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逆襲のアルテミス  作者: 加藤貴敏
第4章「ウォー・ゲーム・オブ・ハザーズ」

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「摩擦が引き寄せるもの」後編

──2日前。

「(最初は、テリッテで良いんじゃない?それから、久し振りにヘリオス達にも会いたいな)」

「何で5人なのかな」

「(そりゃあ、分かんないけど、シーザーが誘うのと合わせて10人くらいの食事会って事なんじゃない?)」

「シーザーは、何で私達を誘ったのかな」

「(んー。シルヴェルが居るからって言ってたし、蘇りし者同士が良いって事なのかな。あっじゃあ、ディンクルスも誘ってみようかな)」

「え、絶対来ないって」

「ダメ元で誘ってみるよ」

「ヘルも行くの?」

「(え、うん。え?まさか、人間だけなのかな。酷くない?一応ボクも行こうかな。だって食べなくてもペルーニも行くんでしょ?)」

「うん」

「何か貰えるかも。とりあえずさ、行こうよ、ディンクルスのとこ」

あまり乗り気じゃないルアを連れて、ヘルはディンクルスの住んでいる城がある公園にやって来た。シルヴェルも一緒に来ているせいか、気配を感じてすぐにディンクルス自ら顔を出し、“観光客達”が少しだけざわつく。

「(ディンクルス、突然なんだけどさ、アミセルって分かる?蘇りし者なんだけど)」

「会った事はない。だがファティマが、蘇りし者を支配する為に動いていると言っていたな」

「(ファティマと会ったんだ)」

「あぁ」

「(それでさ、アミセルがね、食事会を開くんだ。それでアミセルがシーザーを誘って、シーザーがシルヴェルを誘って、だからボク達、ディンクルスを誘おうかなって)」

静かに目をぱちくりさせるディンクルス。でも呆れた様子や、怒る様子は見せず、ただ少し戸惑っていた。

「食事会・・・それが支配なのか?」

「(そりゃ分かんないけど、でも最高の料理を出すって)」

「ほう。わざわざ敵を誘うか。面白い奴だ。いつの時代でも、そんな変わり者は居るんだな」

「(もし良かったらなんだけど、一緒にどうかなって)」

「・・・分かった。いつだ」

「(2日後の夜7時。でもその前に迎えに行くよ。アミセルの場所、分からないでしょ?)」

「気配は感じるが、確かに会った事もない気配をアミセルだと確信は出来ない。言葉に甘えるとしよう。では待っている」

そして食事会当日、約束の時間の5分前。ヘルが1匹でディンクルスの住む公園にやって来ると、城の正面口から颯爽とディンクルスは現れた。シルヴェルの家に戻って合流してから、そして妙なメンツのルア達はアミセルの居る古城の前にやって来た。シーザー達はもう先にやって来ていた。シーザーがルア達のメンツに目を向けると同時に、ルア達もシーザーが誘った人達を見る。シーザーの親衛隊のウルス達3人、そしてシザク。

「(あれ?ファティマ達!何で?)」

ヘルの驚きに色々な目が向けられるそのメンツは、ファティマ、カースベルク、そしてハクジュソウ。

「私達はアミセルに誘われた。まさかこんなに、蘇りし者が集まるなんて」

「(シザクは、何で)」

「シーザーに誘われた。これは単なる食事会だ、警戒する必要は無い」

「(そっか。じゃあ安心か)」

「ワン」

「(やあやあ。また会ったね。こっちはレイカっていうの)」

「あら、同じ“有翼”なのね、親近感」

カツカツと、キレイな足音が妙に響いてきた。最初に振り向いたのはヘル。それから皆に注目されながらアミセルが姿を現すと、その服装は食事会の主催者に相応しいような、それでいて誰よりも目立つような豪華で気品のあるドレスを着ていた。

「よく集まったな」

ふとヘルが気になったのは、何故かクラウンもスーツを着ているという事。なのにその表情はどこか居心地が悪そうという事。

「ついてこい」

主催者なのに、何だか上から目線。そうヘルは敵意は無いけど、その場を包む変な緊張感を感じていく。それから案内されたのは、正にテレビで見たような王族の人達が食事をするような、長いテーブルのある広い部屋。でもテレビで見るような豪華な装飾は無い。

「好きに座ってくれ。先ずは飲み物と前菜を出す」

誰がどこに座るか、初対面の人達が当たり前のように戸惑う中、アミセルはさっさと部屋を出ていこうと歩き出す。

「(アミセル)」

「ん、何だ」

「(ボクたちの分もあるの?)」

「あぁ、ちゃんと用意してある」

微笑んで去っていったアミセルの背中に、ヘルは安心感さえ感じた。レイカも嬉しそうに笑顔を浮かべ、ボンたちもワクワクを感じさせる。

「城が豪華な割には、質素だよな」

口を開いたのはシーザーの親衛隊の1人、グリッター。

「このセンクレイス城は150年は使われてないそうだ」

応えたのはウルス。

「しかも50年くらい前から観光地としての価値もなくなって、完全に廃墟だったってさ」

「そうなのか、調べたのか?」

「あぁ。テロ組織に占拠されたとか、幽霊が居て、呪われるとか、色々な噂があるみたい」

「廃墟にしてはキレイじゃない?」

親衛隊の1人、リーンがそう言えば、ウルスもグリッターも相槌を打つ。初対面なので顔見知りじゃない人達の間で、特に会話は無い。何故なら仲良くする為に集まった訳ではないから。そんな空気を察してか、またすぐにアミセルは現れた。10人のウェイターを連れて。グラスに注がれていく、淡い黄色い液体。

「酒か?」

シルヴェルが尋ねる。

「いや。これはフルーツジュースだ。使っているのはリンゴとマスカット。好きなだけ飲んでいい」

おかわり自由のフルーツジュース。そう聞いただけでヘルは浮き足立つ。スッキリとしたリンゴの香りと、そこに少し混ざった甘いマスカットの香りが漂って、もうすでにヘルのワクワクはピークに達していた。ヘル達の犬用皿にもフルーツジュースが注がれる中、ウェイター達は前菜をテーブルに乗せていく。

「これはサーロインアップルのカナッペだ。香りの強いバリンデュルチーズと、少し焼いたホワイトマッシュルーム、そして甘みの強いフルーツトマトをセミドライにしたもの。それぞれをメインにして3種類用意した。それをソフトバゲットに乗せている」

「うまっ!」

最初に抑え気味に声を上げたのは、フルーツジュースを一口飲んだウルス。それからカナッペを食べながら、カースベルクやファティマも美味しいと顔を見合わせる。

「犬達には、カナッペの材料を全て混ぜたものだ」

「(わーい。・・・・・うまっ!すご!サーロインアップルが本当にお肉みたい)」

「それに、チーズとキノコとトマト、全部が細かくなってサーロインアップルと合わさってて美味しいわね。もしかしたら人間のより美味しいかも」

「おいおいレイカ、俺達のだって相当美味いぞ。これは間違いなく最高のシェフだな」

「分かるのかよ」

そんなヘリオスに思わず声をかけたのはグリッター。

「俺とレイカは、日頃から腕利きの専属シェフの料理を食べてる。大衆料理か、高級志向か、その違いは分かる」

「金持ちか。ま、有翼犬が居るんじゃそうか」

「どこのお金持ち?」

そう聞いたのはリーン。

「俺はヘリオス・ジャンヌダルクだ」

「お、まさかグライドスーツのか」

「あぁ」

「私知らないけど」

「確か、サクリアだよな?」

「あぁ」

「ま、ホールズでは知らない奴の方が多いかもな」

「ふーん」

シルヴェルはふとルアに顔を向ける。ルアが笑顔なので、シルヴェルはただ頷いた。サーロインアップルとセミドライトマトのカナッペを食べてから、フルーツジュースを飲んだディンクルス。噛み締めるように頷いてそれから、ふと目を向けたのはシザク。蘇りし者だという事は分かってる。だが有名なシーザーとは違い、名前も知らないし、会った事もない。敵意も無ければ、美味しいを共感しようと話しかけたい欲もない。

「スープは、ビシソワーズだ。キノコの遺伝子が掛け合わされた、香りが強いトリアンナルという品種のポテトをスープにして、そしてハーブの遺伝子が掛け合わされた、ハヴィーオという品種のポテトを揚げたものを具材として使用した」

「・・・・・おお、すごいな。シンプルなのに、こんなにポテトを感じるスープ、初めてだ」

「ハヴィーオのフライドポテトも美味しい」

「犬達には、トリアンナルとハヴィーオのペーストを揚げたものだ」

「(うひょーっ。美味すぎる)」

「最高ね。やっぱり人間のより美味しいかも」

「レイカ、俺達の食ってないだろ」

キッチンに戻ってきたアミセル。シェフ達がそれぞれの仕事に没頭する中、女性シェフがふとアミセルにアイコンタクトする。アミセルが頷けば女性シェフも頷いて、それからウェイター達は料理を運んでいく。

「魚料理は、最高級の白身魚と言われるデュレイドのムニエルだ。ソースにはサーロインアップルをベースにして、デュレイドのエキス、ハーブ、トリュフを合わせている。犬達には、デュレイドのほぐし身を同じ材料で和えたものだ」

アミセルはクラウンの顔色を伺う。ウェイターではないので仕事はせずただ立っているだけ。敵意の警戒もしないし、一緒に食べる訳でもない。でもクラウンは退屈そうではなかった。何故なら、シェフ達の料理は人間にも犬にも大好評だから。密着するくらい近寄っても、アミセルはクラウンに話しかけない。クラウンの退屈ではなさそうな態度に満足して、さっさと仕事に戻っていく。

「肉料理は、最高級A5ランクの牛のサーロインステーキ。ソースはサーロインアップルの果汁をベースに、コンソメを合わせた。犬達には、牛のサーロインステーキをサイコロカットしたもので、ソースは同じものだ」

「(イエーーイ!肉だぁーっ)」

「これは美味しいわね。ソースもあっさりしてるけどちゃんと存在感があって、肉を引き立たせてるわ」

「ワンワン」

「ボン達も美味しいのね」

「ワンワン!」

「良かったわね」

グラスにトクントクンと、フルーツジュースが注がれる。そのスッキリとした味と喉越しは肉料理の後でも飽きる事はなく、まるで口直しのようにサッパリとさせてくれて、とてもおかわりしやすい。フルーツジュースを一口飲み、ファティマはボンたちを見る。3体とも穏やかで、とても満足そうで、そんな姿を見ればファティマも満足する。

「デザートは、無論、タルトパインをメインに使ったものだ。メインディッシュは肉だが、このフルコースの本当のメインはデザートだと言っていい。薄く軽いパイ生地の上にタルトパインの果汁を混ぜたクリームチーズ、その上にはタルトパインのシャーベット、その上にタルトパインのメレンゲをプレート状に固めたものを乗せ、それからカカオパウダーを振り、タルトパインの種を散らした」

「すごい、タルトパインのティラミスか。キレイだ。見た目からして、最高級レストランのデザート」

「犬達には、タルトパインの果汁を多めに入れたメレンゲボールだ」

「(わー。一瞬サクッとして噛む前に溶ける~。けど果汁がすごい)」

フルコースが全て出されると、皆の前に立ったアミセルはとても満足そうに、そして勝ち誇ったように微笑んだ。

「あたしがお前達を集めたのは。無論、支配する為だ。お前達の時間と心を支配した。シーザーよ、この料理の一品一品は果実に出来るだろうが、満たされた時間と心は、決して果実になど出来ないだろ。この食事会は、それを証明する為だった」

「・・・確かに。料理を果実には出来る。だが、そんな野暮な事をする気もない。それほど、良い時間だった」

「負けを認めるか?」

「・・・・・認めてやろう」

その瞬間、アミセルは子供のように飛び上がり、笑顔でクラウンに抱きついた。

「(え?)」

しかしすぐに我に返ったようにクラウンから離れると咳払いをした。

「シーザーだけではない。ここに居るお前達全員、あたしに支配されたんだ」

「いや、そんな事で良いのかよ」

口を開いたのはカースベルク。

「(全ての蘇りし者を支配するって、こういう事だったの?)」

「確かに、殺さずに支配すると言ってたわね。なら、こういう事で良いんじゃないかしら。本当に美味しかったし」

「フッフッフ・・・ハッハッハ!あたしの勝ちだ!そうだろディンクルス」

「・・・・・これがお主の軸、か。なるほど。そうだな、完敗だ」

「あ、あの」

そんな時にウルスが口を開く。

「ん?」

「是非、レストランを開いたら良いと思います。あなたも人々を幸せにする力がある。ならもっとその力を使っていくべきだと思います」

「そう、だな。お前は、あたしがそれをあたしの生き甲斐に出来ると思うか?」

「生き甲斐・・・出来ますよ!絶対に」

ルアはファティマが言っていた事を思い出していた。アミセルはこれから蘇りし者を支配すると。そしてその力は、簡単に人を殺し、蘇らせるもの。だからどんな危険な人かと思っていた。でもその時、ルアはアミセルの満足げな照れ笑いを見た。

「私はここで失礼する。今日のフルコースは有意義だった。礼を言う」

そう言うとディンクルスはパッと消えた。すると次にはシザクが去り、シーザーとウルス達が去った。

「アミセルさん、今日はありがとうございました」

テリッテとルアがお礼を言えば、アミセルは気品のある微笑みを返す。

「(もしレストラン開いたら、やっぱり高いのかな)」

「高いとは?」

「(え?お金だよ・・・これだけのすごい料理だし)」

「あたしは金など取らない」

「(えっ)」

「あたしは、あたしのシェフがどれだけ素晴らしいかを見せつけたいだけだ」

「(まじか。じゃあレストラン開いたらボク行くよ。これが無料だなんて、もう、世界を救うレベルだよ)」

「救うか、いや、支配だ。そうか、なるほど、見つけたぞ。これが、あたしの、世界を支配する道だ」

「ならシーザーと良い勝負だな」

そう口を挟んだのはカースベルク。

「シーザーの“実らせる”力は、すでに発展途上国から絶大な支持を受けている。シーザーという存在で、もうすでに救われている国もある」

「またシーザーか。ならば、彼奴が実らせたものを、あたしは料理する」

それからルア達も帰っていき、アミセル達とファティマ達になればアミセルはシェフ達を呼んだ。

「皆、今日は素晴らしい仕事をしてくれてありがとう。シーザーを打ち負かせたのは、お前達のお陰だ。お前達を誇りに思うぞ」

「いえ、全てアミセル様の力と愛の賜物です。こちらこそ、アミセル様は私達の誇りです」

「だが、これから忙しくなる」

「え」

「これからレストランを開く。これからも、あたしの為に働いて貰うぞ」

「は、はい!うっ・・・嬉し・・・です」

「おい、泣くな」

シェフの女性に歩み寄り、慰めながら、アミセルは笑顔を浮かべた。そんな様子を前にファティマは少し驚きながらも、確かに自らも笑みを溢してしまうほどに満足感を感じていた。

「自分の店を持つのが夢だったか」

ふとそんな言葉を発したのはハクジュソウ。アミセルも振り返ったその眼差しは女性シェフを捉えていた。

「私は、ずっととある裕福な家庭の専属シェフでして、いつかレストランを開いてみたいと思っていました」

「って言っても、オーナーはアミセルだけどな」

「良いんです、それでも。アミセル様が私を必要としてくれるだけで幸せですから」

それから翌日の事だった、蘇りし者アミセルがレストランを開くというニュースが広がったのは。シーザリアンフルーツをメインに使った、最高級の料理。フルコースの写真を紹介しながら、全てが無料のレストランだというプロモーションは、すでに街中で少し話題になっていた。

読んで頂きありがとうございました。


シーザーの“実らせる”も、アミセルの“食”も、支配という点ではとても大きなものなんじゃないでしょうか。しかし世界の風向きが少し変わると、まだ生き甲斐に目覚めていない者がくすぶってきますね。

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