「ルアとシルヴェル」後編
「ちょっと、ま、待ってて」
何だか強い決意と怒りのある眼差し。だからペルーニは慌ててシルヴェルの家に戻っていった。すると2人はまた見つめ合い、今にも唇を重ねそうだった。
「あの」
黙って振り向くシルヴェルとルア。
「今、ジュピターズの人がそこに来てて」
「えっ」
「何だと。まったく、何の用だ」
「何の用だじゃねえよ!」
ビクッとしたペルーニが小走りでルアの隣に来る中、シュウズンは真っ直ぐシルヴェルを睨みつけた。しかしルアは、そこに殺気の無さを感じていた。
「何なんだよ。お前は、何の為にモンスターを作ってんだ」
「何度も言わせるな。お前達が、強くなる事を望んでいるのだろう。我は、その意思を目覚めさせる」
「目覚めさせる・・・」
「シルヴェルさんは──」
さっと手を上げ、シルヴェルはルアの言葉を遮る。
「我は、王として民を守る。その為に、戦える者には力に目覚めさせる」
「オレ達は、まだ、弱いってのか。こんなに自分を改造したってのに」
「何でそんなに焦ってるの?」
問いかけたのはペルーニ。
「焦るだろ。世の中、色んなウパーディセーサが居て、ヒーローもテロリストも。だらだらしてたら死ぬだけだ。オレは、そんな世の中に呑み込まれたくないんだよ」
「お前達には、信念が無い」
「そんな事は・・・」
ヒーローになりたいと、漠然とは思ってる。でも確かにそれではいけないのかも知れない。そう自分の意思の揺らぎを自覚して、シュウズンは黙った。
「意思を目覚めさせるのは、決して簡単ではない。だが、お前達のような者を導くのが、王としての使命だ」
「使命・・・。だったら、オレを、お前の直属にしろ」
「親衛を務めると?」
「あぁ。オレは誰よりも強くなりたい」
ルアはふとシルヴェルの横顔を伺った。
ケルタニア、国立保全樹海。そしてイエン達はその洞窟の前に辿り着いた。イエンが居れば、シーザーの居場所はすぐに分かる。でもシーザリアンの抵抗が激しく、常にテリッテは空を飛び回り、大地を駆け巡り、シーザリアンを殲滅していく。しかしその瞬間、イエンは目を見開いた。洞窟の奥から大地が蠢く音がすれば、大地は動き出し、洞窟はキレイに埋まった。
「(そんなーっ)」
「このままでは逃げられるんじゃ」
焦るベリクロの隣で、イエンは意識を集中した。壁なんて関係なく、シーザーの目の前に転移すればいいと。でもその意識は阻まれた。
「・・・転移出来ない」
「(何で?)」
「隙間が、完全に埋まってる」
「(それって、シーザー、生き埋め?自分で?)」
「だがそれでも生きていけるのだろう、シーザーは」
「(どうしよう。居るのに、届かないなんて)」
その直後、洞窟の上の大地が蠢いた。大地が粘土のように形を変えていくと、やがて赤錆色の鎧を全身に纏った1人の人間らしき者が姿を現した。
「まさか、シーザーか?」
呟くアキレス。するとシーザーはゆっくり拳を上げた。
「・・・俺の怒りを思い知るがいい!!」
そう叫んでシーザーが思い切り拳を振り下ろしたと同時に、その場には雷が落ちた。それは太さなんて何も想像出来ないほど、ただの閃光と轟音だった。とてつもない衝撃でアキレスとベリクロとヘル、そしてイエンは吹き飛んだ。その轟音にテリッテとアーサーは驚いて振り返る。
「(おい!)」
地上と上空でパッと目が合ったシーザーとテリッテ達。その怒りの眼差し、殺気にテリッテ達は本能的に襲い掛かった。蒼白く輝く炎で武装した尾状器官で斬りかかったものの、一瞬で突き上がった大地の壁に阻まれた。更に別の所から大地が鋭く突き上がり、逆にテリッテを襲った。
「うっ」
打ち上げられたテリッテはすぐにシーザーを捕捉するが、テリッテが弓を引くよりも速く、シーザーの手から放たれた炎のレーザービームにテリッテは吹き飛んだ。
「(くそ、隙が無い)」
それでもテリッテが素早く飛び出して周り込んでいく中、立ち上がったイエンが光弾を放った。しかしそれはシーザーが手から放った閃光で打ち消されてしまい、更に背後から殴りかかったテリッテも突き上がった大地によって勢いを殺されてしまう。
「(おらあっ)」
それでもテリッテはがむしゃらに大地の壁を粉砕し、ようやく目の前にシーザーを捉える。そして素早くぶん殴れば、シーザーは岩のように粉砕された。
「えっ」
粉砕された瞬間、もうそれはただの岩片で腕や足の面影すらなかった。だからこそテリッテとアーサーは理解した。それは、シーザーではないと。何かが弾ける音。それはテリッテの背後の大地の壁からだった。振り返れば、大地の壁からはシーザーが出て来て、テリッテに閃光を浴びせた。吹き飛んだテリッテはそのまま崖下に居るイエン達の下へ墜落した。
「(くそっどうすりゃいいんだ!)」
大量のシーザリアンは街へと行進していく。最早、テリッテ達への殺気はシーザー1人に任されていた。崖の上からテリッテ達を見下ろすシーザー。するとイエンはリッショウに光を混ぜて、美しい白髪となった。
ケルタニアの街に降り立ったシュウズン。高いビルから街を見下ろせば、シーザリアンという津波を光剣獣が塞き止めているのがよく分かる。シュウズンは、すっきりした気分だった。世の中のうねりに溺れたくない。そう焦っていた。けど、本当に王と呼べる者のお陰で、ようやく波から抜け出した。そんな気分。
「さて、試してみるか。来い!」
シュウズンの呼びかけに、どこからともなくやって来たのは1体の光剣獣。シュウズンの隣にやって来ると、光剣獣は形の無い暖かい青カビ色の光となってシュウズンに覆い被さった。そして瞬時にまた光沢を輝かせると、青カビ色の光は尾状器官も全てを覆う全身の鎧となった。
「うん、良い感じだ」
瞬間的に飛び出しながら、シュウズンは尾状器官の2本を電気爪状態にした。強化状態になっても青カビ色の鎧は対応して、内部から高圧の電気を纏った尾状器官の細胞に入り込み、更に強固な尾状器官にした。全身に電気を纏って別の尾状器官から炎を吹かし、更に加速していくと、シュウズンは一瞬でボルテクスを通り過ぎていく。風圧よりも速く、ボルテクスは真っ二つになった。それから銃弾のように飛び回れば、スファイザントもボルテクスもスッと切り裂かれ、後から来る強烈な風圧でバラバラになっていく。
「何だあいつ」
そう呟いたのはササラギ。
シルヴェルの家にて。光の鏡でシュウズンの戦いっぷりを見れば、シルヴェルは小さく頷いた。そしてまたようやく2人になったと、ルアを見つめた。その眼差しを見れば何を訴えたいかは何となく分かったので、ルアは笑顔で家を出ていくペルーニを見送って、シルヴェルに歩み寄った。無言の2人。ルアは急にドキドキしてきた。そんなルアの顎を優しく支えると、シルヴェルはルアを見つめながらゆっくりと顔を近付けていく。
「(ルアっ!)」
あともうちょっと、というところで、ルアは鏡に振り向いた。それはヘルからの「緊迫」というテレパシーだった。
「そんな」
シーザーとの戦いはとても劣勢だった。イエンとテリッテを前にしても、シーザーは真っ直ぐ立っていた。
「助けないと!」
「やはり侮れないか」
ケルタニア、国立保全樹海。治癒玉があるからといっても、シーザーという相手が全く手応えが無い以上、それは膠着と言える戦況だった。そんな時、ペルーニと共に、ルアがパッとやって来た。
「みんな、ここは、一旦退くしかないと思う。作戦を立て直そう」
「(・・・・・くそっ)」
シーザーは、追いかけて来なかった。ただどこまでも透き通った殺気を纏ったまま、離れていくルア達を眺めていた。そしてケルタニア軍基地屋上にて一旦の休戦。
「(転移で引きずり出せないの?)」
「大地と同化してて出来ない」
「(大地ごとくりぬいたらいいんじゃねえか?)」
「多分、私が大地を切り開いてる最中から、シーザーも抵抗して繋いでくるかも」
「(あ~。追いかけっこかぁ。だったら眠らせちゃえば?)」
何となくの会議中、ルアはふらっと歩み寄ってきた光剣獣にふと目を向けた。光剣獣はしれっと会議の中に紛れていて、でもそれはシルヴェルだと思えば、ルアは特に何も言わなかった。
「魔法は、無機物は通り抜けられない」
「(どういう事だ?壊せるだろ)」
「(むしろ、壊すしかないんだ。爆発とかで。でもこっちが壊してる最中から、シーザーが直しちゃう)」
「(だったらもう、丸ごとぶっ壊すしかないよな)」
「いや待て。国立保全樹海だぞ、さっきからくりぬくとか壊すとか。ケルタニア軍人としてそれは絶対に容認出来ない」
そう口を挟んだのはアキレス。
「(そうだよね。森を壊さずにシーザーだけを何とかしないと)」
「(んだよ、もう。どうすりゃいいんだ)」
「(魔法を転移させる隙間も無いんだよね。んー)」
イエンでさえ黙り込んだ、敗北感。でもそこで表情を引き締めたのは、テリッテだった。
「話し合うしかないよ」
「(いやいや)」
「シルヴェルさんだって味方になったんだよ?きっと蘇った人達はみんな、本当は話せる人達なんだと思う」
「何か怒ってる理由があるんじゃないかな」
クロムがそう言うと、テリッテはうんうんと頷く。こんな時こそ、きっと翼人の力が必要なのかも知れない。そんな風にルアはまた感心した。
「(ったく、しょうがねえな)」
「確かにシーザーは、街での目撃が最初だった。何かを訴えるように叫んでいたという情報もある。それからモンスターを作り出した」
「きっと、シーザーさんも聞いて欲しい事があるんじゃない?」
アキレスの言葉にテリッテがそう返すが、アキレスとベリクロは半信半疑のような雰囲気で顔を見合わせる。
「とにかく、森に戻ろう。今なら、シーザーさん1人だと思うし」
パッと樹海にやって来たルア達。すると侵入者を感知するように大地はゆっくり突き上がり、全身鎧のシーザーを生み出す。
「シーザーさん。あなたはどうしてモンスターを生み出すの?」
テリッテの問いに、少しするとシーザーは顔だけ鎧を無くして呆れた表情を見せた。
「唐突に何だ」
「何か聞いて欲しい事があるんでしょ?」
「聞いたところで、貴様らは何も変わらないだろう」
「変わらないって、何が?」
「貴様らは、ずっとそうだった。今も変わらず、自然を破壊している。600年の歳月を経て、今はどうだ。むしろ世界はより複雑に、生きづらくなっている」
「(シーザーは自然が好きなの?)」
「好きかどうかじゃない。もっと自然を敬うべきだ」
「何故モンスターで人間を襲う」
アキレスが問いかける。
「人間も、自然に支配されるべきだからだ」
「(でもさぁ。ここ、国立保全樹海だよ?ちゃんと人間によって保たれてる自然なのに)」
するとそこで前に出たのは、ペルーニだった。
「自然を敬う事は、とても素晴らしい事だよね。でもあなたは、その自然を犠牲にしてモンスターを作って、ここの動物達も追い出したんだよ?」
シーザーのその表情は、まるで叱られた子供がハッとしたみたいだった。見た目は20代くらいの男性。でも目を泳がせた態度からは、明らかに自責の念が伺えた。
「俺が・・・自然を、破壊していただと」
「(だって木をモンスターにしてたら、なくなっちゃうじゃん)」
「貴様ら平民に比べたら、俺の力など大した事じゃない。だから、平民共に罰を与える為にモンスターを。しかし、それは、間違いだったのか」
そう言うとシーザーは考えを巡らせるようにどこか遠くを見たりして、やがて背中を向けて歩き出した。
「ちょっと待って」
ペルーニが声をかけるが、歩きながらシーザーは手を挙げて言葉を遮った。
「考えを改めよう」
「ほんと?」
しかし直後にシーザーは突き上げた大地に溶けて消えていった。ポカンとするとペルーニ、そしてみんな。
「確かに話せる相手だったが、本当にシーザリアンはもう我々を襲わないのか?」
そんな時だった、突然の地震がみんなを襲ったのは。地面が激しく揺れて、辺り一面の大地が蠢き出した。それでも本能的に浮き上がり、みんなは地震からは逃れたものの、程なくして大地がゆっくりと突き上がり始め、ルア達はただ辺りを見渡す事しか出来なかった。
「(わああーー)」
ゆっくり突き上がっていく大地。やがて10メートル、20メートルとどんどん大きく“塔”が形成されていく。
「おい!保全樹海だって言ってんだ!」
そんなアキレスの叫びなど聞き入れられず、大地の塔は300メートルほどの巨大なものとなり、先端が無数に枝分かれしながら大きく広がった。同時にその先端はまた木々を生やし、新緑色に染まっていく。
「(うおー。これは、木だっ。世界一大きな大樹だーっ。何かゲームっぽい)」
「ヘルったら」
「シーザー!」
「アキレス、まぁ自然は壊れてない、よね」
「そういう問題じゃないだろ」
「おーい!アキレス!これは一体どうなってんだ」
スピーカーからデリスの声が響いてくるヘリが飛んできて、ルア達は振り返る。
「シーザーだ。街のシーザリアンはどうなってる」
「順調に殲滅している」
「それは、つまり、シーザリアンは相変わらず街を襲ってるって事か」
「え、あぁ、そうだが」
アキレスは“大地の巨大樹”に振り返った。シーザーは戦いを止めてはいない。それが分かるとアキレスの心にはまた沸々と闘志が沸き上がってきた。
「シーザーを捜してくれ」
頷いたイエン。霊気検索すれば、すぐにシーザーの居場所は分かった。イエンが指を差したのは大地の巨大樹の幹のちょうど真ん中。でもやはり大地の巨大樹と完璧に密着している様子。
「でも、樹海は無闇に壊せないでしょ」
「いや、あの樹は、最早樹海じゃない。あれだけを破壊するなら出来るはずだ」
「いやちょっと待ってよ。もしあれを爆破したとして、あれが倒れたらどれだけの被害になると思う」
「それは・・・」
「もっと冷静になりなよ。もしシーザーを倒すとしても、あれを倒さないようにしなきゃ」
「どうやって」
「それは分かんないけど。今は様子を見るしかない」
それから数時間の後、街に放たれたシーザリアンは殲滅された。しかしそれからだった、マスコミが慌てた様子で報道し始めたのは。
「見て下さい!殲滅されたシーザリアンの亡骸から植物が生えていきます。街には大量の亡骸があり、その全てが樹木となって街に生い茂っていきます。国立保全樹海に現れた巨大樹との関係性は非常に高いと、ケルタニア軍は発表しています──」
それは果樹だったり、常緑樹だったり、野菜だったり、種類は様々。シーザリアン殲滅の直後、ケルタニアを中心に周辺国の一部が少し緑化した。無差別に緑が増えた。3日も経てば、その事実はゆっくりと良いニュースに変わっていった。
シルヴェルの家があった海底洞窟近くの丘の上の空き家。そこにシルヴェルとルアは居た。
「ここならちゃんと暮らせますよ」
「そうか」
海を一望出来る大きな庭。そこで並んで海を眺めていたルアとシルヴェル。ペルーニが笑顔で庭に種を植えている最中、シルヴェルはスッとルアの顎を支え、自分の方に振り向かせた。優しい海風が吹いたところで、そしてシルヴェルはルアに口づけした。
読んで頂きありがとうございました。
シルヴェルを仲間にしたルア達ですが、それでもシーザーという存在に対して勝機を見出だす事は出来ないようですね。これからどんな風に戦うのでしょうか。




