉弾戦が続いていた。カンディアウスに手加減されていると分かっているから、エメリス達は渇望していた。もっと強く、もっと力を溜める。

そんな戦いを、エッグモンスターが感知しない訳はなかった。イエンに頭を殴られてクラクラしながらも、エッグモンスターは空を見上げた。そして脚と頭をしまって、空に飛び上がった。その直後、エッグモンスターは”空中で”跳ね返った。クルクルと回って、墜落した。イシュレはハッとした。決闘の為に作ってる光の壁。

「わあああ!」

「きゃあああ」

街がパニックになった。突然落ちてきて、不気味な顔を覗かせるモンスターに人々は逃げ惑う。イエンとイシュレが転移で追いついた直後、エッグモンスターはイエンに真っ白な光球を吐き出した。

プライトリアにて。テンベカから時差は数時間、ここではまだ真夜中だった。ヘルは静まり返ったゼウス城に、ゆっくりとお邪魔する。

「(どうしよう。シュナカラク。アテナの精霊、呼んでもらえる?)」

「分かった」

それからアテナの精霊の1体ムギーがやってくる。

「(タイミング悪くてごめんね。でもエッグモンスターが出たから、あの霊鉄の矢が欲しいんだよね)」

「純度100パーセントの霊鉄の素材ならあるんだが、加工となると職人に頼まなければな」

「(魔法で加工は出来ないの?)」

「霊鉄は魔力を吸収する。加工は物理的にでしか出来ない」

「(そっか。じゃあ朝一番でお願いするように頼んでおいてもらえる?)」

「それは構わない」

「ありがとう」

そうしてヘルがテンベカに戻ってきた時には、すでにエッグモンスターは”ふらふら”していた。真っ白な光球を吐き出しても、それはまるで投げ捨てた水のようにパシャッと地面を覆うだけ。足取りはおぼつかなくて、目線も定まってない感じだった。

「(どういうこと?)」

「酔っぱらってる」

「(へ?・・・なんで?)」

「さっきおじさんが、エッグモンスターにお酒かけちゃって」

「(お酒・・・へ?どういうこと?)」

直後にエッグモンスターは足が絡まって転んだ。それを見てイエンがクスっと微笑む。

「(え・・・エッグモンスターって、お酒に弱かったの)」

そこでヘルはハッとした。

「(ねえ!グラバードさん。もしかしたら、物理攻撃なら効くんじゃない?今まで魔法でしか攻撃してこなかったから、全然効かなかったけど、でもこの前、霊鉄の矢が刺さってあの殻が簡単に割れたんだ。だから例えば、徹甲弾とか)」

グラバードはニヤッとした。ここは幸い、テンベカ軍の前線拠点そのもの。武器ならいくらでもある。

「分かった、すぐ手配しよう」

泥酔してふらふらのエッグモンスターを前に、ヘルは拍子抜けした。ものすごく手強いモンスター。でも意外な弱点があった。そして盲点だった。魔法で何とかすればいいと、何とかするしかないと思っていた。

しかし少しして、エッグモンスターの意識が戻ってきた。ゆっくりと立ち上がって、真っ直ぐ睨みつけてくるようになった。

「(お酒がかかってどれくらい?)」

「んー。10分くらい?」

ヘルは怯えて物陰に隠れている街の人々を見渡した。

「(みんな!お願いがあるんだ。このモンスターの弱点がお酒なんだ!強いお酒持ってるなら、協力してほしい。あとで弁償するよ)」

「・・・あの!これでいいですか?」

振り返るヘル。そこに居たのは、すぐ近くにあるレストランバーのエプロンをした女性だった。

「うちのワインです。量産品なんでどうぞ」

「(うん!ありがとう!あとでお金払うよ)」

魔法の手でボトルを持ち、ヘルはすぐさまエッグモンスターの口の中にワインを注いだ。食べたり飲んだりすることが出来るかは分からないが、とりあえず頭からもかけてみた。すると直後、エッグモンスターはべたんっと脚を大きく広げ、白目を向きながら完全に伸び切った状態で動かなくなった。

「(やった!)」

それから装甲車がやってきた。物々しい雰囲気に街の人々は更に逃げて隠れていく。

「(グラバードさん)」

「なんだ、もうやっつけたのか」

「(泥酔してるだけだよ)」

装甲車の上から銃器のスコープ越しにエッグモンスターを見つめるテンベカ軍人。

「無抵抗過ぎて少し気が引けるが、いっちょかましてやるか」

そうして銃器は爆音を轟かせた。街中に銃声が響き渡ると同時にエッグモンスターが少しだけ転がる。

「え?おい、話が違う。効いてないぞ」

テンベカ軍人がそう言うと、グラバードは視点を飛ばした。

「いや、よく見ろ。ヒビが入ってる。とにかく撃ち込んでいけばいい」

「そうか」

それから数発の徹甲弾が撃ち込まれた。その度にエッグモンスターはゆらゆらする。そして何発目かの徹甲弾が撃ち込まれた直後、外殻の一部が砕けて弾け飛んだ。

「うおっしゃあ!いったぞ!」

そして中からは、またもやドロドロのゼリー状のものがゆっくりと溢れてきて、そうしてエッグモンスターは完全に動かなくなった。

「うわ、なんか出てきたぞ。まるで、蛹だな」

恐る恐る近づいていくヘル。アテナはそれを霊気だと言ったが、霊気にも個体や液体があるのかとただ首を傾げた。気が付けばイシュレも近づいてきていて、瞳をふわっと虹色に光らせた。

「これ、生き物」

「(え?そうなの?アテナ達は造られたものかもって言ってたけど)」

読んで頂きありがとうございました。

意外な弱点が判明したエッグモンスター。しかし彼らはまだ、深淵の先を知らない。

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