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逆襲のアルテミス  作者: 加藤貴敏
第4章「ウォー・ゲーム・オブ・ハザーズ」

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「未来に微笑む」後編

スレイシニク、警察本部。会議室には緊迫感が充満していた。今まで積み上げてきたものが崩れ去るのではないかという恐怖。でも会議室の誰一人として、声を上げたり、席を立ったりはしない。いきなりやって来た蘇りし者が、デウンネスを潰しに向かった。そんな気持ちの整理もつかない突拍子もない情報が突然舞い込んでそれから、いつまたどういう情報が入ってくるか。固唾を飲んでいるから。緊迫と静寂。そんなどこかの会議室の事情など気にする事もなく、ファティマは転移した。

「ワンワン!(やっちゃうぞー!)」

ボンたち3匹の周囲から、瞬く間に蔦が飛び出していく。誰かを標的にしたとかではない、まるで上に向かって伸びる蔦の津波。為す術もなく、そこにいた者達は蔦に絡め取られていく。それは5分もかからなかった。手を伸ばす隙間もないくらい、その廃工場は“超過密の森となった”。

「何が、起こったんだ・・・」

蔦に下半身を呑み込まれながら、超過密の森を眺める1人の男が呟く。

「ガウガウ(これでいいのかな)」

「ワンワン(悪い奴らは土に還るからね)」

悪い奴ら。その言葉に一瞬だけ首を傾げたファティマは、直後にその意味を悟った。スルスルっと蔦の中から滑り落ちてきた数人。その人達は未だに何が起こったか分からず、ただキョロキョロしていた。

「ワウワウ、ワンワン(蔦から心の不安度を読み取って、デウンネスじゃない人は出してあげたよ)」

その直後、下半身だけ呑まれていた運の良い男はスルスルっと蔦に全身を呑み込まれていった。

「ガウガウ(この中にボス居るのかな)」

「ワウワウ(居るんじゃない?)」

「ガウガウ?(分からないの?)」

「ワンワン(分からなくてもいいんじゃない?デウンネスを潰せるんだから)」

「ガウガウ(そっか)」

一瞬で終わったはずだった。それから数時間後、警察車両が沢山やって来て、警官達が超過密の森を見上げると何やら落胆した。

「デウンネスの人間は、もう全員死んだのか?」

問いかけたのはデウンネス対策班の監察官の男性。

「ワンワン(うん。今頃はもう人間の形なんて残ってないよ)」

「死んだそうよ」

「デウンネスのボスは貴重な情報源だった。宗教団体との繋がりを知る上で。ボスを検挙すれば宗教団体の人間だって引っ張れた」

「報いよ」

「え?」

「今まで沢山の人達を傷付けた。報いは突然やって来るものよ」

「だからって、これじゃただの虐殺じゃないのか?」

「デウンネスを生かしておいて、そのせいで傷付く人達はどうでもいいのかしら」

「違う!それでもこんなやり方は乱暴過ぎるだろ!」

「なら、時間切れね」

「は?」

「あなた達がモタモタしてるからよ。とにかく、私の最優先は人を救う事よ。もうすでに罪を犯した者には容赦しないわ」

「・・・クッ。あなたは確かに福音だ。だけど、同時に無慈悲だ」

スレイシニク中に駆け巡った、デウンネス消滅のニュース。同時にこれからファティマが魔法で病気と怪我を治し、シーザリアンたちが無限に食糧を生産するという話も広まり、人々は歓喜した。先ず最初にボンたちが作ったのは自分達の家。それから周囲一帯に畑を耕した。そこに行列が出来るのに時間はかからなかった。

「すごいな。シーザリアンも、シーザリアンフルーツを作れるなんて」

ビタミンやミネラルを全方位に栄養を取れる素晴らしいフルーツ、ジュエル。すでにスイーツとして完成しているフルーツ、タルトパイン。そして肉類と同じたんぱく質が取れるフルーツ、サーロインアップル。それぞれボンがジュエル、ヒュンがタルトパイン、コンがサーロインアップルを無限に生産していき、数時間も経たない内に「ファティマの家」の周囲にはホームレスや親の居ない子供が居座った。それから翌日、そこにやって来たのはアミセル。

「早速取り掛かるぞ」

「はい」

アミセルが高級キャンプチェアに座って、シェフのエレモナと料理人が料理を始めるのを眺める中、アミセルの屋台に続々と人々が集まってくれば、やがて人の流れを整備する警官がやって来て、マスコミもやって来た。

「ファティマさん、お話伺っても宜しいですか?」

「良いわよ?」

アミセルの屋台に人々が並んでる一方、ファティマの前には病人や怪我人の行列が出来ていた。と言ってもファティマの仕事は治癒玉の充電だけ。

「ファティマさんはスレイシニクの女神と呼ばれていますが、どんなお気持ちですか?」

「そりゃあ悪くないわよ。でも私はただ貧困に苦しむ人達を救いたいだけで、私が何者かなんて気にしてないわ」

「ファティマさんがデウンネスを消滅させて、誰かが傷付けられる未来を無くした事はとても称賛される事だと思います。ですがその一方で、デウンネスを消滅させたそのやり方に否定的な意見も未だ無くなっていません。こうやって貧困の方々を救うのは、その罪滅ぼしなんでしょうか」

「私は罪だなんて思ってないわ。デウンネスは報いを受けた。それだけよ。それに私は元々、貧困を救う為に来ただけで、デウンネスを潰したのはあの子達の判断よ」

「あの子達って、シーザリアンですか。ファティマさんが命令したんじゃないんですか?」

「私達はただの家族よ。あの子達にはあの子達の意思があるのよ」

「シーザーの意思でもないという事ですか?」

「そうよ」

それから、そのネーイスという街は、最早ファティマの国と囁かれるようになった。ファティマ自身はそんな事は気にしてないが、そんな中でとある日、1人の男がファティマを訪ねてきた。

「こんにちはファティマさん。私は『蜜蜂の会』という団体を取り締まっているカズナレンといいます」

「何か用かしら」

「あなたの慈愛と、神の鉄槌が如く無慈悲さを併せ持つその行動にはとても感銘を受けまして、是非とも私共にもお手伝いをさせて頂けないかと思いまして」

名刺と共にパンフレットを受け取ったファティマ。パンフレットをまじまじと見つめるファティマを横目にしながら、カズナレンは広大な畑を眺める。

「シンプルに言えば、出資をします。この活動を広げるにはどうしたって資金は必要ですから。それにあなたはいづれ、政界に向かうべきお方」

「政界って?」

「政治家ですよ。私共と歩めば、必ずこの国の政権を取れます。つまり、この国のトップになって、理想の法を作り、思い通りに国を動かせる」

「国を動かす・・・王になるって事?」

「この国は王制ではないので王にはなりませんが、まぁ同じような意味ですよ」

「そう・・・興味無いわね」

「・・・え。貧困を救うのに1番必要な力ですよ?」

「んー。私は私のやり方でやるわ。人の手は借りない」

「人は群れで生きる生き物です。あなた1人で出来る事なんてとても小さいとは思いませんか?」

「私は、1人では生きていけない人を助けに来たの。私が人から手を借りないといけないくらい弱かったら意味ないじゃない。それに私は1人じゃないわ」

「そうですか。でもいづれ分かる時が来ますよ。人間社会で生きるとはどういう事か」

去っていくカズナレン。そんな時だった、1人のホームレスの男性がふらっとパンフレットを覗き込んだのは。

「気をつけろよ?」

「え?」

「そもそも、こいつらだ。デウンネスに献金してた宗教団体は」

「それって、あのカズナレンって人がデウンネスを作ったって事?」

「いや、それはそうと言えないんだが、けど、少なくとも、あいつはお前を恨んでるはずだ」

振り返るファティマ。もうすでにカズナレンの姿は見えなくなっていた。それから1時間もしない内にとあるニュースがスレイシニクに広がった。

「ファティマさん!」

ファティマはスマホは持たされているが使いこなせてはいない。だからそのニュースを知ったのは、ファティマの家の近くに住む、ファティマの“ファン”の女性。

「これって本当?」

そう女性がファティマに見せたのはスマホ。ネットニュースに書かれていたのは、ファティマの家のシーザリアンフルーツには人体に悪影響な物質が含まれているのではないか?という事。ファティマの家のシーザリアンはシーザーの指示で動いていない。だからそれはシーザリアンフルーツとしてはとても不確かなもので、更にはファティマの家が建つ場所はその昔、科学薬品を扱う工場があった場所で、安全な土壌ではない事から、有害な成分があっても不思議ではない、そして何よりファティマのシーザリアンはデウンネスの人間達の血に染まっている、きっと今もシーザリアンフルーツには血が混じっている事だろう、という記事だった。

「有害な成分・・・」

「こんな言いがかり、酷い。私だって毎日食べてるのに」

「何かあったのか?」

再びホームレスの男性がコンと共にやって来れば、ファンの女性はその男性にもスマホを見せる。

「ったく、やってくれたな、カズナレン」

「え?カズナレンって蜜蜂の?」

「あぁ、蜜蜂の会はマスコミ業界にも精通してるからな、それに政党とも繋がってるし発言の影響力がある」

「でも、蜜蜂って、別にデウンネスと繋がってる証拠は無いって」

「まあな。けど、カズナレンはデウンネスへの金の流れ自体は認めてるだろ」

「うん。でもそれはデウンネスって名前になる前の慈善団体でしょ?テロが始まってからはしてないって」

「そんなの詭弁だ。ずっと繋がってるに決まってる」

「そう、だよね、やっぱり」

「とにかく、カズナレンはクーデター部隊を潰された事を恨んでるはずだ」

「ワウワウ?(どういう事?)」

「お前はいいんだ」

男性が最早飼い主かのようにコンに優しく話しかけて連れていっていくと、コンが担当する畑の近くにあるベンチに座った。

「あ、あの、私は、ファティマさんの味方だからね?」

そう女性が微笑めば、ファティマは頷いた。そんな時だった、16歳くらいの目つきの悪い男の子がやって来たのは。

「なぁ」

「ん?」

「本当なのか?シーザリアンフルーツが、有害って」

「そんな訳ないでしょ!」

即答したのはファンの女性。

「でも、土壌が悪いって」

「ボン」

子供達と過ごしていたボンがやって来ると、そのまま3人の子供達もついてきた。

「ここの土は悪い土なのかしら」

「ワンワン、ワウワウ(耕されなかっただけで、別に土自体は悪くなかったよ。でももし悪くてもボクたちの力で浄化出来るし)」

「そう。ボンたちは土を浄化出来るって」

「そうだよね。シーザーの力だもんね。ほら、やっぱり悪い土なんかじゃないって」

「ワンワン?(何の話?)」

「でもさっき、クラスの奴らが話してた。シーザリアンフルーツを食べるとシーザーに洗脳されるって」

「ワンワン(そんな訳ないじゃん)」

「私だって毎日食べてるから。君もそうでしょ?」

「・・・まあな。でも、どうすんだよこんな噂流されてさ」

「うーん。ちゃんとした調査機関に調べて貰えばいいんじゃない?マスコミ使って言いがかりつけられるなら、それを1つずつ証明していけばいいんだよ」

それから翌日になると制服警官達が訪ねてきた。いつもは観光客も沢山来る「ファティマの家」。でも今日は元々住み着いてる人達やファティマに好意的な人達しか居ない。

「ファティマさん、1つ宜しいですか?」

畑を眺めていたファティマが振り返れば、警官達はファティマのそばに居るギンを怪しく見つめる。

「何かしら」

「昨晩に通報がありまして、そちらのドラゴンに怪我をさせられたと」

「ガウ(え?)」

「昨晩、子供と近くの公園にいましたよね」

「ガウガウ(居たけど、遊んでただけだよ)」

「ここの子と遊んでただけだって言ってるわよ?」

「すみませんが、我々にはドラゴンの言葉は分からないので、あなたの言葉は証拠になりません」

「目撃情報もありますし、公園には焼け焦げた跡もありますので」

「怪我をした人、連れて来たらいいわ。魔法で治すから」

「・・・いや、そういう問題では。問題は、ここには凶暴な生き物がいるという事実でして」

「ガウガウ(昨日の夜は、エリバーとベリーンとボクしかいなかったけど。焦げた匂いはなかった)」

「でも、怪我をさせたんなら損害賠償はしなきゃだろ?」

そう言って歩み寄ってきたのはホームレスの男性。

「直接謝らなきゃいけないしな。それとも連れて来れない理由でもあるのか?」

ギョロっと、2人の警官達がホームレスの男性を睨んだ。それはほんの一瞬だった。

「あんたら、蜜蜂だろ?」

でも直後、2人の警官はハッキリとホームレスの男性に顔を向け、とても冷たい眼差しを向けた。

「まぁいい。で?直接会って謝ったらいけない理由は何なんだ」

「それは・・・」

「カズナレンに言っとけ、お前の思惑くらいとっくに見抜いてるってな」

「何の話か分かりませんが、ドラゴンが危険な存在という事は事実なので、これからは気をつけて下さい」

背筋を伸ばして堂々と去っていく警官達の背中に、ギンは首を傾げる。

「ガウガウ(何しに来たんだろう)」

「さあねぇ」

スレイシニク、蜜蜂の会本部。とある部屋に居たカズナレンは鳴り出したスマホを手に取った。

「・・・そうか。分かった」

短い報告。それから高級オフィスチェアに座るカズナレンはデスクに肘を置いた。

「ホームレスの取り巻きごときが。デウンネスがあればあんな奴ら・・・」

ドアがノックされた。カズナレンが返事をすれば、入って来たのは1人の男だった。目を見開くカズナレン。

「お前・・・デウンネスは全員死んだはずじゃ」

「実はあの時、オレだけちょっと離れてて。そんで戻って来たらあんな事になってて、急いで逃げて隠れてました」

「まだ運が残ってたか。至急、潰して欲しいものがある。ただ人数は必要だから、そこら辺の半グレウパーディセーサでも雇えばいい」

ファティマの家。その2日後、生き残ったデウンネスの1人、そして10人の半グレウパーディセーサ達がそこにやって来た。11人は最初からウパーディセーサの姿で、まるでミサイルのように飛んでやって来たのだった。でもその直後、11人はゆっくりと銃を下ろすように人間になった。

「何だ、この感覚は」

敵意の焼失。そんな自覚すらない男達の下に歩み寄っていくのはファティマとホームレスの男性、そして蜜蜂の会とは無関係の警察官。

「無駄だぞ。今頃、カズナレンの下に警察が向かってる。デウンネスの本拠地にいた一般人から情報を聞いてようやく検挙に向かった」

──昨日。

ファティマの下にやって来たのはデウンネス対策班の監察官の男性。

「また先を越されるのは勘弁だからな、明日、カズナレンを逮捕する」

「罪状は?デウンネスとの繋がりの証拠が出たのか?」

そう聞いたのはホームレスの男性。

「いや。罪状は拉致、監禁の主犯。監禁の被害者からは、デウンネスのアジトにて通話を介してカズナレンから、デウンネスとしての仕事の勧誘を受けたと聞いた。勧誘を断れない状況だったという事もあって、我々はカズナレンを主犯の1人とした」

それからデウンネスの1人と半グレウパーディセーサ達が警察に連行されていき、それをファティマの家に“住み着いてる人達”が眺めていく。

「何にしてもカズナレンが逮捕されたら、もうデウンネスの問題は解決なのかな」

ファティマのファンの女性がそう言うがホームレスの男性は渋い顔で唸り出す。

「どうだかな。相手は宗教だ。そう簡単じゃない」

「それでも私はここを守るし、あなた達も守るわよ」

ファンの女性が微笑み、ホームレスの男性も穏やかそうな表情で頷く中で、ファティマは駆け回る子供達を遠く眺めた。

読んで頂きありがとうございました。

ファティマも自分の生き甲斐の為に動き出して、戦い始めました。エイシンは除くとして残す蘇りし者は3人ですかね。

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