「奇跡の戦士」後編
「ガルゼルジャンはどこだ」
「(居なくなっちゃったよ?)」
強めに鼻息を吹かせ、キョロキョロするとカンディアウスは目線を留めた。それはちょうど天井の中心。ヘルもその眼差しの先を見ると、まるで通りすがりかのようにそしてカンディアウスは天井に消えていった。
「火光矢七層」
ルアと竜人の眼差しは真っ直ぐぶつかっていた。その矢に射抜かれる方の眼差しは、敗北を理解していた。白銀の雲の彼方へと突き抜けていく燃える光矢。ルアはプリマベーラをゆっくり下ろした。墜落していく白銀の竜人。その体は瞬く間に霧散していきながら、白銀の雲の中に消えていった。頷き合うルアとヘル。
イエンの眼差しが一際虹色に輝いた。
「はあ!」
起こしたのは風だった。風音だけでもまるでミサイルでも爆発したかのよう。風に煽られて動けない白銀の飛竜。その身を護る白銀の霧は跡形も無く消えていた。しかしその直後から飛竜の体から霧が漏れてくる。その瞬間、一筋の光弾が飛竜の胸元を貫いた。波打つように空を見上げた飛竜の眼差しは、瞬く間に怒りを灯していくが、すでにイエンの拳が光を放っていた。槍のように、津波のように、飛竜の体から鋭く洩れていく光。光に飛竜の体が連れ去られていく。それでもその眼差しは最後までイエンに怒りをぶつけていた。
「オレ達が強くなればなるほどガルゼルジャンも反射的に対抗してくる、まだ油断は出来ない」
「うん」
「何とかこの霧を消せればいいんだけどな」
アポロンの2色の炎に吹き飛ばされていく白銀の竜人。その間にテリッテは自分の弓を作り出した。いつもように無意識に。でもその形はいつものとは違っていた。天使の白い長弓は蒼白く輝いていて、それはまるで宝石のようだった。それから光の矢を作り出せば、蒼白く燃えて輝くその光はまるで剣のようだった。
「はあっ!」
解き放たれた光。その蒼白い輝きは白銀の竜人の体を貫き、ビルを爆破した。爆破されて崩壊したビルに消える白銀の竜人。当然のように瓦礫は吹き飛んだが、竜人の腹に空いた穴は次第に広がっていった。立ち上がり、空を見上げて膝を落とした竜人。その眼差しは、最後に人間らしい虚しさを見せた。
「(良い感じだったな)」
「うん」
「(どうせまた何か来るんだ)」
弓を消せば、テリッテは適当な場所に降り立ってそのまま立ち尽くした。アーサーには分かっていた。新しい形の翼の力が、“1番安定した弱いところ”まで引き下げられた。
「(維持出来てるだけでも上出来だろ?)」
「うん。ちょっと休憩」
「すごいですね。新しい翼の力なんて」
「(お前らだって出来るはずだ。同じように合体してるんだから)」
そう言われればヒーターは真剣な表情で頷いた。新兵だけどその決意のある眼差しに、テリッテは先輩らしく微笑む。
白銀の雲から抜け出たルアとヘル。カンディアウスの後を追ってみれば、ガルゼルジャンと対峙していた。でもルア達の姿を見た途端、ガルゼルジャンは白銀のレーザービームを放ってきて、ルア達が思わず融合光壁ごと吹き飛ばされていく中、カンディアウスの嵐がガルゼルジャンを襲っていく。
「火光矢七層」
ヘルから降りながらルアが燃える光矢を放った直後、白銀の雲は“嵐”となった。それは一気に何キロも覆うような“うねり”。カンディアウスもガルゼルジャンも、ヘルも見えなくなった。ダークグリーンも燃える光矢も呑み込まれていった。
「ヘル!!・・・・・」
見渡す限りの白銀と、尋常じゃない風圧。
「(・・・・・ルア)」
返事をしようにも喋れないほどの白銀の中、うねりのままに流されて飛んでいく。だから一か八か、転移した。すると気が付けば、雪雲の下に居た。急なスカイダイビング感の“正常な風圧”に我に返れば、ルアはキュッと空中で止まった。白銀の雲は爆発的に巨大化していて、でも気が付けばどんどん小さくなり始めた。──また、新しいモンスターが・・・。
「(うあっとっと。ひー、死ぬかと思った)」
「あの雲から、また出そう」
「(ふー、あの白銀、どうにか出来ないのかな。カルベスのテムネルは消せたんだし)」
「イシュレ達だったら、何か掴んでるかも」
その直後にカンディアウスが墜落していって、ルアとヘルはそれを追いかけていく。人間には戻らなかったものの、アスファルトを大きくへこませて真っ逆さまに叩き落とされたカンディアウスは苦しそうにしてるので、ルアは治癒玉を作った。
「ガルゼルジャン、また力を増した」
「(え、そんな。とりあえずイシュレのとこ行こう?)」
サンジャラ、スンバのホウ湖にて。
「エイシン、私が掴む戦の軸が見えるか」
「あぁ」
「私にも、虎になる力はあるか」
「それはない」
「そうか」
「某に軸を先読みさせたとて、その時にならなければ軸を掴んだとしても幻に終わる」
「・・・それは、やはりそうだろう」
「そなたでも焦るのか」
「・・・いや、私が軸を掴む未来が見えるのなら、それでいい。ただ──」
「そなたの力を何と呼ぶものか」
「・・・あぁ」
「名はそなたが決めればいい。どのような形をしているか、それは──」
イシュレの下にパッとやってきたルアとヘル。ルアがふと感じたのは、みんなどことなく安心しているという事。
「(みんな大丈夫そう?)」
「あぁ、何とかバケモノは倒せた」
そうエストーンは微笑む。
「そっちもか?」
「うん、でもまたガルゼルジャンが強くなって。それで、この白銀、消せないかな?」
ルアが聞けば、イシュレは口角を真っ直ぐ伸ばし、真顔の笑顔を見せた。
「出来るよ」
「(ほんと!?)」
「元はカルベスのテムネルだけど、色んな魂子が入ってもう違う色。でも、同じカルベスのテムネルだった力なら、打ち消し合えると思う」
「いやいや、カンディアウスって奴が来たのに全然だろ」
ジェクスがそう問いかける。
「量が違い過ぎて追いつかない。だからあのカンディアウスって人の霊気を増幅させて、ガルゼルジャンの霊気に結びつけて、相殺させるの」
「(増幅って、どんな魔法で?)」
「・・・空気中の魂子を使えば、一気に増やせるよ」
「(カルベスの時みたいに、無理矢理意識を剥がすとかは?)」
「あれは体があるから出来たからな。霧に対しては出来ない」
ジェクスがそう応えればイシュレもうんうんと頷く。
「だが霧だってとてつもない量だ。やるなら、イエンじゃないと」
「(じゃあさ、カンディアウスの霊気で、でっかい濃縮魂子作れるかな?)」
「多分、出来る」
ディンクルスは戻ってきた。ふと見上げれば、白銀の隕石が3つ、どこかに落ちていく。
「いつ奇跡が起きるかでも聞いてきたのか?」
「いや。だが、必ず起きる」
「おお、そうか、でどうすんだ」
「軸を掴む為に、やっておくべき事がある」
「グガグガ!」
空を見上げたディンクルス、そしてブレン。雪雲が突然掻き消された。同時に何かが落ちてくるのが見えた。
「何か来るぞ」
ディンクルスはただ見上げていた。新たに現れたそれを知る前に、白銀に光る何かを見ていた。まるで隕石のように、ディンクルス達目掛けて撃ち落とされた白銀の光弾。大爆発と共に幾つもの建物が木っ端微塵になり、白銀の霧が爆撃跡に充満していく。そこにはすでにディンクルス達の姿は無い。
「ヤバすぎるだろあれ。さすがにディンクルスでも敵わないんじゃないのか?」
「あぁ、だが戦の軸の裾を掴む」
そうディンクルスは手を伸ばした。何を掴む訳でもない、ただ出した手。ブレン、ジャガーノート、紺碧の騎士、ディンクルスが何となく円になっているそこに、手から溢れる紺碧の光は広がった。
「これは、何だよ」
「先程の男が言っていた、繋ぎ合わせ、増幅させる」
紺碧の光がブレン、ジャガーノート、紺碧の騎士を包んでいく。同時にディンクルスは金と銀の力を感じていく。──あの虎も、ガルゼルジャンも、自分の力を際限なく高めている。ならば私にもそれくらいの事は出来るはずだ。
「私の力が高まれば、お前達の力も高まる。お前達の力が、私の力を高める」
「・・・なら、仲間増やした方が良いな」
「あぁ」
ふと空を見上げれば、幾つもの白銀の塊が落ちてきた。それは隕石ではないが、そんな速度で落ちてくるもの。地面に落ちた途端に白銀の膜が弾け飛べば、それは白銀の竜人となった。ざっと見て、色々な所に10体ほどの白銀の竜人。それでもブレンは深呼吸をして、ジャガーノートの肩を優しく叩いた。その態度には自信しかなかった。跳んだだけでロケットのように速度を増したブレンを、白銀の竜人の1体が捕捉して銃口を向ける。
「おらああ!」
白銀の竜人はすでにブレンを見失っていた。気が付けば通り過ぎていた。そして右腕と下半身が切り落とされていた。
「グガー」
そんなブレンの速度に感心したジャガーノートも、別の白銀の竜人に向かっていく。尾状器官とは別に、背中にあるブースターで飛び、そして主砲となる2つの巨大な砲身となっている尾状器官を肩に乗せる。先制攻撃として竜人は素早く白銀を放つが、それをまともに受けてもジャガーノートはびくともせず、直後に尾状器官から銀青の炎雷が放たれれば、それは一瞬で10建てビルを粉々にした。
「グガグガ!」
狙いを定めていた白銀の竜人は跡形も無かった。ただ尾剣の欠片が地面に刺さっていただけ。それからジャガーノートは向かってくる3体の白銀の竜人を捕捉して、背中から銀青のミサイルを10連射した。銀青のミサイルが白銀の竜人達を牽制していく。その中を紺碧の騎士が飛んでいき、1体の白銀の竜人を一刀両断した。そんな傍らで、ディンクルスはただ立っていた。与えた力が返ってきて、自分の力を高める。その波動の感覚を感じていた。人を拾う事は、やはり間違いではなかった。それこそが私の力。ディンクルスが纏う紺碧が厚みを増し、輝いていく。──繋がりが私を強くし、私が強くなれば、お前達も強くなる。
「さあ、後は奇跡を待つのみ」
まるで雨のように、幾つもの白銀の塊が降り注ぐ。それらは落ちれば白銀の竜人となり、大軍を為していく。するとそんな中、一際大きな白銀の塊が空中で弾け飛んだ。ディンクルスは双剣を構えた。それは全長20メートルの白銀の飛竜だった。飛竜の眼差しがディンクルスを捉えれば、直後にその口から白銀のレーザービームが吐き出された。1人の人間など、津波に呑み込まれる車のよう。ディンクルスの視界は白銀に染まり、その周囲の建物や地面も抉られていく。
「ディスペリオン!」
クロスされた双剣が振り上げられた瞬間に白銀は切り裂かれ、放たれた紺碧の十字閃が衝撃波と共に、白銀の飛竜を貫いていった。ゆっくりと下ろされる双剣。そして、白銀の飛竜は轟音を立てながら墜落していった。幾つかの建物が巻き添えになりながら、霧散していく白銀。そんな状況を見ていたのはカンディアウス。
イシュレは瞳を虹色に光らせる。見つめているのは、光壁の玉の中に閉じ込めたダークグリーン。それから少ししたら頷いて、ダークグリーンの霊気を少し取り出して、モコモコと増幅させた。
「(わあ、すごい)」
そして増幅されたダークグリーンの霊気の中から、カランとダークグリーンの玉が落ちた。
「(濃縮魂子?)」
「うん」
魔法の手でそれを拾うと、ヘルは宝石商かのようにまじまじと見つめる。
「(処理速度、ヤバすぎ。イシュレの魔力、スーパーコンピューター以上だよ)」
ふらっとイエンが歩み寄って来たので、ヘルはダークグリーンの濃縮魂子ボールを手渡す。
「こっちにも来たな」
レヴァクが呟いた。空から降り注ぐ白銀の塊。白銀の竜人が生まれるそれがルア達の方にも落ちてきて、ルア達は気を引き締める。
「(さすがに多すぎるよ。イエン、早く)」
「うん。でもこれだけじゃ」
またカランと濃縮魂子ボールが生まれ落ちてくると、そしてイエンは3つの濃縮魂子ボールをサッと掴んだ。イエンが飛んでいくと同時にルアとヘルも飛び出していき、それぞれ降り立った白銀の竜人に向かっていく。
「大丈夫なのか?」
アポロンが問いかければ、テリッテはふうっと息を吐いた。体力的にも精神的にも、結構キツい方なのはお互い様だとはいえ、テリッテの表情は明らかに無理をしているものだった。
「大丈夫です」
「(まぁ、強くなる為の修業だ。これくらいキツい方がいい)」
「そうか」
「(よし、そろそろ行くか)」
テリッテの蒼白い炎の翼が激しく燃えていき、全身に纏う蒼白い炎も輝きを増していく。仕方ないからとアポロンがテリッテと共に動いていく。
「現在、白銀の被害地域は26。想定される被害者数は、160万人以上だと思われます」
「分かった」
独立自警団、異世界の者達、それからディンクルス一派。そんな者達には悪いが、“何も出来ていない”。被害地域、被害者数、ただただ増えるばかり。そうサウサンは1人、輸送車の中で頭を抱えた。戦っている者達は、最早異次元の存在達。それでも事態は好転しない。我々のようなただの人間にはどうする事も出来ない。──出来る事があるとするなら、奇跡を待つ事のみだ。
弾丸のように駆け抜けていく金青の光。通り過ぎていくだけで、それは瞬く間に白銀の竜人達を切り裂いていく。さっきまでとは比べ物にならないくらい強大になった力。そんな高揚と共に、ブレンは空を見上げ、剣に力を込めた。金青に輝いていく剣。
「おらああ!」
渾身の力を込めて打ち上げた、金青の巨大光弾。しかし直後、それは空から落ちてきた白銀の隕石によって相殺された。小さく舌打ちを鳴らしたブレンだが、それからその自信に満ちた表情は驚きに染まった。空からゆっくりと降りてきたのは、白銀の鎧が絢爛豪華に輝く、白銀の光の翼を携えた全長50メートルのガルゼルジャンだった。
「・・・何だよあれ。神か」
宙に浮いたまま、ガルゼルジャンは手をかざし、白銀を放った。それは全方位への衝撃波であり、遠目から見たら白銀の大爆発。でも人間サイズの存在にとっては、まるで天災だった。気が付けば倒れていたブレン。振り返ればジャガーノートも紺碧の騎士も倒れていた。ただ1人立っていたディンクルスでも剣を地面に刺して何とか堪えていた。──今ここで、倒れる訳にはいかない・・・。
ディンクルスの知らないところで、男が街を走っていた。男は遠く、神々しい巨人を眺めていた。理由は分からない、ただ体が突き動かされた。その巨人は、心のどこかで知っているようで、知らない存在。でも、このままではいけない。それだけは分かっていた。巨人の方へと走りながら途端に頭痛に襲われて立ち止まる。それでも男は走り出し、手を伸ばした。その瞬間、男の手から“誰も知らない光”が解き放たれた。波動にさらわれていく、白銀。圧されていく訳でも、吸い込まれていく訳でもなく、消えていく。倒れたまま、ルアは消えていく白銀の竜人達を眺めていく。そこで“ただ1人”立っているディンクルスは、巨人が消えていく様をただ見上げていた。何が起こったかなど知る由も無い。ただ、街を覆う白銀が消え、白銀の兵隊が消滅し、神々しい巨人は形を失った。そこにあった存在はガルゼルジャンただ1人。
「何が起こった!我の力が、消えただと」
剣を構えたディンクルス。何が起こったかなど問題ではない。確信していた。ここが、戦の軸なのだと。そしてディンクルスは飛び上がった。
読んで頂きありがとうございました
果たしてディンクルスは戦の軸を掴む事が出来るのか。
テリッテ達の新しい力にも注目です。




