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逆襲のアルテミス  作者: 加藤貴敏
第4章「ウォー・ゲーム・オブ・ハザーズ」

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「将軍と燃ゆる心」前編

その朝、アミセルは大地の大樹に居た。珍しく早起きしたアミセルはクラウンを連れてシーザーを訪ねたのだった。

「何か用か?」

「あたしはレストランを開く事にした。そこでお前の果実を仕入れたい」

「そうか、好きにすればいい」

「あたしのレストランは、金を取らない。そうなると、お前から食材を仕入れる事しか出来ない。だから、新しいシーザリアンフルーツを作ってくれ。そうだな、先ずはトマトが良い。大きくて肉厚で」

「待て」

「忘れたのか、お前はもうあたしの支配下だぞ?」

「違う、オレは、実際に口にして記憶したものしか果実に出来ない」

「ん、そうか。なら“果実の素材”を持ってこよう。それから、もう1つ頼みがある」

ベリカニア、ウルスの実家の果樹園。朝起きれば、ウルスは最初に倉庫にやって来た。ウルスの仕事は有機農薬や有機肥料の管理、製作、そして散布。ウルスの家の果樹園の桃は遺伝子編集によって、病気や害虫に強くなった高級桃。病気と害虫に強いから管理の難易度は低くなったが、それでも農薬と肥料は有機質にこだわっている為、それらを調合するのは自分達。だからその為の機械の手入れなどの仕事もある。そんな時だった、バッパードがウルスの下に飛んできたのは。そしてウルスは大地の大樹に“飛ばされた”。

「・・・えっ、宣伝、ですか」

「オレはネットの事は分からない。毎日、果実を持っていく者達に言伝ては出来るが、この時代においての効率的な宣伝は、お前に任せる」

「はあ、分かりました。でも、最終的な宣伝は口コミサイトや、テレビで宣伝して貰うのが1番です。先ずはシーザー様の言伝てで人々に集まって貰って、後はアミセルさんのレストランで実際に食事した客に宣伝して貰えばいいと思います」

「そうか」

シーザーが作った果実、シーザリアンフルーツ。それを蘇りし者アミセルが使って、最高の料理を作る。他でもないシーザーのそんな言葉だけでニュースになって、クラウンが撮っておいたフルコースの写真もあってか、すぐに話題になった。プレオープンは1週間後。場所はアミセルの居る古城がある街、アンエイにあるレストラン。

「良かったですね、シーザー様とオレがお願いしたから、ここのオーナーが定休日に貸してくれるんですよ」

ウルスに案内されれば、アミセルは女性シェフ、エレモナと共にそのレストランのキッチンを見て回る。

「悪くないな、広さも、食器も」



第82話「将軍と燃ゆる心」



ゼーレ帝国、ディンクルスの居る城。その朝の朝食は、国から委託されてやって来ている料理人が作る料理。英雄に対して作るものなので、手が込んでいて確かに美味い。

「いつもすまないな」

「えっ。珍しいですね、ディンクルスさんがお礼なんて、風邪ですか?」

「何でだよっ」

そうツッコミを入れて、いつもディンクルスと同じ食卓を囲むブレンは笑う。ディンクルスが望んだから、国が委託したディンクルス専属料理人の女性ペネ。明るくクセがあり、ディンクルスに臆しない。

「昨日の食事会、どうでした?」

ちゃんとした良い肉を、ちゃんとした腕で料理されたステーキを食卓に出しながら、ペネが問いかける。

「とても有意義だった。最高級のフルコースというものだ」

「そうなんですか」

「グガー」

「あ、グガちゃん、おはよう」

「グガ」

巨大な体でドタドタと歩くジャガーノートにすらビビらず、ペネはキッチンに戻っていく。

「お前は偉いな、昨日も瓦礫運びだったんだろ」

そう言ってステーキを一口食べるブレンに、ジャガーノートは徐にドッグフードの袋を持ってみせる。

「グガ、グガグガ」

「確かに報酬は食いもんだし、割りは良いよなぁ」

「グガちゃん、これ食べる?タルトパイン」

「グガーッ」

ドッグフードの袋をドサッと落とせば、ジャガーノートはタルトパインを受け取ってかぶりつく。そして美味しそうに喉を鳴らす。

「そういえばディンクルスさん、食事会にも出たんですか?タルトパイン」

「あぁ。それを更に複雑に、最高に美味く料理していた」

「いーなー。私も食べたかったなー」

ディンクルス軍の者達は、毎日街の復興を手伝っている。何故ならその姿が更に“寄付”を増やすから。サボり気味のブレンはそれを報酬と呼ぶが、仕事に就いてる訳でも無いので、結局それしかやることはない。

「うお、ディンクルス、アミセルって奴、レストラン開くってよ」

昼前になれば、アミセルのニュースは世界中に広がっていた。100席ある大きなレストランで催される、プレオープン。しかも無料。

「オレ行ってみようかな」

「えっ、私も行きたいです」

「え、おう、じゃ行くか」

ディンクルスはふと思い出した。それはアミセルの嬉しそうな笑顔だった。勝ち誇った笑みを見て、悔しいと思ったのは負けたからではない。

その朝、スンバのホウ湖にて。朝早く、エイシンの客が来る前にシザクは「ホウ湖の真ん中」を訪ねた。いつもの席で、エイシンは紅茶を飲んでいた。

「エイシン様。本当に、アミセルを討つ必要があるのでしょうか。アミセルが“死”を招く未来からは随分と遠ざかってますが」

「討つだけが解決でない。某は、ただ“討たなければならないとしたら”の顛末を視ていたに過ぎない。だが、その顛末は来ない。これもまた、真っ当な一筋の1つ」

「では、私はもう必要無いのですか」

「悲観は必要無い。どんな分岐にも必ず道は続いている。そなたは元より、某に身を貸していたに過ぎない。むしろ、使者として使っていた事を謝らなければならないほど」

「とんでもない。エイシン様の指示が故に、シルヴェルもシーザーも善の道を歩んだ。だからこそアミセルも。いつでも、エイシン様の判断は正しいです」

「時に、食事会は如何だったのだ?」

「それはもう、とても美味しい料理ばかりでした」

「そうか。1つ憂いがあるとしたら、得体の知れない怪物くらいか」

「では、これからは怪物を討つ為に動きます」

ダーラにて。カースベルクが社長を勤める企業「ベルセルク」自社ビル。30建てのビルの最上階は勿論社長の自宅。

「まるでお城みたいね」

「まあな」

だだっ広いリビングをボンたちが歩き回るのを眺めながら、ファティマは大きなソファーに座り、ハクジュソウは窓から街を見下ろす。そしてカースベルクは右手の指先に“遠隔マウス”を装着し、100インチの液晶画面を構えたパソコンを、まるでタブレット端末を扱うように“遠くから触っていく”。

「どんな事をしてるの?」

「ん、まぁシンプルに言えば、色んな物を作ってるってとこだな。アプリやらソフトウェアから、タブレット端末のハードウェアまで。後は防犯グッズっていう名目で武器を作ったり、最近はウパーディセーサ事業を始めたな」

「全然分からない。ソフトクリームは美味しかった」

「要は、人が生活する為に便利なもんだ」

「そう」

「早速出てるぞ。アミセルのニュース」

リラックスしてソファーに座りながら、指を動かすだけで遠くの大きな画面が動いていく。そんな奇妙な光景にハクジュソウが立ち尽くす中、ファティマも画面に映されたニュースを眺める。

「シーザーが直々に宣伝したのか。人が集まるだろうな」

「昨日の料理は本当に美味しかったから、きっとレストランも成功間違いなしね」

「だな。だが無料ってのはどうだろうな」

「いけないのかしら」

「周りの普通のレストランが潰れるだろう。目の敵にされるのは確実だ。そこは気にかけてやらないと」

「何故昨日言わなかった」

「言ったって、無料でレストランをやる事を諦めたりはしなさそうだったからな。それに、それはあいつの試練だ。それより、あんたらも生き甲斐ってのを見つけられると良いんだがな」

「生き甲斐」

「アミセルは、もうあんたの事は必要としてないだろうな。アミセルは、“アミセルの基準で戦争に勝った”んだ。手足も必要無いし、それにオレ達だって、もうアミセルと関わる必要も無い。アルテミスの奴らだってもうアミセルと本当の殺し合いはしないだろうし、ハクジュソウの力も必要無いしな。今は、自由ってやつだ」

「自由」

「ていうか思ってたんだけど、破滅の炎なんてただの思い込みなんじゃないか?」

「えっそんなはずは、ない、と思う」

「実際、アミセルは破滅どころか生き生きしてる」

「うん、そうよね。そう、なのかしら」

「まぁオレだって、別にあんたを支配してる訳じゃないし、特に不幸なんて感じてないしなぁ」

「思い込み・・・・・」

ふとカースベルクが、天井を見上げて固まったファティマに目を留めた時、急にファティマはハッとした。

「なら、確かめるわ」

ゼーレ帝国にて。今日もディンクルス軍は街の復興作業の手伝い。銅の力を持つ10人が、1人で何十人分の働きをする傍ら、ジャガーノートはゼリア・ノヴァと一緒に資材の運搬。そんな時、ふとブレンは1人でふらふらと向かった。その先はエルフ達によって蘇らせて貰った人達の待機場所。エルフはあれから毎日、ガルゼルジャンの犠牲になった人を蘇らせている。でもそんな時だった、突然、その場に歓喜が沸き上がったのは。

「終わったぞーーっ!!」

「イエーーイ!」

「やっと!・・・やっと、終わったのか?今ので本当に最後なんだな?」

「うん。最後。もう“新鮮な霊魂”は無い」

軍人の問いにイシュレがそう応えると、軍人達は皆安心したり、叫んで喜んだり、蘇った人に抱きついたり。どうやらこの瞬間、ガルゼルジャンの犠牲になった人が全員無事に蘇ったらしい。そんな歓喜をブレンは何となく眺めていた。蘇ったとは言え、街は蘇った人達を前のように受け入れる事は出来ない。だから蘇った人の待機場所では、蘇ったばかりの人はその途端に、この街に何が起きたのか、自分がどうなったのかを説明される。その中には号泣する人も珍しくない。そしてその瞬間の心情がどうであれ、即刻その場で仮設住宅への案内が始まる。ブレンはふと、走って来る1人の子供に目を留めた。走って来た子供はそのままイシュレに下に向かって行った。

「なあ、ベンはどこなんだ?」

「・・・ベン?」

「犬だよ!ベンが居ないんだ。生き返らせたんだろ?死んだ人、オレも全部生き返ったんだろ?ベンが居ないんだ」

「動物は・・・まだ」

「何でだよ、大事な兄弟なのに」

「分かった。すぐに君の霊魂と繋がりの強い犬の霊魂、捜すから」

それからまたブレンがふらふら歩いてきたのは、難民の為の食糧を保管する倉庫が並ぶ場所。そこにはトラックが停まっていて、ドライバーが積み荷を下ろしていた。集まってくる子供達。

「皆見てみろ、これがシーザリアンフルーツだ」

「うおおおー!」

子供達が歓喜すると、ドライバーが積み荷を勝手に開けてタルトパインを取り出してみせた。

「テレビで見たやつだー!」

「早くー!」

するとなんとドライバーはタルトパインを勝手に切り分け、子供達に配り始めた。子供達がやけに騒いでいるからと軍人がやって来れば、ドライバーは呆れるように怒られただけだった。今日も仕事をサボりながら、ブレンは仮設住宅エリアを歩いていく。

「ブレン」

そこはいつもの場所。仮設住宅エリアを自治する人が集まる建物のそば。

「おう」

「今日もサボり?」

声をかけて来たのは若い女性、リリエン。仮説住宅エリア自治会のリーダーの娘。

「無駄な時間でもないだろ」

「特に新しい問題は無いけど。食糧は寄付される分もあるし、それにシーザリアンフルーツが入って来るから、逆に多いくらい。やっぱりすごいよね食べ物って。食べ物があるってだけでこんなに皆精神的に穏やかになるんだもん」

「この前、自治会と市政のいざこざがあるって。解決したのかよ」

「食糧の供給はシーザリアンフルーツがあれば解決だから、後は生活用品かなぁ。SNSに書き込んでも、寄付じゃ追い付かなくて。でも最低限の数はあるから贅沢出来ないってだけで、問題っていうほど問題じゃないのかも知れないけど。でも、仮設住宅暮らしなんて、こんなもんなんじゃない?結局、欲しいのは生活用品じゃなくて、元の生活だし。もうそこは受け入れるしかないっていうかさ」

「大変だよな」

「あなたは良いねぇ。お城暮らしで」

「オレだって、別に充実して幸せに生きてる訳じゃない。何かずっと、宙ぶらりんっていうか。力が有り余ってて」

「窮屈なの?」

「・・・そう、なのかもな」

それからまたふらふらと歩きながら、ブレンはふと思い出した。それはガルゼルジャンとの戦い。今まで生きてきた中で1番激しい戦いだった。いやむしろ圧倒されて戦えたと思えるほど余裕は無かった。でも、面白かった。退屈はしなかった。そんな時だった、荷物を運んでいる、銅の力のアングサとすれ違ったのは。

「ブレン、またサボりか」

「あれだ、パトロールのようなもんだ」

「ようなもんって。さっき子供達も言ってたぞ、今日もブレン居ないんだねって。あんまりディンクルス軍の評判落とすような事すんなよ?」

「分かってる」

あれ以来、大きな戦いはない。だから“あの力”も消えた。ディンクルスが発動する“チェイン”。ディンクルスが、自分の力を分けた者達に“霊力の繋がり”を作る事で、お互いの力を何倍にも増幅する。あれからディンクルス軍も増えた。今またチェインを発動すれば、きっと世界で最強の軍になる。どんな戦争にも勝てる。だが、肝心の敵がいない。──それに、サボってるのはオレだけじゃないぞ。

城のある公園に戻れば、公園だから当たり前だが遊んでる人達や散歩している人達がいて、そしてブレンの下にデークスが駆け寄ってきた。デークスは頭の位置が2メートルに達する紺碧の光剣獣で、ブレンのお気に入り。姿は犬だが、犬というより馬のように首筋を撫でれば、デークスも甘えるように“キュンキュン”と鳴く。光剣獣は目も口も無い、まるで宝石のような美しい物体。だから鳴き声も、まるで洞窟内で金属音が反響するような感じ。

「お前は退屈じゃないのか?」

「キューン」

「そうか、良かったな」

ジャガーノートと同じで、何となく分かる。するとデークスはついてきて欲しいとブレンを歩かせた。暇だからブレンもついていくと、やがてデークスはもう1体の紺碧の光剣獣、ハンバルスの下にやって来た。

「キューン」

しかしデークスの問いに、ハンバルスはキュンと鳴いて去っていった。

「あいつはほんと、素っ気ないよなぁ。ていうか、パトロールをサボってるのはお前の方か」

「キュンキュン」

「そりゃあオレもサボってるけど」

「キュン」

「確かにパトロールなんて、ハンバルスとあいつで十分だもんな」

そう言ってブレンとデークスはやって来た。それは城の正面入口の前に作られた小さな立派な台と、その上に立っている紺碧の騎士、トール。トールはそれこそ石像のように全く動かないが、ディンクルス軍の中で1番の完璧な警備ロボット。デークスはお座りして、ブレンも一緒にただトールを見上げるが、トールは全く動かない。ふと観光客がやって来て、トールと一緒に写真を撮っても、トールは全く動かない。

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