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逆襲のアルテミス  作者: 加藤貴敏
第4章「ウォー・ゲーム・オブ・ハザーズ」

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「王の未来」前編

サンジャラ、スンバ。あれから、シザクは未来を見ていない。力は失われてはいない。失ったのは“見るべきもの”だった。相変わらずエイシンは客の相手と趣味の釣りの日々。エイシンがやって来ると言っていた、得体の知れない怪物は未だに来ない。シザクは街を歩いていた。ふと目に留まったのは青果店の店頭に並んでいる、シーザリアンフルーツではない果物。シーザリアンフルーツが普及している今でも、どうやら普通の果物も売れてはいるようだった。それから本屋の店頭にあったフリーペーパーの棚に見つけたのは「蘇りし者の活動」という雑誌。

「・・・シルヴェルのチャリティーイベント、第1回は今日か・・・」

ニュースを見たり聞いたりして、蘇りし者達の動向は分かっている。特にシーザーの動向は本当に世界中から注目されている。そして最近になって注目されているのがアミセルの無料高級レストラン。この2人の存在感は強い。ディンクルスの“正義の行進”や、ファティマの“貧困救済”は賛否は分かれている。とは言え、蘇りし者達は皆、この世界に馴染んでいるという事。これがエイシンが望んだ顛末なら、エイシンもこの世界に馴染んでいるという事。──なら、私は・・・。

ケルタニア、とある大きな街の中にあるバンファット自然記念公園。そこはバラ園があったり、アスレチック広場があったりする、テーマパークのように大きい公園。そこにシザクはふらっとやって来た。行き交う人々を見て気になったのは、車椅子に乗っている人が多いという事。そして“向こう”からやって来る人々が、とても嬉しそうにしているという事だった。

「あ、シザク」

振り返るシザク。そこに居たのはアルタライザーのリュナークだった。

「シザクも来たんだ」

そう言ってリュナークは屋台で買ったローストチキンを一口。

「あぁ。蘇りし者達がこの世界に馴染んでる様子が気になる。そう言うお前は、イベントの警備員って訳じゃなさそうだな」

「あいや、警備員なんだけど、すごく美味しそうだったから。アルタライザーだから食事は必要無いけど、本当は興味あったんだよね」

「そうか。・・・やはり1番の集客要素は、ヘルの魔法治療か」

「うん。余命が短い人とか、お金が無くて治療出来ない人とか、そういう人達を魔法で治してる。とにかくすごい数のお客さん達だよ」

そんな時だった、小型犬のような光剣獣を抱えている子供が通りかかったのは。

「あれはね、シルヴェルが作った御守りだよ」

「御守り?」

「あんなちっちゃいけど戦闘力はすごく高い。いざという時は人を守ってくれる」



第87話「王の未来」



「リュナーク、サボってるのか?」

「あ、アキレス」

「ん、シザク。何かまた有益な情報をくれるのか?」

「いや、今は、平和だ」

「そうか」

「軍の中にはさ、光剣獣のせいで軍の権威が薄まるって意見もあるんだよね。オレ達の仕事が減っちゃうかも知れないのは確かだしさ」

「だからチキン食ってるのか?」

「えっこれはあの、単に食べてみたくて。アキレスだって食べてみたいって思うでしょ?」

「今は仕事最優先だ。気は抜くなよ?」

「大丈夫だって」

アキレスが去っていけばシザクは魔法治療が行われている方へ向かっていく。

「シザクの、生き甲斐は?」

シザクの隣を歩きながらリュナークはチキンを一口。

「生き甲斐・・・」

「蘇りし者達って、みんな何かしら自分の生き方を見つけてるよね」

「それはエイシン様がそう導いたからだ。エイシン様は大局を見ていて、そもそも戦いに勝つ為ではなく、シーザーもシルヴェルも、アミセルの事も、討たなくとも良くなるとしたらという未来も全て俯瞰しておられた」

「エイシンって、サンジャラの湖の。そうだったんだ。あの方の使者って、エイシンの事だったんだ」

「だが、今はもう蘇りし者達の戦争に危惧する事は無い。だから未来を見る力を授けられても今の私には、見るべきものがない」

「そっか・・・・分かった!」

「ん?」

「平和なのは良いことだよね。でも目標が無いなら、見つけられるようにオレが手伝うよ」

「何故」

「何故って、今まで助けてくれたじゃん。今度はこっちが助ける番だから」

「助けるなど、そんな大層な事では」

「とにかく何でも言ってよ。協力するからさ」

それからヘルが見えてくれば、シザクとリュナークは怪我人の列には並ばずに、ヘルが作った治癒玉が重病人を治す様子を見つめていた。

「あ、確か、シザクさん?」

そんな時に声をかけて来たのはテリッテ。

「いらっしゃい。楽しんでね。あ、ラフーナクッキーもう食べた?」

「いや」

「じゃあ食べてみて?美味しく出来たからおすすめだよ?」

魔法治療のコーナーの隣では翼人の世界の食べ物コーナーの屋台があり、そこにはカットされたラフーナだったり、その他の禁界の食べ物だったり、それからラフーナで作ったパンだったり、クッキーが並んでいた。だからシザクとリュナークはラフーナクッキーを貰い、自然を眺めながらそれを一口。

「んー、オレンジみたいな味だな。シンプルで優しい味。ねえシザク、確かエイシンって、湖の宿泊施設で占いをやってるんだっけ」

「あぁ。未来を見る力は、何も戦う為にあるものではない」

「うん、そうだね。シーザーとかアミセルもさ、自分の力で本当に沢山の人を笑顔にしてる。だからシザクも、そうしたら良いんじゃないかな」

「未来を見る力はエイシン様から頂いた力の欠片。私の本来の力ではない」

「じゃあシザクの力って?」

するとシザクは徐に掌を地面に向けた。すると丁度その真下にあった重そうな石が宙に浮き、吸い寄せられるように浮き上がり、掌に着く直前で止まった。

「物を意のままに動かせる」

そう言うと石は真っ二つになり、衛星のようにシザクの手の周りを周り始めた。

「あ、えっと、サイコキネシスってやつか」

「物質だけではなく、人の意識や、魔力に起因したものも」

「操る・・・あ、前にシーザリアンを操ったり、ジュピターの暴走を止めたのは、その力だったのか。シザクはさ、人助けと、悪者退治、どっちがいい?」

「悪者退治とは、ディンクルスのような?」

「まぁそうだけど。例えば、オレ達と一緒にチームを組むとか。それで悪い人達を捕まえたらさ、未来を見てカウンセリングするとか」

「悪者を、救うか」

「この前、本で読んだんだ。まぁユテスのを借りたんだけど、本当はさ、世の中には悪人なんて居ないっていう本。そりゃあ生まれた時から悪人な人なんて居ないっていうのは分かるけど、悪人って、ただ自分の不安とストレスに負けてるだけなんだって。だから本当に悪人に必要なのはカウンセリングなんだって」

「確かに、それは一理あるだろう」

「軍人として戦ってるとさ、やっぱり思うんだよね、この人も悪人じゃなかった人生があったんだろうなって。でもオレには未来は見えないし、暴力を制圧する仕事しか出来ないから」

「なるほど、私なら制圧も、そのカウンセリングとやらも出来ると」

「うん」

シザクはラフーナクッキーを口に放った。以前、私には、私を導いて下さった主が居た。だが今は、自分の歩む道は、自分で決めるしかない。主は、とても時間を気にしておられた。──足踏みをしていては、また叱られるな。

「考えるだけでは、時間が勿体ない。やってみよう」

「うん!」

ふとシザクは、久しぶりに頭の中の地図を広げた。ヘルの魔法治療に並んでいる人々の未来は、確かに長い道も分岐も無い。しかし魔法治療を受けた人々の未来は、正に大木のように高く、枝分かれしていた。

「美味しいでしょ?ラフーナクッキー」

笑顔で聞いてくるテリッテに、シザクとリュナークは共に良い返事をした。そんな時だった、シザクがふと、テリッテの未来の一端に目を留めてしまったのは。

「つかぬことを伺う。お前はこれから、この街を探索しようとお思いか」

「えっ・・・う、うん。せっかくルア達がこのイベントに誘ってくれたから、これが終わったらそうしようかなって」

「ならば、大きい市場には行かない方が良い。お前は、翼人だと知った者に襲われるだろう」

「えっそうなの・・・教えてくれてありがとう。でもそれなら尚更行かなきゃ」

「何故だ」

「私もあなたと同じ事をしたいから」

「ん?」

「悪い人が、どうしてそんな事をしたのか、ちゃんと向き合ってあげられたら、その人も嬉しいと思うし」

「・・・そうか」

「大きい市場って、どこ?ヒント少なくない?」

そう聞いたのはリュナーク。するとシザクはとある方に顔を向けた。

「赤い、鳥の像が付いた看板の」

「赤い鳥・・・あぁ、バーディアっていう大型ショッピングモールね。暴徒なの?規模によってはオレも行くけど。そいつは1人?ウパーディセーサ?」

「1人。ウパーディセーサだ」

「んー。なら僕も行こうかな」

シザクはリュナークを見て、テリッテを見た。2人の未来の分岐点には確かに今、交差点が生まれた。

「始めからリュナークの姿を見れば、その男はテリッテに話しかける事はなくなり、そのまま姿を消すだろう」

「げ、それじゃあダメじゃん。んー」

「リュナークは、テリッテが男を静めた後、見計らって行くのがいい」

「うん、分かった。やっぱりすごいね。その力」

その2日後。バンファット自然記念公園から5キロ離れたところにある、青空市場が盛んに行われている事で有名なメルテス森林公園に、シザクはやって来た。2回目のチャリティーイベントでも、ジュピターズ、翼人、シルヴェル、そしてヘルが担当するコーナーがあって、沢山の人で賑わっていた。シザクの姿を見つければ、すぐに駆け寄ってきたリュナーク。

「いやあ、シザクの言う通りになったよ。まぁオレはたまたま最後に通りかかった体で行ったから特に出来る事はなかったけど、助かったよ」

それからシザク達が翼人の屋台に行けば、テリッテは笑顔で手を振った。ふとシザクが気になったのは、2人の翼人が新しく来ているという事。

「シザクさん!この前はありがとうございました」

そう言うとテリッテはどこか困ったような笑みを見せた。

「一昨日は、本当に男の人に声をかけられたんですけど、その子、15歳の高校生だったよ。それで悪い事したの?って聞いたら、まだしてないって」

「まさか子供だったとはね。単にムシャクシャしてただけみたい」

「でも悩みとか聞いてあげたら、とっても喜んでた」

「でもちょっと拍子抜けだったな。どんな危ないウパーディセーサかと思ってたから」

「それでその子、レウンっていうんだけど今日の事誘ったから、その内来るんじゃないかな」

思わずシザクは拍子抜けするように笑ってしまった。そんな様子にテリッテはキョトンとする。

「あと10分もしたら、ここにウパーディセーサが来ると伝えるつもりだったが、脅威ではなかったようだ。もう少し先を見れば、確かにそのレウンというのは、ここでクッキーを食べている」

「シザクって、結構早とちりなんだ」

そうリュナークはラフーナパンを一口。

「で、でも、危ないと思う事は大切だし、私は良いと思うよ」

そう言ってテリッテがラフーナパンを差し出せば、シザクは微妙な顔でそれを受け取った。やがてレウンがやって来て、テリッテと話しながらラフーナを食べている一方、シザクはシルヴェルのコーナーを眺めた。高級キャンプチェアに座っているシルヴェルとルアの隣には礼儀正しくお座りしている光剣獣が1匹居て、ふと1組の親子がやって来て光剣獣を1匹求めれば、シルヴェルは目の前に新しく“子犬のような光剣獣”を作り出した。

「わーい、ありがとう」

去っていく親子を眺めていたシルヴェルは、ゆっくりと歩み寄ってきたシザクに顔を向ける。

「それは成長するのか?」

「あぁ。その方が愛着が湧くだろう」

「そうか。時に伺う。お前は、求められ、慕われる王になりたいのだな」

「・・・そうだ」

「ならば、自分の国を作る事を考えてみてはどうか。今はただ蘇りし者として慕われているだけ。国を持ち、本物の王になった方が、お前は真に王として慕われるはずだ」

「その、未来が見えているのか?」

「勿論。未来は常に大木のように枝分かれしている」

「考えていない訳ではない。ただ我は、認知度が低い。国の王になる為には、人々に我の存在を好意的に認められなければならない。この活動は、その布石だ」

「そうか」

そんな時だった、シザクはパッと振り返ったのは。無論そこには誰も居ないので、ルアはキョトンとする。

「気を付けろ。お前に怨みを持った者が来る」

「何だと?」

「以前、巨大な生き物で街を破壊しただろう。そのお前がチャリティーイベントなどと、相当に怨みを持っている」

「我が蒔いた種だ」

そう言うとシルヴェルは立ち上がった。シザクが顔を向けている遠くの空を、同じように眺めた。少しすると飛んでくる何かが見えた。それはウパーディセーサだった。ミサイルのように飛んでくるウパーディセーサ。その場の何人かもそれに気が付いたところで、それは減速する事なくそのままシルヴェルに激突した。沸き立つ悲鳴。それでもルアが立ち上がらなかったのは。シルヴェルは片手でウパーディセーサを受け止めていたから。

「くっ!放せ!」

どんなにウパーディセーサが尾状器官から衝撃波を出して逃げようとしても、シルヴェル自身も、ウパーディセーサの首を掴む手もまったくびくともしない。やがて諦めたのかウパーディセーサは人間の男になり、シルヴェルはようやく手を放した。

「言いたい事があるなら聞こう」

「お前が破壊したテーマパーク!お前のモンスターのせいでめちゃくちゃだろ!それなのに!こんなところで何やってんだ!」

「お前はテーマパークの関係者か」

「あぁ、従業員だった。お前がこんな事やったって無駄だぞ。お前はそもそも破壊者だ!こんな事で帳消しになる訳ないだろ。あのモンスターを取り込んだジュピターズだって人気なんか出る訳ないんだよ!」

「言い訳はしない。出来る事はやろう。望みは、テーマパークを元通りにする事か?」

すると男はより険しい顔を見せ、シルヴェルの胸ぐらを掴んだ。

「それだけじゃないだろ!先ずは謝罪だろうが!」

「おいおい、落ち着けって」

そこにジュピターズのレッサーとオーエンがやって来て男を宥めようとするが、男がレッサーの手を勢いよく弾いた。

「何でだよ!負けて殺されかけて、何で手下なんかになってんだ!バカなのか?」

「手下っておい。いやまぁ、そう思われてもしょうがないかも知れないが、人は、誰だってやり直せる。このイベントはその証明だ」

「オッケー。お前の言い分は分かった。チャリティーイベントの収益はテーマパークの復興にも回すし、実際に復興の作業もシルヴェルとジュピターズが全面的に手伝う。あ、それに謝罪動画だって撮る。それでいいだろ」

「お前ら、麻痺してる。壊れたら作り直せばいい。死んだら魔法で生き返らせばいい。頭おかしいだろ!力に溺れてんだ」

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