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逆襲のアルテミス  作者: 加藤貴敏
第4章「ウォー・ゲーム・オブ・ハザーズ」

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「ヘルのおつかい」中編

それからヘルたちはゼーレに向かった。ディンクルスが住む城のある公園。ガルゼルジャンに破壊された幾つもの街、その1つアンゼルジ。最早境界線など分からないが、そこにある公園にやって来た時、ヘルはふと目を留めた。それはシーザリアンだった。ゼーレはホールズからは遠い国。なのに何故シーザリアンがいるのかと疑問を抱いた。

「(おや?ディンクルス城公園・・・すごいな。正式に名前になってるんだ)」

公園の入口に立てられた大きな看板に書かれた「ディンクルス城公園」という文字を見ていると、そこにすぐにやって来たのは紺碧色の光剣獣ハンバルス。

「キュン(奇妙な客達。何しに来た)」

「(お、ディンクルスって光剣獣も仲間にしてたんだ。ディンクルスに会いに来ただけだよ)」

「キュン(顔無いんだ。古いタイプだね)」

そう目をぱちくりさせ、鼻をペロッとするサファに、ハンバルスはキリッと目と口の無い顔を向ける。

「キュン(ディンクルスは今居ない)」

「(えー、そっか。いつ帰ってくるの?)」

「キュン、キュン(相手の戦力に問題は無い。恐らく目標テロリストグループの壊滅は完了しているはず。すぐに帰ってくるはず)」

「(そうなんだ。今日もテロリスト成敗活動頑張ってるんだね)」

「キュン(ヒーロー活動)」

「(あーそっか。じゃあディンクルス来るまで待ってていい?)」

「キュン(問題無い)」

さっさとどこかに歩き出していくハンバルス。だからヘルはとりあえず花壇が広がっている花畑エリアを散歩した。

「パーッ(良い花たちだー)」

「(そうだね)」

「パー(でも土が最高の状態じゃないな)」

そう言うとテノンは両脇から蔦を伸ばし、土に刺した。そんな時だった、また光剣獣が1体やって来たのは。

「(ん、もしかしてディンクルス戻ってきたとか?)」

「キューン(やー。面白い組み合わせだね。あ、知ってる、アルテミスのヘルでしょ)」

「(ん、お?さっきの光剣獣とは違うんだ)」

「キュン(さっきのはハンバルスって奴さ。オレはデークス)」

「(へー。こっちはサファで、上のがテノン)」

「キュンキュン(確か、シーザリアンってのか。何してんの?)」

「パー(土を良くしてるの)」

「キュンキューン(そんな事も出来るのか。この前さ、ゼーレの軍人達がシーザリアンを連れて来たんだ。建物を作らせるんだって)」

「(あれだよね、サルバランのニュース)」

「キュン(そう。それでゼーレもその力を欲したんだ。何しろ何十キロも破壊されたからね。人間だけの力で完璧に直すまで何十年もかかるって)」

「(確かにね。シーザリアンって、すごいね)」

「パーッ(えっへん)」

「グーガー」

林の向こうから聞こえてきた鳴き声にヘルはふと顔を向ける。

「(ん?何かやってるのかな)」

「キューン(ジャガーノートだよ。さっき子供達と遊んでたな。行ってみようよ)」

スキップするように歩くデークス。それから一緒に向かってみれば、そこにいたジャガーノートとハデスと数人の子供達は、シーザリアンのベランデアと共にシーザリアンフルーツを食べて笑顔を交わしていた。

「パーッ(やぁ!元気?)」

「ウオーウ(元気だよ)」

花畑の近くの林の中にはサーロインアップルの木が立っていた。ヘルたちがやって来れば、ベランデアは両肩から蔦を伸ばしてサーロインアップルをもぎ取り、ヘルたちに差し出した。

「パーパー(やっぱりか。土触ってたら近くにシーザリアンの力の匂いを感じたから)」

「(ありがとう。ん、何かいつもと香りがちょっと違うような。・・・ん!何だろう、サーロインアップルだけど、すごく爽やか)」

「ウオン(サーロインアップルに、スマイルマスカットを少し混ぜたよ。普通のサーロインアップルより瑞々しくて甘くなったよ)」

「(うん、確かに。サーロインアップルの違う品種って事かぁ。すごいなぁ)」

「グーガー、グガグガ(美味いぞぉ。こんな美味いもの初めてだぞ)」

「(シーザリアンにもそれぞれのセンスがあるんだね)」

ふと振り返るヘル。匂いの動きを感じて見てみれば、やって来たのはブレン、レイハ、そしてディンクルスだった。

「おーい、ジャガーノート、何してんだ?」

「グガグガ?グーガー(戻ってきた。これ美味いぞー)」

「ん?おっシーザリアンじゃねえか!頼んどいた奴が来たんだな。え、アルテミスのヘル?つーか、何だその光剣獣」

「か、可愛い光剣獣」

レイハがサファを撫でようとした瞬間、デークスがレイハの脇を鼻先で小突く。

「嫉妬しないの。きっと可愛いだけだよ。戦闘タイプじゃないんじゃない?」

「キュン(ボクだって強いけどなぁ)」

「キュン(じゃあオレと勝負する?)」

デークスとサファがじゃれあい始めると、ディンクルスはベランデアから貰ったサーロインアップルをかじりながらヘルに歩み寄る。

「何の用だ」

「(うん、ちょっと頼みがあって、ボク今、蘇りし者達から力をお裾分けして貰ってて、ディンクルスからも分けて欲しくて。ボクの人間のお父さんが、研究で使いたいんだ)」

「ただで渡すと思うのか」

「(手伝って欲しいことあったら、何か仕事するよ?)」

「ほう。仕事を乞うか。誠実さは買ってやろう。ただ他所の手伝いを欲するほど私達は弱くない。かといって拾うこともない者の実力を見せて貰うのも時間の無駄」

「だったらオレが相手になってやる」

「え、じゃあ私も」

ブレンに続いてレイハがそう言って、ヘルは戸惑いながらもディンクルスに顔を向ける。

「好きにするがいい」

「(2人に勝てたらディンクルスの霊気くれる?)」

「私の力は賭け物ではない。2人が、お主に譲っていいと納得したなら良いだろう」

「(うん、分かった)」

「いくらアルテミスでも、オレらには勝てないだろうな。だが手加減はしない。何しろ、退屈だからな」

「そうそう、ヒーロー活動は良いけど、ほんと弱い奴ばっかだから。ま、私達が強すぎるんだけどね」

「(す、すごい自信)」

きっとアニメか何かだったら、こう言う時に限って2人は負けるものだろうなとヘルは思った。でも金色のオーラをふわっと見せつけてくる2人を前に、ヘルは緊張してきた。──ボクも本気出さないと。それからブレンとレイハはウパーディセーサに変身し、ヘルは2人を上空に誘導した。

「(シュナカラク、お願い)」

パッとヘルの隣に現れたシュナカラク。

「今日はやけに戦う日だな」

「(おつかいだからね)」

シュナカラクがヘルに向かって合体すれば、ヘルの全身はぱあっと赤とオレンジに変わっていく。

「(フェニックスソウル!)」

そして更に燃えるように鮮やかな毛並みが“実際に”燃え出せば、ブレンとレイハは顔を見合わせる。

「お前・・・ヤベエな」

「(最近出来た新しい魔法なんだー)」

テノンは空を見上げた。戦いが始まった。淡く白い太陽に向かって、2つの金色のオーラが突撃していく。

「パーッ(いつまでやってるのー)」

サファとデークスはじゃれ合ってるのか戦ってるのか、するとやがてサファはリッショウをして、デークスは紺碧色の鱗と白い霧光を周囲に漂わせた。

「パー(あっちも夢中かぁ)」

そんな時にテノンの下にやってきたのはジャガーノート。ドスンドスンと歩く、ヘルよりもちょっと大きなその巨体に、テノンは思わず後ずさる。

「グガグガ(お前も作れるかあ?美味いもん)」

「パー(そりゃ出来るよ?作ろうか?)」

「グガー(もっと食いたいぞぉ)」

「パーパー(そうだなー。じゃあ、スターレオンをベースに・・・)」

地面に蔦を突き刺すテノン。やがてそこから木が生えてきて、1メートル80センチほどの高さになれば、リンゴほどの大きさの土色の果実を実らせた。その匂いにつられて歩み寄ってくるベランデア。

「パーッ(出来たー。これはね、果汁と旨味を多めにバランス調整したスターレオンアップルだよ)」

すぐさまそれをもぎ取るジャガーノートとベランデア。そして揃ってガブッといけば、2匹は唸った。

「グガー(今まで食ったことないぞぉ)」

「ウオーウ?(この旨味は?)」

「パーッ(海だよー)」

「ウオン(海。なるほど、大地の記憶には無い旨味を取り入れたんだね。でもこのスパイスも、味わったことない)」

「パーッ(異世界の木の実だよ)」

「ウオーウ(そうなんだ)」

「私にも貰えるか」

「パーッ(いいよー)」

スターレオンアップルを1つ片手に、ディンクルスはヘル達の戦いを遠く見上げる。ディンクルスは無駄な戦いはしない。何故なら、得るもののない戦いでは、何も創ることが出来ないから。そうディンクルスは観客のように空を見上げ、果実をかじる。

「うおおおおっ!!」

「(フェニックスエクスプロージョン!)」

ただ広範囲に意識した爆発では周りに被害を生んでしまう。だからヘルはその爆発を外へではなく、一定の範囲への圧縮に意識を向けた。その爆発は、本当に太陽のようだった。墜ちていくブレン。

「うそ、私の羽刃が、燃え尽きた」

ヘルからの爆風が流れて消えていくと、レイハは振り返ったヘルと目を合わせた。だからレイハは渾身の力を剣に集めた。ブンッと突撃していくレイハ。

「おりゃああ!」

「(フェニックスフィスト!)」

金色のオーラと、淡く白い爆風が広がった。レイハの剣を受け止めたのは、淡く白い炎そのものでもあるヘルの魔法の手だった。

「(ていっ・・・えいっやあっ)」

バチンッバチンッと、レイハは淡く白い拳を剣で弾き返していく。そんな打ち込み合いが続く中、地面にドサッと落ちたブレンはその衝撃で気絶から回復した。剣を地面に突き立てながら立ち上がるブレン。

「何だあいつ、ディンクルスくらい強いじゃねえかよ」

「そうか?」

そうブレンに歩み寄り、ディンクルスは果実をかじった。すでに金色の力を解放し、ウパーディセーサの鎧に金色の差し色が浮かび上がっているブレン。しかし剣を地面から抜くと、大きく深呼吸した。

「あいつは、魔法の鎧を纏ってるんだな。そういうやつは、さすがにテロリスト共とは格が違うな」

ふと空を見上げたディンクルス。だから同じようにブレンもヘルを見ようとした途端、ドサッとレイハが墜落した。

「くぅ・・・やられた」

「(へっへーん。ボクの勝ちだねー)」

「まさか2人がかりで負けるなんて」

「お前達の力はまだまだ引き上がる。チェインではなく、お前達自身の意思でだ」

「え、そうなの?」

「鍛練を重ねるがいい」

「そっか」

「(じゃあディンクルスの霊気くれる?)」

「しょうがねえな」

それからヘルは紺碧色に染まった魔法のボールをポーチにしまった。

「(ありがとう。サファ!もう行くよ?)」

向かい合って立ち止まったサファとデークス。するとサファはリッショウを解き、デークスは鱗と白い霧光を消していった。

「キュン(決着はつかなかったな。でも楽しかったからまたやろうぜ)」

「キュン(うん、またね)」

ダーラ、アミセルの居る古城のある街アンエイ。でもヘルは直接アミセルの城に転移する事なく、その手前の街を何となく歩いていた。

「(アミセル、何か緊張するなぁ。クラウンなんかにはもう勝てるし、いいんだけどさぁ)」

「キュン(蘇りし者の霊気を集めたご褒美って何なの?)」

「(まだ聞いてない)」

「パー(よくやるって言ったね)」

「(やってから思い切りご褒美をねだろうと思ってね。ここでのんびりしててもアレだし、行くしかないか)」

アミセルの居る古城の周囲は浅瀬になっていて、引き潮によって出来る砂浜の道が現れた時のみ、歩いていける。歩く場合は。城が建つ高台の地にパッとやってくれば、ヘルは大きな城のドアを開けた。

「(おーい、アミセルーっ)」

ヘルのテレパシーが静寂に満たされたエントランスに行き渡り、そのまま音一つ立たせずに消えていく。

「(んー。霊気検索するか。ボクのテレパシーじゃ、壁は通り抜けないし)」

そう視界だけを飛ばした瞬間だった、パッとヘルたちの前に、クラウンが現れたのは。

「お前ら、何しに来た」

「(ん、あクラウン)」

瞬間、ヘルがクラウンから感じたのは敵意や殺意ではなく、少し必死そうな困惑だった。

「(何かあった?)」

「別にお前らには関係ない。何の用だよ」

「(あの、実は、今ボク蘇りし者達から霊気をお裾分けして貰ってて、アミセルのも貰えたらなぁって)」

「何でそんな事してんだ」

「(ボクが使うんじゃなくて、人間のお父さんが研究で使いたいって)」

「研究?何だそれ」

「(それはボクには。でもただでとは言わないよ。手伝う事があったらやるけど)」

「いや、別にないけど。まぁいいや、すぐに済ませろ」

カツカツと、犬たちの足音が妙に響く。大きくて広くて、ツルツルな床。階段を上がって3階に上がった時、廊下の向こうから使用人が歩いてくるのが見えた。それからまた別の使用人が掃除用具を持っているのを見て、ヘルはふと思った。

「(ちゃんと掃除してるんだね)」

クラウンは何も応えず、それから幾つものドアを通り過ぎてからとあるドアを開けた。その部屋は寝室で、すごく大きくて豪華なベッドにはアミセルが居た。まるで王族かのような寝巻き姿で、下半身には布団を被せ、枕を背に座っていた。

「ん、何だお前達」

「(ちょっとお願いがあって、今ボク、蘇りし者達から霊気を貰ってて、アミセルの霊気も貰いたいんだ。その代わり手伝える事があったらやるけど)」

「人手が必要なら、あたしは自分の力を使う」

「(だよね)」

「確かに、お前のポーチには様々な蘇りし者の霊気があるな。全く何に使うんだか」

「(ボクの人間のお父さんが研究者で、研究に使いたいんだって)」

「ほう。だが、土産でも無ければ、お前に何かをくれてやる義理も無い」

「(そっか。じゃあとびきり美味しいサンドイッチ持ってくるよ。ボクの頭に乗ってるテノンがさ、オリジナルのシーザリアンフルーツを開発して、それを使ったサンドイッチが美味しかったんだ)」

「オリジナルのシーザリアンフルーツ。それは面白い。ならばこの世界で、まだ誰も食べた事の無いサンドイッチを持ってこい」

「(うん、分かった、待ってて)」

そしてパッと戻ってきたのは禁界の合同キャンプ場。相変わらず、自然に囲まれたそこは心地の良い空気が流れていて、キャンプ場からは美味しそうな匂いが広がっていた。やってきたヘルたちに手を振るアンシュカ。

「(という訳で、とびきり美味しいサンドイッチ作り、手伝ってくれない?)」

「勿論良いわよ?あたしも楽しみ」

エルフ達が持っていた、この世界の色々な木の実をテノンはむしゃむしゃと食べていく。その姿はまるでソムリエかのよう。そうヘルも色々な木の実の匂いを嗅ぎながら、味見していく。それからテノンは3種類の木の実を実らせた。それは2メートルの木から生えたものと、50センチほどの木から生えたものと、土の中に生えたもの。1本の2メートルの木の周りには、4本の50センチの木が寄り添うように生えていて、その木々のすぐ真下に低い雑草のように草が生えて、その根っこから実がなっている。それはまるですごく小さな森だった。

「(育ち方が違う3つに分けたのは何でなの?)」

「パーパー、パーパー(それぞれ味が違うけど、それぞれのエネルギーを、お互いに分けられるようにしてるんだよ。そうするとエネルギーが混ざりあって、その栄養がまたお互いに流れていくんだ。この3つの木の実は、最初だけあげたボクのエネルギーを自分たちのエネルギーに変換して自分たちで育ったんだ。だからボクでもどんな味か分からない)」

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