「魔人の復活」後編
「(まさか、一般人、殺しちゃうのかな)」
ヘルの心配というテレパシーがまるで自分の心の中の呟きかのように、ルアも街を見下ろす中、ゼリア・ノヴァ達が一斉に両肩から青い光の弾をマシンガンのように高速連射していくと、やっぱり可哀想なんじゃないかというほどに白銀の兵隊は倒れたり、逃げ出していく。
「(子供まで、兵隊にされちゃうなんて)」
しかしそれでも数が多いので何十人がゼリア・ノヴァに白銀の光弾を放ち、それこそマシンガンのように白銀の光弾がゼリア・ノヴァ達に返されていくと、その爆風になのか、軍人達が逃げるように後ずさる。
「(うわ、もうほぼ撃ち合いだ。大丈夫かな。10対1万以上だけど)」
大量の光弾同士のぶつかり合い。だから爆風も凄まじい。それでもふとルアは気が付いた。相手の数が圧倒的なのに、ゼリア・ノヴァが全然退かない。それは円形になって、5体はしゃがみ、5体は立って、密着しながら広範囲に一斉射撃するフォーメーションだからなのか。
「(言うだけの事はあるね。ゼリア・ノヴァ)」
「(けど、ずっとああなのか?動かないんじゃガルゼルジャンまで辿り着けねえだろ。やっぱりもう限界なんじゃねえか?ハッ)」
「だったらお前が行ってみろよ」
笑ったアーサーに1人の軍人がそう言い返すと、アーサーの顔が向くようにテリッテの尾状器官がカシャカシャ鳴りながら軍人に向く。
「(テリッテ)」
「待って。相手は子供とか居るんだよ?」
「(けど、もう人間じゃないんじゃねえのか?)」
「そ、そんな事・・・どうなんだろ。・・・・・あ、あの、あの人達は人間じゃないんですか?」
アーサーに言い返した軍人男性にテリッテが近付くと、その見た目と気迫と存在感に軍人達は野生動物のように後ずさる。
「いや、今のところはよく分からない。ただ、戦闘態勢でない時は、まるで人間のように会話を交わしているようだ」
「そうなんですね。だから突撃しないんですか?」
「だろうな」
「(白銀の人達、退いてくよ?)」
アーサーも軍人達もヘルの言葉に振り返った時、退いていく何千の人達の中から、全身に白銀の鎧を纏った10人が悠々と歩いてきて、一斉射撃が止まったという静寂がよりその存在感を引き立たせた。
「(うほ、絶対強いやつ)」
するとゼリア・ノヴァ達もフォーメーションを解き、それぞれ1対1で戦おうとするように歩き出した。ルアが隣でヘルのワクワクを感じてる一方、そして白銀の鎧兵が走り出しながら白銀の剣を作り出し、ゼリア・ノヴァ達に突撃していった。ゼリア・ノヴァも機械のボディーで剣を弾き返し、見た感じ互角な戦いが繰り広げられていくと、ヘルはただの観客となり、同時にアーサーは退屈そうに溜め息を吐いた。それから白銀の鎧兵は剣だけじゃなく白銀の光弾、そして白銀の一閃まで繰り出してきて、ゼリア・ノヴァは防戦一方となる。しかしその時だった、ゼリア・ノヴァが口から青い光線を吐き出したのは。ブースターから排熱しながら、まるで必殺技かのような派手な攻撃に、今度は白銀の鎧兵が守りを固めていく。
「(すごい。けど・・・もしかして、あ、やっぱり。まだ居るよ、鎧のやつ)」
ゼリア・ノヴァと白銀の鎧兵の一騎討ちが互角の中、やがて白銀のライフルを持った鎧兵が10人やって来て、軍人達は皆戸惑い始める。そして後方から白銀のライフルが銃声を響かせれば、その衝撃にゼリア・ノヴァの動きがほんの少し鈍くなる。
「(こりゃまずいね。ジェクス。あの後方支援の人達、どうにかしないと)」
「あぁ」
「待て」
そこに割って入ったのは別の軍人男性。
「勝手に殺すな」
「(まぁ、そうだね。攻撃させないようにするだけ)」
「それならいい。それより、お前ら、その、死んだ奴を生き返らせる事が出来るんだろ?」
「あぁ」
「だったら、あの洗脳の魔法をどうにかしてくれよ。あの中には・・・オレの家族が居るんだ」
ジェクスはイシュレを見た。けどイシュレは困った表情を見せただけだった。
「もう、人間じゃない」
「(え・・・)」
「おい、どういう事だよ」
軍人男性が深刻そうに尋ねる。
「もう人間の遺伝子じゃない。ウパーディセーサみたいになって、魔法で元に戻すのは無理。人間の遺伝子と意識が塗り替えられて、もう違う生き物」
「くそ・・・そんな」
「(そしたら生き返らせられるんじゃないの?魂子さえあれば)」
「体が残ってるからなぁ。体が複数あると魂子が分散して、元の姿で生き返らせられなくなる」
「(あ?そしたらあの白いやつ殺せば、生き返らせられるって事か?)」
「まぁ・・・そうなるか」
「本当か!」
軍人男性が詰め寄るも、ジェクスは冷静にイシュレの顔を伺う。
「出来ると思う。体も別物だと魂子が思ってくれれば、魂子だけ抜き取ってもいいと思うけど、やっつけた方が簡単かな」
「(だったらさっさとやっちまおうぜ。行くぞテリッテ)」
「うん」
「(ボクも)」
テリッテとヘルが軍人達を飛び越えていくと、少ししてさっきの男性上官がルア達に歩み寄った。
「恩を売れるなどとは思わない事だ」
「司令官!この者達によれば、白銀の兵隊はもう、人間ではないようで」
男性司令官は全く表情を変えず、むしろ信用していない態度で一瞬ジェクスに振り返っただけ。
「しかし白銀の兵士を殺せば、ロードスターのように、生き返らせる事が可能だそうで」
「ロードスターのように?ギガスにされるのは問題だが」
「ギガス?」
「2人はロードスターの件とは関係ないです。別のエルフなので」
「ではエルフの力で蘇っても、魔力は持つ事はないと?」
「魂子の記憶がそうなら、そうなるよ」
「魂子?」
「まぁ人間の魂を基にして生き返らせるんだから、人間になるのが当然って事だ」
「そうか」
「けど、お前、さっき手は組まないって言ったよな?」
男性司令官は一瞬固まり、信用していない態度という無表情で、ジェクスの綻んだ表情の奥に微かに伺える強気を見た。
「生き返らせて欲しいなら、そう言えばいい。どうすんだ?」
「司令官・・・」
男性軍人の話を聞いていたのか、気が付けば他の軍人達も注目していて、男性司令官は無表情のまま観念したような溜め息を吐いた。
「・・・共闘を依頼する。尚、撃破した後、ゼーレの人間を生き返らせてくれ」
勝ち誇ったような満足げな笑みを見せてきたジェクスに、ルアも思わず笑みを溢した。
「ゼリア・ノヴァに指示を。白銀の兵隊を残らず殲滅しろと」
「はい」
常に空を飛びながら、ヘルは燃える光弾を撃ち落とす。相手は何だか“氷属性っぽい”から。でも直後、白銀のライフルからは“白銀の稲妻”が放たれた。──ありゃ、やっぱり何でも系だったんだ。
「はあ!」
蒼白い光矢が真っ直ぐ突き抜けていく。それはライフルを持つ白銀の鎧兵を真っ直ぐ貫通し、そのまま数人の白銀の兵も吹き飛ばしていく。すると白銀の兵隊は倒れ、まるで氷のオブジェだったかのように砕け散った。
「(ハッ、楽勝過ぎるぜ)」
白銀の鎧兵、白銀の兵達が一斉に白銀の光弾を放つも、テリッテとアーサーの融合光壁には全く響かず、逆にテリッテが尾状器官から蒼白い衝撃波を撃っていけば、白銀の兵隊は木葉のように舞い上がって落ちて砕けていく。そんな状況を視ていたイシュレが、ゼーレ軍の中で白銀の兵隊にされてしまった人間を蘇らせていけば、軍人達は歓喜した。当然のように蘇った人達は何が起きたのか、自分の状況を分かっていないが、蘇ったと同時に保護され、ゆっくりと説明を受けていけば冷静に“今自分の街が自分の街ではない”という事を理解し、落胆していく。
「良いだろう。この調子で、先ずは白銀の兵隊の戦力を減らす」
イシュレは街全体を見渡していく。白銀の兵隊の数は1万どころじゃない。街の“浄化”は相当な時間がかかるだろう。そう思いながら散らばった魂子を転移させて集め、街の人間を蘇らせていく。その一方、テリッテはゆっくり飛びながら、尾状器官から衝撃波を撃ち放っていき白銀の兵隊を蹴散らしていく。
「(このままガルゼルジャンのとこ行こうぜ?俺達ならでっかいやつに変身したって勝てるんだから)」
「あんまり楽観し過ぎちゃだめだよ?危なそうだったらルア達の方に誘きだそう?」
「(分かってる。どこだよ、強い奴)」
ニーゼカレナ・ヴォーガ大聖堂。ガルゼルジャンは自分の墓を見下ろしていた。王として歴史に刻まれた墓。自分の最期は側近による暗殺だった。それは支配が足らなかったせい。それは自分の力不足が原因。
「ガルゼルジャン様!」
振り返るガルゼルジャン。やって来たのは白銀の鎧兵。
「兵が次々と撃破されています」
ガルゼルジャンの全身からふんわりと白銀が舞う。そして一度瞬きすれば、その瞳は白銀に染まった。張り詰める魔力、拡張されていく視界。跪く一兵。立ち尽くす王はそれから、街を見下ろした。ゼーレの軍隊が何やら得体の知れない怪物を用意したらしい。特に女の姿をした、天使のような怪物。ふと目に留まったのは、我が帝国の外で人間が次々と蘇っているという事。──何をしているというのだ。もしや、我が兵隊を、奪っているのか。・・・ならば。
ガルゼルジャンは手を伸ばした。その直後、跪いた白銀の鎧兵に白銀が吸い込まれていった。
「ぐっ・・・これは!」
「行け。天使のような女を捕まえろ」
「御意!」
ふとテリッテは地面に降り立った。その周りには数え切れないほどの、近付いて来ない白銀の兵隊。
「(あっちの方から強い魔力感じるよな?)」
「うん。行ってみよう」
白銀の鎧兵が5人やって来たので、テリッテは短い尾状器官から衝撃波を高速連射する。そして向かう道に立ち塞がる兵隊は掃討出来たのでまたゆっくり飛び始めたその時だった、4車線道路の遠い先から“3メートルの鎧の獣人”がやって来たのは。
「(あいつ、強いのか?)」
「油断しちゃだめだよ?」
「ウオオオオ!!」
白銀の獣人から立ち込める白銀。するとその両手には鉤爪が形成され、周囲には2つの盾が浮かび上がった。走り出した白銀の獣人。テリッテも向かっていくと、直後には鉤爪から三閃の白銀が放たれた。融合光壁を纏ったまま飛んでいくテリッテは無傷だが、白銀が弾けるその衝撃は強く、思わずテリッテは止まった。それでもカウンターのように素早く蒼白い光矢を放てば、それは白銀の獣人を吹き飛ばした。そのまま雑居ビルの壁にぶつかったのでバラバラになると思いきや、白銀の獣人はヒビが広がった壁を背後に立っていた。いつの間にか2つの盾が前方に移動していた。
「(お、耐えやがったぞ。手加減して良かったな)」
「良かったの?」
「(そりゃそうだろ)」
白銀の獣人が動き出したのでテリッテはエクスカリバーを作り出し、放たれた三閃の白銀を弾き返す。
「でも倒してあげないと生き返らせてあげられないんだから」
「(少しくらい遊んだっていいだろ。弱すぎるにも程があるんだ)」
そう言ってアーサーが尾状器官から衝撃波を放てば、白銀の獣人はまた吹き飛んでぐったりと倒れた。
「(ほらな。まぁいいや。さっさとガルゼルジャン捜そうぜ?)」
その直後、どこからともなく白銀が吹き荒び、白銀の獣人に集中していった。一瞬の内に白銀の獣人は見えなくなるが、白銀の渦が大きくなったその不穏さをテリッテとアーサーは冷静に見つめていた。それから白銀の渦が吹き飛び、空気が震えれば、そこに立っていた白銀の獣人は姿を変えていた。大聖堂の中では、ガルゼルジャンがふっと笑みを溢していた。
「(でっかくなった、ハッ)」
白銀の鎧がまるでロボットのように全身を包む、10メートルの白銀の巨人を前に“アーサーはカシャカシャと震えた”。やんわりと漂う煙のように白銀の巨人に纏う白銀は、巨人を“運んでいく”。まるでブースターで加速するかのようなスピードで白銀の煙に運んで貰いながら、白銀の巨人は鉤爪で斬りかかる。それをテリッテはエクスカリバーで受け止めるが、その単純な力で押され、アスファルトはガリガリと削れた。
「(いいじゃねえかぁ!)」
サクリア、ケンセン城跡地。展示品になっている玉座に座っていたディンクルスはふと天井を見上げた。それは“常に感じている”自分のものとは似て非なる気配。バルコニーに出たディンクルス。そして曇天を見つめれば、その雲から龍が降りてきた。サクリア軍もマスコミもざわめき、ブレン達も何だ何だと外に出る。
「うお!マジか!エイシン!?何でここに」
バルコニーから見上げるディンクルスを、龍は神々しく見下ろす。見つめ合う2人の間には敵意は無く、ただ見えない魔力が擦れ合っていた。
「何か用か?似て非なる同胞よ」
「どの未来を選択するか。それが石ころを除ける事になるか、世界を救う事になるか」
「私は、選択される側なのか」
「人は、世界を支配する事など叶わぬ。支配した気になっているだけ。某の選択もまた、世界の一興よ」
「一興・・・」
「ガルゼルジャンを除けるか否か。その選択をそなたに委ねる、これが某の選択だ」
ディンクルスはバルコニーに背中を預けた。
「ガルゼルジャン。そいつは何を選択する」
エイシンの瞳に浮かぶ魔方陣。
「世界の破滅、或いは己の破滅」
「なるほど。これも戦の1つか。ならば、私はその軸を掴んでみせよう」
エントランスに下りたディンクルス。相変わらずブレンはだらだらと過ごしている。
「ディンクルス。エイシン何だって?」
「ガルゼルジャンの動向を危惧していた」
「そうか。確かにすごいニュースだよな」
「ブレン、戦に行くぞ。体が鈍っている頃だろ」
「おお!まさかガルゼルジャンか?」
ゼーレ帝国、アンゼルジ。ヘルは2発の燃える光弾を放った。大砲のような轟音と、熱を帯びた光の衝撃は一気に何十人もの白銀の兵隊を砕いていく。そんなヘルに白銀の鎧兵が向かっていくと、ヘルはシュナカラクを呼び寄せ、合体した。
「(んーっ・・・おりゃああ!)」
勢いよく前足を地面に振り下ろし、4枚の翼を思い切りはためかせる。それは光と炎を融合させ、クウカクも混ぜて硬く鋭くさせて解き放つ“全体攻撃”。白銀の兵隊がまた100人以上吹き飛んだ爽快感に、ヘルは走り出した。
「(イエーイ!技の名前どうしよっかなー。お、どんどん来た。じゃあ、次は・・・)」
走りながら、ヘルは光と炎を融合させたクウカクを纏った。まるでヘルが燃えてるかのようで、それはとても攻撃的な体当たり。突撃していくヘルに轢かれてまた何十人の白銀の兵隊が砕け散っていくところに、白銀の獣人がやって来た。
「(お、絶対強い奴。このまま突撃だーー!わあー!)」
三閃の白銀をものともせず、構えられた2つの盾ごと押していけば、気が付けば白銀の獣人は砕け散った。
「(なーんだ、弱いじゃん。ん?あっちにも。うわ、何?・・・集まってく。・・・うお、進化した)」
それでもヘルは全身に光と炎を纏い続ける。そんな存在だけで攻撃的なヘルと白銀の巨人が睨み合ったその時だった、そこに紺碧の渦が発生したのは。
「(こ、これは・・・)」
そして紺碧の渦が優しく吹き飛べば、そこにはディンクルスとブレンとジャガーノートが立っていた。
「(・・・ディンクルス!)」
読んで頂きありがとうございました
ディンクルスVSガルゼルジャン、ですね。果たしてルア達はゼーレ帝国を救えるのでしょうか。




