「魔王の慈愛」前編
真後ろに向かって素早く蹴りを繰り出したルア。でもシルヴェルは真っ直ぐ立ったままルアの脚を瞬時に押し退け、ジュシアル・ブーツから放たれた光の衝撃波は虚しくどこかに飛んでいった。それでも直後にルアは眼差しを細める。ルアからふわふわと舞い広がる、光の花びら。それはシルヴェルの体に優しく触れれば一瞬で蔦となり、体を締め付ける。ルアと見つめ合うシルヴェル。だからシルヴェルは素早くルアから離れ、体に纏わりつく蔦を弾き飛ばす。
「迷い」
「・・・え」
「お前の殺気は、まるで怯えた羊だな」
「あなたの事は止めます。けど、悪い人じゃないなら殺しません」
「我を見定めるか。ならば拳で語ってやろう」
そう言ってシルヴェルは瞬間的にルアに殴りかかった。その動きについていけたのは、ルアから舞い広がる光の花びらだけだった。ひらひらと舞うだけの光の花びら。しかしそれは“飛んできた危険”を察知して、一瞬の小さな光壁となった。それから素早く回り込んでシルヴェルがルアに蹴りを繰り出すと、ルアは何とか手に纏った光壁で受け流す。近付き過ぎれば光の花びらに捕まり、遠退けばルアはすかさず燃える光矢を狙い撃つ。それは自然のように穏やかに、でも時に一瞬にして牙を立てるという、攻防のバランスの取れた戦闘スタイル。そうシルヴェルは思った。それからルアが風を纏うと、その風で更に光の花びらが速く、広範囲を舞っていく。風に乗って飛び出したルア。そう思った途端、パッと消えた。ひらひらと舞う光の花びら。とっさにシルヴェルは後ろを振り返り、放たれた燃える光矢を何とか手で受け流す。でももうそこにルアの姿はない。風に乗っては飛び回り、光の花びらを散らしながらも消えていき、パッと現れては燃える光矢を撃ってくる。それでもその動きの全て、シルヴェルは“瞬間的に見切っていく”。それでもその直後だった、シルヴェルが周囲に無数に舞う光の花びらに気が付いたのは。ひらひらと舞う光の花びら。途端にそれは吹雪のようにシルヴェルに向かって襲いかかった。
「くっ・・・・・」
瞬く間に全身に絡みつく蔦。それは鎖のように硬かった。
「こんなもので、我を・・・止められると・・・思うなあああ!!」
青カビ色の光は爆発した。バリバリと鎖が砕ける音がして、光の花びらが燃えて消えていった。振り返るルア。向かってきたのはドラゴンから放たれた無数の鱗たち。それは津波のように、光の花びらよりも速く、一瞬でルアを覆っていく。それでもルアはパッと消えて何とか逃げ出したものの、そこに待ち構えていたのはシルヴェルだった。シルヴェルが吐き出した、青カビ色のレーザービーム。何も出来ず、ルアは呑み込まれた。
第74話「魔王の慈愛」
「(うおおお!!)」
そんな時だった、テリッテが突撃してきたのは。テリッテがシルヴェルをぶん殴ったところで、ヘルはルアに駆け寄る。
「(ルア)」
蔦に覆われた光壁を作っていたお陰で、深いダメージは防いだルア。ルアが頷けばヘルも安心して、ドラゴンに向かっていく。
「(テリッテ達!ドラゴンは任せて!)」
「うん」
ドラゴンとヘルが睨み合い、ドラゴンは鱗たちの矛先をヘルとルアに向けていく。ヘルがドラゴンの横を通りすぎていくと同時に、ルアはドラゴンの顔の前にパッと現れた。目を細めるドラゴン。でも一瞬でルアは消えていき、そこには光の花びらだけが残った。その直後に光の花びらがドラゴンの顔に向かっていき、蔦となって絡んでいく。ドラゴンが煩わしい蔦にもがいている傍ら、ヘルがフェニックスダイブでドラゴンの首筋に突撃し、ドラゴンはよろめいていく。
「大丈夫?」
振り返るササラギ達と、光剣獣たち。色んな所へ行ってジュピターズを助けてきたクロムが戻ってきた。でもその表情は困ったものだった。何故なら光剣獣たちは無限に出てくるから。
「俺達は大丈夫だ」
「手加減されてるから」
「そっか」
「あなたもシルヴェルと戦ってる人達に加勢した方がいいんじゃない?」
クロムは空を見上げた。大きなドラゴンにはルアとヘルが戦っていて、でも2人は苦戦はしてないよう。
「でも、いつあいつらが本気を出すか分からない」
「それは、確かに」
そんな時だった、川の向こうから、離れて戦っていたジュピターズの3人が逃げてきたのは。距離を取って、囲むように追い立ててくる光剣獣たち。
「悪い、合流させてくれ」
「手加減されてるんじゃないのか」
「そうなんだけど。何か、不安で」
「まぁそうだよね」
パッとルアは空高く転移して、濃縮魂子を使った火光矢を撃った。それはまた一瞬でドラゴンに突き刺さり、その一撃でその巨体の動きはとても鈍くなり、鱗たちのスピードも激減した。そして直後、ヘルは聖なる炎の濃縮魂子を使った。
「フェニックスダイブ!」
眼差しを細めるドラゴン。その瞳にはただ1つ、燃え盛る塊が映り込む。広がっていく熱波と凄まじい衝撃音。ドラゴンの額にヘルが激突する様をルアやクロムが見守る中、やがてドラゴンの顔には亀裂が走った。振り返らずとも、自分の力の欠片のダメージを察知したシルヴェル。でも今はテリッテの尾状器官の拳を受け止めている最中。だからシルヴェルは、ゆっくりと頷いた。
「(やああああ!!)」
そして光と共に輝き燃え盛る炎はドラゴンの頭を粉砕した。そのまま燃え盛り、消えるようにドラゴンの存在が霧散していく。しかしまたそのまま、ドラゴンだった青カビ色の光は無数の光剣獣となっていく。バチンッとテリッテの尾状器官を弾き、そのまま蹴り飛ばしたシルヴェルはそこでパッと消えた。現れたのはただテリッテと距離を取った上空。それからシルヴェルは青カビ色の光をばら撒いた。その瞬間から更に光剣獣たちが増えていって、遂にはその数は100以上になった。
「(ふん、雑魚を増やして何になるんだ)」
「誰かに取っては、死そのもの」
「(あ?)」
「狼狽えるが良い。この欠片たちが、街を行く様に」
「ダメ!そんな事をしたら、普通の人達はみんな死んじゃう!」
「さあどうする」
そう言ってシルヴェルは笑った。それでもルアがその態度からふと感じたのは、殺気の無さだった。悪意は無く、単純に楽しそうに笑っていた。そして、光剣獣たちは動かなかった。
「集いし者共よ、その力は我が娯楽に相応しい──」
シュウズンは立ち上がり、溜め息を強く吐き捨てた。そんな時、光剣獣たちから反響するように、シルヴェルの声が聞こえてきた。
「力を持つ者は、命を賭けている時が最も美しい。我が、お前達に戦場を与えてやろう。お前も、それを望んでいるんだろう?」
シルヴェルが眼差しを向けたのはテリッテ。でもテリッテとアーサーは分かっていた。その問いかけはアーサーに言ったのだと。だからアーサーは応えられなかった。同時に、シュウズンは光剣獣と睨み合い、その傍らでササラギも光剣獣を静観する。
「(俺が戦いてえのはお前だああっ!)」
蒼白く輝く炎の翼が、地上からも見えるほどキレイに燃え盛っていた。そうクロムはテリッテの尾状器官と、それを受け止めるシルヴェルが掻き鳴らした衝撃音を見上げた。その途端、テリッテは瞬間的な速度の拳を2発受けて吹き飛んでいく。それでもまた加速して果敢に突撃していく中、遂に光剣獣たちが動き出し、流星群のようにとてつもなく広く地上に降り注いでいった。
「(ルア!どうしたらいいの!)」
「とにかく、すぐに倒すしかない。イエン呼んでくる」
「(テリッテ達!シルヴェルは任せたよ!)」
「(あぁ!)」
光剣獣たちを追いかけていくヘル。するとそこにクロムがやって来た。頷き合えば、ヘルとクロムは共に飛んでいき、そして道路の真ん中に降り立った1体の光剣獣と対峙する。突如としてやって来た5メートルの怪物に街の人達は恐怖して逃げていく。そんな人々を眺めるように、ヘル達が居るのにも拘わらず光剣獣はキョロキョロした。
「(街中じゃ本気出せない。何とか空に誘き寄せよう)」
「分かった」
しかしその直後に光剣獣はヘル達に背中を向けて、車を蹴り飛ばして一般道を走り出した。
「(あっ!)」
それでもパッと転移して、ヘルは光剣獣の行く手を塞ぐものの、まるでスポーツでもしているかのように光剣獣はヘルをかわして横路を走っていく。
「(うわっ!もうっ!)」
そこで飛び出したクロムは鎖剣を伸ばして、光剣獣の足を掴まえた。ベタッを倒れ込む光剣獣。そのままクロムが上昇していけば光剣獣も宙吊りになっていく。その瞬間、ヘルは狙いを定めながら双光火弾を作り出す。でもそれは聖なる炎が揺らめく、バージョンアップした双光火弾。
「(フェニックスブレス!)」
翼から放たれた2連の燃える光弾。地上から放たれたその様はまるで大きな戦艦の砲撃。逃げ惑う人々も、その一瞬の爆音と眩さに身を震わす。クロムに放り投げられた光剣獣にそれが命中すれば、太陽のような凄まじい爆発に光剣獣は粉々になる。
「すごいな、ヘル」
「(へへっ)」
しかしそんな時だった、ヘルが振り返ったのは。どこからともなく歩いてやって来た、1体の光剣獣。でもその姿は全く新しかった。ちょっとだけ大きくなった体格、剣で出来た体の上に、光と炎が固まったような鎧。そして背中から生えた6本の鎖剣。
「(あれ・・・・・ボクと、クロム達?)」
「どういう事?」
「(シルヴェルの力って、ボク達の戦闘スタイルを吸収するんだよ)」
途端に“光炎の剣獣”が鎖剣を伸ばしてクロムとヘルに襲いかかる。それを弾いても、今度は強く鋭い青カビ色の弾を吐き出してくる。その爆発は凄まじく、思わずクロムは宙に浮きながらふわふわと仰け反ってしまう。
「これじゃ、他の奴を追いかけられない」
「(やっぱり、一筋縄じゃいかないんだな。そもそもあの光剣獣たちは手加減してるって事か。だがオレ達だって、足止めされてられない)」
「うん」
クワイオ達が戦ってる間、人間に戻ったササラギはスマホを手に取った。
「ジュピターズ全員出動。剣の獣が各地に散らばった。主はシルヴェル・ゴラー。ドラゴンや鳥獣を作った張本人。先ずはとにかく、剣の獣を殲滅して欲しい」
そんなメッセージをグループメッセージ機能を使って一斉送信した。返信を待たずにササラギはすぐにまた変身して、尾状器官を強化してリッショウを施す。
「3人共、悪いけど街に向かった剣の獣を追ってくれないか。ここはオレとサンナとオージュンで」
「まじで?」
「街の人達を守るのが仕事だろ」
「そうだけど」
「・・・・・分かった」
1人が承諾すれば他の2人も納得して飛んで去っていく。
「サンナは改めてキャンプ場に逃げ遅れた人が居ないか捜してくれ」
「分かった」
ハイロが去ってササラギとクワイオだけになっても、光剣獣たちは一斉に襲いかかってこない。そんな光剣獣を、ササラギは真っ直ぐ睨み返す。──これは、ゲームだ。シルヴェルはオレらを試してる。ならオレは、フィールド全体に目を向ける。それがオレのやるべき事。
「オージュンはキャンプ場の他のメンバーに伝達を頼む。戦うより人助けだ。街に向かってくれって」
「オッケー」
それから1人になったササラギに、1体の光剣獣がゆっくりと近付いて“スタンバイ”する。その態度は「戦うのか?」という“問いかけ”。つまり“戦わないなら、光剣獣は追いかけてこない”。そんな光剣獣を前に、ササラギは深呼吸した。
「・・・来い!」
何人かに声をかける中、やがてクワイオはまたジュピターズの1人を見つけて近付いていく。
「ササラギが、街に向かってってさ」
「・・・断る」
「シュウズン。いやでもさ。オレ達の仕事は」
「分かってる。だがこいつらは、オレ達を殺す気は無い。つまり、街の人達を殺す気も無いって事だ」
「そんなの分かんないじゃん」
シュウズンが飛び出して尾状器官で殴りかかると、光剣獣はそれを“受けてから反撃する”。反撃をシュウズンがかわしていくと、光剣獣はクワイオを“通り過ぎて”シュウズンを追いかける。
「他のメンバーが行けばいい。とにかくオレは強くなるんだ!邪魔するな」
向かってきた光剣獣を竜装状態の尾状器官で受け止め、同時に超重火状態の尾状器官から超火力の衝撃波を放つ。ドカンッと光剣獣がひっくり返ったところで、電気爪状態の尾状器官で突き刺してトドメを刺せばその光剣獣は消えていった。そうササラギが1体の光剣獣を倒したところにクワイオがやって来る。
「・・・・・シュウズン。後はみんな街に行ったんならそれでいいか」
「ソウタはどうすんだよ」
クワイオがそう聞けば、ササラギは少し後ろめたそうに頭を掻く。
「オレも、戦いたい。強くなりたい」
「別に特訓なら街でもいいじゃん」
「あー、そうだよな。じゃあサンナが戻ってきたら、オレらも行こう」
シルヴェルの眼差しには常に余裕があり、衝動的な殺気は無い。攻防の中で、テリッテはそんなシルヴェルの眼差しを観察していく。
「我に構ってていいのか?」
「(街を守れる奴なら沢山居るんだよ!)」
言葉を返すと同時に尾状器官の拳も突き出され、シルヴェルはそれを力強く受け流す。
「そうか。強い者を求めてると言ったな」
「(だから何だ)」
その瞬間にテリッテの腹に打ち込まれた拳。その衝撃でテリッテの勢いは止まる。するとその直後に光剣獣が1体がやって来て、シルヴェルはその頭を掴んだ。みるみる姿が変わっていく光剣獣。5メートルの体格は変わらないものの、半獣半人のような骨格になり、背中から尾状器官のような“腕剣”が2本、アーサーの短い尾状器官のような“砲剣”が2本生え、そして全身には青カビ色の炎の鎧を纏った。
「存分に楽しむがいい」
「アーサーみたい」
「(くっ真似しやがって)」
背中全体から青カビ色の炎を吹き出して“光剣アーサー”が腕剣で斬りかかってきたので、テリッテはすぐさま尾状器官でそれを受け流し、逆に殴り飛ばす。しかし光剣獣とは比べ物にならないほど頑丈な光剣アーサーはすぐにまた斬りかかってきて、テリッテは攻防を繰り返していく。そんな戦いを、シルヴェルは頷きながら傍観していく。
イエンと共に、パッとベリカニア上空に戻ってきたルア。いつも通りイエンは不安や緊張を顔に出さないので、ふと何かを感じたという方に向かうイエンについていけば、そこには“ただ街を歩く光剣獣”が居た。
「何もしてない」
「そう、だね。でも、暴れる前に倒さないと」
頷いたイエンが颯爽と地面に降り立ち、瞬間的にリッショウをしながら拳を振るえばその衝撃で光剣獣はガラスのように砕けて消えていく。まるで塵を払ったようにフッと息を漏らすイエン。
「じゃあ手分けするからお願いね」
「うん」
ルアが別の光剣獣に向かっていったので、イエンも霊気検索して次の光剣獣の下にパッと転移した。するとそこにいたのは、ディンクルスだった。ディンクルスは光剣獣を倒す事なく、頭に手を置いていた。“色の違う”光剣獣からふと感じたのは、同じ根源だけど、違う霊気。
「誰?」




