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逆襲のアルテミス  作者: 加藤貴敏
第3章「ロードスターの進撃」

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「轍を踏み締める」前編

レヴァクとイシュレの光の鎖が巻きついたところで、同時にルアの光矢がカルベスの背中に刺さった。少し背中を反って、その衝撃を伺わせた直後、カルベスは叫んだ。

「・・・何をした・・・体が・・・重く」

ヘルは首を傾げる。濃縮浄化の魔法がかかったのにカルベスの意識も、テムネルの体も消えない。どう効いたかは分からないまま、カルベスは光の鎖と光矢を弾け飛ばした。そしてギョロっとルアとヘルを見る。八つ当たりかのように振り払われた拳。案の定、紫黒の衝撃波が放たれてヘルは飛び退いていくが、ルアとヘルの融合光壁は砕けてヘルは勢いよく回転しながら吹き飛んで、ルアも思わずヘルから手を放してしまう。

「(ヤバ、スーパーリッショウ解けちゃってる)」

吹き飛んでいったルアがビルの壁に激突したのを、カルベスは視ていた。直後にテリッテが突撃してきて、剣を振り下ろしたがすかさず受け止め、逆に紫黒の衝撃波で弾き飛ばすと、それから紫黒の矢を放った。

「(ルアああ!!)」

「えっ」

自分の腹に紫黒の矢が刺さってから、ルアはその速さを理解した。地上10メートル、ルアはビルの壁ごと、紫黒の矢に貫かれていた。紫黒の矢の長さは5メートルはある、それは最早瓦礫の一部のよう。引き抜くという考え方など捨てざるを得ないほどの、長い線。それでもヘルは魔法の手でそれを掴んだ。

「ルア!」

「ペルーニ・・・」

「(どうしよう)」

「大丈夫、落ち着いて。これはただのテムネルだから。浄化すればいい」

その瞬間、紫黒の線は更に細い線を生み出し、クモの巣を張るようにルアの体を覆い始めた。

「(何だこれ。ルア?ルア!気絶しちゃった)」

「もしかしたらこれ、浄化の魔法?」

「(え)」

「それだけじゃない、拘束の魔法も混ざってる」

「(浄化って、人間にやったらどうなるの?)」

「分かんないけど、拘束と浄化で、きっと、魔法を解かないと永遠に目覚めないと思う」

「(でもボク達だって浄化を使えば、これ解けるよね?)」

「多分。でも・・・」

ふとペルーニは見上げた。テリッテと激突し合うカルベスを。

「カルベスのテムネル、浄化で消えなかったし」



第63話「轍を踏み締める」



テリッテは尾状器官の手でカルベスの拳を弾いた。すかさず剣で斬りかかり、それが受け止められたと同時にも蒼白い光矢を至近距離で撃ち放つ。吹き飛ぶカルベス。でも空中で急ブレーキがかかれば光矢はやがて霧散し、カルベスの体に残った窪みと亀裂は瞬時に消えた。

「(効いたぞ)」

「うん。でも強くなってる」

「エルフのお陰だ」

「(あ?)」

「掴み所の無い雲のような体は、塊となった。つまり肉体が出来たのだ。思考もはっきりし、テムネルのコントロール性能も上がった」

「(肉体・・・じゃあ殺せるんだな)」

「フッその程度の力では出来まい」

その直後だった、カルベスが首だけ振り返ったのは。気が付けば背中には光の鎖が刺さっていて、そのまた直後から立て続けに肩や脚、脇下など、6本の光の鎖が刺さった。勿論、その光の鎖の先を握っているのはジェクス達。

「ぐあ!何なんだ!・・・」

しかしカルベスは踏ん張った。まるで警察がワイヤースタンガンで暴徒を制圧しているような構図。反った背中を戻し、踏ん張るカルベスは震えていた。

「行け!」

「(うおおおおお!)」

ジェクスの声に突き動かされ、テリッテは短い方の尾状器官を吹かし、剣を突き出した。ガツンッと、岩にピッケルが刺さるように剣はカルベスの体に突き刺さる。

「ク、ククク・・・」

「(何だと?)」

「無駄だ。物理的に刺したところで、ぐ、つ、痛覚は、無い」

「だが押さえつけるにはそれでいい──」

そうジェクスは強気に微笑む。まるで勝利を確信したかのように。

「痛覚は無くとも、思考は麻痺しているはずだ。雲のような体を固めたら、次は意識を引き剥がす」

「ひ、引き・・・剥が、が・・・だと」

「テムネルは消せない。だがお前の意識を、根っこごと引き抜く」

「そん、なこと、で・・・きる、わけ」

次第にカルベスのアイガードがチカチカし始めた。体は確かに岩よりも鉄よりも硬い。しかしその体はもう自由に動かせないのだと、テリッテとアーサーは剣を握り締めた。

「イシュレのプランは完璧だ。体を固めたのはテムネルを逃がさない為。意識を消した後、それはただの霊気を含む石ころとなる。それに、ルアがテムネルの質量そのものを減らしてくれたお陰で、魔法が効く速さも増した」

カルベスは意識が薄れていくのを自覚した。それはまるで夢の中に墜ちていくようだった。ふと思い出したのは子供の頃に抱いていた浮遊感。生まれた時は陽光だった。だが父が起こした犯罪のせいで族を追い出され、それからは父の自殺だ再婚だで族が変わり、終いには母の病死でまた族が変わった。しかし同時に経験が増えた。転族自体は珍しい事じゃないが、子供の内から何度も転族し、学ぶ事が変わっていくのは珍しい。根っこの無い浮遊感はあったが、浮いている分だけ視野は広い。そしてカルベスのアイガードは光を失った。

「力を込めて目一杯粉砕しろ。少しでも霊気の密集を避けたい」

ジェクスに頷いたテリッテ。同時にアーサーは嬉しそうに笑った。テリッテとアーサーは剣に力を込めた。テリッテの全身に浮かぶ青い光の筋は輝き、蒼白い瞳も美しさを増した。

「(うおおおおお!)

 はああああああ!」

カルベスに刺さったエクスカリバー。直視出来ないほどに眩く輝いた直後、カルベス、テリッテ、そしてジェクス達は皆、蒼白い光の爆発に呑まれていった。蒼白い衝撃波が駆け抜けて、絶方を揺らしていく。身を屈めていたヘルは、恐る恐る見上げた。訪れた静寂。カルベスは跡形も無く粉砕されていて、それから血剣族とエルフの野次馬達は一斉に歓喜した。同時にゆっくりとファウンデイルは絶方に足を踏み入れる。

「(やった、んだよな?)」

ジェクスはイシュレに振り返る。辺りを見渡したイシュレはそれから頷いた。笑みを溢すジェクス。

「カルベスの意識は消えたし、テムネルの体も粉砕した。オレ達は勝った」

「(よっしゃあああ!)」

喜んだのはアーサーだけだった。ジェクス達は何よりもまず安堵を共有し、テリッテも緊張の糸が切れて安心したように笑みを溢した。

「(どう?)」

「だめ。やっぱり濃縮魂子作るから、ちょっと待ってて」

ヘルは振り返った。何故なら匂ったから。それはファウンデイルの匂い。

「それは、どうなっておる」

「(魔法で、捕まっちゃったんだ。でももっと強い魔法で解けば。あ!そうだペルーニ!テリッテ呼んできて!その方が早い)」

「うん!」

しかしテリッテがヘル達の下へ降りてきた時だった、テリッテの左手に着けられた大きな濃縮魂子ボールが消えたのは。

「(そんなあ!)」

「(ルア、さっきのにやられたのか。ていうかカルベス死んだのに、何で残ってんだよ)」

「これはテムネルというより魔法の物体だ。意識で操ってる訳じゃないから、作った本人が居なくても物体として残り続ける」

ジェクスが応える中、イシュレは紫黒の線をまじまじと見つめる。

「これは、早くしないと」

「え?」

「奪った意識を食べたら、テムネルに記憶された意識が上書きされる」

「・・・ちょっと分かんねえ。どういう──」

「テムネルの中に残ってるカルベスの意識の魂子が、この女の意識の魂子を餌にして、再び自我を持つんだろ?」

レヴァクがそう言うとイシュレはうんうんと頷く。

「マジか、マズイじゃねえか。イシュレ」

「カルベスの魂子を消せば大丈夫。でも、もうくっついてるから、ルアの意識を抑えておかないと」

「(どうすんの?)」

「あたしが行く。ルアの意識の中に」

ペルーニが真剣な顔でそう言えば、ヘルも頷いた。

ルアは見下ろしていた。まるで夢の中に居るようで、目の前にカルベスが居るようで居ないようで。それは子供だった。寂しそうだった。住宅街の中の小さな公園で独りだった。ルアは声をかけられなかった。そこには壁が無いようであるようで、子供には私が見えてるようで見えてないようで。ルアは振り返った。その公園の奥の奥の方から声がしたようで、してないようで。気が付けば、木に寄りかかって座り込んでいた子供はルアを見上げていた。

「誰だよお前」

「え、私は・・・」

ルアは共有していた。孤独を。

「オレは誰にも、認めて貰えない。・・・オレ、もうすぐ死ぬんだろ?」

「え?」

「力を付ければ、それでいいと思ってた。でも結局、最後は全てがオレを、殺しに来た。なぁ、独立自警団。オレは何の為に戦ってたんだ?」

「首相まで登り詰めたのは、すごいと思う」

「首相?ああ、あそこまでは順調だったな、確かに。でもギガスに手を出した辺りから狂ってった。そうだ、まるで、全部繋がってたみたいだ」

「繋がってた?」

「ダークエルフも、ギガスも、シェルドフも、血剣族も、独立自警団も。星の流れには逆らえないように、運命かのように。オレはただ・・・・・ただ、世界に認めて貰いたかっただけなんだ」

「ルア!」

振り返ればペルーニとヘルが居た。その瞬間から、これは夢のようで夢ではないと理解した。少しだけ意識がはっきりした。

一方、イシュレは瞳を輝かせた。すると張り付いた氷が弾け飛ぶように、ルアの体ごとビルの壁に張り付く漆黒のクモの巣が消えた。

「引っ張って」

イシュレがそう言うと、ガグナとイエンは漆黒の線を引き抜き始めた。

ルアが目を覚ますとそこは空中だった。でも当たり前のように光の壁で足場が作られていて、ペルーニ、ヘルと顔を見合わせたらイエンやガグナと頷き合った。

「ありがとう」

「(ルア、お前が寝てる間にカルベスは死んだぞ)」

「そっか。やっと、終わったね」

「皆、ご苦労だった。これほどまでに死力を尽くしてくれた事、感謝してもしきれん」

けれど街の被害は甚大だった。それを見下ろしてしまうとルアは言葉を失い、子供カルベスを思い出した。それから絶方は消えた。もうすでに単純な歓声など上げる気分じゃないほどその街に住んでいた者達は現実に打ちのめされていたが、それからルア達、デュープリケーター達、テリッテ達、ジェクス達、そしてロードスター軍翼人支援チームはファウンデイルや陽光族長、その他族長の前に集まり、感謝を述べられた。引き続きロードスターの無人ギガス、ライザーによって救助活動が続けられる中、死んだ者達はイエンによって蘇らされていく。

「僕達のドゥシピス・ゼプレ、間に合わなかったけど、まいっか」

「これから使い道あるよ、多分」

マスカット達の傍らでふとテリッテは振り返る。

「テリッテ、まだ俺達はリッショウを高められる。これから特訓だぞ」

「うん」

「イエン、ガグナ」

心身共に大きな疲弊はない。グラバードはそう2人の顔色を伺う。

「ご苦労だった。カルベスを排除した後は、血剣の族の内部戦争の停戦を取りまとめる。さすがにこの有り様の中で日蝕の族に手を出そうって奴は居ないと思うが、万が一暴れるような奴が居たら、ジェクス達と協力して制圧してくれ」

「うん」

「あぁ」

グラバードは族長達の自分を見る目が変わっているのをひしひしと感じた。実際には言わないだろうが、最初はロードスターによる“壁”など快く思ってなかっただろう。しかしもしロードスターが居なければ街の復興は大幅に遅れ、そもそもカルベスを倒すことすら出来なかっただろう。そんな恩と、敵には回せないという恐れが態度から溢れていた。

「スディングさん、並びに各族長の皆さん。こんな状況の中ですが、前に話した計画の通り、我々はカルベスが排除出来た後の内部戦争仲介のフェーズに入ります」

「内部戦争か。カルベスの事とは関係ないとは言え、ロードスターに多大な恩情がある今、無下には出来ない。確かに、相容れない族同士、関わらずに生きていくのに越した事はない。摩擦が起きた時、そこに壁となって貰えるのはむしろ感謝しかない。ただ1つ、我々血剣族とロードスター、このまま政治的友好関係を残す事は出来ないか?」

「・・・それは」

「勿論、日蝕への不可侵は約束する」

「分かりました。その旨を前向きに受け入れられるような方向性も含めて、テッドラン軍の元帥に報告します」

「何から何まで、感謝する」

禁界の合同キャンプ場。ルア達は帰還した。アーサー達もテリッテ達も満足げだったが、ヘルはふとルアの横顔を伺い、頬をスリスリした。

「大丈夫だってば」

「(カルベスと何話してたの?)」

「そんなに話してないけど、孤独だったんだなって」

「みんな、お帰り」

それでもルアは笑顔を溢した。そう言って小さく手を振ったアンシュカを見たら、ようやくリラックスしていいんだと安心したから。

「うん」

アンシュカの声にテントから出てきたドルタス。

「あれ、お帰り。マスカット達、ドゥシピス・ゼプレ1つで良かったの?」

「うん。でも使う時があるかも知れないから、作ってくれたら嬉しいんだけど」

「あぁ。もう1つ出来てるよ?持ってく?」

ちょうどそんな時間だったから、キャンプ場にはお昼ご飯の為のスープがあった。お肉と野菜が盛り沢山の温かいスープに、デザートは焼いたリンゴにチョコレートをかけたチョコアップル。

「それぞれ、誰と組むか決めようよ」

具沢山スープを食べながらヒーターがそう提案すれば、マスカット達はデュープリケーター達と顔を見合わせる。

テッドラン軍本部、サイヴァー元帥の執務室。報告が終わると、サイヴァーは表情をピリつかせた。

「政治的友好関係、そんなものがあったとはな。寄生の間違いじゃないのか」

「自分は利用価値があると思います」

「シューガーの問題だからといって安易な捉え方は危険だ」

「血剣の族には、ロードスターへの恩があります。その上、友好関係まで築くだなんて余程のお人好しでしょう。ですがその善意は、敵意の何倍ものプレッシャーがあります。例え政治的なポストから排除出来なくとも、実質支配したも同然では」

それからグラバードは再びシエネイラに向かった。陽光本部、族長の部屋に書類を届けた。そこにはサインを書く欄がある。スディングは黙って書類を読むと、ゆっくりと顔を上げた。

「随分と親切だな、テッドランは」

「1つ疑問なんですが」

「何だ」

「日蝕への不可侵があるのに、ロードスターに身を置く理由はなんですか?」

「そうだな、それを探す猶予。これはその為のサインではないかな?」

「そうですね」

「安心してくれ。君達を敵に回すつもりはない。この書類をパルデグではなく私に持ってくるその聡明さは十分理解した。これほどまでに良い話を汚すほど愚かにはなりたくない。君達もそうだろ?良い餅には良い醤油を」

「え?」

「こちらの言葉だ。何事も、勿体無い事はするべきじゃない」

善意に懐柔されない唯一の手段は、善意。その聡明さをこちらも理解した。やはり族長たるもの、一筋縄ではいかないようだと、グラバードはサインされた書類を受け取った。陽光本部の外ではイエンが待っていた。

「いつも悪いな」

「うん、別にいいよ」

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