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逆襲のアルテミス  作者: 加藤貴敏
第4章「ウォー・ゲーム・オブ・ハザーズ」

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「ヘルのおつかい」後編

「すごいわね。本当に森なのね」

そうアンシュカが笑顔で2メートルの木を優しく撫でる。

「(どういうこと?)」

「森にはいっぱい植物が生きてるでしょ?木と草とキノコ。色んな種類の植物たちは、土の中でお互いに栄養を送り合ってるのよ」

「(そんなことあるんだ。むしろ栄養を取り合ってると思ってた)」

「勿論競争してる時もあるわよ?でも例えば、大きな木の枯れ葉が落ちて、土の中で違う植物の栄養になる。木や草が枯れても、その土地に生きる違う植物が、土の中で枯れたものたちから栄養を貰う。そうやって、森では違う植物同士でも栄養を共有してるのよ」

「(栄養を、共有。そうなんだ、すごいね)」

「パー(この木の実たちも、単体で育てるよりも複雑な栄養で色んな旨味が出来てるはずだよ?)」

2メートルの木から生えた木の実は、1房に小さな赤い実が無数に生える形で、噛めば柔らかい食感で、まるで蜜のように甘くて、旨味のある柑橘類のように酸っぱかった。50センチの木から生えた木の実は、外見は真っ白な硬い殻に覆われていたが、その中には水色のクルミのようなものが入っていて、その食感はゼリーのようで、噛んだ瞬間からスパイシーで爽やかな果汁が溢れてきた。草を引き抜くと根っこの先端にコロコロしたものが沢山ついてるという形の実は、焦げ茶色をしていて、土を洗ってからそのままかじれば、それは少し柔らかいナッツのような食感で、まるでそれだけでポテトサラダのように完成した旨味があった。

「パー(うん、自然の味だ。植物たちが自分でなりたいようになった、自然の味がする)」

「(確かに、何か、作られた旨味じゃなくて、育った旨味って感じ)」

「ホッとするわね。強すぎない、植物本来の味よね」

アンシュカと共にエルフ達が皆、木の実たちを堪能していくと、すぐに1人のエルフがやる気を出して早速料理を始めた。ヘルはふと、魔法の手で土の中になる実を持って、まじまじと見つめる。

「(ボクはこれが1番好きかなぁ。甘くて塩気もあって、色んな根菜とキノコが混ざったような味でさ。名前どうする?)」

「パー(んー・・・)」

それからヘルはアミセルの下にやって来た。ヘルが持ってきた、アンシュカから借りたバスケットの中には、2メートルの木から生えた木の実ハニーアセロラ、50センチの木から生えた木の実シャーミック、土の中になる実サラディナをそのまま入れていて、それから一緒にサンドイッチも入れていた。ヘルがバスケットをアミセルに渡そうとすれば、気がつけば目の前にはクラウンがきていて、まるでアミセルを気遣うパートナーのように、バスケットを受け取ってアミセルの隣に腰かけた。

「(3つ作ったんだよ。赤いのがハニーアセロラ、白い殻のやつがシャーミック、焦げ茶色のがサラディナだよ)」

「うまそうだ」

そう言うとアミセルはサンドイッチを手に取り、横から上からと吟味するように見回した後にゆっくりとかぶりついた。

「うん・・・美味い」

その直後、アミセルは何か勝ち誇ったような笑みを溢した。

「あたしのシェフ達の方がもっと美味いものが作れるがな」

「(そりゃそうでしょ。サンドイッチ作ったの、友達のエルフだもん)」

まるでサイドメニューをつまむように、アミセルは真珠のような大きさのハニーアセロラを1粒口に放り込む。

「ん!これは・・・美味いな。好きな味だ」

ヘルは少しだけ嬉しくなり、照れ臭くなった。アミセルの食べかけのサンドイッチを当たり前のようにクラウンは一口かじり、アミセルがシャーミックを食べればクラウンも続いて、その2人はまるで夫婦のようだった。

「(あの・・・さ。もしかしてだけど・・・その、アミセルのお腹の中、赤ちゃんいるの?)」

ピタッと動きが止まる2人。ゴクッとアミセルはサンドイッチを飲み込む。

「何故、分かった」

「(ボク、エコーロケーションが出来るんだ。超音波が出せるから、分かるんだよね。だからちょっと体調悪そうだったんだ)」

「昨日、分かったんだ。今日は、朝のつわりが酷くて、この様だ。まだ店の準備だってあるのに」

「(今は休まなきゃダメだと思うけど)」

「分かってる。ハニーアセロラと言ったか、もっと寄越して貰おう」

「パー(シーザーに伝えとくから、欲しかったら作って貰ってよ)」

「(シーザーにテノンの木の実の味を伝えとくから、いつでも作って貰ってだってさ。あのさ、霊気、くれない?)」

禁界の合同キャンプ場。バスケットを返しにきたヘルは、そこでちょっとした緊張感を感じた。それは山の道の方向で、何やら人集りが出来ていた。

「(アンシュカ、どうしたの?)」

「エニグマよ?出てきちゃったみたい。最近よくあるのよね」

「(あー。エニグマも気になるのか、外の世界が)」

バスケットを返したついでに向かってみれば、エルフに囲まれているのはグラッジラというエニグマだった。ゾウみたいな体型で背中から2本の砲腕が生えているという姿。

「じゃあ一緒に散歩しよう」

男性のエルフがグラッジラに向かってそう言えば、グラッジラは落ち着いた様子で数人のエルフ達と歩き出していく。それを何となくボーッと眺めるヘル。

「パー(後は、シザクっていうのと、ハクジュソウだっけ?)」

「(そうそう)」

「キュン(さっさと終わらせてご褒美貰おうよ)」

「(だね)」

シザクを捜してやって来たのは、ケルタニア。テノンとサファが「あっち」だと言ったから。そうして辿り着いたのはケルタニア軍本部。

「(まじか。何でこんなところに。どうしよう。勝手には入れないよね。とりあえず霊気検索で、声を飛ばしてみよう)」

「君達」

「(え、あー)」

動物が3匹で軍本部を眺めていたものだから、門番の軍人がすぐさま声をかけてきた。

「アルテミスのヘルくんだよね?」

「(あ、はい。あの、シザクに会いたくて)」

「どのような用件で」

「ちょっとだけ頼みがあって、全然すぐ終わるんだけど」

「まぁ、それなら問題無さそうだな。呼び出すから、そこで待ってるといい」

「(うん。お願いしまーす)」

「キュン(やっぱり中には入れさせないんだね)」

シザクがやって来たのはすぐだった。しかもリュナークとアキレスも一緒に。

「手伝う事と引き換えに、私の力が欲しいのか」

「(うん。手伝える事があればだけど。でもケルタニア軍も、余所者に手を貸して貰うほど弱くないよね)」

「まあそれはそうだが。シザクの力が欲しいとは、どういう事だ」

問いかけるアキレス。

「(ほら、こういうの。ボク今、蘇りし者達から力をお裾分けして貰ってて)」

「何の為にそんな事」

「(それはボクにも、ボクの人間のお父さんが研究で使いたいからって)」

「研究・・・それはどこで」

「(異世界)」

黙ったアキレスからは納得が伺えたので、ヘルはシザクを見つめた。

「まぁ、エイシン様も同じ事をしたのなら、危険は無いのだろう。いや、もしやその力の球のせいで、何か起こるのでは」

「(え、そうなのかな)」

ヘルを見つめるシザク。未来を見ているのが分かるこそ、その妙な沈黙にヘルは緊張してきた。

「・・・エッグモンスター」

「(えっ・・・あのモンスターと、この蘇りし者達の霊気が何か関係してるの?)」

その直後だった、シザクの表情が凍りついたのは。それは明らかに不穏な様子。

「エッグモンスターに、その霊気の球を決して奪われてはならない」

「(・・・う、うん、分かった)」

「あのさ、ちょうど来てくれたから、実は相談したい事があってさ」

そう口を開いたのはリュナーク。

「(うん)」

「ブーストの件でさ。リッショウボールが出来るのは良いんだけど、もっとブースト時間を伸ばせないかなって」

「(あー。じゃあ、特別に、新しいリッショウを教えてあげるよ。このリッショウは、今までのリッショウよりも格段に強くて、今までのリッショウみたいにずっと続けられるよ)」

理屈は簡単。だけど実際にやってみればアキレスもリュナークも“リッショウの壁”を壊す前にヘトヘトだった。ヘルがリッショウを見せると、まるで遠くからでも分かる山火事かのようなその気迫と存在感に、他のアルタライザーたちが何事かと集まってきた。

「うおおおおっ!!」

それからクウカクの壁の中で、最初にリッショウの壁を壊したのはアキレスだった。炎と冷気と電気が均一に纏わりつくアキレスは全身が輝いていて、アルタライザーたちは思わずその姿に見とれた。

「これが、新しいリッショウか、すごいな」

「(うんうん、いいね)」

「うわーアキレスに先越されたーくそーっ」

ふとリッショウを解いたアキレス。そのまま空を見上げ、遠くを見た。

「・・・しかしこれは、強すぎる力だ。どんな代償があるんだ?」

「(え、うーん、代償なんか無いんじゃないかな。別に、スタミナを多く消費するとかでもないし)」

「そうか。しかし強い力を使うには、それに相応しい強い心が必要だ。気を引き締めないとな」

「(さすが軍人だね)」

「ついこの前、テロ組織を制圧した。元警察官の男が作ったものだった。その男は、ウパーディセーサに自分の正義が負けたと言っていた」

「(そうなんだ)」

「リッショウは、世の中に普及するべきではない、強い魔法だ。ただでさえウパーディセーサは今、進化してる。軍の中で、それに対抗する力が少しずつ減っている。その中でリッショウは希望だ」

「(そうだね)」

霊気の爆発が連続していく。やがてアルタライザーたち全員がリッショウを進化させると、みんな希望に満ちた笑顔を浮かべた。とても嬉しそうだった。

「アルタライザーは、ケルタニアの中で“正義の生物”って言われてるんだ。正義の為に作られて、正義の為にただ働く生物。でも最近、ちょっと負けてたんだ」

「(何に?)」

「世論に。ウパーディセーサの凶悪化に対応出来てないんじゃないかって。でも、このリッショウがあれば、何かもう、絶対に負ける気がしない」

そうユテスがギュッと拳を握った。

「これでまた、自分らしくいられるよ」

シザクに教えて貰った、ヘルがこの先ハクジュソウと会う場所。ヘルはその時間よりもちょっと早くそこにやって来た。そこは海だった。とても自然豊かな観光地で、とても広く海を見渡せる場所。ヘルは海風の良い匂いをのんびりと楽しんでいた。

「パー(良い景色だね)」

「(そうだね)」

「キュン(もうそろそろ夕暮れじゃない?)」

「(うん。夜ご飯何かなー)」

しばらく砂浜に座る2匹の犬と1羽の鳥。その3匹を通行人が遠くから眺めている中、ヘルは振り返った。匂いがした。それはハクジュソウだった。

「(おーい、ハクジュソウ。待ってたんだ)」

遠くから話しかけられても、ハクジュソウは砂浜を走らない。ゆっくりと歩み寄ってきたその足取りは、どことなく元気が無さそうだった。

「何か用か?」

「(突然で悪いんだけど、ハクジュソウの霊気を分けて欲しいんだ)」

「霊気・・・」

ハクジュソウは自分の手を見下ろした。

「まだ、何も感じない」

「(そっか、記憶はまだ戻らないんだ)」

「あぁ。だが、人の記憶を見ることは出来るようになった」

「(ハクジュソウって普段何してるの?)」

するとハクジュソウは海を眺めた。

「・・・旅をしている」

「(自分探し?)」

「・・・何を探しているかは分からない」

「(そっか)」

「ただ、何かが、オレを待っている気がする」

「(ふーん)」

予想は何となくついていた。だからハクジュソウは最後にした。やっぱりダメか。そうヘルは目的も無く、ただ歩いて去っていくハクジュソウを眺めていた。空がキレイに赤く染まる頃、ヘルはパッとやって来た。そこはユピテルの居る場所。アマバラにあるニルヴァーナ。

「(お父さーーん)」

「ん?お、今日中に終わらせてくるなんて、すごいじゃないか」

ヘルは体に着けていたポーチを外し、ユピテルに渡した。まるで川辺で集めたキレイな石ころのように、コロコロと入っている“霊気の球”。その数を見て、ユピテルは小さく首を傾げた。

「この2つは?」

「(この世界の蘇りし者のエメリスとレグリムのだよ。たまたま会ったんだ)」

「幸運というのは、科学でも一生解析出来ないんだろうね」

「(でもあと1人、力を失って霊気を出せない蘇りし者がいるけど、いいよね別に)」

「それなら仕方ない。うん、ありがとう。助かったよ」

「(ご褒美。最高級のお肉、5キロでいいよ)」

「うん。分かった。アマバラのお肉は美味しいからね、すぐに手配する」

ふとヘルが目を留めたのは、まるで宝石店の品物のように小さな台とクッションの上に置かれた、ダークグリーンの宝石。

「(霊気の球、どうすんの?)」

「これから考えるさ」

「(え?じゃあこれは?)」

「それは安定させた形さ。霊気の球の状態ではまだ物質として不安定で、時間が経てば弱くなり消えてしまう。だから固めるのさ。本当の石のように固めて、保管しておくんだ」

「(使わないのに集めてんの?)」

「研究とはそういうものだよ」

「(ふーん)」

「蘇りし者の転用に使うんだよ」

振り返るヘル、ユピテル。秘密をバラさせたという怒りではなく、ユピテルは小さく溜め息を溢した。

「(サハギー)」

「持ってきてくれたんだからさ、聞く権利はあるんじゃない?」

「まぁ、それもそうだね」

「(転用って?)」

「シンプルに言えば、クラウンと同じように人を蘇らせる」

「(何で)」

「何でも何も、不老不死は最初から研究課題だ、方法論は問題じゃない。実際、カンディアウスの力で作ったそのダークグリーンの結晶で、実験は成功している」

「(え、人を蘇らせたの?)」

「厳密に言えば、創造だけどね。アマバラにはギガスっていう存在がいる。精霊とは違うもの。ギガスは、元は人なんだ。強い魔法を使って魂が焼けてしまって、死んでしまった人だ。そういった、まぁ、事故死とも言えるような形で死んでしまった人を、それを使って蘇らせた。実験は成功してる。生前の記憶も残っていて、人の形をしてる。しかも普通の人より体は鉄のように頑丈で、魔法も使える」

「(蘇りし者みたいに?)」

「あぁ。きっと、ウパーディセーサのような怪物にならずとも人間をアップグレード出来るこの技術なら、もっと普及するかもね。一般人でも、車に轢かれても死なないし、自分で治癒玉も作れる。良い世界だと思わないかい?」

「(確かに。それはすごいと思う。けど、魔法も、使い方によってはウパーディセーサみたいに兵器になっちゃうんじゃない?)」

「それはそもそもこの世界さ」

「(え?)」

「この世界では魔法は何千年も前からある。それでも俺達の世界と同じように人間社会は紡がれ、繋がってる。ここと何も変わらない」

「(そっか)」

「・・・本当は、少しだけ、罪滅ぼしなんだ。エーバドルフが作ったウパーディセーサは世の中に本当に沢山普及してる。でもそのせいで不幸に見舞われる人が増えるなら、俺も、ウパーディセーサではないもっと自然な形で、より強く人類を進化させるこの研究を辞める訳にはいかないからね」

読んで頂きありがとうございました。

とにかく動物キャラが沢山出ましたね。ほのぼのした話になった感じですが、ユピテルの研究が、また何か世界に大きな影響を及ぼさないといいんですが。

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