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逆襲のアルテミス  作者: 加藤貴敏
第4章「ウォー・ゲーム・オブ・ハザーズ」

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「神獣」後編

弾丸のように石が飛び散った。テリッテは立ち尽くす。何故なら恐れる必要も無かったから。通り過ぎていくもの、見えない壁に跳ね返るもの、それらを気に留める事なく、その蒼白い瞳は浮き出した虎を見ていた。そして虎は雄叫びを上げた。

シエネイラにて。イエンとジェクスはアルファとヒーターを連れて豊蓮山に向かった。ムラクモとの戦いで、そこではもう常に厳戒態勢が敷かれていて、観光客はおろかそこで働く人達も皆迂闊に外出出来ない状況になっていた。

「山頂に逃げたムラクモだが、先程とてつもない地響きを感じて向かってみれば、玄武のような姿になっていてな」

小隊長ヒンガスがそう言ったところで、ヒーターとアルファは声を漏らした。豊蓮山の山頂にも飲食店があり、沢山のベンチがあったり、ピクニックシートを広げられるような平地が広がっているが、そこはもうめちゃくちゃだった。

「異世界でも、昔の人間が蘇って、しかもあんな風に巨大な獣になってる」

「そうなのか、正体は分かってるのか?」

ヒンガスが眼差しを向ければ、イシュレは頷いた。

「カルベスの欠片の霊力が、何百年分の沢山の魂子を巻き込んで形になったもの。何でムラクモなのかは、多分、巻き込んだ沢山の魂子の中で、1番魂子の意思が強かったから」

ジェクスが冷静に頷く傍ら、ヒンガスは“二股に分かれた尻尾が剣になっている、亀のような巨獣”を眺めた。

「カルベスの欠片・・・まだ我々の戦いは終わってないのか」

「来たか、この時代の者共。どこかで、誰かが戦っている。その覇気がどうも芳しい。拙者の中の何かが目を覚ましたのか、気付けば拙者もこうなっていた」

ムラクモが1歩踏み出す度に地響きが鳴り、ベンチが1つ潰れていく。直後にムラクモの体からダークブラウンの光が溢れ出し、風のように地を這い、氷を伸ばすように地面をさらっと逆立てた。

「さあ、先の続きをやろうか」

ジェクスはヒンガスに目配せした。リッショウをして気迫と存在感を高めれば、それが「避難しろ」という威圧にもなって。そんな緊迫感にヒーターとアルファも顔を合わせれば、2人は合体した。

テンベカ、海沿いの街ショーカ。そこの砂丘に立つ大きな城の中、ふとアルカナは席を立った。足音も無く歩き出せば、触れずにドアを開けてバルコニーに出た。静寂が包む砂丘、砂浜を擦る波の音も遠い。

「騒がしいな──」

ふっと笑うアルカナ。

「だが悪くない」

ムラクモが地面を踏めば、その衝撃は避難している小隊の人達さえ転ばせていく。その一瞬、ヒンガスは目を向けた。山肌に入った亀裂を。

「小隊長!──」

ダークブラウンの光はまるで無数の蛇のようにジェクス達を狙う。しかもそれをかわしても尻尾の剣がしなやかに伸びていき、またジェクス達を襲っていく。それでも剣をかわしてヒーターが突撃しても、体の大部分を覆う刺々しい甲羅には全く歯が立たない。ヒーターが6本の尾状器官で、尻尾の剣と蛇のような光を捌いていってもやがて手が足りず、蛇のような光の1つに噛みつかれては吹き飛んで転がった。

「(このままじゃだめみたい)」

「うん。・・・ふう・・・・・グローソウル!」

ヒーターの体に纏う、青い電気。それからヒーターは尾状器官の1つに青光のトライデントを作り出し、手には刃渡り2メートルの真っ白な長剣を作り出した。呼吸を整え、ヒーターは長剣とトライデントを構える。蠢く蛇のような光。その何本かがヒーターを襲う。踏み込まれる足。ムラクモは目を細めた。何故なら光より速く、ヒーターは何本もの蛇を通り過ぎていた。ドンッと甲羅が蹴りつけられる。ムラクモには全く響かないものの、ヒーターはすでに上空に居た。そしてムラクモがその動きを捕捉するよりも速く、ヒーターは甲羅を通り過ぎ、甲羅の下の地面に刺さっていたトライデントを踏みつけた。つまりそれは、テコの原理だった。一瞬の内に傾くムラクモ。見た目からして、ひっくり返せば動けない。そうヒーターが更に力を込めれば、ムラクモはゆっくりひっくり返った。

「ぐぬうっ」

すでにヒーターは飛び出していた。その眼差しが見定めているのは、ムラクモのお腹部分の甲羅の中心。突き出された真っ白な長剣。しかしヒーターは目を見開いた。無数の蛇のような光が束になって壁になっていたから。直後に尻尾の剣も伸びていき、ヒーターはすかさず後退していく。

「弱点を見定める目はあるようだ。だが──」

一瞬の内に蛇のような光が集まれば、ムラクモの巨体はまたひっくり返された。

「あっ

 (あっ)」

更にムラクモは立ち上がった。そう思いきや、思い切りその前足を振り下ろせば、そこには凄まじい轟音と地響きが鳴り響き、ダークブラウンの光、風、炎、氷が吹き荒び、山が動いたんじゃないかと思うくらいの衝撃が広がった。

「くっ・・・」

クウカクの壁を作っても、ヒーターはただ身を屈める事しか出来なかった。

「ジェクス!」

ダークブラウンの嵐が過ぎて、振り返るジェクス。そこに居たのはヒンガスだった。

「このままじゃ、山そのものが破壊される!何とか移動させてくれ」

「分かった」

サクリア、サミコン、ケンセン城跡地。ディンクルスは旧ケンセン城内をふらふらと歩く。エントランスの休憩用ベンチに寝転がってスマホを見ているブレンに呼び止められるまでは。

「サンジャラにも、お前と同じような奴が居るってよ」

「名は」

「エイシン」

「知らないな」

「だろうな。エイシンが居たのは300年前。時代が違う。ん、お、また目撃情報だ。ホールズか、遠いな」

「おーい、ディンクルスさん、また志願者っすよ」

“銅の力”を持つ1人、バルヌクが連れてきたのは、2人の男。ふと目を向けたブレン。

「ああ!?テメエら!何でここに」

「え、知り合いっすか?」

「ダクラウドの奴らだ」

「ドレイクンズの奴らを潰す力が欲しいんだ。お前がザ・マッドアイを潰したニュース見てさ。最初は迷ってたんだが、最近、ドレイクンズが頭数を増やして、チィケイズを奪われそうなんだ」

「そうなのか」

ダクラウドのリーダー、ヘンフェルはディンクルスを見た。ディンクルスはそれから小さく首を傾げた。

「小さい欲望だな」

「他人にとってはそうだろうよ。でも、ダクラウドは前のリーダーから引き継いだ、オレらの居場所だ」

「ていうか、力をやったってこいつらはお前の仲間にはならないぞ」

再びベンチに寝転んだブレンに半分だけ振り返るディンクルス。

「だったら、お前がドレイクンズを潰してくれてもいい」

「いや、オレは、ブラックが手に入るからダクラウドに入っただけで、縄張り争いには興味ないっつうか。オレ達はな、これから戦争を起こすんだ。そんな小さな事はどうでもいい」

「戦争?たった5人と1匹だろ」

「これから増やすんだ。まぁ、ドレイクンズを潰した後、こっちの仲間になるっつう条件を飲むならいいぜ」

「何でお前が仕切ってんだ。リーダーはディンクルスだろ」

「オレはディンクルスの次に強いんだ」

するとヘンフェルは言葉を詰まらせた。そんな態度をディンクルスは真っ直ぐ見つめる。

「戦争とはそういうものだ。何を敵とするかは人による。私は、戦で世を動かす。その波状にお前達がいるのなら、それも私が担うべきものだ」

「え?」

ブレンがそう聞けば、ディンクルスはふっと笑った。

プライトリアにて。テリッテの放った蒼白い光矢がカンディアウスを吹き飛ばした。ダークグリーンの嵐ごと貫いていった蒼白い光の筋は闘技場の観客席も貫き、そのまま真っ直ぐ空まで貫いていった。

「・・・・・ぐふ」

ふわふわとダークグリーンの光に乗ってゆっくりと墜落した虎は、人間となった。

「(やったぞ!)」

カンディアウスは笑みを浮かべていた。片膝を着いて、今にも倒れそうな体を支えながら。

「やはり、命をかけた戦いほど昂るものはない。束の間の命だったが、悔いは無い」

それからだった、カンディアウスがゆっくりと倒れ込んだのは。現役の闘技場が何千年もの月日に晒されたかのように破壊され尽くされた場所で、アポロンは古の闘士を見つめる。

シエネイラにて。豊蓮山から転移させられた亀の巨獣がまた大きく前足を地面に叩き落とせば、その地響きは近くの街を揺らした。何だ何だと人々が外に顔を出していく一方、ヒーターは長剣を下に構え、意識を集中させた。電気の鎧からバチバチと青い電気が這って長剣を飾る。直後に尻尾の剣が瞬時に伸びていくと、それをヒーターはバチンッと弾き返した。そして雷のような速さで飛び出し、ムラクモの首筋に向けて長剣を振り下ろした。砕け散る鱗。ヒーターは目を見開いた。──皮膚も硬いなんて。

「(後ろ)」

アルファの声に振り返る頃には、無数の蛇のような光がヒーターに襲いかかっていたが、間一髪でアルファが尾状器官で持ったトライデントで弾き返した。それから何とか無数の蛇から逃げて後退してきたヒーターの下にイシュレがやって来た。

「作ったよ」

「あ!うん!ありがとう!」

一呼吸置いてから、ヒーターはイシュレから貰った(グロー)の濃縮魂子を濃縮魂子安定装置に取りつけた。イシュレの(グロー)なので色は普通に黄緑。それからヒーターとアルファが意識を集中させれば濃縮魂子から広がる黄緑の電気が青い電気の鎧に重なっていき、6本の尾状器官は黄緑の電気で更に武装された。飛び出していくヒーター。そこに襲いかかる無数の蛇のような光。一振りされた尾状器官。すると瞬く間に黄緑の電気が枝分かれしていき、空を走るように一振りで10本もの一閃の雷光が放たれた。それから間髪入れず、あと5本の尾状器官も立て続けに十閃の雷光を放っていけば、バリバリ、ドカンドカンとまるで空気が崩壊していくかのような轟音が響いていった。

「すごいな」

呟くジェクス。そんなジェクスに、そっと濃縮魂子を差し出すイシュレ。無数の蛇を一瞬で蹴散らしたヒーターと、ムラクモが真っ直ぐ睨み合う。振り下ろされる2本の尻尾の剣。それをトライデントと長剣で弾きながら、ヒーターは十閃の雷光を放つ。その内の1つが先程砕いた鱗の部分に当たれば、ムラクモは声を上げて仰け反った。

「ウオオオ!」

ダークブラウンの蛇のような光が激しく暴れ回り、更に口からはダークブラウンの閃光が吐き出されて、それに直撃したヒーターは吹き飛んでいく。その時だった、ジェクスが飛び出していったのは。まるで意思が無くなったように暴れ回る無数の蛇を飛び抜け、ジェクスはムラクモと睨み合う。吐き出されたダークブラウンの閃光。すると同時にジェクスの姿は消えた。それは閃光に呑み込まれたように見えた。ムラクモがそう思った矢先、ジェクスは転移した。光る濃縮魂子を握り締めた右手で殴りかかる体勢で、ムラクモの目と鼻の先に。

「おらああ!」

ジェクスの右手から爆発的に輝く(グロー)。そしてその拳はムラクモの鼻に直撃した。イシュレでさえ一瞬目を瞑ってしまうほどの目映さだった。気が付けばジェクスは反動で吹き飛んでいて、ムラクモは立ち上がるくらい仰け反っていた。それから力無く倒れ込んだだけでもまた地響きが鳴り上がる。

「ぐう・・・・・」

「ムラクモさん!」

ゆっくり目を開ける亀の巨獣。

「どうして、ムラクモさんは戦うんですか?」

「・・・それ以外に、生きる理由が無いからだ」

「でも、もう昔とは違うので、新しい生き方を探せばいいんじゃないですか?」

ゆっくりと亀の巨獣は人間に戻った。相変わらず疲弊した様子なのでヒーターはドゥシピス・ゼプレからアルファを放出した。

「・・・飯だ」

「・・・え?」

「飯を・・・食わせろ・・・」

一点を見ていたムラクモ。そう言うと糸が切れたかのようにパタンと倒れた。

サクリアにて。広大な庭園を散歩するディンクルス。それから手入れの行き届いた花畑を見ていた時、ふと思い立ったディンクルスは正門に赴き、軍隊を前にした。向けられる警戒。

「ここに庭師は居るのか?」

返答は返ってこない。何故ならそんな雰囲気ではないから。それでもディンクルスが橋の前で立っていると、次第に軍人達がキョロキョロしていき、仕方なくスエイン大佐がディンクルスと橋を挟んだ。

「ここは国有地だから、公園として管理されてる」

「庭を整える際のみ、庭師の出入りを許可する」

「許可だと、まったく何様なんだ。そもそもお前がケンセン城跡地に籠城する事をこっちは、っておい!行くな!聞け!」

旧ケンセン城に戻ったディンクルスはエントランスのベンチに寝転ぶブレンの前に立った。

「何故、人々が集まって来ない」

「え?」

「動画とやらが拡散されれば耳を傾けた者が来るのだろう?」

「そりゃあ軍隊が包囲してるからな。ここに来た時点で犯罪者呼ばわりじゃ、来たいと思っても実際に来る奴は少ないんじゃないか?」

「確かに邪魔だな」

「まぁ実際3人来てるし、待ってれば来るだろ。ていうか、何人くらい欲しいんだよ」

「戦を起こすとなると、1000は欲しい」

「え!マジの戦争かよ。ていうか、誰と戦うんだ」

「・・・・・誰と、だと」

「そもそも、戦を起こすって言うけどよ、敵が居ないだろ」

「私達の最初の敵は、サクリアだ。国を取る」

「ディンクルスって、最高の指揮官なんだろ?乗っ取るなら軍じゃないのか?」

「・・・・私は、国を担う器ではないか」

「あ、いや、別にそういう──」

「確かにそれは現実だった。私は、軍隊の指揮を担っていた。だが、それは昔の話。今の私には、私自身も計り知れないほどの力がある。まるで神にでもなったようだ」

「大袈裟だな」

「フッ。私は決めたのだ。あの時は叶わなかったが、指揮官の先を行くと」

「国を乗っ取るって・・・」

「不服か?」

「何て言うか、自分の国を作った方が早そうだなって思っただけだ」

ふと背中を向けたディンクルス。ブレンがその沈黙に目を向けると、程なくして振り返ったディンクルスは神妙な笑みで頷いた。

「名案だ。国崩しも一興だな」

「グガ、グララ」

「ん、そうだな。腹が減った」

「分かるのかよ。ていうか居たのかよ。あ、大事な事忘れてた」

「何だ」

「オレらは、今は立て籠り犯だ、飯の調達はどうすんだ」

ディンクルスは橋の前にやって来た。向けられる警戒。仕方なくスエイン大佐はディンクルスと橋を挟む。

「食材と料理人を寄越して貰おう」

「贅沢な立て籠り犯だな。食材だけじゃなく料理人まで。無理に決まってるだろ」

「これより、私はこの城を我が国とする」

「国有地だって言ってんだろ。いくら有名な偉人だって言ってもな、っておい!待て!聞け!」

旧ケンセン城に戻ったディンクルス。

「お前の言った通りに伝えたが、聞き入れる様子はなかった」

「じゃあどうするか」

「どうかしたんすか?」

そんな時にやって来たのはバルヌク。

「飯どうするよ」

「え、何か取ります?ドローン便」

「まぁしばらくはそれでいいけどよ。ずっとは無理だ。オレら立て籠り犯だぞ?」

「軍隊なんか蹴散らせばいいんじゃないすか?それで人質でも取れば」

「だよなぁ。それが手っ取り早いけどな。でもそしたら、本当に立て籠り犯になる」

読んで頂きありがとうございました。


ウォーゲームといっても、果たして誰と誰が戦うのか。先ずはそこからですね。そして戦っていた者達は、ずっと敵なのか。

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