「嵐の闘士」前編
──少し前。
ルアはプライトリアにやって来た。とあるプライトリア軍駐屯所で、パッと目の前に現れたルアに驚くアポロン。それだけじゃなく、ルアの姿と気迫と存在感に周りの軍人達もざわめき出す。でもだからこそ、アポロンはその緊迫感を理解する。
「あの、アポロンさん。突然なんですけど今大丈夫ですか?」
「あぁ」
「私達の世界で蘇った昔の人がとても手強くて、それでアーサーが、カンディアウスっていう人を連れて来てくれって」
「カンディアウスを。確かに使えるだろうな。ならば私も行こう」
カンディアウスは闘技場に居た。そこは自分が破壊した闘技場。国を出る前にと、最後に“自分が生きるべき場所”を眺めていた。しかし戦う度にこれでは、闘士として少し情けなくもある。初めは、ただの気晴らしだった。闘技場ですらない道端で、金を賭けた殴り合い。それが面白かったのか、今度は闘士として闘技場に呼ばれた。でも戦う事は苦ではなかった。何故なら養わなければならない家族が居たから。
「おーい!」
振り返るカンディアウス。走って来たのはアテナだった。
「あんたさ、軍に入ってよ」
「何を急に」
「戦いたいなら同じでしょ?在籍だけでもいいよ?」
「我は・・・葬られたかった」
「え?」
「元より悔いも無い。闘士として生きる理由は無い」
「急にどうしたの」
カンディアウスは今にも崩れそうな闘技場を眺めた。アテナはただ首を傾げていた。
「まるで、本当に闘士という生き様さえ、時の彼方に消えたようだ」
「でも昨日は戦う事が楽しみだって」
「昨日の高揚など、覚めきらなかった夢の感情に過ぎない」
「だったらむしろ、軍で働いてよ」
「闘士でないなら生きる理由も無し、闘士以外の生き様など興味も無し」
「何でよぉ」
「家族が居ないからだ。家族を養う為に闘士をやっていた。だが、今の我には、何も無い」
分かりやすく悲しんでいる訳ではないが、アテナはカンディアウスの背中からひしひしと孤独を感じた。でもそれは考えてみれば当然だ。望んで蘇った訳じゃない。それくらいならアテナも理解した。そんな時だった、そこにルアとアポロンがやって来たのは。
第68話「嵐の闘士」
「カンディアウス。別の世界の、蘇った者と戦ってくれ。戦いたいんだろ?」
「ちょっとアポロン」
「ん?」
振り返るカンディアウス。
「我の力を望むのか」
「あぁ。この事態においては、お前の力が必要だ。力を貸して欲しい。勿論報酬は用意する」
「ほんとは、戦う理由が無いんだって。闘士は家族を養う為にやってたからって」
「なるほど。孤独は察する。確かに勝手に蘇らされて戸惑っているだろう。だが私達は、お前さえ良ければお前の力になる。力を持て余すなら、力を使う理由を共に探す」
アポロンはようやく理解した。この闘技場の有り様は、孤独の裏返しだったのだと。そう真っ直ぐ眼差しを向ければ、カンディアウスはアポロンを睨んだ。
そしてルアとアポロンとカンディアウスはゼーレ帝国にやって来た。
「向こうか」
来て早々、カンディアウスはどこかに飛んでいった。でもそれをルアは追わず、むしろ期待を望んだ。
「これは、凄まじいな」
「ガルゼルジャンっていう人が蘇った人で、街の人を魔力で兵隊に変えてしまったんです。でもその兵隊を倒せば魂子が解放されて、ジェクス達が元の人間に蘇らせてあげられるので、気にせず倒して下さい」
「分かった。シーナ、バス」
2人の精霊がアポロンに憑依すれば、アポロンはルアに頷いた。
「私はテリッテとアーサーのところに行きます」
ルアがパッと消えて、アポロンがジェクスの前に降り立つ。
「加勢する。プライトリアのアポロンだ」
「プライトリアの人間か。アテナの知り合いか?」
「アテナは私の双子の姉だ」
「そうなのか。オレはジェクス。加勢は助かる」
すでにアポロンは理解していた。見たこともないエルフ。リッショウをして更に霊力を増幅しているが、そもそもこのエルフ達は、自分よりも遥かに強いと。──このままでは私が足手まといか。それからアポロンは強化ケルベロスに向かって飛び立った。
「二極火柱・覇王双剣」
紫と朱の剣をボウッと作り上げたアポロンに、強化ケルベロスの頭の1つがキリッと目を向ける。直後に条件反射のように素早く白銀の光線は放たれた。紫炎に切り裂かれる白銀。それでも白銀の光線は止めどなく放たれ、アポロンは空中で押し返されていく。しかしそこでエストーンが“小さなロケット弾”を8発ばらまいて強化ケルベロスの頭達を翻弄し、イエンが横から突撃すると、その衝撃に強化ケルベロスはよろめいた。それでも装甲が分厚いからか白銀の砲撃は止まず、イエンは下がっていくが、レヴァクが遠くから見えない光弾を放てば強化ケルベロスの頭はガツンと殴られる。一瞬の隙。そこでアポロンは2本の剣をクロスした。
「二極火柱・十層!!」
紫と朱の炎が一直線に街を突き抜けていく。その熱波は雪景色を溶かしていき、周囲の建物のガラスも歪ませていく。
「やるなぁ!」
アポロンはふうっと息を吐き、2色の炎がボウッと踊った。それでも強化ケルベロスは存在していたが、全身が溶けていてガクガクしていた。
ニーゼカレナ・ヴォーガ大聖堂。ガルゼルジャンは振り返った。感じていた。また1人、我のような者が来たと。敵が増えるのは我が弱いからだ。──ならば。ガルゼルジャンは大勢の鎧兵を目の前に転移させた。即座に跪く兵隊。
カンディアウスはビルを飛び降り、着地してアスファルトをへこませた。駆けつけてきた10体のケルベロス。ダークグリーンを纏い、両腕に籠手を作り出したカンディアウス。籠手を一振りして光刃を放てば、噛みついてきたケルベロスは舞い上がって消えていった。
「ぬるい」
ルアは空中から狙いを定めた。テリッテに向けて凄まじい勢いで両腕の砲身から近距離で白銀の光弾を爆撃している、白銀の騎士に。
「火光矢三層!」
細くキレイで、儚く鋭い燃える光矢が一瞬で白銀の騎士の右腕を粉砕した。よろめきながらもルアを見上げる白銀の騎士。
「はああ!」
すでにテリッテがエクスカリバーを振り下ろしていたが、とっさに背中から伸びる頭がそれを受け止める。
「(うおおお!)」
それでもテリッテとアーサーが力を込めれば、蒼白い光と共にその頭は粉砕された。直後に短い尾状器官から蒼白い光弾が放たれれば更に白銀の騎士は吹き飛び、テリッテは蒼白い光矢で追撃する。胸に刺さった光矢に押し飛ばされ、そのままビルに激突したところで、白銀の騎士はぐったりと地面に落ちた。光矢が刺さったまま立ち上がる白銀の騎士。しかしその動きは壊れかけの機械のようにガタガタだった。
「(フェニックスダイブ!!)」
炎と光に包まれたヘルはそう言って9頭のドラゴンに突っ込んだ。衝撃と爆発でもって9頭のドラゴンをよろめかせて直後──。
「(フェニックスエクスプロージョン!!)」
全身から炎と光の大爆発を解き放った。その衝撃と熱波は周囲の建物をも破壊しながら激しく9頭のドラゴンを吹き飛ばした。それを真っ直ぐ眺めているヒーター。構えられた真っ白な長剣と青雷のトライデント。そして9頭のドラゴンがヘルを睨んだその瞬間、青雷に包まれたヒーターは雷のような速さで飛び出した。真っ白な長剣から溢れ出す青雷の光。1つの頭がふと気が付いたのは、切り裂かれて宙を舞う1つの頭。振り返ってもそこにはもうヒーターの姿はない。それから青雷のトライデントが1つの頭に突き刺さる。トライデントから青雷が迸ればドラゴンは痺れて動きが鈍り、その直後に2つの頭が宙を舞う。
「うおおらあ!」
金青の光が空に向かって突き上がり、白銀の氷柱が砕けて飛んでいく。その中をブレンが駆け抜けていき、その先に佇む白銀ゼリア・ノヴァを真っ直ぐ捉える。バチンとぶつかる眼差し。そして振り下ろされた金青の剣は腕に振り弾かれ、ブレンは白銀の砲撃に吹き飛んだ。
「くそっ!」
それでもブレンはまた走り出し、白銀の砲撃をかわしながら白銀の氷柱を踏み台にして飛び上がり、金青の一閃を放つ。しかしそれは白銀の鎧を前にはダメージを与えられず、白銀の砲撃から逃れる為に仕方なく跳び回っていく。そこでふとブレンは思い出した。まだウパーディセーサ・ブラックの時、ダクラウドの奴らにスパーリングでボコボコにされた事を。
「素人がやりがちなんだよな。そうやって力任せに突っ込むのは」
「何で、同じブラックなのに」
「まぁオレは元々キックボクシングやってたからな」
ダクラウドのリーダー、ヘンフェルがそう言って自慢げにパンチを素振りしてみせる。
「たかがケンカでも、相手の動きを見極める洞察力は必要だし、自分のペースを崩さない事も必要だしな」
白銀の氷柱を体当たりで豪快に吹き飛ばし、ジャガーノートは尾状器官と全ての砲身から銀青の“炎雷”を撃ち出した。炎のように揺らめき、雷のように迸る、そんな銀青が突き抜けていけば、白銀ゼリア・ノヴァは大きく仰け反った。
「マジか、新しい使い方覚えたのか」
ブレンは白銀の氷柱の上に立ち、呼吸を落ち着かせて白銀ゼリア・ノヴァを見つめた。金青の剣を持つ手に力を込めながら、頭の中でイメージしていく。金青の剣はただディンクルスを真似ただけ。とっさに思い描いた、1番オーソドックスな武器。でも武器を持って突っ込むだけじゃダメだ。そんな時に白銀の砲撃に襲われたので、ブレンはそれを金青の一閃で切り裂いた。それでもジャガーノートと紺碧の鎧兵だけでは劣勢なので、それから飛び上がり、金青の剣に力を込めながら尾状器官から撃ち出す金青の光弾で牽制する。
「はああ!」
そして振り落としたのは巨大な金青の光弾。一瞬で金青の衝撃が広がり、その地響きは周囲の白銀の氷柱も崩していく。
「離れろ!」
更に上空に飛び上がったブレン。感覚は分かった。そう金青の剣に力を込めて、再び金青の光弾を撃ち落とす。それは更にもっと大きな光弾で、その爆発は白銀ゼリア・ノヴァどころか、ニーゼカレナ・ヴォーガ大聖堂の窓ガラスも吹き飛ばした。離れていたジャガーノートが何やら感心するように声を上げていた。
「ふう、剣より魔法か、やっぱり」
ゆっくり立ち上がる白銀ゼリア・ノヴァ。でも動きはグラグラなので、ジャガーノートは掴みかかり、至近距離で銀青の炎雷を撃ち放った。吹き飛んで倒れ込む白銀ゼリア・ノヴァ。
「すげえな」
ジャガーノートの豪快さにブレンが思わず笑いを溢す傍らで、ディンクルスは遠くを見ていた。それはガルゼルジャンと同じく、カンディアウスの気配を感じていた。
「来るか」
ニーゼカレナ・ヴォーガ大聖堂の敷地を囲む塀が崩壊した。まるでブルドーザーに破壊されるように崩れた塀から出てきたのはカンディアウスだった。それからとっ散らかった白銀の氷柱をダークグリーンの光で吹き飛ばしたところで、ブレンとジャガーノートは振り返った。
「何だ、あいつ」
「お主は誰だ」
ディンクルスが言葉を放てば、カンディアウスも眼差しをぶつける。お互いに感じる、“同じ根源の異なる気配”。2人を通り過ぎたその静寂は敵か味方かと探り合う神妙さに満ちていた。
「我はカンディアウス。お主、ではないか、この力の持ち主は」
するとディンクルスは剣で差した。
「あの中に居る」
その時だった、カンディアウスとディンクルスが、大聖堂の入口から歩いてきたガルゼルジャンに目を留めたのは。直後にガルゼルジャンは白銀の全身鎧を纏い、長い柄の大斧を作り出した。
「ようやく出たな」
最初に向かっていったのはブレンだった。金青の剣に炎を纏わせ、突撃していくブレンにキリッと眼差しを向けるガルゼルジャン。振り下ろされる剣と振り上げられる大斧。その瞬間、金青の炎は消え去った。そこに広がったのは白銀の大爆発と衝撃波。ブレンだけじゃなくジャガーノートでさえ吹き飛んできて、ディンクルスはとっさに身を屈める。白銀の氷柱、大聖堂を囲む塀、次々と激突させられていくブレン。それから倒れてそのまま動かなくなった。
「ジャガーノート、ブレンを頼む」
転がってきたジャガーノートは頷くとブレンの方に向かっていき、そして蘇りし偉人の3人は向かい合った。
「この私の剣は、世界を創る為にある!お主のその志は、何を創る!」
カンディアウスが一瞬ディンクルスを見る中、しかしガルゼルジャンは応えなかった。静かに剣を下ろし、紺碧を纏うディンクルス。そしてディンクルスは走り出した。紺碧を纏う剣、白銀を纏う大斧、その2つがガツンッとぶつかるとそれだけで紺碧と白銀が弾けて広がり衝撃波となる。ぶつかり合っていく剣と大斧。するとそこにダークグリーンの閃光が飛んでいけばガルゼルジャンはガードして硬直し、その隙を突いて紺碧の一閃が放たれる。しかしディンクルスは気を引き締めた。何故ならその白銀の鎧はとても頑丈だったから。すぐさま振り回される大斧。地面に振り落とされた大斧から白銀が爆発すればディンクルスは後退し、横からカンディアウスが殴りかかっていく。
「(これで終わりだ!)」
振り下ろされるエクスカリバーから放たれた蒼白い光刃。それは白銀の騎士を盛大に叩き斬った。衝撃がドカンと響き、そして白銀の騎士は砕けていった。
「ふう」
「やっと倒せたね」
「(いやあ楽しかったぜ。次は何だろうな)」
そんな時だった、ルアが白銀の流れに目を留めたのは。それはただ風に流されてると言えばそうなのかも知れない。しかしその不気味な蠢きに、ルアは何となく胸騒ぎを感じたのだった。
「(フェニックスエクスプロージョン!)」
炎と光の大爆発で、9頭のドラゴンは吹き飛んで倒れた。もうすでに頭は3つ。本体を倒せば終わりなのか、全部が本体かは分からない。でもダメージを沢山与えれば倒せるだろうと、そしてヒーターは長剣を青雷の大剣で覆い、止めの一撃を振り下ろした。大きく切り裂かれれば動きが止まり、積み上げた氷のオブジェが崩れるようにドラゴンはバラバラになった。
「(すごいねヒーター。長剣のスピードと大剣のパワー、スタイルが変わるんだ)」
「うん。翼の力だと長剣だけだったけど、グローソウルの力でパワーアップしてみたんだよ」
「(へー。ん?何だろう。何か、流れ速くない?)」
「んー、ほんとだ」
「(また何か来るのかな)」
エストーンのロケット弾とレヴァクの光弾狙撃。そしてその後にイエンとアポロンが挟み撃ちで止めを刺していけば、強化ケルベロスはバラバラとなった。やれやれとレヴァクが光壁の中に戻ってきたり、エストーンが伸びをして体をほぐしたりしていく中、アポロンはふと周囲を見渡した。
「ジェクス、この霊力に満ちた霧は何なんだ?」
カルベスという人間の事、エルフとの戦争の事、その戦いの結末。それらを説明されればアポロンは神妙に理解していく。
「先程から動きが速くなっている」
「そうだな。また何か作られるんだろう」
「流れはあちらに向かっているようだ。少し様子を見てくる」




