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逆襲のアルテミス  作者: 加藤貴敏
第3章「ロードスターの進撃」

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「轍を踏み締める」後編

シエネイラの子供達は踊っていた。それは慰霊祭の際に行われる、盆踊りというもの。音楽は地元の歌手による歌。日が暮れているので照明には提灯がぶら下がるが、屋台も無ければやぐらも無い。それは突発的な“災害”を見舞う為の簡素なもの。

「カルベスの欠片はこれだけか」

「恐らくは相当広範囲に散らばったかと」

「ただの石ではあるが、放っておく訳にもいかない。なるべく集めて、封印しなければ」

「しかし、これほど小さいものですと、霊気検索をしても見逃してしまいそうです」

「地道にやるしかあるまい」

部下が頷けば、ファウンデイルは歩き出した。何がどうだったかも分からない、瓦礫しかないエリア。そこで歌が流れ、人々は踊る。ファウンデイルは草鉄本部に戻った。日が暮れて、どっと疲労が押し寄せたから。マガツエルフ達によって失われた命は蘇った。ただ魔法ではコンクリートは作れない。街そのものの再建にこれからどれほど時間がかかるのか。そう考えたら、その気の遠くなるような絶望感は老体に響く。

「族長、どうぞ休んで下さい」

「あぁ」

力の代償。カルベスの“暴走”をその一言で済ましてしまっていいものだろうか。どんな国にも戦争はある。それは双方の力に大差が無いからこそ続くもの。血剣族戦争にも続けざるを得ない“弱さ”があった。でも何が間違ったのか、カルベスという人間は、均衡と弱さから弾き出されてしまった。異世界から、方々から、本来は混じり合わないはずの力が集約されてしまった。どんな人間でも、強い力を持てば、それを最大限に利用するだろう。老体にはこれくらいの納得しか出来ない。誰も、お前の心の奥底など知る由も無い。お前のような若者を抹殺したところで、お前の言う“憎しみへの責任”は果たせるのか。──つまらんのう、カルベス。

クージ、グトウ砂漠。倒壊しかけた建物は建て直しの為に解体されていく。ライザー部隊によってミシミシと倒れされていく家屋。それを眺めるバルサリクとグラバード。

「それで、シューガーは血剣族を受け入れるのか」

「善意という体制を取ってますからね。表立って排除はしづらいんでしょう。骨を抜くのも戦術ですよ」

「ま、関係無いか」

「やっぱり、ロードスターには移住出来ませんか」

「月の羽一族だからな。向こうの世界でもなく、ロードスターでもなく、ここが気に入ってる。だが、ロードスターへの恩は忘れないから、心配すんな」

「はい」

バルサリクがグラバードの肩をポンとする傍ら、子供達は砂漠を駆け回り、大人達は崩れた家から私物を回収し、ディアズーとアルティアはガグナとイエンを連れて管理下オアシスを歩いていた。

「僕、アルティアやバルサリクさん達と暮らすよ」

「そうか、あっちの世界よりかは安全だろうからな」

「ほらあれ、ここの名物なんだ」

4人が食べるのは、スナックみたいにカリッカリに仕上がった鶏皮の串揚げ。そこにまぶすパウダーで1番人気なのはシナモンソルト。一口食べればイエンもガグナも微笑み、ディアズーもアルティアと微笑む。

禁界の合同キャンプ場。マスカットは頷いた。その眼差しの先に居たのはグズィール。やがて白と黒の光の線が2人を繋ぐと、マスカットは一気にプロレスラーのようにムキムキになり、背中から2本の尾状器官を生やした。

「お前ら2人ともリッショウ2段階目だよな?俺が相手になってやるからよ」

「うん」

それからヒーターはアルファと合体し、クロムはシャーク、そしてロックエルはメアと合体した。必要な分のドゥシピス・ゼプレを作り終えたドルタスは満足げに微笑む中、アルツがヒーター達を舐め回すように眺めていく。

「ホープの分は?」

子供が聞くようにアルツがそう聞けば、ドルタスは「え?」という顔でホープと顔を合わせる。するとホープは困ったように笑う。

「わ、私は、大丈夫だよ?でも、濃縮魂子の手袋は欲しい、かな」

「そっか」

「オージャソウル!」

アーサーが青炎の鎧を纏うと、運動したいだけのアーサーはマスカットを負かしては笑い声を上げていく。師範のようで、じゃれているようなアーサーの戦いにヒーター達も参戦していく一方、ルアは地面に小さな氷を突き刺した。

(レード)の練習?」

ペルーニが聞けば、地面にグッサリと刺さった尖った氷を見下ろしながらルアは笑顔で頷く。

「実は精霊にはタイプがあってね、それぞれ得意な魔法があるの。私は植物系の精霊だから、風とか土を使った魔法の方が自然と魂子がよく集まるの」

「へえ、そういうのあるんだ。それって得意なのがあるだけで、出来ないのがあるって事じゃないんでしょ?」

「うん。基本的には全部出来るよ」

ルアは無意識に上を見た。

「じゃあシュナカラクって?」

「んー。動物系で飛べるから、風なのかなぁ」

「私は炎だ」

「あ、そうなんだ。だから毛並みが炎色なの?」

「あぁ」

「(ねえ、あれすごいよ?)」

そんな時にヘルがそう言って指を差した。その先にはアーサー達が居るのだが、マスカットは青い氷の鎧を、ヒーターは青い電気の鎧を、クロムは青い光の鎧を、そしてロックエルは青い岩の鎧を纏っていた。

「(ボク達も作ろうよ、魔法の鎧)」

「え?翼の鎧あるし」

「(えーん、そんなんじゃ戦力外になっちゃうよー)」

走り出していったヘル。そもそもアーサーがオージャソウルを作ったのは、翼の鎧を真似たかったから。でもふとルアはあれ?って思った。翼の鎧を纏いながらテリッテ達はアーサー達と合体して、その上にまた魔法の鎧を纏ったら、確かにこのままだと、団長として目立たなくなってしまう。

「ルアは合体しないのか?デュープリケーターと」

シュナカラクの問いに、ルアは目を向ける。余っているのはホープとアルツとナイト。でもナイトは戦わないから。実質どっちかだと。

「どうかなぁ。今後カルベスみたいな強い人が出るとは限らないし」

「そうだが。本当は焦ってるんじゃないか?」

ルアは思わず困ったように笑ってしまった。何故なら返す言葉が無いくらい図星だったから。それに、じゃれるように戦うみんなが楽しそうだった。

「作ってみようかな」

ボソッと何となく口にしただけだったが、すぐにペルーニが笑顔で応援してくれて、シュナカラクも嬉しそうにしたので、ルアは意を決した。

「ヘル」

アーサー達の観客になっていたヘルは振り返る。

「ヘルはどの魔法で鎧作るの?」

「(ボクはね、“聖なる炎”がいい)」

「ああ、この前やってたアニメのね」

翌朝、アルティアはグトウ砂漠の管理下オアシスに居た。まだ集落の復元には時間がかかる。だからこっちに新聞を買いに来た。もう隠れて暮らす必要は無いという実感はまだ無いが、今までには感じた事のない、何となくの安心感をこの砂地に感じていた。

「古風だな」

ベンチに座るディアズーと、その隣で新聞を読むアルティアに声をかけたのは管理下担当の飛燕の男。といっても平民を装っているので、見た目は仕込みをするただの屋台のおじさん。

「砂漠に住む反動かな」

「これからは沢山遊びに行けるじゃないか」

「うん。でも、別に世界に月の羽を発表する訳じゃないんでしょ?これからも砂漠でひっそり生きていくのは変わらないんじゃない?」

「そうだな。今まで通り、砂漠の自警団だ」

「うわ」

とある見出しにアルティアは思わず声を上げた。「ギガスアーマーの全世界配備方針は凍結」。記事を読んでみれば、代わりにライザー部隊を各国にレンタル方式で配備するという方針に変えるそう。

「ライザーって?・・・無人ギガスなんだ、ふーん」

「あ、居た。お姉ちゃん」

そこにやって来たのはニーメルだった。転移の魔法にもすっかり慣れた様子だが、アルティアはそれよりもはしゃいだ笑顔を見る。

「クージの街に遊びに行っていいって!行こ!」

シエネイラにて。当然のようにライザー部隊が半壊の建物を解体したり、瓦礫の清掃を休まず行っている中、ジェクスとイシュレは歩いていた。

「ここら辺か?」

「んー。こっちかも」

「あれじゃないか?」

「そう?」

「あぁ、あれだ、オレ達の拠点。もうほぼ原型は無いな」

「本、燃えちゃったかな」

「本くらいまた買えばいい」

「うん」

ふとイシュレは瞳を一瞬だけ虹色にフワッとさせた。それからイシュレが歩き出してからだった、ジェクスが振り返ったのは。

「おい」

いつの間にか、イシュレは汚れた子供に近付いていっていた。

「何してるの?」

「家が分からなくて」

「仕方ねえよ。みんなそうだ」

そう言ったジェクスに目を向けた男の子は瓦礫に座って放心していた。きっと同じように自分の住んでた場所を探していたのだろう。しかし建物が残っている方が幸運というくらい街はめちゃくちゃで、ジェクスが周りを見渡せばそこらじゅうで生き残った人達、或いは蘇った人達が自分の住んでた場所を探しては絶望していた。それからジェクスとイシュレ、エストーン、レヴァクは合流した。そこは崩壊したエリアのすぐ目の前の広場で、炊き出しが行われている場所。

「見つけたぞ。けどまぁ想像通りだ」

「そうか」

そう応えながらレヴァクが豚汁を啜る。戦いが終わった後、すぐに適当な空き家に住み着いた自分達はいいが、人間達はそうはいかない。血剣族とエルフとの争いも静まっていく方向性になり、一応街を守る為に戦ったので、やっぱり気にはなってしまう。

あれから1週間が過ぎた。ロードスターの国政関係のニュースも落ち着いてきたそんな頃、ルアは自宅でふと目に留めた。それは何だか胸騒ぎのするようなニュースだった。

「クージ軍を代表する兵器技術であるレーヴァテインのデータが、一部流出していた事が分かりました。クージ政府は、これは些細な手違いであり、重要なデータではない為、この事によるテロの過激化などの影響はないとの見解を示しています──」

不穏な雰囲気がするのは、戦いに敏感になってるだけなのだろうか。そうルアはのんびりとタブレットをいじっているヘルを見る。

「ザ・デッドアイ、並びにザ・マッドアイによるウパーディセーサ技術の全世界無償提供が開始されてから、すでに全ての先進国でウパーディセーサ技術が軍隊にて使用されている事が確認されている中、発展途上国である中東のエッゼンネシアの軍隊で新たなウパーディセーサベースの兵器技術が誕生しました──」

「(何かさぁ、どこで何が起きても不思議じゃないよねー)」

ルアの不安を無意識に感じ取り、普通に話してくる。そんなヘルのいつもの事にルアも「ねー」と相槌。

「世界中の技術革新が進む中、サクリア軍もウパーディセーサの技術、性能を更に向上させる方向性を示しており、一部の専門家の間では、これは一種の世界戦争の火種になるのではという声が上がっています」

そんな時だった、ルアのスマホが鳴ったのは。

「ノイル」

「出動だ」

やって来たのはサクリアの西側の隣国サンジャラとの国境近くの森。首都とはほど遠いが、転移で行けるルア達に“自警団への依頼”が軍から発令された。1000メートル級の山脈があるそこでは、すでに軍隊がパッと来たルア達を待っていた。

「さすがに速いな、魔法使いは。オレはゲインスト。この隊の指揮官だ。目的は聞いてるよな?」

「テロ組織の制圧ですよね?」

「内偵で分かってるのはテロリストは全員ウパーディセーサ・ブラックベースの未確認兵器を所有しているという事だ」

「(見た事ないの?)」

「交戦記録は無い。内偵段階ではウパーディセーサ・ブラックのはずだったが、レビスニクの反社会的組織との接点があって、そっちの技術を混ぜてる可能性が高い」

「(レビスニクって中東の?)」

「あぁ、全体的に発展途上の中東は各国で兵器開発が盛んだ。故に反社会的組織も暗躍しやすい。今まで中東のテロ組織が極東のこっちまで来る事はなかったが、どうも動きが活発になってきた」

「(もしかして、それがサクリア軍のウパーディセーサ部隊を強くする理由?)」

「口外はするなよ?あくまで“世界中で兵器開発が盛ん”だからだ」

「(まだウパーディセーサ部隊が強く出来てないからボク達が呼ばれたって事?)」

「もう最終調整段階だから、本当はここのテロ組織も強化したウパーディセーサ部隊で制圧しても良かったんだがな。ほら、この山の裏手にアジトがある。30分で包囲するから、そしたら突撃してくれ」

「分かりました」

ウパーディセーサ部隊が飛んでいってそれから、ルア達はテロ組織のアジトにやって来た。念の為、ルアは左手の濃縮魂子安定装置にリッショウボールを嵌め、ヘルは名札にぶら下がったペンダント型の濃縮魂子安定装置にリッショウボールを嵌める。山奥にポツンと建つコンクリートで作られた建物。市民体育館くらいの規模の見るからに研究施設っぽい見た目で、ゲインストはテロ組織が作ったんだろうと言っていた。

「翼解放」

ルアとヘルとペルーニがアジトに突撃すると、一斉にテロリスト達がギョロッと顔を向けてきた。

「チッ自警団!?何でだよ!」

驚き、戸惑い、敵意の沸騰。台本みたいなリアクションを見せれば、入口付近のテロリスト達数人は変身していく。

「(うわ、何あれ)」

ウパーディセーサ・ブラックベースとは聞いていたが、見た目は“竜人”だった。翼があり、尻尾もある、黒い鱗の3メートル級モンスター。

「(カッコイイ)」

「こら」

「(デザイン力の問題だね)」

「サクリア軍からの依頼で、ここを制圧します!」

「チッ行け!」

まるで問答無用で重火器を撃ち放つように、テロリスト達は口から衝撃波を吐き出していく。しかもそれはウパーディセーサのものとは速度が違い、明らかに凶悪化していた。集中放火を受けるルア達。そこに見えない壁がある事をテロリスト達が理解したのは、ルアの光矢が1人を仕留めた後だった。するとすぐ、1人が大きく息を吸い込んだ。膨らむ胸。同時に胸は熔解炉のように赤く光を内包する。そして吐き出された衝撃波は何倍にも威力が増して、アジトの分厚い鉄の扉を勢いよく吹き飛ばした。それから数分後、サクリア軍は光の鎖でグルグル巻きにされているテロリスト達全員を確認した。

「・・・自警団、大丈夫・・・なのか?すごい衝撃波だったが」

「はい、全く問題ありませんでした」

「しかしどうするか。このままって訳にもな」

ニルヴァーナにて。ロータリーにサクリア軍仕様のトラックが数台やって来た。同時にノイルがやって来て、ヘルは手を振った。

「生態制御薬は」

「(明日には出来るって)」

「そうか。じゃ、とりあえずぶち込んどくか」

ノイルはそう言っただけ。実際にトラックにモンスター達を転移させたのはヘル。それは人間に戻せばそのまま連行する為のトラック。

「ご苦労だったな。けどこいつらは単なる客だったみたいだ。恐らく黒幕はレビスニクの反社会的組織で、大方ウパーディセーサ・ブラックの技術と引き換えに金を渡してたんだろう」

「(じゃあレビスニクは今頃、竜人達の巣窟?)」

「かもな。かなりヤバイ事になりそうだ」

自宅に戻ったルア達は庭で寛いでいた。もうこの世界はすっかり魔獣の世界なんだなと、ふと空を見上げていた。そんな時だった、タブレットを見ていたヘルが呼んできたのは。

「ヒンガンレテオがワシをベースにしてドラゴン作ったって。あとはエーテティスアが最強のウパーディセーサを作ったってさ。すごくモジャモジャなの。それからねぇ──」

読んで頂きありがとうございました。


──カルベスの死は轍に過ぎない。いづれ誰かがその道を歩む事になる。


第3章終了です。

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