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逆襲のアルテミス  作者: 加藤貴敏
第4章「ウォー・ゲーム・オブ・ハザーズ」

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「選択を委ねる者」後編

──少し前。

シザクは独り大地の大樹に赴いた。相変わらず動物も花もない。街はあんなに花だらけなのに、何故ここもそうしないのか。それはシーザーのみぞ知る事。そうシザクが森を歩けば、シーザーが静かに立ちはだかった。

「これからベリカニアの人間達が来る。その人間達への接し方で、お前の未来が変わる」

「未来・・・」

「その未来とは別に、お前には危機が迫る。良い未来を選べば、その危機に抗えるだろう」

「・・・それでは、選択の余地が無い」

「そう思うのは、心では平穏を望んでいるからではないのか?」

そうして2人の会話は途切れた。やがてそこに人間達がやって来た。とは言えウパーディセーサの姿で飛んできたので、シーザーはボソッと呟く。

「随分と大人数だな」

それからお土産の桃をかじるシーザーにシュナイベルの1人、ウルスが懇願する。

「どうか、人間社会を生かして下さい。この桃だって、人が愛情を込めて育てたものです。ニュースでは、あなたは本当は人間社会を壊す存在じゃないかと言われていますが、あなたもこんな風に愛情をかけて果実を育てて、人々を幸せにして欲しいんです」

そしてシーザーは桃をかじった。モグモグしながら細目でウルスを見つめ、シザクを見た。

「それから、オレ達、シュナイベルっていう名前で自警団をやってるんですけど、是非シーザーさんの親衛隊をやらせて貰えたらと思うんですが」

「(え、まじで?)」

「だってあんたらアルテミスだってシルヴェルと組んでるだろ?こういうのは、味方にしたもん勝ちなんだよ」

「(ま、確かにね)」

「親衛隊・・・。お前達は、自然を敬うか?」

「え、あ、はい。環境破壊の愚かさとか自然との共存の大切さとか、普通に分かってるつもりです。実はその桃、ウチの桃なんです」

「そうか。良い桃だ」

「ありがとうございます」

「オレは、自然の王として世を生きる事にした。敬うべき自然として、自然を破壊する人間が居れば裁きを下す。自然の王を敬い、その親衛を勤めたいなら、好きにすればいい」

「本当ですか!ありがとうございます」

「この男が言うには、近々オレに危機が迫るそうだ」

「危機?」

「(そうなの?)」

「ていうかこの男は」

「(この人はシザク。未来が見えるんだって)」

するとウルスはポカンとしてヘルを見つめ、シュナイベルの人達も各々半笑いを浮かべたり、冷ややかな目でシザクを見つめたり。それからシュナイベルとルア達が帰っていき、シーザーが1人でひたすら桃をかじっている傍らで、シザクは目を瞑った。──シーザーも、破壊者ではなくなったか。だがそれは、戦わなくていい相手だったというだけ。変わらない未来もある。

それからシザクはケルタニアに向かった。相変わらずシーザリアンは道端を歩く。とは言えシーザリアンは一体何の為に存在しているのか。親衛隊が出来てもシーザリアンは消さないのか。

「シザク」

やがてシザクの下にリュナークとエテュオンがやって来た。ケルタニア軍基地本部の敷地内に入れば、すぐに見つけるのは当然だから。

「どうしたんだよ」

「シーザーは、ベリカニアの、シュナイベルという自警団と関係を作った。シルヴェルとアルテミスのように」

「シュナイベル?・・・名前だけは見たことある。世界の自警団で検索したら出てきたっけ」

「何故報告してくれたの」

「報告というほどではないが、脅威的な存在ではなくなった、この事実を知ってるかどうかで、お前達のシーザーへの関わり方が変わる。その未来を見出だすのも、私の役目だ」

「そっか」

「情報の提供に感謝する」

「もしシーザーに会いに行くなら、果物の土産を持っていくがいい」

「まさか、シュナイベルはそんな事でシーザーの警戒を解いたの?」

「あぁ」

「やっぱり、王様って献上されるのが好きなのかな」

「そういう事じゃないと思う。でも元々そういう時代で生きていたのなら、確かに効果的なのかも」

リュナークとエテュオンはシーザリアン対策モニタールームに戻れば、他の3人を集めた。

「何の作戦会議?」

ユテスがそう言うとリュナークとエテュオンは目を合わせて小さく頷く。

「シーザーの好きそうな物をお土産に持っていく」

「・・・ん?」

「シーザーの好きそうな物って何だろう」

「・・・え?」

「何の話だ」

「リュナーク、唐突。さっきシザクが来たのは、ベリカニアで活動してるシュナイベルという自警団が、シルヴェルとアルテミスのような関係性をシーザーと築いたという報告の為だった」

「シーザーと、ベリカニアの自警団。何故だ」

「あ、それはよく分かんないけど。アキレス知ってる?シュナイベル」

「いや」

「確かに、何でシュナイベルはシーザーに取り入ろうとしたんだろ。ちょっと調べてみる」

「で、それがシーザーへの土産とどう関係が」

「シュナイベルがさ、果物のお土産をシーザーに持ってったんだって。そしたら、味方になってくれたって」

「そんな事で・・・」

「だからさ、オレ達も、何かシーザーに持って行こうよ」

「それで本当に味方になってくれるのかなぁ」

「シーザーだって人間だしさ。お土産を喜ばない訳ないんじゃない?」

「確かに、人との関係の作り方として、当然の選択だ」

「じゃあ、じゃあさ、今まで戦う必要無かったって事?」

ユテスがそう問いかけると、アキレスは重たい溜め息を漏らす。

「我々が、過剰に敵視していただけだったのかも知れない」

「でも先にシーザリアンを街に放ったのはシーザーじゃん」

「それでも、もしかしたらアルテミスだったら、対話に尽力しただろう」

禁界、合同キャンプ場。

「(テリッテーっ)」

ヘルがやって来た頃、テリッテはエルフ達と一緒に野菜スープを作っていた。振り返ればテリッテは笑顔で手を振る。

「(良い話があるよ)」

「え、どんな?」

何か分からなくてもテリッテはパッと笑顔。

「(シーザーと仲良くなる方法が分かったんだ)」

「ほんと?すごいね。どんな方法?」

「(シーザーに食べ物を持ってってあげるんだよ。さっき、ベリカニアっていう国の自警団が、それでシーザーと仲良くなったから)」

「その人、何が好きなの?」

純粋な表情で問いかけたのはアンシュカ。

「(それは分かんないけど)」

「とにかく色々持ってってあげれば良いんじゃない?」

「(うん。あれ、もしかして野菜スープにラフーナ入ってる?)」

「うん、美味しいよ?」

「(食べていい?)」

「もちろん!」

それからヘルはテリッテとアンシュカ、ルアを連れて大地の大樹にやって来た。ヘル達の姿にシーザーは桃が入った紙袋を持って現れた。

「シーザーさんこんにちは」

テリッテが笑顔でそう言えばシーザーは小さく頷く。

「これ、良かったらどうぞ。私の国のフルーツで、ラフーナって言います」

「知らぬ名だ」

それでもどうやら果物は好きなようで、警戒心もなくテリッテから受け取れば、シーザーはラフーナをかじった。

「・・・悪くない」

「他にも色んな野菜持ってきたから、食べていいわよ?」

「どれも見たことが無い。どこから持ってきた」

「あたし達の世界よ。こことは違う世界」

「ほう」

するとシーザーはまた一口かじりながらラフーナをまじまじと見つめた。その直後、近くの地面から通常ではあり得ないスピードで木が生えてきて、そしてその木はラフーナを実らせた。

「(えっどうやって?種植えてないのに)」

「オレが食えばいい」

「(どういうシステム。食べてDNA解析みたいな?大地そのものだからすぐ再現って事?)」

「すごいわねぇ」

それからまるで何かが居るんじゃないかという具合にモクモクと土が盛り上がって柔らかい土での畝が出来上がり、そこから自動的に野菜たちが生えてきた。

「(今まで木しかなかったのに、どうして食べ物を急に育てようって思ったの?)」

しかしヘルの問いにシーザーは応えず、何かを考えているような顔でアンシュカから貰った野菜をかじった。

「嬉しいのよね?仲良くしようとしてくれる人が居るって」

アンシュカと見つめ合ってから、頷かない代わりにシーザーは畑を見渡した。

「(そっか、そうだね)」

ケルタニア軍基地本部、シーザリアン対策モニタールーム。

「シュナイベルは、特に企業が管理してる訳でもない、ただのコミュニティーみたい。リーダーはウルス・スイランクル。リンクから飛んだら桃農家のホームページに行った」

「農家か」

「自然への狂信者って訳でもなさそうだね」

「何で急にシーザーに取り入ろうとしたかなんて、直接聞くしかないけど、そんな事の為だけにベリカニアが入国を許可するとは思えない」

「同盟国でも、今はただでさえ技術流出に敏感だしね」

「ウパーディセーサ生物である我々が行っても、無用な警戒心を煽るだけだ」

そう言ってアキレスが目を向けた先に、ユテスもリュナークも、エテュオンも次々を目を向けていく。その直後に自分のデスクで寛いでいたデリスが溜め息を吐く。

「しょうがないな、知り合いのジャーナリストに頼んでやるって」

「わーい、ありがとう」

「けど、レッサー&オーエンみたいに自分から発信してくれればいいのに。そういうコミュニティーじゃないのかなぁ」

「とにかく、オレ達もシーザーに食べ物持って行こう。やっぱり、ケルタニアで有名なやつじゃない?」

「やけにやる気だなリュナーク」

「そりゃそうだよ。だって、シーザーはそもそもケルタニアに居るんだよ?友好関係を築くのに、何でベリカニアの人に先越されちゃうんだよ」

それからリュナークとエテュオン、アキレスが向かったのはケルタニア名物であるブドウを扱う八百屋。街を歩けばシーザリアンが居て、その店のそばにもまるでペットかのように“花まみれのシザリハウンド”が佇んでいた。

「すいませーん」

「はい?えっどうされたんですか」

「ブドウを買いたくて」

「え、あ、はい、どのブドウに」

「とりあえず、1番、甘くて美味しいやつ」

「でしたら、スマイルマスカットでいかがでしょう」

「そうだよね。有名だもんね」

リュナークと店員がやり取りしてる傍ら、アキレスは何となくシザリハウンドを見つめる。シザリハウンドもアキレスを見上げるが、人懐こく寄って来る事はなく、リラックスして伏せている。

「ありがとうございましたー」

「これはペットですか?」

アキレスが問いかけると、その女性店員はシザリハウンドにではなく、アキレスに緊張した顔色を見せる。

「い、いえ、その、子供がリンゴをあげたら勝手に居着いてしまって。子供にも少し懐いてるんです」

「そうですか」

それから翌日、ケルタニア軍基地本部は記者会見を開いた。それは“反省”の意思表示と新たな見解。シーザーは友好的な人には“常識的に”敵意は見せない。だからこちらから歩み寄る事で、相手の意識を変えようという行動は効果的かも知れない。そんな記者会見の後、大地の大樹への厳戒態勢は解除された。そして、人々は殺到した。大地の大樹を間近で見上げれば、人々は皆驚き、楽しみ、写真を撮り出した。そんな人々に、シーザーは静かに姿を現す。

「シーザー!」

するとまるでアイドルのように、シーザーは取り囲まれて食べ物を差し出された。

ケルタニア軍基地本部、シーザリアン対策モニタールーム。

「とりあえず、シーザリアン擁護派の人達が殺到したって感じだね」

ユテスが口を開けば、同じようにモニターを眺めるアキレスは「あぁ」と相槌。

「単純に信仰心として、または打算的な自己防衛を見据えての手土産、という人も居る」

「けどこれで、シーザーに対して攻撃性を封じる策になるなら、良いよね」

「結局、王様として扱われたいだけだったのかな」

「そうかもな」

「ま、シーザーもケルタニアに居るなら軍とも連携を取るって分かってくれたし、良かったんじゃないかしら」

そう言ってティヒムがスマイルマスカットを一口食べれば、笑顔を浮かべた。

ベリカニア、シルヴェルの家。花まみれのボルテクスはゆっくりと歩き、シルヴェルの家の庭に入り込む。そこにヘルが静かに立ちはだかり、解析(アンリズ)の魔法を使う。それは外国人と意思疎通を図る為のもの。

「(おっ。んー、ボクが何か、気になるのか。シーザーに教えて貰えばいいのに。え、シーザーって何って、いやあ、まじか。んー、なるほど、シーザーからの意思の通信は今はオフラインなのか。えっとね──)」

ベリカニアとケルタニアはホールズの中では西端に位置していて、ホールズのちょうど真ん中にはダーラという国が位置している。勿論その国全体も花まみれで、同じように花まみれシーザリアンが居着いている。そんな国のとある大きな教会に、シザクは居た。教会はとても静かで、知らない子供がバッパードを連れていても誰も気にしない。シザクは観光客達の列に並ばず、長椅子の1つに座っていた。そしてシザクは、とある男に目を留めた。男は観光客に見える至って普通な感じで、ポケットに手を突っ込んで独り、豪華な装飾や内装を見上げていた。シザクは目を閉じて頭の中の地図を広げる。それからシザクは目を開ければスッと立ち上がり、その男に歩み寄った。男が振り返るとシザクの顔に目を留めて、ふと思い出した。

「・・・お前も、アミセルの手下なのか?」

「いや、違う」

「そうか、なら1つ、頼みがある。聞いてくれてもいいだろ。蘇らせてやったんだ」

「アミセルを蘇らせたのもお前だろ」

「チッあの女、人の生死を支配しやがって。オレは動けないんだ」

「頼みとは」

「・・・始末だ。人間、誰だって失敗するもんだ。ガルゼルジャンは見てて楽しかったけどな。世の中、本当に蘇らせちゃいけないもんもいる」

「エイシン様は、常にアミセルに対処する未来を選択しておられる」

「エイシン?・・・あー、未来を見る奴か。じゃあそいつも、アミセルはヤバイって思ってんだな」

「あぁ。布石は置いている。アミセルを討つ未来は揺るがない」

「そうか、ま、それならいいけど。とにかく気を付けろよ?目を合わせたら終わりだ」

「呪いか?」

「まあ、な」

「解く方法は」

「オレにはさっぱり。あっ逆に分かったら教えろ」

「あぁ」

「そろそろ時間だ。さっさと行け。話を知られるとヤバイ」

シザクは眉間を寄せた。見えた未来に対して。そしてシザクが消えた後、クラウンはポケットから漆黒の宝石を取り出し、軽く投げ飛ばした。その瞬間、渦巻くように突風が吹き荒れ、一点に集中していく。そしてその中心に現れた人物の腕を掴み、クラウンは転移した。そこはダーラの中にある、観光地だった古城。

「ほら連れてきたぞ」

「ご苦労」

「ここは・・・あなた達は」

そう言ってその女性が見つめるのは、古びた王座に座る若い女性。

「あたしはアミセル。そこのが我が手足、クラウン。お前の名は」

「私は・・・・・ファティマ・・・フォーマルハウト」

「感覚で理解しているはずだ。お前は、いつかの理想の自分だと。その力を存分に使うがいい、あたしの手足として」

「理想の、自分・・・」

「あたしに逆らえば、命は無い」

その直後、戸惑いの中でファティマはキリッとアミセルを睨んだ。そして直後に手の中に出現させたのは、檸檬色の光と装飾を纏った美しい剣だった。

読んでいただきありがとうございました


今回はシザクという人物について掘り下げました。誰かのストーリーが見える事によって、新しい道が見える。でもそれは、点と点が増えるという事だけではありません。

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