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逆襲のアルテミス  作者: 加藤貴敏
第4章「ウォー・ゲーム・オブ・ハザーズ」

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「魔王の慈愛」後編

ケルタニア、国立保全樹海。シーザリアンに支配される以前の静けさを取り戻した、自然溢れる場所。そこを独り、シザクは歩いていた。未だ軍による規制線は解かれていないが、当然のようにケルタニア軍は侵入者など気付くはずもない。いつも通り軍が“とりあえず”樹海を入場規制している中、シザクはとある洞窟の前で立ち止まった。渋い顔をしているシザク。それからすぐに“封印された洞窟”の中から1人の男が歩いて姿を現した。まるで岩で出来たようなスーツを着た緑髪の男。魔法の壁を挟んで、向かい合う2人。でも言葉を交わす前に、シザクはさっさと剣を作り出し、イエンが作った封印の壁を切り裂いた。終始怒りに満ちた顔のシーザー。久し振りにゆっくりと外に出れば、溜め息と共に“不機嫌”をシザクに醸し出す。

「何故助けた」

「時が来たからだ。ホールズにて、蘇りし者の配下が闊歩し始める。勿論この国にも」

「・・・・・俺には関係ない」

そう言うとシーザーは洞窟に戻っていった。1人取り残されたシザク。でもその表情は少し安堵していた。

ベリカニアのとある街。イエンは目に付いた光剣獣を追いかけたところで、その1体の光剣獣の色を変えた知らない男と出会った。

「・・・誰?」

「私はディンクルス・イコア。この戦の軸を見定めに来た」

「戦の、軸・・・」

紺碧の光剣獣となったその1体は、まるで研磨されるように滑らかに体が削られ、2メートルくらいの大きさになった。でもその直後、警戒して襲ってきた光剣獣に向かっていき、鋼鉄がガラスを砕くように、紺碧の光剣獣は普通の光剣獣を粉砕した。

「この街を救いに来たの?」

「戦の先にあるものは救いではない。戦は、やはり終わるものではないからな。ならば戦には、勝つしかない。この剣の獣は、いつかゼーレやサクリアにも牙を向くだろう。そうなる前に、戦の軸を掴まなければならない」

「そっか」

そんな時にやって来たのはブレン。

「おーディンクルス、そいつ、剣の奴か?」

「あぁ」

「いいじゃねえか。猛獣使いみたいだ。オレの相棒も作ってくれよ」

「分かった」

光剣獣を求めてディンクルスが歩き出したところで、ようやくブレンとイエンは目を合わせた。小さく首を傾げるイエン。そんな仕草に、ブレンはドキッとした。

「確か、アルテミスの仲間のエルフ、だっけか」

「うん。私はイエン」

「お、オレは、ブレンだ。・・・てことはアルテミスの奴らも来てるのか。なら、またゼーレみたいに、めちゃくちゃになるのか」

「今回は分からない」

「何でだよ」

「だって、剣の獣、街をめちゃくちゃにしてないから」

「まあ確かに。しかもすげー弱いしな。目的は、一体何なんだ」

「本人に聞いたら?」

そう言うとイエンは空を見上げた。だからブレンも空を見上げれば、上空にはこちらを見ているようで見ていない、人型のドラゴンが悠然を浮いていた。地上から見れば米みたいなので、目を細めるブレン。

「あいつなのか、今回のボスは」

そんな時にやって来たのはジャガーノート。

「グガー」

「ん?お前も退屈か」

「グガ」

ふと見つめ合うイエンとジャガーノート。でもジャガーノートは独り言を呟きながらすぐに歩き出し、襲って来た光剣獣をバチンッと叩き飛ばした。転がった光剣獣はすぐに立ち上がり、ジャガーノートに向かっていくが、背中の砲身から銀青の光が放たれれば光剣獣は粉砕された。するとそんな時だった、ふと空から降り立った1体の光剣獣が、どこかジャガーノートのような体型に変化したのは。

「グガ!」

「ん、何だあいつ。ジャガーノートか?」

宙に浮き出し、滞空しながら光剣ジャガーノートは全身の砲身から青カビ色の光を連射してきて、ブレンとジャガーノートは思わず身を屈めた。でもそこに颯爽と飛んできたのは紺碧の光剣獣で、見事なタックルで光剣ジャガーノートは墜落した。

「グガグガ?」

「新しい仲間だってよ。良かったな」

それでもやはり強化されてるのか、光剣ジャガーノートはすぐに立ち上がって紺碧の光剣獣、更にはブレンとジャガーノートにも砲撃してくるが、ふとイエンが感じたのは光剣ジャガーノートは建物を無差別に巻き添えにする事なく、ピンポイントでブレン達を狙っているという事だった。その戦い方には少なからず知能と意思が伺えた。

一方、ルアは上空を飛んでいた。弱い光矢で挑発し、何体もの光剣獣を空に誘き寄せてから撃破していた。でもそこでやって来たのは光剣獣ではなく、シルヴェルだった。光の花びらに捕まらない距離感を保ちながら、シルヴェルは殺気なく威圧した。

「美しいとは思わないか?」

「え?」

「力ある者が、自らの意思で戦う姿が」

「でも、街を破壊するのはダメです」

「光剣獣たちにはそんな事はさせない」

「でも、最初、ドラゴンには街を破壊させましたよね?」

「我への闘志を掻き立ててやる必要があったからな。多少の傷を負わなければ、真の闘志が目覚める事はない」

「そんなの自分勝手じゃないですか」

「戦う者を目覚めさせ、民を活かすのが王の使命だ。戦わなければ国も栄えない」

「今はもう時代が違うんです」

「時代が違うだけだろう」

「え?」

「人の本質は変わらない。人が何故美しいか、それは意思を持って戦うからだ」

竜人の姿のシルヴェル。でもその瞳には強い意思が輝いていて、その人間らしい眼差しにルアは言葉を失った。

「お前の戦いは、傷の手当てだろう」

「え」

「ならば光剣獣などに突っ掛かってる暇は無いだろう。光剣獣と戦うお前は、美しくない」

ルアはただ街を見下ろす事しか出来なかった。自分の中の芯の部分を、殺気なく言い当てられた事がまるで矢で射抜かれたように痛かった。このまま街に降りたら、まるでシルヴェルの言う事を聞いた感じになってしまう。それが何となく嫌だった。シルヴェルに負けたという事ではなく、自分の弱さを認めてしまうようで。そんな時、ふと視点を飛ばして見えたのは、ディンクルスの姿。同時に思い出したのはディンクルスの言葉。──戦の勝者とは、戦の軸を掴んだ者。

治癒玉(セレミヤ)

プリマベーラのシリンダーが一周して、7つの治癒玉が街に解き放たれていく。それからシルヴェルはゆっくり頷いた。慌てて怪我人を捜すのではない、冷静な判断。その凛々しい横顔に感心したのだった。

「お前と我が共に居れば、国は栄えるだろう」

「え?ど、どういう事」

「我は闘志を目覚めさせ、戦う者を育て、お前は戦う者も、戦わざる事で傷付いてしまう者も全てを癒す。この上なく美しい循環だ。我は、お前が気に入った」

「・・・え」

ゆっくりと近付いてきたシルヴェル。でも殺気もなく、もっと言えば威圧もない。あるのは王たる威風。光の花びらは、そよ風のようにリラックスしていた。目の前に来るとシルヴェルは人間に戻り、そっとルアの頬に触れた。

「よく見れば娘に少し似ている。我と共に居れば、お前の使命も尽きないだろう」

「・・・え、それって、人が傷付くのを黙って見てるって事です──」

ルアは優しくシルヴェルの手を払う。

「そんな、自分達で人を戦わせて癒しての繰り返しなんてダメです」

「我は神などではない。戦わざる者がより傷付かない為に、民を戦う者に目覚めさせる事しか出来ない。それが人の世というものだ。我には、お前が必要だ」

そう言うとシルヴェルは優しくルアの頭に手を置き、そのままゆっくりと髪を撫で下ろし、最後に顎に手を添えた。

「こ、困ります。とにかく、こんな風にモンスターを放っても、ただ混乱するだけ」

「・・・ウパーディセーサ」

「え」

「人類が生み出したその力は、新たな戦争を生み出している。その時、戦わざる者を救うのは誰だ」

「それは・・・」

再びシルヴェルはルアの顎を優しく支える。でもそれは下を向いて眼差しを迷わせた態度を直させる為。光の花びらはただ風に舞い揺れる。見つめ合うルアとシルヴェル。

「我は救うぞ、民を」

「そんなの、ただの戦いであり、犠牲が生まれるだけで」

「苦悩の無い世など無い。だが我と共に来れば、その迷いを晴らしてやる」

ルアが自覚したのは、シルヴェルという王の強く輝く人としての眼差しに、魅せられているという事だった。全く動けなかった。シチュエーション的にこのままキスをされても、きっとこの弱い心はそれを受け入れてしまうだろうと。するとそんな時だった。2人の前に、ディンクルスがやって来たのは。ゆっくりと振り向くシルヴェルとルア。同時にシルヴェルは感じ取った。

「お前は?」

「私はディンクルス・イコア。この戦の軸を掴みに来た」

「良い眼をしている。我の力の欠片を、光剣獣を拾って満足か」

「拾えるものは拾うのが私の矜持だ」

「そうか」

「私は、世を戦で動かす。そして戦あらば、その軸を掴み、必ず勝つ」

「勝って何とする」

「ただ生きている。それが何よりも救いだろう」

「ならば、我と共に歩むか」

ディンクルスは目を細めた。その眼差しの先はルア。

「私は、私の国を作ると決めた。もう人の軍師に下る事はしない。むしろ、お主のような者と戦える事が、何世紀ぶりの馳せし想い」

「そうか。だが“我ら”に敵う国など、最早存在しない」

そう言うとシルヴェルは変身した。ディンクルスは両手に剣を作り出し、そして2人は闘志をぶつけ合う。そこで一瞬、シルヴェルはルアに振り返った。

「頼む。我を救ってくれ」

ルアはただ宙に立ち尽くしていた。空気を震わす衝撃を轟かせて、シルヴェルとディンクルスが激しく戦うのをただ眺めていた。ディンクルスも、きっとシルヴェルも悪い人じゃない。でも、戦わないと生きていけない。悲しいけどそれが人の世。本当に強い人とは、その現実に立ち向かえる人。──だから私に出来る事は・・・。

ディンクルスが放った紺碧の一閃。シルヴェルはそれを拳で弾き飛ばし、一気に距離を詰めて殴りかかる。でもディンクルスはその拳を剣で受け止め、再び斬りかかる。その素早い剣捌きにシルヴェルは腕を切りつけられ、胸元にも傷を負わされた。ディンクルスの眼差しに宿る闘志がより鋭くなる。それは相手の隙を真っ直ぐ見定めた眼差し。しかしその瞬間だった。シルヴェルの背後から光の花びらが吹き出したのは。光の花びらは瞬く間に蔦を生やし、ディンクルスの剣先、腕、胴体に絡み付いていく。

「くっ・・・」

ディンクルスの剣から迸る紺碧。

「・・・ディスペリオン!──」

しかしバチンッと剣は宙を待った。光速の矢が剣を射抜いたのだった。それからディンクルスの前にパッと現れたのはルアだった。

「こんな戦いに意味は無いです」

ディンクルスの脳裏に甦る昔の記憶。それは若かりし頃、頑固で強敵と名高い勇士と、意地の張り合いで剣を交えていた時だった。突然にバケツの水をぶっかけられた。その言葉は初めて会った時の、エリーヴァの言葉だった。

「その力は、今使うべきじゃないと思います。戦わなきゃ生きていけないのは分かってます。でも、あなた達は、今戦う必要は無いと思います」

ディンクルスはルアを睨み付け、シルヴェルに目を向ける。だがシルヴェルは頭が冷えた事を自覚するようにどこか遠くを見つめたので、やがてディンクルスは剣を消した。

「・・・なるほど。やはりお主も、寄り添う者、か」

ルアの体から優しく吹き荒れる緑色の風。それはシルヴェルもディンクルスも平等に癒していく。ディンクルスから闘志が引けば蔦も消えていき、ディンクルスはそっと手首を擦る。

「ならば、お主との戦いの軸はルアか」

「え、何でですか」

「ふっ、常に、長とはそういうものだ」

そう言うとディンクルスは満足そうに地上に戻っていった。その直後、ルアはふと腕を掴まれて気が付けば“意識がジャンプ”した。転移したという自覚をする中、ここが洞窟という事も理解した。

「あの」

光の花びらの全てがひらひらと、まるで間接照明のように洞窟内を照らしていく。海の匂いがするそこで、やがて一軒の家が見えてきた。

「ここ、この前の、洞窟。この家に住んでたのは、シルヴェルさんだったんですね」

「住んでいる、と言えるほどの事はしていない」

「何でここを選んだんですか」

「理由は無い。・・・いや、海の匂いが、落ち着くんだろう。時に、お前と共に居るその者は何だ」

「精霊、です」

合体を解けば、ルアの隣にペルーニが現れてシルヴェルは冷静に固まった。

「見えるんですか?」

「あぁ。小間使いか」

「そんなんじゃないよ。私はペルーニ。ルアのパートナー」

「パートナー・・・」

何となく促され、ルア達はふらっと家に上がり込んでリビングに入った。仕方なく(スーヴェ)で明かりを点けたのはペルーニ。それからルアとペルーニは適当にソファーに座る。

「あの、みんな戦ってるのに、こんな所でのんびりしてられません」

「問題は無い」

そう言うとシルヴェルは空間に手をかざし、青カビ色の光を出現させた。それが大きく鏡のようにルア達を映したと思えば、そこには外の様子が映された。街中を闊歩する光剣獣。しかしその中にはルアの治癒玉を頭にめり込ませた光剣獣が居て、その光剣獣は戦いの巻き添えを食らった一般人を癒し、避難させていた。

「“我らの力”は働いている。王は悠然と世を眺めていればいい」

困ったように顔を見合わせるルアとペルーニ。でもルアがふと気になったのは、どこに座ったらいいか分からないお客さんのように居心地の悪そうなシルヴェルの姿。

「食事はどうしてるの?」

ペルーニがそう聞けば、シルヴェルは微妙な顔をした。

「力の欠片を小間使いにして、魚を捕っている」

「あの、民を戦える者に目覚めさせるって、ジュピターズの事ですか?」

「我の力の欠片を取り込んだ者達か。いや、特定の誰かというより、目覚められる者全てだ」

「でも、何の為に?目覚めさせなきゃいけない理由でもあるの?」

「理由・・・。我は、王として生きる。それだけだ。我は、蘇るべきではなかったというのか?」

「そんな事は・・・言ってないけど。でもあなたはきっと、優しい王様だったんだね」

「王とは、常に慈愛を持って生と死を見つめよ。我は父からそう教わった」

「慈愛・・・」

「生と死は必ず(めぐ)るものだ。生まれた者を慈しむように、死にゆく者にも慈しみを持つ。いつか己が死ぬ時に、誰かに慈しみを手向けて貰えるように生きろ。そう言って父もまた死に行った。だから我は、命ある限り民を救ってきた」

ペルーニはふとルアに微笑んだ。どうやらこの人は良い人だと思っていいだろうと。だからルアも少し安心したように頷いた。

「ここから、ずっと地上を見てたんですか?シルヴェルさんだったら、別に地上で暮らしてもみんな怖がらないと思いますけど」

「王は、民とは離れた所に暮らすものだろう」

「でもここじゃ、電気も通ってないし、生活しづらいんじゃない?」

ケルタニア、軍基地、シーザリアン対策モニタールーム。その時、モニタールームにサイレンが鳴った。いつものようにモニターを眺めていたアキレスは目を見開いた。冷静な心を逆撫でするサイレンと共に、画面上に示されるシーザリアンの反応。

「どうなってる!10、いや20・・・どんどんシーザリアンが確認されてる。くそ、封印されたんじゃないのかよ!」

読んで頂きありがとうございました。

シザクは何故シーザーを解き放ったのか。それはもうちょっと先のお話ですかね。

果たしてシルヴェルとシーザーはどんな衝突を生むのでしょうか。

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