「歴史は常に轍に芽吹く」後編
「えー、只今、ディンクルス・イコア、ブレン、ジャガーノートは首都から北に40キロ進んだサミコンに潜伏しています。現在、2人と1体は文化遺産でもあるケンセン城跡地に居るのですが、サクリア軍が取り囲んでも動じる事なく、独立自警団の敗北が士気にも影響していると思われます」
「(あーあ、あんなに強かったなんて。コメント、結構傷付いちゃうなぁ)」
テレビとタブレットを見ながら、エゴサーチしているヘル。そんな犬を横目にルアは採ってきた野菜を庭の水道で洗っていく。
「(でもこの世界の人達は知らないもんね?スーパーパワーアップとか、テリッテとアーサーの合体とか)」
「うん」
タブレットをリビングテーブルに置いたヘル。するとヘルの魔法の手は布巾を持ち、洗った野菜を拭いて冷蔵庫に入れた。
「(・・・ふう終わったー。早くあっち行こうよ)」
「ちょっと待って」
「(ん?)」
そんな時だった、イエンがルアの側にパッと現れたのは。
「(イエン)」
「うん」
「どうしたの?」
「シエネイラで、昔の人が蘇って、その人が結構強くて大変で、そしたらジェクスがみんなを呼びたいって」
「(え!)」
「ん?」
「昔の人が蘇ってって、そっちの世界でも?」
「それって」
「(ボクたちもこの世界で、蘇った昔の人と戦ってるんだよ)」
「へえ。強いの?」
「(結構強かった。でも濃縮魂子を使えば大丈夫だと思う)」
「そっか。そしたら、みんなでは行けないよね。手分けしないと」
「(うん。でもむしろ作戦会議とか、後はその昔の人を蘇らせた人の調査もしないと)」
「そうだね」
禁界の合同キャンプ場。それからルアやヘリオス達、アーサー達、テリッテ達が集まり、そしてイエンがジェクスとイシュレとガグナを連れてきた。
「こっちで蘇った奴は、シエネイラの歴史に記録があるムラクモという男。テンベカの歴史に記録があるアルカナという女」
「(え、2人も。戦った?)」
ヘルの問いにジェクスは少し困ったように頷いた。
「あぁ、ムラクモも、アルカナも、ハドロンフォーメーションや濃縮魂子が無い状態ではかなり手強い。しかしハドロンフォーメーションは出来ないそうだ」
「(何で?)」
「ムラクモもアルカナも、カルベスのように無差別な破壊はしていないからだそうだ」
「じゃあ戦わなくてもいいんじゃない?」
テリッテがそう聞くが、ジェクスは少し深刻そうに視線を落とす。
「いや、無差別な破壊はしていないだけだ。実際、ムラクモは30人ほど人を殺し、アルカナは魔力で城を作り出して、調査隊を襲っている。しかもアルカナに関してはならず者で有志軍も作り、その有志軍とテンベカの軍が衝突している。とても友好的な者達ではない」
「そっか・・・」
「あ、みんな居た居た」
「(ん、ああ!アテナじゃん!)」
プライトリア軍の兵士達が急な総司令官の登場に戸惑いながらも整列する中、ルアはふとアテナと一緒に居る2体の“見える”精霊を見る。
「みんな元気そうじゃない?初めて来たけど、いいね、ここ。みんな仲良さそう」
「(この人はアテナだよ。最初の頃、ボクたちと一緒に戦ってくれた、プライトリアの人)」
「私テリッテだよ」
「うん、一応独立自警団のメンバー編成の報告は受けてるから、名前は知ってるよ。よろしくね」
「うん」
「何か用なのか?」
ジェクスが“勝手にやって来た知らない人”を見るようにそう尋ねると、アテナは報告にはない知らないエルフをまじまじと見つめる。
「あなた達は?」
「オレはジェクス。こっちはイシュレだ」
瞳をフワッと虹色に光らせるイシュレ。そんなイシュレの瞳をキョトンと見つめるアテナ。
「(マガツエルフだよ)」
「へー。エルフってそんなのも居るのかぁ。あれ?何かみんな、お取り込み中?」
「(作戦会議中だよ。こっちの世界とボクたちの世界で昔の人が蘇って、その人達がすごい強くて)」
「えー!そうなの!?それって世界中で起きてたんだ」
「(じゃあもしかしてプライトリアでも?)」
「そうなの。まだプライトリアとアマバラが1つだった時、700年くらい前に居た、カンディアウスって闘士がさっき蘇って、しかもかなり強くて、みんなの力を借りたくて来たの」
「(じゃあアテナも作戦に加わってよ)」
「そうするしかないみたいね」
それから大まかなグループ分けがされた。そもそも昔の人を蘇らせた人を捜す調査組。蘇った人達の中で危ない動きをしたら足止めする戦闘組。今のところ1番危ないのは、現在アポロンと戦っているカンディアウス。だからアーサーとテリッテ、マスカットとグズィール、そしてアテナがプライトリアに向かった。
プライトリアのメクハスという街にある闘技場。今の時代では音楽ライブやスポーツイベントに使われるそこで、アポロンとカンディアウスは戦っていた。ボウッと紫と朱の炎が舞い踊る。同時にバチンッとアポロンの剣は弾かれる。弾いたのはカンディアウスが装着する“斧のような刃が付いた、盾のように幅広い籠手”。しかしその籠手からはダークグリーンの光刃が煌めく。数え切れないほどのぶつかり合い、刃の叩き合い、その戦いは1時間にも及んでいた。周囲を取り囲むプライトリア軍の兵士達は、巻き添えを恐れて近付けず、時折治癒玉でアポロンを援護するだけ。
「ヘイ!」
アポロンは振り返る。例によって気の抜けるような声掛けをしてくる双子の姉に。
「翼人・・・なるほど」
「フウーー。骨がありそうな者達だな」
「オージャソウル!」
リッショウと青い炎の鎧。その気迫と存在感を、カンディアウスは嬉しそうに笑った。
「こいつが、報告の、デュープリケーターか」
「ライコウ!テンカン!」
エクスカリバーを作り出し、アーサーは飛び出していく。
「うおおおお!」
爆発したかのような衝撃波が響く。その瞬間に青とダークグリーンが撒き散らされて地面を引っ掻いていく。アーサーの全力の一振りをカンディアウスは籠手で受け止めたのだった。ザザッとカンディアウスの足が地面にめり込む。直後にダークグリーンの閃光が突き上がると、アーサーは押し返されるように浮き上がるが、素早く斬りかかり、青炎の一閃を放った。手応えはあった。そう思った矢先、アーサーは吹き飛んだ。
「くう、強えな」
「筋はいい。眼もいい。だが、非力だ」
「チッ。濃縮魂子があれば」
スッとアポロンがアーサーの隣に立った。
「手を組めば、勝てる」
「しょうがねえな」
「カンディアウスよ。これ以上の暴動は許さない」
一方、ルアとヘル、イエン、ジェクスとイシュレはシエネイラの轍の街に居た。
「(じゃあ、時系列で言ったら1番最初に蘇ったのはムラクモって事かな)」
「確認出来る時点ではな。つまり蘇らせた奴は、こっちの世界の奴で、シエネイラの奴の可能性が高い」
「(どうやって捜すの?)」
しかしそう聞けば、ジェクスは言葉を返さなくなった。今日もまだまだロードスターのライザー部隊が瓦礫の撤去をしていたり、新たに建てられる建物の建築材を運んでいたり。そんな中を子供達は駆け回り、大人達は瓦礫を運ぶ。
「手伝わないのか?」
そんな時だった、パッと現れたファウンデイルがルア達に声をかけてきたのは。
「オレ達はムラクモを蘇らせた奴を捜している。遠い大陸でも、ルア達の世界でも同じ事が起きてる」
「なるほど。ならば良いところに来たな」
「え?」
「我々草鉄も、その蘇らせた者を突き止めようと動いていてな、丁度それらしい者の見当がついたところだ」
「本当か!」
「ただ確証は無い。連絡が取れないのと行方が分からない、その2点で怪しいと踏んでいる。先程、全部族に捜索指示を出したところだ。貴殿らも捜索するといい。男の名はクラウン。現在は視伝に属している」
「クラウン」
「貴殿らは、ルア達の世界でクラウンを捜索してくれぬか」
「分かった」
ルア達の世界にやって来たのはルアとヘル、ヘリオスとレイカ、イエン、そしてジェクスとイシュレ。ヘリオスとレイカは独自に動くからといつものように去っていってそれから、ルア達が向かったのはディンクルス達が潜伏している街サミコン。戦う為ではなく、イシュレがディンクルス達を見てみたいと言ったから。ケンセン城跡地の周囲には堀があり、当然その堀を越える為に橋がある。普段は文化遺産として普通の観光地だが、今では常に軍によって規制線が引かれている。
「独立自警団・・・」
軍人達がざわめけば指揮官がやって来て、シューガーの街に“穴を開けた”イエンに警戒の眼差しを向ける。
「戦いに来たんじゃないんです。今は昔の人を蘇らせた人の調査をしてます」
「そうか」
「(ちなみに動きはあったの?)」
「いや。それよりも問題なのはディンクルスの発言に共鳴して仲間になろうと近付いていく者達だ。すでに3人のウパーディセーサが入っていくのを確認している」
「(えっ。じゃあその人達もブレンみたいに未知の魔法を?)」
「それは確認していない」
イシュレは瞳を虹色に光らせた。そのまま視点を飛ばしていき、橋を渡り、城を囲む広大な庭を飛び越えていく。1人のウパーディセーサとすれ違いながら。
「大佐!ウパーディセーサが1体近付いて来ます!」
「戦闘準備!」
しかし橋の前まで来ると、ウパーディセーサは地面に降り立ち、橋を挟んで軍を見据えた。それはまるでただの見張りかのように。
「正門だけじゃなく、東門、南門にもウパーディセーサが1体ずつ現れたようですが、いづれも戦闘にはなっていません」
ウパーディセーサを見据えながら、スエイン大佐は唸った。そのウパーディセーサは嘲笑っているようで、睨んでいるようで、不気味に立ち尽くしている。
「やっぱり同じ」
呟いたイシュレに振り返るジェクス。
「何か分かったのか」
「ムラクモと同じ、根源」
「え?」
「(蘇らせた人が同じなら、同じ魔力を持ってるって事じゃない?)」
「よく分かるな。そうなのか?」
「うん」
「いや、でもムラクモもアルカナも、魔力の性質も戦い方も全然違うだろ」
「それは、集約された時間と思想が違うから。それに蘇ったのは本人だけじゃなくて、もっと沢山の時間と思想を巻き込んでる」
「どういう意味だ」
「(多分、魔力の元は同じだけど、本人の記憶によって変わるんじゃない?)」
「蘇ったのは本人だけじゃないってのは」
「(んー、もしかしたら、見た目が1人ってだけで、中身は何人分かの思想や魂子とかが混ざってるんじゃない?だからすごい強いんだよ)」
「そうなのか?」
イシュレが満足げに頷いたのでそうなのだが、とは言えジェクスはむしろ真剣に頷き返した。
「何人もの魂子を巻き込むほど膨大な魔力で蘇った訳か。けど一体誰がどうやってそんな魔力を」
「カルベス」
イシュレが呟けばジェクスは不思議そうに眉間を寄せる。
「あいつは、死んだぞ。いやまさか、カルベスのテムネルを封印した、カルベスの欠片・・・。粉々にはしたがあれはつまりカルベスのテムネルそのものだ。膨大な霊力がある」
「(じゃあそれをクラウンって人が拾って、使ったのかな)」
「だろうな」
「(粉々にしない方が良かったのかな)」
「いや、粉々にして魂子の結合を分断しなければもっと危険だった」
「(カルベスの欠片、沢山出来ちゃったよね)」
「ファウンデイルもカルベスの欠片を集めて保管するって言ってたが、誰かが拾っても気付かないだろうな」
ルアはふと子供カルベスを思い出した。ここまでカルベスが望んでいた訳ではないだろうが、カルベスの欠片という力の塊によって“新たな脅威と流れ”が生まれたのは、カルベスの思想が受け継がれたからなのかも知れない。
「イシュレ、もういいのか」
「うん」
「なら早いとこクラウンを捜さないとな」
「どうやって?」
「検索しかないが、いい考えがある」
ジェクスがニヤついてから3分。イシュレの手には濃縮魂子ボールが握られた。それは霊気検索の魂子で作ったもの。
「こっちも膨大な霊力を使う」
「(リッショウもした方が良いんじゃない?)」
ヘルが期待を込めてそう言えば、イシュレは口角を引っ張っただけの真顔の笑顔で見つめ合う。
「うん、分かった」
マガツエルフがリッショウしただけで木々が揺れ、小鳥たちが飛び立ち、軍人達が振り返った。それを遠く眺めているディンクルス軍のウパーディセーサは立ち尽くしたまま。それから濃縮魂子ボールは光を放った。と言ってもイシュレは動かず、視点を飛ばすだけ。上空1000メートルから街全体を見下ろす。何を見ているという事ではなく、“全てを感じ、全てを見透かす”。それが1番上手な霊気検索。やがて上空3000メートル。そこまで昇れば5000キロ先くらいまでの範囲なら違和感に気が付ける。
「あ、また居た。カルベスの欠片で蘇った人」
「どこだ。いや国の名前は分からないよな。カルベスの欠片を持った奴は?」
「んーー。あ、居た」
「おおっ連れてってくれ」
とりあえずイシュレに運んで貰ったルア達。ふと霊気検索で見渡せば、街の雰囲気、看板の文字などからサンジャラという国だと分かった。
「あれ」
とある工業地帯。指を差したイシュレ。ジェクスが見たのは背中を見せて向こうに歩いていく、黒装束の1人の男。すると呼び掛ける前に男は振り返った。
「クラウンか?」
「マガツエルフ」
そう言うとクラウンはふっと笑った。若干の狂気が見えるその態度は、何故マガツエルフが来たのかが分かっているかのようだった。
「お前が昔の人間を蘇らせたんだろ?」
「・・・・・面白いだろ?」
「(面白くない。何が目的なの?)」
「オレの目的は、偉人の復活そのものだ。それからはどうでもいい」
「(それからどうなるかを見たいって事?)」
「どうなってる?各々自由に、戦いを楽しんでる。そしてこの時代のお前らはどうするか。これは、ウォー・ゲームだ」
「戦争を起こすのが目的か。ファウンデイルみたいな事言うが、つまらないな。世界中が混乱してる。死者も出てる」
「ハッハッハ!・・・せっかく、千紅玉が散らばったんだ。それをただ集めて保管して、つまらないだろ。あれは、消費される為の礎だ。フッ・・・・・まだまだ世界は面白くなる」
クラウンは変身した。それは見たことのないウパーディセーサだった。右腕だけがごつくて大きくて、全身は鋼鉄のようにテカっていて、4本の尾状器官の先端は剣になっていて、その短く畳まれている状態ではまるで剣が羽のように見えていた。直後、翼を解放したルアとヘル、そしてジェクスもリッショウをした。
「オレを追いかけてる暇はない。世界が変わる。ディストラクション!」
「(えっ!)」
だから右腕だけ大きかったのか。そう思った時にはとてつもない蒼いエネルギー波が視界を覆っていた。光壁をしているのに押し切られて体は吹き飛んだ。瞬間的に出せてパワーアップもしてるディストラクション。けどディストラクションをすれば体力が大量に消費されるから、これを凌げば。そうヘルは立ち上がった。ルアとイシュレは動けず、ジェクスも体が重そうだ。だからヘルは飛び出した。
「パラプルスヴェ──」
「おおらああ!!」
とてつもない蒼いエネルギー波は放たれた。その余波にまた吹き飛んだルアが立ち上がった頃には、クラウンは居なくなっていた。
「ヘル・・・・・ヘル!」
遠くで転がっていたヘルは動かなくなっていた。変身は解け、テレパシーが全く伝わってこなかった。それはもう、亡骸だった。
読んで頂きありがとうございました
再びプライトリアの人達が参戦していきます。そしてルア達はこれからどのようにパワーアップしていくのか。




