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逆襲のアルテミス  作者: 加藤貴敏
第4章「ウォー・ゲーム・オブ・ハザーズ」

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「奇跡の戦士」中編

バラバラと崩れる大聖堂の一部。ふとした静寂。でもすぐにその瓦礫の隙間から蒼白い炎が光のように洩れだし、瓦礫を吹き飛ばした。

「(ふう、全然ダメだ。出来たけどまだ弱い)」

「でも、これでいいよね」

テリッテがそう返せば、尾状器官はカシャカシャと振るえた。白銀の竜人はまるでテリッテ達を好敵手だと認めているように、ただ見下ろしている。ヘルにはそんな風に思えた。

白銀の雨の中を掻い潜り、ジェクスとイエンはようやく白銀の飛竜を肉眼で捉えた。2人が来た事で飛竜も敵意をぶつけてきて、そして白銀の雨を降らせた。

「くっ簡単には近付けないか」

それでもジェクスは大きな白銀の光弾を1つ踏み台にして飛び上がり、風の弾を放った。それは強烈な風圧を凝縮させたもので、白銀の飛竜のお腹辺りで爆発すると“純粋な風圧”を生み出した。その瞬間、飛竜に纏う白銀の霧は掻き乱され、飛竜のボディーが露になった。それでも意思を持つように霧は穴を埋め始めるが、そこにイエンが雷の速さで炎弾を撃ち放つと、電気と炎の衝撃は飛竜のボディーに直撃した。

「いけそうか?」

「うん」

しかし怒りの雄叫びと共に長くしなやかな尻尾を振り回すほど体力は有り余っているようで、ジェクスとイエンが何とか転移してかわしていくと、その間に白銀の霧は穴を塞いでいた。

「エストーン、レヴァク、攻撃は任せたぞ」

声だけ転移させてジェクスがそう言えば、ジェクス達の様子を視ていたエストーンとレヴァクは同じように声を飛ばして返事をする。それからジェクスとイエンはひたすら風の弾をぶつけていき、飛竜を護る白銀の霧を押し開いていく。しかしそれを邪魔するように飛竜は暴れて、翼で叩かれたジェクスは勢いよく墜落していき、イエンは吐き出された白銀のレーザービームに押し飛ばされていく。それでもその瞬間だった、遥か遠くから一筋の光弾が飛んできて、白銀の霧の隙間を縫うように飛竜の腹を貫いたのは。

「やったか?」

エストーンが聞けば、レヴァクは首を傾げる。

「ダメージはあるようだが、さすがにあの巨体じゃまだまだ動くだろう」

「じゃあ、次はこれだ」

そう言ってぶん投げられたロケット弾。しかしロケット弾は吐き出された白銀によって迎撃されてしまい、エストーンは肩を落とす。

「2人共、大丈夫か?」

レヴァクは問いかけながら、森に落っこちたジェクス、ビルの窓に突っ込んだイエンを見る。

「くそお、大丈夫だが、ふう」

森の中でジェクスが立ち上がる一方、ビルの壊れた窓に立ち、遠く白銀の飛竜を眺めるイエン。イエンはふと感じた。それはリッショウボールの効果が切れる感覚。でもそんな事は気にせず、リッショウによって循環する自分の霊気の流れを感じていた。同時に思い出したのは、アーサーの燃え盛る姿。そして、イエンは深呼吸した。

「・・・・・どうかしたのか?」

こんな時に急に“自分を見つめ始めた”そんなイエンを視ながら、エストーンはレヴァクに問いかける。

「イエンは、口数は少ない方だが、想像力は豊かだからな」

光壁担当のイシュレも、ボーッとするようにイエンの姿を眺めているとやがてイエンの周囲に、肉眼では見えるはずのない霊気の流れが見えてきた。3人揃って首を傾げるイシュレ達。イエンの周囲で加速していく霊気はやがて“背中に集中していって輪っか”となり、そしてイエンの黒髪は真っ白となった。

「リッショウに直接、(スーヴェ)を混ぜた」

イシュレがそう言えば2人は黙って頷く。ゆっくりと目を開けたイエン。その瞳は強く虹色に輝いていた。それから飛び出したイエン。その風圧だけでビルが倒壊した。白銀の飛竜は目を細めた。何故なら気が付けばイエンが目の前にいたから。振り上げられる飛竜の翼、イエンの手。同時に風を切る飛竜の翼、イエンの手。そのぶつかり合った風圧は飛竜もイエンも吹き飛ばし、白銀の霧を押し流した。

「すごいな」

呟いたのはジェクス。今までとは違う気配のリッショウ。マガツエルフは精霊のように自由に元素を操れる。勿論個人のセンスの問題でもあるが、例え異世界の人間から教わった見知らぬ魔法でも、その性質を把握してアレンジ出来る。イエンは元々、魔法のセンスが良い。煽られて吹き飛ばされた白銀の霧の隙間を縫って、イエンはパンチを繰り出した。ドカンッと飛竜の体が波を打つ。しかし直後に白銀の霧は光弾を生み出し、イエンを押し退けた。

「あのバケモノからも霧からも攻撃出来るなんて」

エストーンが思わず口を開けば、イシュレは瞳を虹色に光らせる。

「元々、霧も体の一部」

「そういう事か。でも“形がある方”を倒せば、止まるよな?」

「やってみるしかない」

そうレヴァクは意識を集中し、遠くに手をかざした。音を超えて空気を突き抜ける光弾。また1つ、ブスッと一筋の光弾が飛竜の体を貫いた。今度は一瞬だけ飛竜が硬直した。そんな隙を、イエンは見逃さない。

分厚い雲にぶつかる、ダークグリーンの嵐。雲と嵐とじゃ“油から逃げる水のよう”。雪雲を蹴散らして、カンディアウスは雲の上で、一際濃い“白銀の雲”を見た。分厚い白銀の雲にぶつかる、ダークグリーンの嵐。でもそれは雪雲なんかとは比べ物にならないくらい、分厚かった。

「我を地に伏せられると思うか?」

ガルゼルジャンは外界から遮断された雲の中で、ただ天井を見上げていた。そこに敵意は無かった。そして、カンディアウスは答えられなかった。

「我に、星空など見えていないと思うか?」

「神などではないが、力があるのは認める。だが我は、世界の広さを知らない。お主がこの先、どのような地獄を見るやも分からない」

「ハッハッハ!地獄など、我の足元にも及ばない」

しかしその直後だった、ガルゼルジャンが黙ったのは。ガルゼルジャンはふと思い出していた。それは暗殺される直前の、側近の眼差しだった。

「・・・・・貴様は、何しに来た」

ガルゼルジャンはそうカンディアウスを見た。カンディアウスの眼差しは“その眼差し”とは全く別のものだった。

「我は、かつて闘士だった」

「矜持で戦いに来たか」

ディンクルスは空を見上げた。分厚い白銀の雲を視ていた。気配と気配が激しくぶつかっている。今にもダークグリーンの嵐が分厚い雲を切り裂きそうだった。殻を破こうとする嵐を阻むように、白銀の雲は歪んでは元に戻り、また歪んでは元に戻る。それからディンクルスは目を見開いた。強い衝撃の後、何かが白銀の雲から落ち、雪雲を突き抜けた。それは、嵐だった。ディンクルスは何となくそれを追いかけた。嵐は大きな交差点の真ん中に墜落し、カンディアウスは人間となった。そして、大の字で倒れたまま笑っていた。

「何が可笑しい」

「血がたぎった。いつの日も、この感覚は心地がいい」

「どうすんだよ。こいつでも勝てないなら、もう打つ手無いだろ」

「グガ」

「我は、まだ負けていない」

「はあ?ぶっ飛ばされてんじゃねえかよ」

ディンクルスは転移した。動けないカンディアウスも部下達も連れて。そんな面々が突然目の前に現れて、ルアは静かにパニックになる。

「この者の傷を癒せ」

「えっと」

どういう状況かと、聞けるほど仲良くない。でもそんな事を聞かずとも、ルアのネイチャーソウルは“勝手に周囲の者を平等に癒していく”。

「拾えるものは拾う。その矜持に文句は言わせない」

「えっと、ディンクルスさん達もガルゼルジャンと戦ってるんですよね?」

「そう、選択を委ねられたものでな。ただこれほど手強いとは思わなかった」

「ん・・・勝手に傷が」

自分の体を見下ろしながらカンディアウスが起き上がり、そのままあぐらをかく。それに一瞬だけ振り返ったディンクルスは感心するようにほんの小さく頷く。

「何か策はあるのか?」

ブレンがそう聞くが、ディンクルスはただ空を見上げた。空を覆う雪雲はまだらに晴れていた。

「・・・無い」

「えー、指揮官だろ?」

「あるとすれば、奇跡が起きるのを待つ」

「奇跡・・・」

呆れた笑いまじりにブレンが呟く傍らで、ルアは心の中に意識を向けた。誰にも見えない心の中で隣に立っていたペルーニに顔を向けた。

「ケリーに頼んでみよう?」

「うん」

もうこの状況はカルベスの時より深刻。だから路地裏にケリーを呼んだが、やってきたケリーの表情は堅かった。

「霊王はやはり許可しないそうだ」

「どうして?何万人も殺されてしまってるのに」

「人間の戦争には関与しないというのは原則だが、ハドロン・フォーメーションはそれ自体、精霊たちにも負担がかかる。本来の許容範囲を超えた霊力を持ち続ければ、精霊は消滅してしまう」

「そんな・・・」

「だが、限定的でなら霊王は容認するそうだ」

「限定的?」

「憑依している精霊のみで行う限定的なハドロン・フォーメーション。新しく設けたそれであれば精霊の負担は少ない。ただし、媒介となっている者の定員は4名とする」

「4名・・・」

ルアに持たされた治癒玉が消え、カンディアウスは完治したがディンクルスはただ空を見上げた。立ち去っているルアの事はもう気にしていない。

「私とヘル、アポロンさんとイエン、これで4名です」

ケリーは頷いた。同時にルアに憑依しているペルーニ、ヘルに憑依しているシュナカラク、アポロンに憑依しているシーナとバス、そしてイエンに憑依したフルーピスも頷いた。

「これより、君たちに限定したハドロン・フォーメーションの解禁を宣言する」

「(イエン、その髪)」

「リッショウに(スーヴェ)を混ぜたの」

「(リッショウを、パワーアップ?・・・そんな事出来るんだ)」

イシュレ達の前に戻って来たイエン。5体の精霊の繋がりによって膨大になった霊力と、新しいリッショウ。その存在感と気迫は、イシュレ達を呆然とさせた。

「カルベスの時ほどじゃないが、それならいけそうだな」

「ウリネックとエターは?」

「何か、定員があるって」

エストーンにイエンがそう応えれば、レヴァクもイシュレもウリネックたちも納得する。それからイエンが白銀の飛竜の下に転移していけば、ジェクスは驚きながらも嬉しそうに笑った。

「私とヘルで、ガルゼルジャンのところに向かいます」

「分かった」

ルアとヘルが空高く飛んでいった一方、アポロンは白銀の竜人の下に向かえばすぐさま2色の一閃を放った。それはテリッテに掴みかかって迫っていた竜人を一瞬で吹き飛ばし、大聖堂に墜落させた。

「(おいおいアポロン、せっかく俺達の修業になってたとこだったんだ)」

「アポロンさん、ありがとうございます」

精霊の数だけ霊力が倍増するフォーメーション。そのお陰で、明らかにアポロンと竜人との力の差が変わった。大聖堂の破片を吹き飛ばしながら竜人が飛び出してきて、両腕から白銀を速射していくもアポロンはそれを全て2色の光壁で防ぎ、白銀の爆撃で襲われても素早く避け、尾剣での攻撃も華麗に捌いていく。その中でアポロンが放った2色の一閃がまた竜人を吹き飛ばすが、それでも白銀の霧に無力化されてしまい、そのボディーには傷が付かなかった。でもだからこそ、テリッテとアーサーは翼の力に意識を集中させた。翼が蒼白く燃え盛り、テリッテの体も蒼白く輝く炎に包まれたが、2人は確信していた。もっとやれる。形は出来たけど、それは一部分ずつを繋いでるだけで、完全には融合していない。

「(うおおおお!)」

白銀の竜人とアポロンが激闘している中、それからテリッテが突撃していき、尾状器官の拳で殴りかかっていく。

「なぁ、ディンクルスは出来ないのか?ああいう風に、自分で力を撒いて、それをまた吸収するような」

「力の質はそれぞれ違うらしい」

「ふーん」

ディンクルスが飛んでいくルアとヘルを見上げていると、カンディアウスは再び飛んでいった。別に上下関係でもないので、ディンクルスはただそれを見送った。それよりも気になったのはルアとヘルが醸し出す、膨大な霊力。

「あれはどうなっている。何故あの女や犬は、急に力を増した」

「いや知らないけど、聞いてみたらいいんじゃないか?」

ディンクルス達が近付いたのは、アポロン達の下だった。あの見知らぬ男からも、独立自警団の女達と同じような強い存在感がある。

「そこの男、何故急に力を増した」

「ん・・・」

地上から剣で差しながら急に話しかけてきたもんだから、アポロンは振り返りながら戸惑って、隙を突かれて投げ飛ばされて墜落した。めり込んだアスファルトから素早く立ち上がると、アポロンはディンクルスの真っ直ぐで冷静な眼差しを見た。

「それも魔法によるものか」

「精霊によるものだ。私は先程初めて知ったからよく知らないが、お互いの霊力を繋ぎ合わせる事により、お互いの霊力を増幅させる」

「なるほど」

「グガグガ」

アポロンが飛んでいった直後にジャガーノートがそう言えば、ディンクルスは納得するように頷いた。

「やり方は検討もつかないが、使えそうだ」

「・・・・・いや、何だって?」

雪雲を突き抜けたルアとヘル。目の前にしたのは、積乱雲のような巨大な白銀の雲。ここに突っ込むのか。そう一瞬だけ気負ったけど、ルアとヘルは頷き合った。ヘルにルアが跨がり、融合光壁で十分に身を固めて、そして白銀の雲に突っ込んでいく。雲とはいえそこはただ視界ゼロの白銀の世界。でもとりあえず真っ直ぐ進んでいくとやがて視界が開け、360度白銀に囲まれた空間に出た。ガルゼルジャンはその中心で、ただ前を見て突っ立って浮いていた。

「(どこ見てんの?)」

「・・・世界だ」

「見えてるの?」

「確かに世界は果ての無い。だが我に、世界など見えていないと思うか?」

振り返らずに、ガルゼルジャンは手を伸ばしてきて白銀のレーザービームを放ってきた。でもすでにルア達はガルゼルジャンの背後に転移していた。

火光矢(スヴェンジャストレ)!」

プリマベーラから放たれたルアとヘルの融合火光矢。ガルゼルジャンが放ったものよりも何倍も大きなそれは、そのまま一直線に白銀の雲を突き抜けていった。白銀の雲に巨大な穴が空き、ガルゼルジャンの姿は消えていた。

「(あれ?)」

一瞬で穴は塞がったのにガルゼルジャンの姿は無い。そんな静寂にルアとヘルがキョロキョロしていたその時だった、白銀の雲の中から白銀の竜人が姿を現したのは。

「(げっ。ヤバくない?)」

「今の私達なら大丈夫」

そう言ってルアがヘルから降りていく。

「(うん。でもガルゼルジャンは)」

「また逃げられちゃったって事だね。さっさと倒しちゃお。ネイチャーソウル!」

「(フェニックスソウル!)」

「ヘル、そんなに熱いんだ」

「(リアルに燃えてるからね、へへっ)」

白銀の竜人が両腕から白銀を速射してきても、ルアとヘルはそれを全てかわしていき、燃える光矢と燃える光弾を返していく。そんな一方、カンディアウスは雪雲に入る直前、ふと遠くに白銀の隕石を見た。それでも隕石を追いかける事はせずに雪雲を抜け、白銀の雲に入っていった。

火光矢七層(スヴェンジャストレ・セムーソ)!」

白銀の爆撃を突き抜け、鋭く燃える光矢は白銀の爆風さえ吹き飛ばし、竜人の右腕を粉砕した。

「(フェニックスダイブ!)」

光と炎の塊が突撃していけば、竜人の尾剣は砕け、そのまま押し潰すように背中の頭の1つと翼の片方を消滅させていった。そんな時だった、ルア達の下にカンディアウスがやってきたのは。

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