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逆襲のアルテミス  作者: 加藤貴敏
第4章「ウォー・ゲーム・オブ・ハザーズ」

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「選択を委ねる者」前編

とある小さな女の子は花を摘んでいた。摘んでも摘んでも無くならない、ひたすらに果てしない“花の街”で。やがて両手いっぱいに花束を抱えた女の子は公園にやって来て、花まみれのボルテクスに歩み寄った。

「ボル、おはよう」

女の子がボルテクスの頭を撫でてもボルテクスは全く動じない。懐いてはいないが、敵意は無い。そして女の子が去っていくのを、シザクはふと眺めていた。“ホールズの緑化”は世界中で注目されるニュース。でも緑化はホールズだけに留まった。それからシザクはパッと消えて“自分の街”に戻ってきた。そこはサンジャラ、スンバ。そしてホウ湖の真ん中には大きな浮島があり、そこには宿泊施設がある。泊まる部屋はエントランス棟から離れていて、客は自然とプライベート空間を存分に楽しめるという施設。普段はそこそこに客が入る宿だが、今では何年先まで予約がいっぱい。更には宿泊客じゃなくても、常に浮島と岸とを渡す船は定員いっぱいに人が乗る。渡し船を使わずにパッとシザクは浮島に転移して、宿泊施設「ホウ湖の真ん中」のエントランス棟に入る。

「エイシン様」

“占って貰っている客”と向かい合わせに座るエイシンは黙って手を挙げて、シザクを立ち止まらせた。

「未来は常に、大木のように枝分かれしている。正解も幸せも1つではない。この男との顛末は、そなたが望む幸せの内の1つである事には間違いはないだろう」

「本当ですか!ありがとうございます」

やがて満足した女性客が去っていくと、間髪入れずに別の客がエイシンの前に座る。すると今度はその客に向かって手を挙げて見せ、そこでエイシンはようやくシザクに顔を向ける。

「シーザーの様子が少し変わりました」

「不安定よのう。アルテミスが関わると、尽く変わる。だが道筋そのものは変わっていない」

それからエイシンは魔方陣を浮かべた瞳でシザクを見つめた。

「・・・分かりました」

ホウ湖の真ん中を後にしたシザク。頭の中には“ある範囲の未来”が残っている。それは記憶という概念とはちょっと違う。それはまるで“借りてきた本”のよう。忙しくなってしまったエイシンから託された“エイシンが望ましいと思う未来”という、頭の中の地図。その道筋を守るのが、自分の使命。そうシザクは空を見上げた。



第77話「選択を委ねる者」



再びケルタニアにやって来たシザク。街全体を覆う草花にはもう慣れた。確かに花は、無条件に人の心を和ませる。だが、それとは別に、何故シーザリアンを歩かせる必要があるのか。ふとシザクは目を閉じた。シルヴェルが居なければ、今頃は花ではなくシーザリアンが街を覆っていた。シーザーは何故、大地の大樹となったのか。──なるほど。だがこれは、間に合う間に合わないという問題ではないな。今はまだ、これでいい。

それからシザクは大地の大樹のエリアにやって来た。何故ならそこにはアキレス達が“向かうから”。アキレス達がやって来る場所に向かうと、同じタイミングで空からアキレスとエテュオンとリュナークがやって来た。

「あっお前、シザク!」

真っ先にリュナークがシザクの下にやって来たところで、静かにシーザーもやって来る。

「どうして」

「お前達がシーザーに聞きたい事は、何故街を花で覆ったのか、では」

「そうだけど、お前も?」

「あぁ」

「未来が分かるんだろ?」

「心までは分からない。少なくとも私は、あの大地の大樹を知らない」

「そっか」

「オレも聞いてやろう。何故、封印を解いてオレを逃がした」

「え・・・それって」

シザクがシーザーの顔を伺えば、そこには相手を陥れようという“いたずら心”が見えた。案の定、リュナーク達の表情が緊張していく。

「説明したはずだ。蘇りし者の配下が街を闊歩すると」

「お前が、シーザーを・・・やっぱり」

「やっぱり?」

「お前は未来が分かる。だからシルヴェルが出てくるのを知ってたんだ。だからシルヴェルにシーザーをぶつけようとしたんじゃないか?」

リュナークの推理にアキレスもエテュオンもハッとする中、シザクは理解に感心するように頷いた。

「オレを、利用したのか」

「私は、大局を見ている。お前とシルヴェルがぶつかれば、双方ともに足止めとなる。だが、シルヴェルがアルテミスと組むのも、大地の大樹も、確信はしていなかった」

シーザーは冷ややかにシザクを一瞬だけ睨むと遠くを見上げて腕を組んだ。

「それは、シルヴェルが出現するのを待ってたから、わざと私達とシーザーを戦わせなかったって事?」

エテュオンの問いに、シザクは再び感心を込めた頷きを見せる。

「シルヴェル・・・あの者が居る限り、オレは邪魔され続けるのか」

「シルヴェルは賢明だと思わないか?」

アキレスが問いかけたのは、シーザーに対してだった。そんな真顔のアキレスにシーザーは真顔を返す。

「シルヴェルは共存を選んだ」

「そうだよ。シーザーだってさ、現に街を花で覆うなんて、共存したいからじゃないのかよ」

「共存・・・・・いや、あれは、ただの庭園だ」

そう言うとシーザーは木になった。

「シーザー!元は人間だったんだろ!だったら分かってるはずだ。争うより平穏が1番だって」

エテュオンが肩に手を置けばリュナークは黙った。

「戻ろう」

「それよりだ。シザク、これからどうなる。シーザーはどう動く」

アキレスが真剣な声色で問いかけると、リュナークとエテュオンにもその真剣さが伝染していく。

「言った事が現実になる訳じゃない。言ったとして、お前達の動き方で未来が悪い方向に変わるかも知れない」

「そんな事言ったってさ!それじゃ未来なんか見ても意味無いじゃん」

ふとシザクが思い出したのは、エイシンに使者を任された時の記憶。そしてさっき見た、エイシンが人を占っている姿。

「・・・それは、そうだが、とは言え、シーザーは変わらない」

「どういう意味だよ」

「このまま、街を草花で覆い、シーザリアンを増やし、人間社会を停止させる。シーザーに歯向かえば、その結末がただ早まる」

「くそっ。どうする事も出来ないのか」

「問題なのは、シーザーがどう動くかではなく、お前達がどう動くか」

「そうだよな。シザクは、倒すしかないと思う?あ、いや、えっと、倒すのと共存するのと、どっちが現実的なのかな」

「未来は、大木のように枝分かれしている。本当に望むなら、大きな犠牲を払ってシーザーを倒す事は可能だろう。だがお前達は共存したいのだろう?」

「まあね。その方が、ね?」

リュナークの問いかけにはアキレスとエテュオンも静かに頷く。シザクはちょっと力を込めて息を吐き捨てた。そして目を閉じて、頭の中の地図を見渡す。

「シーザーの心を開くには、やはり共通の敵が必要だろう。シルヴェルとアルテミスが組んだように」

「共通の敵か」

「それが現れる未来は見えているんだろ?」

「本当は、私はただの使者だ。あの方が見ている大局を守る為の。私が、乱していいものではない」

「あの方?」

「勘違いしない方がいい。私はお前達の敵でも味方でもない。私はただ、望ましい未来の為に動いている」

「でも、それなら、推定味方でもいいんじゃない?」

「・・・シルヴェルと同様にシーザーも、次の敵の為に手を組んだ方が良いだろうという事は伝えておく」

そう言って、シザクはスンバに戻ってきた。ホウ湖を眺めるカフェに立ち寄ると、コーヒーを頼んだ。2階席の壁沿いの席に座り、ミルクや砂糖ではなくラムレーズンバターをひとかけら入れて、コーヒーを一口。

──あの時、エイシン様は突然目の前に現れた。それは恐らく、利用出来ると思っての事も含めて、定めだったのだろう。

「そなたの名は・・・シザクだな」

「何故、知っている」

「そなたが名乗る。その目先の顛末を掴んだまで。ついて来るがいい。そなたの迷いを晴らす」

問わなくても既に悟っている。この者はそういう者だとすぐに理解した。だから無闇に抵抗せずついて行った。その途端、一瞬にして景色が変わった。

「今のは・・・」

しかしその瞬間、何かは分からないその力の根幹が自分にもある事を自覚した。それから目に入ったのは、並んだ人々だった。

「この小さな島に、何故これほど人が」

「某の客だ」

「あなたは」

「某の名はエイシン。姓は棄てた」

それから向かい合うように座れば、エイシンはその瞳に不思議な円陣を浮かび上がらせた。

「そなたには、某の使いをして貰う。その道筋を選んだ方がそなたの為にもなる。何故今、この時代に蘇ったのか知りたいだろう」

「私は、死んだはずだ。殿様の家臣として、主に讃えて頂きながら立派に」

「某も同じ。そしてそのような者が今、この時代に増えている」

「ではあなたも、あの男に」

「あの男、クラウンはある者の使者に下ったがな」

「下った、それは何故ですか」

「蘇りし者の1人に足をすくわれでもしたのだろう。シザク、そなたには、その蘇りし者、アミセルという女を顛末として大局を捉えて貰う」

「討つのですか。その為に、私を拾いに」

「それが、良い顛末だ。この世界にとって。この時代の者達を救う事になる」

「そうですか」

「某の事を知ってか、訪問者が絶えぬのでな。そなたには“大局を委ねる”」

そうしてエイシンが不思議な円陣が浮かんだ瞳で私を見つめ、私の頭の中には“地図”が委ねられたのだった。

シーザーとシルヴェルの足止めは一先ずこれでいいのだろう。だが“次の者”は、本当に厄介だ。どんな道筋でも、大方は望む未来へと繋がるのだろう。問題は、道筋において如何にして傷を増やさぬようにするか。そうシザクはカフェを出た。地図を持っても、人生うまくいかない時はいかないもの。地図を持っても、知らない街では歩くのも(まま)ならない。それからケルタニアにやって来て、何となく花だらけの街を歩いているそんな時、シザクの前にユテスが現れた。それはただばったり会っただけ。ユテスは花まみれのボルテクスを追いかけていた。ボルテクスは頭の上に女の子を乗せていた。

「待てぇーっ」

「わーい」

去っていくユテスを眺めてから、そしてふらっとやって来たのはとある公園。そこには有翼犬シーザリアン「シザリハウンド」が3匹居て、子供達がエサをあげていた。3匹ともまるで体から生えてるかのように花まみれで、元々そういう動物かのように可愛らしい。更には公園だけではなく、道路を歩いていたり、店の中に入ろうとするのを止められてたりと、ただ街を歩いているだけなのにシーザリアンを何匹も見た。明らかにシーザリアンが増えているのを実感した。ふと車のクラクションが聞こえた方へと向かって見れば、地面を引きずるほど背中から花を生やした熊シーザリアン「ベランデア」がゆっくりと横断歩道を渡っていた。

ベリカニアにて。ルアとヘルは鳥シーザリアン「バッパード」に囲まれていた。20羽のバッパードは木の上やら地面やらから、ルアとヘルを見つめていて、何もしない。だからルアとヘルも、何もしない。

「(・・・・・いや、何これ)」

「監視してるのは確かだと思う」

「(近所の人が自警団への依頼だって言ってたから来てみたけど・・・何も出来ませーーん)」

「パーッ」

「パーッ・・・パーッ」

「パーッ」

「(パーパー言ってるし)」

「おっアルテミス!」

そんな時だった、とある並木通りでルアとヘルの下に1人の男性がやって来たのは。

「(う、うん、君は?)」

「オレは主にベリカニアで活動してる自警団『シュナイベル』のもんだ。名前はウルス」

「(お、ベリカニア語勉強してる効果かな。強く魔法を意識してなくても割りと分かる。ウルスも依頼で来たの?)」

「いや、パトロールで。それにしても、すごいな。ん?」

ウルスとヘル、そしてルアは目を向けた。もう2羽、少ししてまたもう3羽と、次々とバッパードがやって来て、群がり始めた。

「パーッ・・・パーッパーッ・・・パーッ」

「(ペルーニ、何て言ってるか分かる?)」

「そいつが噂の精霊か」

「うん。さっきからずーっと、実りは近い、って言ってる」

「実り。それはシーザーからのメッセージか?」

「(まぁそうだろうね)」

「こんな事初めて。何か、ちょっと怖い」

「(うん。カウントダウン的な感じ。絶対ヤバイよ)」

「カウントダウンか・・・」

ウルスの顔が険しくなったのをヘルは見逃さなかった。だから歩き出すウルスを目で追いかけた。

「(何する気?)」

「今オレらで、ある計画があるんだ。それを実行する」

「(計画?)」

「みんなで、シーザーの下へ向かう」

「(えっ)」

誰かに電話しながらそして去っていくウルスを、ヘルはそわそわしながら眺めていく。

「(まさか、大勢でシーザーを倒しに行くんじゃない?そんな事したら、絶対しっぺ返しが来る。止めなきゃ)」

「うん」

ウルスを追いかけてやって来たのはとあるコンサートホール。何かのイベントがあるのか、建物前の大きな広場には人集りがあって、誰かがルアとヘルに気が付けばすぐにウルスが駆け寄ってきた。

「何なんだよ」

「(シーザーに戦いを仕掛けるなんてダメだよ。勝てないって)」

その直後、ウルスは笑った。

「違うって、そんなバカじゃない」

「(そうなの?)」

するとやって来たのは1人の女性。

「え?何?ウルス、アルテミスと知り合い?」

「いや、さっき初めて会った。その時、バッパードの群れが一斉に鳴き出したんだ。で精霊に翻訳して貰ったら、実りは近いって」

「あ、だから召集かけたのね。実りが、近い、か」

さながら探偵みたいに呟きながらその女性が仲間の方へ戻っていく中、バッパードが1羽パタパタとやって来てベンチに降り立った。

「来やがったな」

すると1人の柄が悪そうな男性がニヤニヤしながらバッパードの前に座り込み、その花まみれの体をツンツンした。

「やめとけ」

「喋ってみろ、ほら」

ケルタニア、大地の大樹。シザクは黙って空を見上げていた。そんなシザクを前に、シーザーも黙って立ち尽くす。会話は無い。何故なら今はする必要が無いから。やがてシーザーとシザクは振り返った。腕を組んでいるシーザーは小さく首を傾げた。

「随分と大人数だな」

シュナイベルという名のウパーディセーサ自警団総勢30人、それとルアとヘルがやって来て、シーザーの前に降り立った。すると直後、ウルスが前に出て、リュックサックから取り出した紙袋をシーザーに差し出した。

「高級な桃です」

「(へ?)」

「悪くないな」

シーザーはスッと紙袋を受け取り、桃を1つ取り出すとすぐにかぶりついた。表情こそ豊かではないが、頷くシーザーを前にウルス達はホッとするように笑みを溢した。

「それで何の用だ」

ルアは内心で驚いた。普通の事だった。蘇りし者だから、いつでも戦闘になるかも知れないと緊張していた。でも、相手の好きそうな物をお土産に持っていけば、こんな大勢が相手でも人の話を聞く態度を見せる。こんな普通の事を考えもしなかったと、ルアは驚き、そして少し拍子抜けした。

「どうか、人間社会を生かして下さい。この桃だって、人が愛情を込めて育てたものです。ニュースでは、あなたは本当は人間社会を壊す存在じゃないかと言われていますが、あなたもこんな風に愛情をかけて果実を育てて、人々を幸せにして欲しいんです」

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