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逆襲のアルテミス  作者: 加藤貴敏
第4章「ウォー・ゲーム・オブ・ハザーズ」

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「将軍と燃ゆる心」後編

大地の大樹にて。そこにやって来たのはファティマ1人。大地が蠢いて道を作り、道の終わりで2本の木が行き止まりを作って、それから2本の木が左右に開けばシーザーが現れる。

「相変わらずテリトリーには厳しいのね」

「何か用かと言いたいところだが、少し待ってくれ。今は収穫した果実を輸送車に積んでいる最中だ」

「手伝いは必要かしら」

「必要無い」

せり上がった大地の隙間から覗けば、広大に広がった果樹園から、果実が転移して消えていく。消えた果実は停まっている輸送車の前に並べられた出荷用段ボール箱に直接現れていく。それから果実が詰まった箱を、ドライバーやスタッフと見られる者達が輸送車に積んでいく。ふとファティマが再び果樹園に振り返れば、消えた果実は瞬く間に実っていく。

「あなたに1つ聞きたい事があるの」

「何だ」

輸送車の方を見つめ、右手を少しだけ動かしながら、果実の転移に集中してるシーザー。

「私は破滅の炎。私と関われば不幸が訪れるはず。あなたは今、どんな不幸を感じてるのかしら」

「・・・不幸。そんなものは感じていない。オレは使命を理解し、それを全うしてる」

「そう」

「むしろお前と会ったからこそ、アミセルはここにやって来て、シーザリアンフルーツが生まれた」

「え、私が?・・・そんな事ないわよ。アミセルは私が居なくとも、あなたに会いに行ったはずよ」

「アミセルは借りを返す為に、オレに料理を食わせた。それは、お前がオレの果実をアミセルに食わせたのがきっかけだ」

「それは、そうなのね」

「シーザリアンフルーツが生まれたきっかけを作ったのはお前だ。お前はオレに、この世界に幸運をもたらしたんだ」

「私が・・・・・幸運を」

「シーザー様!ありがとうございました!」

輸送車が去っていく時、また別の乗用車が1台やって来た。車を降りたのはとある男性。

「初めて見る客だな」

「もう岩の道なんて要らないんじゃないかしら」

そう言ってファティマが行き止まりの役をやっている木々を通り過ぎると、シーザーはどこか微妙な顔で岩の道を消していく。

「突然の訪問失礼します。私はシューネ・レビーといいます。料理人です」

「何の用だ」

「実はその、厚かましいとは思いますが折り入ってお願いがあります。新しいシーザリアンフルーツを作って欲しいんです。私は料理人として、初めて見たサーロインアップルの調理にとても心が踊りまして。是非また、未知の果実を調理したくて」

「そうか。ならばお前の腕を見せて貰おう」

「あ、実は用意してあります。私が調理したサーロインアップルを召し上がって頂きたくて」

それからシューネが車から持ってきたのは保温バッグ。それを開ければ、取り出したのはハンバーガーだった。

「牛肉だけのパテに、サーロインアップルに火を入れて輪切りしたもの、柔らかいサニーレタス、そしてすりおろしたサーロインアップルとデミグラスを使ったソースをかけて仕上げました。バンズは肉汁を吸って丁度良くなるようぎっしりしたものを使っています」

ハンバーガーにかぶりつくシーザー。豪快な食べっぷりと、良い匂いに食欲がそそられるファティマ。

「・・・美味い」

「ありがとうございます!私はハンバーガーを専門に店をやっていて、これまで沢山のハンバーガーを研究してきました。そしてこれが、タルトパインのフライです。少し乾燥させてから短時間でからっと揚げる事で、甘みと旨みを凝縮させました。良かったらあなたもどうぞ」

「あら、ありがとう」

シーザーと共に、ファティマはタルトパインフライを一口。

「うん!デザートみたいに甘ったるくない。食べやすくて美味しいわね」

「良かったです。甘みが飛ばないように工夫したんです」

「お前の腕は確かだな。認めてやる」

「ありがとうございます!良かったら今度店にも来て下さい。研究を重ねたハンバーガーを揃えていますので。これ、店の名刺です」

「あぁ。で、どんな果実を望むんだ」

「えっと、新しいシーザリアンフルーツなら、どんなものでも。でも強いて言うなら、今までに見たことのないものを」

「見たことのないもの」

少し難しそうな顔のシーザーを、ファティマは初めて見た。それはとても人間らしかった。それからシーザーがすっと右手を動かせば、すぐそばに小さな木が1本生え、果実を1つ実らせた。それはまるで宝石のように美しい水色の果実だった。全く果実らしくない見た目だが、だからこそシューネは目をギラつかせた。

「すごい、何ですかこれ」

「先ずは食ってみるがいい」

そう果実をもぎ取れば、リンゴほどの大きさの果実を半分に切り、シーザーはそれをシューネとファティマに差し出した。未知の果実の断面はゼリーのように透き通った青白い色をしていて、一口かじればその食感はリンゴより少し柔らかい程度にシャキッとした。

「これは、ニンジン、いや、コーンのような、いやもっと複雑な甘み。まるで野菜ジュースのように甘みが濃縮していて、でもすごくすっきりしてくどくない」

「今まで、人々がオレに様々な食べ物を寄越してきた。だから、それらを集約した」

「すごいです!見た目も新しいし、例えようのない味、正に新しい味です。まるでスーパーコンピューターの品種改良AIだ」

「この果実の名前は?」

しかしファティマの問いに、シーザーは空を見上げた。

「まるで宝石みたいにキレイですから、宝石のような名前なら、覚えられやすいと思います」

「ならば、ジュエル」

「そのままじゃない」

「いや、それくらいが丁度良いと思います。これ、是非私の店で使わせて下さい」

「あぁ、好きなだけ持っていくといい」

そしてシューネは去っていった。走り去っていく車を見送りながら、ファティマはジュエルを一口。

「幸運は、枝葉のように無限に延びていく」

「すごいわね。あなたの力も、生き甲斐も」

「お前は、使命が分からなくて迷っているのか」

「実は、そうなのよ。もし本当に私が破滅の炎ではないとしたら、私の力は何の為にあるのかしら」

「オレには興味無い」

「そうよね」

「お前の力が何であろうと、お前は幸運を運んできた。それだけだ」

その夜、ファティマはホウ湖にやって来た。エイシンの占いの客が居なくなった時間を見計らってホウ湖の真ん中を訪ねれば、エイシンはいつものテーブルで紅茶を飲んでいた。

「今日は、ただの客のようだな」

「そうね」

「まぁ座るがいい。紅茶は飲むか?」

「頂こうかしら」

ホウ湖のスタッフが紅茶を持ってきたので、ファティマはとりあえずミルクを入れて紅茶を一口。

「私の未来、粗方見終わったかしら」

「聞きたい事は?」

「私は、破滅の炎ではないのかしら」

「その答えは、未来を見ずとも分かるだろう」

「え?」

「現在とは、結果の積み重ね。そなたが今何者かは、過去を見れば分かる。だが、某には未来しか見えない。故にここに来るまでの事を聞かせて貰おう」

「そうね、私は破滅の炎だと自覚しながら、この時代で戦おうとした。蘇りし者達に会いに行っていく中で、そんなに長い間ではないのに気が付けば仲間が出来て、だから分からなくなったの。私はずっと、私と関わった人は不幸に見舞われると思ってたけど、全然そんな事なくて。さっきなんかシーザーが、私と関わったから幸運に見舞われた、私が幸運を運んできたって」

「ならば、それが真実なのではないのか?」

「そう、なのかしら。だったら私はこれからどう生きていったらいいのかしら」

「未来は無数にある。道に迷っている者は決まって、どこに向かえばいいかと尋ねてくる。しかし某は、迷いは必ずしも、未来のせいにしてはならないと考える」

「どういう意味」

「そなたが立ち止まっていても、時間は止まらない。ただ待っているだけなら、平凡な未来に向かうと焦っていても、そうなるとは限らない。迷うというのは、向かうべき道に迷っているというものではない。ただ心が穏やかではないというだけ。今の立ち位置に心が落ち着くなら、未来に焦らない人だって沢山居るものだ」

「心が、穏やかじゃないだけ・・・」

「心が穏やかであるからこそ、避けたい未来を見極められる、本当に望む未来を見極められるというものだ。某は未来が見えるだけ、そなたの未来を決める権利は無い」

ファティマは紅茶を一口。それは甘くてすっきりしていて、丁度良く温かかった。

「今の立ち位置、それが分からなかったら?」

「それは、世の中を見て回る他無い。そなたの中にあるものだけでは答えが出ていないのだろう」

「そうね。気になるんだけど、これから私、また戦うのかしら?」

「そうだな、異世界の蘇りし者達、そして未知の怪物、それらは、必ずやって来る」

「怪物って?」

それから翌日の事だった、朝方にアミセルがいきなり大地の大樹にやって来たのは。その手にはシーザリアンフルーツ、ジュエルが握られていた。

「シーザー!これはどういう事だ!」

「何をそんなに怒ってる」

「怒るに決まっているだろ!お前はあたしの支配下だぞ!何で新しいシーザリアンフルーツを最初に手にするのがあたしじゃないんだ!」

「そんな事か。どうでもいいだろそんな事、それより味に不満なのか?」

シーザーはふとアミセルの手に目線を落とした。握られたジュエルは、一口かじられていた。

「いや、味は良い。だが、こんな事されたらプレオープンの新鮮さに影響するってクラウンが言ってたぞ」

「新鮮さ?」

「新しいシーザリアンフルーツの話題が他所に持っていかれたら客足が減るだろ」

「新しいシーザリアンフルーツなど、いくらでも作れる。その素材を持ってくるんじゃないのか?」

「それは・・・それより、これはどうやって作った」

「人々から様々な物を貰ったから、それらを集約した」

「それなら、今すぐ、新しいトマトを作れ!それから葉物野菜もだ!」

そう言ってアミセルはジュエルを一口かじる。溜め息と共にシーザーは木を育てた。それはトマトの木。2メートルくらいの木がザワッと生えれば、それから花びらが開いたものを、シーザーはもぎ取った。

「それはただの花だろ」

「食ってみるがいい」

中心には確かにトマトのような球体があるが、その周りには球体を包み込むように花びらがある。そんな掌に乗るサイズの花のようなものを受け取り、アミセルは1番外側の花びらを1枚ちぎって口に入れた。

「これは・・・トマトだ」

「外側ほど酸味があり、中心の果肉は果汁を蓄えている」

「うん・・・おぉ・・・トマトだ。しかも花の香りもする爽やかな果汁だ。お前はこんな芸当も出来るのか。面白い奴だ」

「昔に生きていた頃はよく花を育てていた」

「薄い花びらは酸味と食感、中心は甘さと香りを楽しめる。なるほど、これは人の目を引く。次は葉物野菜だ」

それからアミセルのレストラン、プレオープンの日。レストランの前には行列が出来ていた。話題になっているのは他でもない、シーザリアンフルーツ。この日までに数々の新しいシーザリアンフルーツが生み出され、人々の期待は最高潮だった。レストランのキッチンでは、アミセルの料理人達がテキパキと働いていた。

「そろそろ時間だ、オープンする。皆、頼むぞ」

「はい!」

料理人達、ウェイター達が一斉に返事をすれば、アミセルはレストランの前に並ぶ客に姿を見せた。

「レストランをオープンする!入ってくれ!」

ウェイター達が案内して、瞬く間にレストランが満席になり、料理が運ばれていく。それは肉料理とサラダが一緒になったワンプレートに、スープとデザートが付いた形式の料理。他のメニューは無い。肉料理に使う肉は、トウモロコシのような外見で、葉っぱを捲れば最高級の牛肉と鶏肉の遺伝子をそのまま再現されたブロック肉が詰まっているというシーザリアンフルーツ「コーンミート」。サラダに使われているものは、バラのようなトマトというシーザリアンフルーツ「ローズトマト」と、黄色とオレンジ色をした葉物野菜のようなシーザリアンフルーツ「オレンジレタス」。

「お、並んでるなぁ」

「楽しみ~」

そこにやって来たのはブレンとペネ。並んでる最中、ブレンは立てられた看板に目を留める。それは写真と共にメニューを紹介するもの。

「すげえな、全部シーザリアンフルーツかよ」

「わあ、美味しそ~、ジュエルのスープ。しかもデザートはあのタルトパインのティラミス」

それからブレンとペネもテーブルに案内されれば、料理が運ばれた。ブレンはすでに期待していた。何故ならレストランを出る客達が皆、満足げだったから。

「うおぉ、美味そう」

ナイフとフォークを手に取るブレン。コーンミートは料理された後だけ見れば、それがフルーツとは思えない。そもそもシーザリアンフルーツは、見た目がフルーツなだけ。だからコーンミートのステーキの香りは、最早本物。

「うん!もう、肉だ、普通に美味すぎる」

「でも油の味がほのかにフルーティーだね」

「このトマト、すげえな。花だぞ」

「可愛いよね。うわ、オレンジレタス美味しい。ふわふわした葉物なのにオレンジの甘みがする」

「んーっ。ジュエルのスープ、まるで、濃い野菜スープだな」

「けど爽やかでくどくないね」

メインディッシュを食べ終えた客には、すかさずウェイターがデザートを運んでいく。運ばれたデザートを前にペネは小さく無音の拍手をする。一口食べれば、ブレンもペネも言葉を失った。構造はティラミス。でもそれはまるで高級タルトケーキのような“完成形”の味。しかもそれを更にティラミスとしてアレンジしたもので、とても深い味わい。

「これは、私でも真似出来ないなぁ。タルトケーキとティラミスの融合。この前ニュースで見たんだけど、タルトパインを使ったスウィーツを作ってる人、結構居るみたいで。そういうチャレンジが流行ってるんだけど、きっとこれ以上のものなんか出来ないんじゃないかなぁ」

ふとブレンは振り返った。それはアミセルを呼ぶ声。そして客が感激をアミセルに伝えるそんな様子。アミセルはとても勝ち誇った笑顔だった。それからゼーレに戻って来たブレン達。すると城の前の公園にはディンクルスが居て、何やら人々に囲まれていた。人々は感謝の言葉を口にしていて、ディンクルスは頼もしく微笑んでいた。

「ディンクルスさん、どうしたんですか?」

「大したことではない、ただウパーディセーサを拾っただけだ」

人々が去ってもディンクルスのそばには1人の女性が居た。初対面のブレンを少し睨むような表情を見せたその女性は、金色のオーラをフワッと揺らめかせた。その瞬間にブレンは眉間を寄せる。──金色だと?

「この者の名はレイハ。私に戦いを挑んできた」

「えっ」

「何でそんな事」

「だって、ディンクルスは、サボってるから」

「ん?」

「私が街の復興をしているのが不服だと。世にはまだまだ悪者が居る、それを見て見ぬフリをするのかと」

「確かに、オレらは最近、戦ってはないよな」

「レイハは、私に渇を入れに来たという訳だ。だから私は、再び戦いで世を動かす事にした」

ふとブレンは目線を落とした。オレがすべき事を、こいつは、迷わなかったのか。

読んで頂きありがとうございました。

アミセルの影響なのか、それぞれが生き甲斐というものを考え始めてますね。

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