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逆襲のアルテミス  作者: 加藤貴敏
第4章「ウォー・ゲーム・オブ・ハザーズ」

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「破滅の炎」中編

タクシーの窓から、ふとファティマは目を留めた。それは信号待ちをしている人々。その中に紛れる花まみれの動物。

「さっきも見た、花の動物」

「あれはシーザリアンだ。シーザーが居る大地の大樹にはあとで向かう」

それから客を下ろしたタクシーは去っていった。そこは長閑な街で、風に靡く草花のざわめきがよく聞こえた。気配ですでに分かるので、ファティマは丘の上を見上げて静かに歩き出す。そんな時だった、シザリハウンドが3体、ファティマの周りを回り始めたのは。

「どうしたの?」

ファティマの問いに、匂いを嗅ぐことに満足した3体はお座りしてファティマを見上げた。無意識に笑みを溢したファティマは1体の頭を撫でる。そんなファティマの美しい横顔に見とれていたカースベルクは、やがて空を見上げた。

「あら、ついて来るの?」

緩やかな丘を上がるファティマとカースベルクと、3体のシザリハウンドたち。するとシルヴェルの家の庭先で最初にファティマ達を出迎えたのは、ヘルだった。

「(あの、もしかして蘇りし者の人?)」

「そう、私はファティマ。あなたは?」

「(ボクはヘル)」

「オレはカースベルク。今はこいつに世の中を案内してる。それで蘇りし者達に会いたいっていうから、1人ずつ会わせてるんだ」

「(ふーん)」

ファティマは目をぱちくりさせていた。こんなに大きな犬は初めてだから。そしてヘルの頭の上にはバッパードが乗っているから。

「(呼んでくるから待っててよ)」

「おう、悪いな」

「パーッ」

手に頭を擦り寄せてくるシザリハウンドを撫でながら、ファティマが待っているとやがてヘルはルアとシルヴェルを連れて来た。

「私はファティマ・フォーマルハウト。あなたを見定めに来た──」

そう言ってるそばからシザリハウンドが甘えてきて、ファティマは“決め台詞のリズム”を崩してきたそんな1体を宥めていく。

「今は大人しくして」

しかも直後、大型犬くらいの“滑らかな”光剣獣が3体出現し、ファティマに擦り寄っていく。

「ちょっと、待って」

3体のシザリハウンド、3体の光剣獣に一斉に甘えられて困っているファティマをシルヴェルが鼻で笑ったところで、シザリハウンドたちと光剣獣たちは整列して、ファティマは溜め息吐き下ろす。

「もし良かったら、中へどうぞ」

ルアがファティマ達を家のリビングに案内する中、3体のシザリハウンドと光剣獣たちは庭で向かい合い、お互いを真っ直ぐ見つめる。抗争でも起きやしないかとヘルが6体を見守る中、ルアは飲み物を2人に差し出す。

「あの、実は、世の中を見て回ったり、他の蘇りし者達に会っているのは、アミセルという蘇りし者の指示なの。アミセルはいづれ、全ての蘇りし者を支配するつもりよ」

「ほう。挑まれるのなら、退く訳にはいかない。しかし手の内を明かすとは、お前はアミセルの使者ではないのか?」

「私はただ支配されているだけ。アミセルは生と死を司る。気に入らないものは無に帰す」

「何故戦わない。お前は決して弱くはないはずだ」

「私が戦わなくとも、アミセルはいづれとてつもない犠牲を払う事になるわ」

「犠牲?」

「私を支配するものは、必ず破滅の炎に焼かれるのよ。それが私、破滅の炎だから」

「破滅の炎・・・」

「さっきから言ってるけど、具体的にはどんな事が起こるんだよ」

「それは、人によるんじゃないかしら」

「ふーん」

「シルヴェル、あなたは、何の為に戦うの?」

「我は、王だ。そして我は、民を救う為に戦う王だ。いつか、アミセルのような者が現れるだろうと思っていた。アミセルが破壊をもたらすなら、我は必ずアミセルを討つだろう」

「そう、分かったわ」

シルヴェルの家を後にしたファティマ。丘を下っていくとシザリハウンドもついてきて、これではタクシーには乗れないからとファティマは街を歩き出した。

「なぁ、腹減らないか?」

カフェを通り過ぎようとしたところで、その店を注目して欲しそうにカースベルクがそう言ったので、ファティマとシザリハウンドたちは揃ってカフェを見た。それからカフェのテラス席で、カースベルクは肉と野菜がぎっしりと詰まったサンドイッチにかぶりついた。

「やっぱり、そう簡単じゃないわね」

パスタを食べながらファティマは呟く。

「支配しようと向かって来る相手がいると分かったら、戦おうとするのは当然よね」

「アミセルって、そんなに強いのか?」

「私は戦った事はない」

「え!?なのに何であんたは戦わないんだ」

「それは・・・元々、戦う為の人生ではなかったから」

「え?蘇る前?」

「うん。私はただ、周りが不幸になるのを見ていただけ。私が戦ってきた訳じゃない。むしろ私は、ずっと支配されて生きてきて、それが当たり前だった」

「あんたは、普通の人だったのか」

「普通の人?」

「蘇りし者達は、シルヴェルとかシーザーとか、ガルゼルジャンとか、王だった者がいたり、ディンクルスとかエイシンとか、王でなくても生きてた当時、武人だった者がいたりだ。あんたみたいな普通の人でもなるんだな。まぁ蘇りし者になる基準なんて知らないけどさ」

「きっと、怨念が強すぎたのかな」

そう微笑んでファティマはパスタを一口。シザリハウンドたちも犬用ミルクを飲んでしばらくしたところで、カースベルクは悩みだした。

「その犬たちが居たら空港まで時間かかるなぁ。置いていけないのか?」

するとシザリハウンドたちはキリッとカースベルクを見つめ、「ワウワウ」と文句を言いながら詰め寄っていく。

「いや、ちょっと待て、だってそうだろ、お前達が居たらタクシーが」

「もういいわ」

「え?」

「私の魔法で移動するから」

「いやでも」

「街並みの事は十分分かったから」

「そ、そうか」

3体が甘えるように擦り寄っていけばファティマは微笑み、そんな光景をカースベルクは不思議そうに眺める。

「何でそんなに懐いてるんだか」

パッと転移したファティマ達。すでにそこは森の中だった。キョロキョロするカースベルクとは対照的にシザリハウンドたちはまるで自分のテリトリーに帰ってきたかのようにはしゃぎ出す。

「オレ、転移苦手なんだよなぁ」

「そうだったの?あれ、以前にも経験があるの?」

「ま、まあな」

「ワンッ」

1体の呼びかけにファティマが振り返れば、すでにそこにはシーザーが立っていた。“強い気配に隠されて気付けなかった気配”に、ファティマは驚く。

「お前は?」

「私はファティマ──」

「ワンワンッ」

「ねえったら!」

「そうか。ファティマ・フォーマルハウト。オレを見定めに来たか」

「え?何故・・・」

「今そいつから聞いた」

「そ、そう・・・まぁいいわ。そうよ」

「随分と懐いてるんだな」

「ワンワンッ」

「確かに、暖かい魔力は分かる。お前達には、陽だまりなのか。植物にとっては命の暖かさだな」

「ワン、ワンワン」

「ん、アミセルという者が、蘇りし者を狙っていると。本当か?」

「そうよ。あなたはどうするの?戦うの?」

「興味無い。オレにはやらなきゃいけない事がある」

「どんな事?」

するとシーザーは指を差した。それは沢山の果実が実った1本の木だった。

「1つ食ってみるがいい」

「え、うん」

果実をもぎ取ったファティマ。そしてその大きくキレイな桃をかじった。

「んん!美味しい!」

「オレには、果実を実らせるという使命がある」

「そんな事が使命なのかよ」

「果実を実らせるという事は、この世界を支配していると等しい」

「え?んー・・・え?あぁまぁそうか。植物を操れるなら、理解は出来る。食べ物1つで国だって支配出来る、か」

「もし戦う事になっても、オレは関わらないと伝えろ」

「そうは言っても、アミセルは諦めないと思う」

「だったら、何か食わせてやったらどうだ?力で支配される前に、食べ物で支配してやるってのは」

ふと神妙な表情を見せたシーザー。それは知らない人を前にしてもちゃんと意見を真に受けようという顔だった。それからファティマはダーラに戻って来た。何故なら、お土産を持って来たから。アミセルの居る古城。そこには、たった2人しか居ない。アミセルとクラウン。クンクンと匂いを嗅ぎながら歩く3体のシザリハウンドたち。

「これから戦争を仕掛けようって奴だからどれだけの軍隊を持ってるかと思ったら、誰も居ないのか」

「きっと、私みたい蘇りし者をまた連れて来させるのかも」

「あぁ、蘇りし者でグループを作るのなら、軍隊よりも確かに強いか」

掃除のされていない廊下、装飾も撤去された内装、そんな今はもう観光地でさえない古城を進み、そして辿り着いた王の間。クラウンはソファーで寛いでスマホを見ていて、アミセルは“侵入者たち”を見つめた。

「ん、何だお前達は」

アミセルの問いに、クラウンはふと顔を向ける。

「今、この人にこの世界の事を教えて貰ってる」

「オレはカースベルク」

「そうか。それで?」

「この子たちは、何か懐かれちゃって」

王座で頬杖を着くアミセル。その拒絶するような冷ややかで鋭い眼差しに、シザリハウンドたちは大人しくファティマに寄り添う。

「あと、これ」

そう言ってファティマは“持っていた籠”を差し出した。籠はシーザーが作った物で、中には桃やらラフーナやら、果実がいっぱいに入っていた。

「シーザーから」

「お?何だ?」

歩み寄って来たクラウンは桃を1つ取ってかじると笑顔を浮かべ、そんな態度にアミセルは頬杖を解いて腕を組んだ。目の前まで差し出された籠には手を伸ばさす。

「それは、あたしを、食べ物で支配しようというのか?」

「あら、よく分かったわね」

生唾を飲み込むアミセル。それでも桃は良い匂いだった。

「下げろ。あたしは、シーザーの支配を受け入れない」

「そう。残念ね。本当に美味しいのに」

「食べ物とは、命そのもの。生ける者にとって、食べるというのは自分自身への支配の証だ。それを、簡単に、明け渡してなるものか」

「とか言ってすげー食いたそうにしてるけどな」

そう桃をかじるクラウンからアミセルは目を逸らし、更には傾けた頭を支えた。

「ファティマ、それは、お前の物だ。それから、お前の意思で、あたしに差し出すのなら、食ってやってもいい」

「めんどくさっ」

思わず言葉を漏らすカースベルク。けどファティマは分かっていた。本当はアミセルも食べたいのだと。だから気難しい子供を扱うように、すんなりと桃を取って差し出した。

「私が貰った物だけど、献上するわ」

「良いだろう」

それからファティマたちは去っていった。再び静かになった空気の中で、アミセルは桃をかじりながら一点を見つめていた。ああは言ったが、この果実はシーザーがこしらえた物に違いはなく、あたしはそれに“ひれ伏した”。まさかあたしとあろうものが“先制攻撃を食らう”とは。だがこのままでは終わらせない。そうアミセルは、ファティマからの伝言に微笑んだ。

「クラウン」

「あ?」

「あれを貰おう」

「・・・え?また風呂ついでに抱いてほしいのか」

「漆黒の魔石だ」

「ああ、そっちか」

サンジャラ、スンバ。蘇りし者達に会ってきて最後にやって来たファティマ達を、ホウ湖の街でシザクは待っていた。

「ファティマ・フォーマルハウト」

ファティマは声をかけられる直前から感じていた。その男も蘇りし者なのだと。

「あなたは」

「私はシザク。エイシン様に会いに来たのだろう。だが今は忙しい。話すなら、日が暮れてからの方が良い。それを先に伝えに来た」

「それは、未来予知したからって事だよな?」

「そうだ」

「お前の事は知らないな。オレはカースベルク。蘇りし者達の情報を集めてる」

「私は派手には動いていないからな。私は、エイシン様の使者として動いている」

「蘇りし者なら、アミセルは例外なく支配してくるはずよ。あなたは、どうするの?アミセルと戦うの?」

「私の意思に拘わらず、戦っている」

「ん?」

「エイシン様はすでに、アミセルを討つ未来を見ている。そしてその為に動けと私に指示をしている」

「未来予知のエイシンがそう言うなら、そうなるんだろうな」

「しかし、未来は大木のように枝分かれしている。もしアミセルが、エイシン様の見ている未来を知ったら必ずそれを乱す。戦いとはそういうものだ」

「そりゃそうか。でももう言ったよな?」

「エイシン様は、アミセルがどの未来に歩もうがそれを見ている。そしてアミセルを討つ為の未来を引き寄せる為に動く」

「でも、さっき実際会ったけど、そんなに危ない奴には見えなかった。それに、あんただってどんな戦い方は見てはないんだよな?」

「私には重要じゃないわ。私がアミセルのそばに居れば、それだけでアミセルには不幸がやって来る」

「そうか」

それからスンバのとあるレストラン。湖で獲れた新鮮な魚介を使った料理が美味しいという口コミが寄せられている店。テラス席ではペット可なので、ファティマは店員にテラス席まで案内して貰った。

「あなたは、普通の人間?」

オーダーを受けた店員が去っていって、ファティマがそう口を開けば、カースベルクは飲んでいた水に咳き込んだ。

「何だよ急に」

「蘇りし者に詳しいって、何の為に?戦う為?」

「いや、逆だって。最初に言っただろ、上手く関わる方がいい。蘇りし者ってのは力の使い方によって世界を破壊する。逆に、大勢の人の命を救う事も出来る。蘇りし者の情報を集めるのは、それをあんた達に分かって欲しいから。一応、まぁその為に、自分の身は自分で守れるようにはしてる」

「あれ、でもみんな、あなたとは初対面みたいだったけど」

「あはは、これから、そういう活動をしようとしてたってつうかさ、話しかけたのはあんたが最初」

「そっか」

「それに、オレなんかいなくても、実際に蘇りし者達は良い方に変わったけどな」

「良かったわ。あなたは良い人で」

「そうかな。まるで嫌な思い出でもあるみたいだな」

それからテーブルに運ばれたのはフォアグラが乗ったステーキ、そしてエビとカニのクリームパスタ。食事をしながら、ファティマは生前の記憶を語り出した。生まれはただの下流階級の家。辛うじて生活していたからか、母は一人娘の自分に厳しく当たっていた。後から分かったのは、母は結婚したかった人と結ばれる前に、言い寄って来た男との子を妊娠し、仕方なく下流階級の男と結婚したということ。自分はずっと、居るだけで不幸を舞い込む子だと言われてきた。実際、母にとってはそうだった。それから、自分にとっても、言い寄って来た男が原因で色々な不幸がやって来た。

「悪いけど、良い思い出の話、してくれないか?」

「良い思い出・・・子供の頃、唯一楽しかったのは、森で仲良くなった野良犬との時間だった」

「お前ら、だからか」

カースベルクの問いには、シザリハウンドたちは首を傾げただけだった。

「あの時は6匹いたかな。でも大人になって、王子に求婚されてからは森には行かなくなったけど。あなただって、良い思い出くらい話したら?」

「オレは、んー、釣りは楽しかったな。ちょうど家の近くに湖があって。よく友達と釣りしてた」

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