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逆襲のアルテミス  作者: 加藤貴敏
最終章「一番星を見つめて」

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「すべてを包み込む嵐」前編

最初に仕掛けたのはエメリスだった。それはアグリオスにはなかった挙動。

千雷鎧(ブロン・トゥイグロー)!」

リッショウと合わさった輝く電気の鎧。それはインディゴに瞬く星のようだった。電気で出来た4枚の翼。まるで電気が鳥の形をしているかのような雷光。そして、輝くインディゴを纏い、エメリスはカンディアウスに突撃した。

カンディアウスは両腕に籠手を纏った。斧のような刃が付いた、盾のように幅広いそれは、ダークグリーンの力で作られた魔力の籠手。バチンッと轟音が響く。エメリスの足とカンディアウスの籠手がぶつかるだけで凄まじい衝撃波が生まれる。衝撃波自体がやってくることはないが、街の人々はどよめいた。

「オレ達は2人で1つだ。千雷鎧(ブロン・トゥイグロー)!」

レグリムはシアンに色付いた電気を纏い、輝きだした。そして2つの雷光が容赦なくカンディアウスを襲う。それでも街の人々やイシュレと同じようにくつろいでいるヘルは、不安を感じなかった。まだまだ両者は本気じゃない。

「私、マスカット達のところ行きたいな」

「あー、そうか・・・」

「アーサーは見たかったら見てていいよ?」

「・・・いや、どうせただ見てるだけなら退屈だしな」

そう言ってテリッテ達は「国の再生プラン」を続けるために去って行って、ガンニアーは相変わらず何もしない。というか、タルトスといちゃついている。そんな2人を横目に、ヘルはリラックスしながら戦いを眺める。ヘルはふと思った。2体1なのに、蘇りし者同士なのに、カンディアウスは余裕だと。

天空の城、そのすごく大きなダイニングのテラスにて。トルムもただぼんやりと戦いを眺めていた。

「これって、負けたらどうなるんだ?」

そんな時にトルムに声をかけたのは、アルカナ軍の武装民間人ザック。

「さあな。この戦いも、アルカナにとったら余興だ」

「捕まった奴らは、ほったらかしかよ」

「まぁ、何つうか、お前らの為でもあるんだ」

「え?」

「決闘は、お前らが戦わなくていいように、アルカナが決めたことだ」

「それでも・・・じゃあこっちが勝てば、捕まった奴らは戻ってこれるんだよな?」

「多分な」

ダイニングに戻っていくザック。決闘なんか正直どうでもいい。ただここが居場所なんだ。そしてここにしか居られない奴らが、軍に捕まった。どうにかして取り戻してやりたい。ダイニングをうろつくザック。でもその時、何やら声がした。ような気がした。何となく歩き出すザック。



第114話「すべてを包み込む嵐」



激しい肉弾戦。しかも2対1。なのに5メートルの巨鳥の相手をしても、カンディアウスは全然不利に見えない。むしろ楽しんでいた。殴り合い、蹴り合い、突撃し合い、それからやがてエメリスは接近戦に飽きたのか、全身に雷を纏った。

千雷(トゥイグロー)!」

それは全方位に放つ雷。槍のように鋭利で、矢のように高速。それらが一斉にカンディアウスに向かっていくがその直後、エメリスは驚いた。なんとすべての雷が、カンディアウスに届く直前に霧散して消えていったから。

「まったく、効かないのか」

「だったらこうだ!雷刃十層(クリグロ・ディシアーソ)!」

レグリムの両足に形成されたのは、シアンに輝く大きな斧。それで突撃していくレグリムだが、大斧は籠手に簡単に受け止められた。しかもカンディアウスが籠手を振り払えば、大斧はガラスが砕けるように霧散した。

「くっなんだこの力は」

「お主らは、我の嵐の大きさを知らぬのだ」

「大きさ?・・・」

それからカンディアウスはその場でストレートパンチを見せた。そこに起こったのは、紛れもなく”嵐の拳”だった。重く、鋭く、熱く、激しい、そんなダークグリーンが拳の形をしてレグリムを襲った。

「ぐああっ」

「レグリム!」

吹き飛んだレグリムを追うエメリス。嵐が通り過ぎれば、レグレムは相当なダメージを追っていた。

「ふう、ふう・・・何故だ。リッショウしてるのに、次元が違う」

「リッショウは、面白い魔法だ。しかし格があるのだ」

ヘルには分かっていた。カンディアウスはもちろん超リッショウを習得してる。でもあの2人はまだリッショウの3段階目。それにカンディアウスは、嵐にクウカクも混ぜている。魔力を物質にする魔法。超リッショウもクウカクも融合した嵐には、2人は最初から勝ち目はないと。

「戦いが生き甲斐なのは我も同じだ、好きなだけ来るがいい」

「くっ・・・けどまだ負けてない」

一方、天空の城にて、ザックは独り廊下を歩いていた。何かに呼ばれたような、呼ばれてないような。導かれているような、ただの気まぐれのような。何かの気配を感じたのは、地下への階段からだった。でも地下には行ってはいけない。そうアルカナに強く言いつけられている。だからザックはダイニングに戻ろうとした。でも気になってしょうがない。その瞬間――。

「・・・たすけて」

ザックは振り返った。そして生唾を飲み込んだ。今、何か、聞こえた・・・。いやでも地下には行ってはいけない。それになんかホラー映画みたいで、怖くなってきた。そうザックはダイニングに戻ろうとした。その直後――。

「・・・こっちきて」

ザックはもう怖くて仕方なかった。地下に、何か居る。しかも聞こえてくる声は、扉の向こうからではない。まるで、耳元で囁かれているかのようなものだから。女性のようで子供のような、でも歪んだ声。ザックの息が荒くなっていく。

「・・・こっちきて」

「やめろっ」

ザックは思わず耳を塞いだ。

「こっちきて」

「ああやめろ!」

耳を塞いでも聞こえてくる歪んだ声。恐怖で仕方ない。走って逃げようとしたその直後、ザックは転んだ。

「うああっ」

足を掴まれた。感触があった。でもそれは一瞬で、誰もいない。

「お前の望みはなんだ」

「・・・は」

囁いてくる声は、子供のようで男性ような声になった。ザックは腰が抜けていた。

「お前の望みを叶えてやる」

やがてその声は野太い男の声となった。

「・・・は?」

「怒りと憎しみを抱えているな?取り戻したいものがあるんだろ?」

ザックはふと冷静になった。貧しい暮らしをしていた。世の中への怒り。やっと見つけた居場所を奪われるかもしれない憎しみ。

「お前は、一体、何なんだ。アルカナには、地下へは行くなって言われてる」

「おい」

別の声にパッと振り向くザック。そこに居たのはアルカナだった。

「何故ここにいる」

「い、いやそれが、何となく気がついたら、ここに」

小さく溜め息を吐くアルカナ。

「まったく、人間には手を出すなと言っているのに」

「我慢できるものか。このまま決闘などという茶番を眺めているなど」

「実体もないお前に何が出来る」

「お前以外の者にも声が届けられるようになったし、一瞬だが触れた。進歩している。しかしこれでは遅すぎる」

「憑代を作ってやってるのに不満を垂れるか」

「あの者達が鬱陶しい。テムネルを消す者達。あれでは憑代も意味がない」

「確かにな。しかし今は蘇りし者同士の決闘だ。つまり、隠れて力を蓄える猶予がある」

ザックはふと”何も感じなくなった”。心霊現象を体験しているような気持ち悪いゾクゾク感。それがスッと晴れ渡った。

「地下には・・・何が居るんだ」

「心配するな。城に居着く者達に悪さをするようなやつじゃない」

そう言ってアルカナが去っていくと、独り残されたザックもようやく冷静になり、トボトボとダイニングに戻っていった。それからアルカナは再びバルコニーへ。思えば”名もなき思念”がどこから来たのか、いつから城に居たのかは私には分からない。ただ面白いと思った。私にとってはそれも題材に過ぎないから。アルカナは、名もなき思念がどこに行くのか、気配を追った。実体はないくせに妙に頭がキレる。隠れて力を蓄える猶予があると知って向かったのは、やはりゼファングだった。5体の内の1体に、名もなき思念はスッと入り込んだ。

カンディアウスとエメリスとレグリムの肉弾戦はひたすらに続いていた。でもその激しくとも、ダークグリーン、インディゴ、シアンの煌びやかな戦いは、観客を退屈にはさせなかった。街の人々は本当に格闘技の試合でも観てるかのように盛り上がっていた。

雷槍十層(グロピオ・ディシアーソ)!」

エメリスの放ったインディゴの雷槍。でもそれはカンディアウスにとったら簡単に払いのけられるもの。十層なんかでは全く歯が立たない。だからこそ考えた。もっと強い魔法を。そんな傍らで、レグレムは閃光に乗って、光速で飛び回る。相変わらずカンディアウスはただ立ってるだけ。”目で追いかける”ことはしない。エメリスがふと思い出したのは、この前のヘルとの戦い。ヘルは魔法で作った光球をしもべのように扱って戦っていた。時にそれは手数となり、魔力のエネルギーそのものにもなる。

千雷(トゥイグロー)

全方位に雷を放つ。しかしその直後、その無数の雷は空中に留まった。相手が新しく何かを始めようとする。カンディアウスにとっては、それが楽しみだった。だからあえて邪魔はしない。ヘルもグラバードも、エメリスが何をしようとしているのかを観察する。そんな時、本を読んでいたイシュレはふと顔を向けた。

エメリスは大きく翼を広げた。無数の雷を一気に相手にぶつければきっと相当なダメージになるだろうと街の人々も息を飲む。でもエメリスはそうはしなかった。バチバチと雷の塊が宙を舞う光景は美しくもあり、危険そのもの。その直後、1つの雷の塊がエメリスに向かって行って、エメリスが纏うオーラの一部となった。それから続けて10、20の雷の塊がエメリスに溶けていく。エメリスの全身がどんどん光を帯びていく。レグリムの突撃を軽くあしらいながら、カンディアウスはエメリスの変化を静観する。

もう100は吸収しただろう。そんな頃だった、インディゴの星のように、光そのものかのように光り輝くエメリスは雄叫びを上げた。その瞬間、カンディアウスは直感した。――来る。

「(マズくない?)」

ヘルはそう言ってイシュレに振り返る。するとイシュレはハッとした。イシュレが見ていたのはそっちじゃなかったから。

エメリスが大きく羽ばたいた。突撃してくる訳じゃない。だとしたら、あれを放つ。そうカンディアウスは意識を集中させた。ダークグリーンがカンディアウスに集まっていく。その直後、エメリスはインディゴを解き放った。それは収束した特大の光線。光の速さでカンディアウスを襲った。街はインディゴの閃光に包まれた。一瞬だった。

「(何も、見えない・・・)」

ヘルでさえ、目を開けられないインディゴの輝き。インディゴの中にポツンと放り込まれたかのよう。でも熱は感じない。痛みもない。もしかして死んだのかも。そう思ってしまうくらい。ただ光の中。でもその直後、何だか影を感じた。

「(ん?・・・)」

イシュレが作った、光球たち。光球たちが作る光の壁は、透明で見えない。だから決闘が見やすい。でもその光の壁がどんどん真っ白な半透明になっていく。そのお陰で洩れるインディゴも薄くなっていってヘルはようやく普通に目を開けられるようになった。

一方、カンディアウスは当然、インディゴの光線の中に居た。とは言え、ダークグリーンの嵐で全身を包んで耐えていた。嵐の消耗具合で分かる。この光線はとても脅威だと。でも光線は長くは続かなかった。光線を出し終えたエメリスはぐったりした。これならどうだ。そんな思いをぶつけた。でも直後、エメリスは目を見開いた。ダークグリーンから姿を現したカンディアウスは、虎になっていた。

「その力の使い方は、退屈だ」

エメリスの周りにはまだまだ雷の塊がある。しかしエメリスは疲労感と、カンディアウスの言葉を自覚した。

「・・・そうね」

何かもっと別のやり方を。そう考えを巡らせる。周囲には雷の塊。――それなら。

雷槍十層(グロピオ・ディシアーソ)!」

しかしエメリスが放ったのはカンディアウスに向けてではなく、雷の塊に向けてだった。閃光の速さで雷槍はいくつもの雷の塊を通り、一瞬で巨大になった。そうしていくつもの雷の塊を吸収した雷槍がカンディアウスを襲う。それはまるで、濃縮魂子を使って魔法を作った時のような、強烈なものだった。しかしダークグリーンの嵐は簡単にそれを消滅させた。

「それがお主のやり方なら、もっと洗練させるべきだ」

「言われなくとも!雷槍十層(グロピオ・ディシアーソ)!」

何度も雷槍十層を強化したものを撃ち込む。そうすると雷の塊が無くなったので、エメリスはまた周囲に雷の塊をばら撒く。でもその直後、エメリスはふと感じた。そういえば、リッショウをすると背中の辺りに魔力が集中する。そう思っていると、ダークグリーンの嵐が竜巻のようになって襲ってきて、周囲の雷の塊を消滅させていった。

「くっ・・・」

エメリスは再び考えを巡らせる。ただばら撒くだけではダメだ。どうしたら。そんな間にも、レグリムは作った雷刃十層に更にシアンの電気を溜め込んだ。

雷刃十層(クリグロ・ディシアーソ)!」

雷刃の上にもう一度雷刃を。そんなアイデアに、レグリムが握る剣はより巨大になった。そして突撃。閃光の速さで、剣を振るう。凄まじく衝突するダークグリーンとシアン。それでも直後、シアンの剣は粉砕された。

「フンッ」

叩きつけられるダークグリーンの拳。

「ぐああっ」

吹き飛んでいくレグリムはそのままエメリスにぶつかった。

「まだまだ甘い!」

同じ蘇りし者でも、こうも差があるのか。でもその差が何か、何となく分かった。エメリスはリッショウの源、つまり目には見えないけど魔力を循環させてる背中の輪っかに意識を集中させた。ここに、更に魔力を。エメリスは10の雷の塊を作り出した。もちろんそれで攻撃する訳じゃない。1つ、また1つ、雷の塊を背中の輪っかに吸収させていく。エメリスの全身がインディゴに輝いていく。ふとヘルは思った。もしかして、戦いの中で、自力で超リッショウを考え付いたのか。

「す、すごい、さっきとはまるで違う」

さっきはただ自分の体に雷の塊を重ねただけ。でもリッショウの輪っかを通してなら、魔力の循環が飛躍的に上がり、体への負担もない。そして10の雷の塊をリッショウを通して吸収したエメリスは、インディゴに輝く光となった。カンディアウスは冷静に構える。

千雷槍(トゥイグロピオ)!」

くちばしから放たれた、インディゴに輝く雷槍。それはまるで美しい星の瞬きのようだった。今度はダークグリーンとインディゴの凄まじい衝突が街の人々を魅了した。それでも勝ったのはダークグリーンだったが、エメリスは悔しくなかった。

一方、イシュレはパシンッと本を閉じた。そして人知れず立ち上がり、天空の城を見上げた。

「いる」

ようやく振り返るヘル。

「(何が?)」

イシュレはちょっと困った顔をしていた。カンディアウス達の戦いは気配が強すぎる。まるで別の臭いがあっても気が付かないくらいに。でもイシュレはその”異変”をはっきりと感じた。

「・・・テムネル」

「(え?どこに?エメリス達?)」

「ううん」

するとイシュレはゆっくりと指を差した。天空の城に向けて。

「・・・ゼファング」

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