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逆襲のアルテミス  作者: 加藤貴敏
第4章「ウォー・ゲーム・オブ・ハザーズ」

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「歴史は常に轍に芽吹く」中編

電話が鳴った。それはルアのスマホだった。ノイルという着信の名前を見たルアは無意識にヘルを見た。胸騒ぎがした。

「はい」

「ニュース見たか?」

「もしかして、ディンクルス・イコアですか?」

「あぁ。まぁ警察への抵抗を促した訳だしな。未知の力のウパーディセーサ・ブラックのブレンという男の拘束も含めて、出撃してくれ」

「分かりました」

ヘルはいつの間にかあっちに行ってたので、母に畑を任せてヘルに歩み寄っていく。

「ヘル、出撃だよ。ディンクルス・イコアと逃げた犯人の拘束」

「(やっぱね)」

「今警察に入ってる情報だと、2人はチィケイズに居るって」

「(何か聞いた事ある。確かこの前、半グレ集団同士の抗争があった街だ)」

「うん。ウパーディセーサ・ブラックのブレンって人、半グレ集団の一員だってさ」

「(じゃあ、相手は2人だけじゃなさそうだね)」

首都エリックハイドンの一角で、超大型の倉庫型スーパーがあったり、ライブに使われる大型ドーム施設があったりするチィケイズ。その外れには“半スラム”と呼ばれる商店街がある。元は若者の居ない商店街というイメージだったが、自治体の政策で若者を呼び込んだところ、“悪い若者の溜まり場”になってしまった不運のエリアだ。そんなところにやって来たルアとヘル、そしてヘリオスとレイカ。

「ブレンが所属しているのはダクラウドというグループだ。拠点は・・・ここだな」

「(すご。ボーリング場なのに、屋上のピンが真っ青)」

「ネイビーブルーがダクラウドのイメージカラーだからな」

営業している雰囲気はないボウリング場に入っていくルア達。マフィアでも半グレでも、いつだってアジトには異様な緊張感がある。当然だけど受付には誰も居ない。ふとルア達は足を止めた。確かに半グレ集団は居た。でもそこには苦しそうな呻き声で溢れていた。

「(どういう事?みんなやられてる)」

ざっと見て20人くらい。その全てがボコボコにされて倒れていた。

「何があった」

ヘリオスが尋ねる。

「くそ・・・」

「誰にやられた」

「ふう・・・ふう・・・・・」

「ブレンか?」

眼差しに力の無い男が、力を振り絞って小さく頷いた。そこでヘルはルアと目を合わせる。困り顔をテレパシーに乗せて。

「(治す?)」

仕方なく、ルアとヘルは治癒玉を作った。みるみる起き上がっていく男達。半グレ集団でも、治してくれた事に感謝しているのか、大人しく戸惑っていた。

「独立自警団。ブレンを捕まえに来たところか?」

「あぁそうだ」

「借りを作りたくねえから教えてやるよ。あいつら、サザーリニに行った。ザ・マッドアイを潰す為に」

「何故だ」

「ブレンは元々、ザ・マッドアイを恨んでたからな。だからブラックになったが、ただのブラックじゃマフィアになんか勝てない」

「ただのブラック?」

「あぁ。最初はな?けどどこからあんな力を手に入れたのか。力を証明しに来たっつって、やられた」

「(ディンクルス・イコアは?)」

「ああ、居たけど、戦わなかった。全員ブレンにやられた」

首都内なので、車ならチィケイズからサザーリニまでは2時間もかからない。しかもウパーディセーサで空を飛んでるならもっと速い。だからルア達はパッと向かった。

「(あ、何か戦ってるよ)」

“緊急事態”なのか、ザ・マッドアイの拠点には受付という名の見張りは居なかった。だから勝手に入っていくと、すぐに血生臭い空気が流れてきた。魔虫たちの亡骸を通り過ぎていくと、そこにはディンクルス・イコアが居て、ギールとラルガを相手にしているブレンを眺めていた。しかしそこにヴァンガードが突撃していくと、ディンクルスは魔法で出現させた“何の変哲もない剣”で魔虫を一刀両断した。

「(ディンクルス・イコア!)」

「・・・ん、お主らは」

「(ボク達はね、独立自警団アルテミスっていう組織で、悪い人達を捕まえたり、倒したりしてるよ)」

「悪い者、それは──」

剣を振り払い、体をゆっくりとヘル達の方に向かせたディンクルス。

「私達の事か?」

すごい殺気だった。そうルアはプリマベーラを手に取った。誰もが知ってる歴史上の偉人ディンクルス・イコア。異名は“軍神”。類を見ない最高の指揮官として、500年経った今でも教科書に乗る人物。しかしその時代、この世界では魔法など存在していない。だから剣を作り出したその様子に、ルアは内心で首を傾げた。その男は本当にディンクルス・イコアなのかと。

「何故生きている」

ヘリオスが尋ねる。

「蘇ったのだ」

「どうやって」

「蘇った時、見知らぬ男が目の前に立っていた。答えはその男に聞くがいい」

「くそ!」

ハッとしたヘル。ザ・マッドアイのマフィア達だけが使っている改良型ウパーディセーサ。ギールはその1つ、ロードナイト。それは正にザ・デッドアイのウパーディセーサ・ブラックや、ロードスターのギガスに対抗する為に作られたから、単なるブラックではロードナイトには敵わない。でもギールは倒れ込んだ。ブレンから放たれた金青の砲撃によって。更には1本の金青の光剣はラルガの体に大きく傷を付けた。

「何なんだ、こいつ!」

「(あの力、ギガスでもなさそうじゃない?)」

「お主らは、何故戦う」

「え」

殺気を纏うディンクルスは言葉を放った。だからルアは目を泳がし、傷付けられていくラルガを眺める。

「私は!世界を斬り拓く!──」

「(・・・うわ、教科書のセリフ)」

「この私の剣は、世界を創る為にある。お主のその志は、何を創る!」

生唾を飲んだルア。そのセリフは、ディンクルスが大きな戦の前、軍勢を鼓舞する為のもの。そして時には敵の“闘志を試す”時にも使われる。しかしルアは、言葉を返せなかった。ザ・マッドアイはマフィア。マフィアを襲撃しているんだから、ディンクルスは正義で動いてるのかも知れない。そんなルアを、ディンクルスは冷たい眼差しで観察していた。

「(ディンクルスはどうしてザ・マッドアイを襲撃してるの?)」

「奇妙な、犬だな。ここに来たのは、ブレンの意志を見届ける為だ。私の部下の邪魔をするならば、私が振り払う」

「部下だと」

「人を拾うのは私の矜持なのでな」

「お前の目的は何だ。ここにはもうお前の軍も国も無い」

「あぁそうだ。しかし聞けば、数々の国が内外で戦を繰り返しているそうだ。ならば私は再び剣を取り、再び軍勢の指揮を取る」

「(もしかして、世の中の悪者をみんなやっつけるの?)」

「・・・悪者。戦に、善も悪も無かろう。私が剣を取るのはただ1つ、戦に勝つ為だ。私は、今一度、世を戦で動かす」

「戦を起こしたいだけだと言っているのか?」

ディンクルスは剣を見下ろした。直後に自信に満ち溢れた微笑みを浮かべて。

「戦は起こるものだ。戦の勝者とは、戦の軸を掴んだ者だ」

「やはりお前は、戦しか知らない、ただの時代遅れだ」

「何だと」

ヘリオスは変身した。ヘリオスとレイカは、“アレンジ”した独自のウパーディセーサ。皮膚のテカり、赤い差し色、全身を這う光の筋、そして2本しかない尾状器官。すると直後に光の筋は強さを増し、光の筋で区切られた胸元や肩、脚の皮膚が“光の筋に消えていった”。新しく見えた皮膚はメタリックレッドに染まっていて、同時に2本の尾状器官が沢山の細胞を取り込んだように巨大化した。

「(あ、第二形態?)」

「あぁ」

しかしディンクルスは微笑んで頷いた。まるで“決闘の誘い”を受け入れられて嬉しそうに。そしてヘリオスは尾状器官を輝く光で包み込んだ。それは尾状器官が燃えてるようで、光輝いてるような感じだった。

「悪は成敗する。それが俺の志だ!」

飛び出していくヘリオス。たった1回の踏み込みで数メートル跳び、そのまま光輝く尾状器官で殴りかかった。ディンクルスはそれを、剣で受け止めた。振り払われた剣。その風圧と気迫で地面が切り裂かれたが、拳を弾かれたヘリオスは負けじとすぐにまた殴りかかる。しかしディンクルスも史実にあるように実力者らしく剣捌きを見せつけ、高速移動するヘリオスとも互角に戦っていく。そんな間にもブレンは金青の光剣から一閃を放ち、ラルガを圧倒した。

「(ラルガ!)」

血塗れで動かなくなったラルガ。更にザ・マッドアイのマフィア達、ブルータスたちが集まってきてブレンに襲いかかるが、ブレンは簡単にマフィア達を薙ぎ倒していく。

「どうすんのよ」

レイカの言葉にルアは焦りを募らせる。マフィアを助けても世間的には誉められる事じゃない。でもラルガは味方だし、もっと言えばザ・マッドアイはニルヴァーナのもの。

「とりあえず、ブレンを捕まえる」

そう言ってルアは翼を解放してリッショウをした。その気迫と存在感を、ディンクルスは横目で見つめる。飛び上がったルア。

火光矢(スヴェンジャストレ)!」

放たれた燃える光矢。同時に、紺碧の光が空に向かって衝き上がった。火光矢は容易く消し去られ、ルアは真っ直ぐ見下ろした。剣をゆっくり下ろしたディンクルスの眼差しを。

「(何今の。だったらボクだって)」

翼の解放と、リッショウをしたヘル。するとディンクルスは一瞬だけ半分後ろを見た。

「(双光火弾(パラプルスヴェンジャ)!)」

2発の重厚な燃える光弾が放たれて、同時に紺碧の一閃がそれを切り裂いた。火と光の強力な爆風でさえ、魔力の圧によって靡いていく。しかしその驚異に納得する間もなくまた紺碧の一閃は放たれ、ヘルを襲った。

「(ぐあっ)」

「きゃあ!」

「レイカ!」

ヘルはとっさにレイカを庇っていた。でも2匹は吹き飛んでいった。そして、ルアは見下ろした。ディンクルスの剣がヘリオスの腹を貫いたのを。

「余所見」

──ヘリオス!

そうルアはディンクルスに光矢を放つ。しかしディンクルスは素早くヘリオスから剣を抜き、光矢をかわしていく。

「・・・つう、油断したか」

「ヘル!レイカ!」

治癒玉をヘリオスに飛ばしながらルアが降り立てば、ヘルとレイカは血を流して倒れていた。リッショウしてても斬られた。すぐにもう1発治癒玉を放つと、ルアはディンクルスに振り返った。強すぎる。一体、どうしてこんな力を。一体、蘇らせた男というのは、何をしたのか。

「傷を治す術か。戦に役立つな」

治癒玉はヘリオスを治すと、ギール達の方へ飛んでいった。ヘリオスを思い切り蹴り飛ばすと、ディンクルスは真っ直ぐルアを睨みつけた。

「お主の矢は!何を創る!」

「私は──」

ルアがふと思い出したのは、ユピテルの顔だった。巻き込むつもりなら徹底的に守る。そう実父は私にヘルを寄越してプリマベーラをくれた。最初は巻き込まれて戦ってただけだけど。

「傷付いた人に寄り添う。それが、独立自警団アルテミス!」

「・・・・・エリーヴァ」

「え。あ・・・」

かつてディンクルスには最愛の者が居た。従軍看護士で、ディンクルスと婚約した10日後、医療従事者を狙った工作員によって殺された。看護士ながらまるで現場監督のようにカリスマ性があったエリーヴァもまた教科書に乗るほどに有名で、その生き様は“最期まで傷付いた者に寄り添う者”として語り継がれる。

「だが、お主に、人を惹き付ける力はない」

「ルアは団長だぞ」

ヘリオスの反論に、ディンクルスは笑った。

「長であるなら、この戦の軸を掴んでみろ」

「私がヘルとディンクルスを捕まえるから、ヘリオスはレイカとブレンを」

「分かった」

(ツェピー)

右手にプリマベーラ、左手に光の鎖を持ったルア。走り出したディンクルス。それだけでも殺気に押されそうな俊敏さだが、ルアは鎖を振った。目的は体の拘束。しかし鎖は剣で弾かれ、ディンクルスはルアに斬りかかった。走り出しながらハッとするヘル。でも剣はルアのクウカクを纏った翼に阻まれ、その瞬間にルアの光矢がディンクルスの腹を突いた。光矢が弾けて消えるその衝撃でディンクルスが後ずさった瞬間、再びルアは鎖を振り、剣を捕らえた。それからルアは目を留めた、ディンクルスの微笑みを。直後に横からヘルがやって来て、重厚な光弾を放ったがそれは紺碧の一閃に切り裂かれた。一瞬の内にディンクルスは剣をもう1本作り出していたのだ。しかもヘルが逃げていくと同時にディンクルスは鎖に絡まった剣を放して後退した。カランと落ちる剣。そう思いきや剣は消え、一瞬の内にディンクルスの手の中に再び作られた。

「(二刀流だったっけ、そういえば。指揮官のイメージしかなかった)」

「500年余り過ぎし世でも、私は戦える。お主らが覚えている限り。私は必ず、再び世を動かす」

2本の剣から紺碧が迸る。すると直後にディンクルスの全身からも紺碧の電気が迸り、辺り一面に牙を立てていく。

「(近付けない。でも・・・双火光弾(パラプルスヴェンジャ)!)」

ディンクルスに届く前から2発の重厚な燃える光弾は歪んで爆発していく。

「ディスペリオン!」

紺碧の電気は衝撃波と共に放たれた。一瞬だった。光壁をしていたものの、ルアとヘルはその衝撃に動けなかった。瞬く間に崩れていく自動車工場。そして遠くから眺めていたやじ馬、マスコミもその衝撃波の残り風に身を屈ませる。

「(何この攻撃、一瞬で周りがめちゃくちゃじゃん。カルベスくらい強いんだけど)」

「その程度で長か。ぬるいな」

ルアはふと目を向けた。もうマフィア達は全滅状態。ブルータスたちもほとんどやられてしまった。そんな中でブレンはピンピンしていて、ヘリオスとレイカに圧倒的な力の差を見せていた。その時だった、ディンクルスにブルータス・ジャガーノートが近付いたのは。

「その絶望、力に変えたいか?」

「グラアガガガ」

「妙な者だ。だがそれを拾うのも一興か」

「ガガガ、ガガ」

「ならば望め。さすれば力を与える」

「(え、ディンクルス、言葉分かるの?)」

「私には欲望が聞こえる。それだけだ」

ブルータスの中で唯一存在する、1番頑丈で、重戦車のようなジャガーノート。すると直後、ジャガーノートは雄叫びを上げた。ジャガーノートにとっては襲撃を受けた被害者であり、本来ならディンクルスを恨むのが普通。でもジャガーノートはどうやら、何かを思ったらしい。ヘルはそう、銀青の光を纏ったジャガーノートを見つめた。

「(どういう事?ブルータスなのに、魔法なんて)」

「おい、ディンクルス、何だよそりゃ」

すでにヘリオス達は満身創痍だった。そこでブレンが声をかけると、ディンクルスは剣を消した。

「拾い物だ」

「いや、ブルータスだぞ。仲間になんかなれるかよ」

「戦を動かすのは仲間ではない。私はよく、壊滅させた敵軍からも人を拾ったものだ。ここには、この者の力を上手く扱える者が居なかった、それだけだ。どうやら目的は果たしたようだな。ならば去る」

「・・・まあ、作られたもんに罪はねえ、か」

そしてザ・マッドアイは壊滅した。その後ディンクルス、ブレン、ジャガーノートがどこに行ったかは未だに分からない。ただ世間のニュースはあのディンクルス・イコアが蘇ったという話題で持ちきりだ。

ニルヴァーナにて。辛うじて生き残ったラルガはユピテルを訪ねた。

「──そうか。生き残ったのは君だけか。伝えに来てくれてありがとう。警察や政府が調査する前に、こことの繋がりは出来る限りヘリオス君に消して貰ったから大丈夫だとは思うけど。困ったね。ウパーディセーサが全く・・・いやそういうのを凌駕した特異な存在だということか」

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