「羅刹、進撃」後編
「絶方の陣!」
カルベスを取り囲むように直径2キロの淡い光の壁が立ち上がった。それはさながら大地から空に伸びるオーロラのよう。カルベスの掌から放たれた紫黒のレーザービームが流れ弾のように絶方の陣を叩く。思わず身を屈める血剣族の者達。しかしそんな不安とは裏腹に絶方の陣は波を打っただけ。やがて絶方の陣はドーム状に収束した。カルベスは紫黒の衝撃波をマガツエルフ達に放ちながら、ふと空を見上げた。
「独立自警団の方」
ルアは振り返った。呼びかけてきたのは淡い光の壁の一部をドアのように開けた男性。
「草鉄族長からの伝令です。今しがた、カルベスを逃がさない為に魔法の壁を施しました。しかし出入りの際は声をかけて頂ければ一部を開きますので、ご心配なく」
「分かりました。あの、住民の人達は」
「すでに避難は済んでますので、心置きなく戦いに専念を」
「はい」
同じように血剣族の女性からそんな話を聞いたホープはシャークに話し、アーサー達へと伝言していく。
「おお、あの壁、そういう事だったのか」
現在“戦場”に落とされているのは4体の骸鬼弐式。その内の1体がアーサーに殴りかかり、アーサーはそれを剣で受け止める。
「だったら全力出していいんだな?・・・・・はあああっ!!」
剣から放たれた青光の一閃は骸鬼弐式を吹き飛ばし、巻き添えを食らった家屋がガラガラと崩れ落ちる。するとそんな時だった、カルベスが全方位衝撃波を放ったのは。それは2キロの範囲内では立ってられないくらいの熱波で、カルベスと直接戦ってたイエンとジェクスとガグナは勿論、アーサー達やテリッテ達も倒れ込んだ。
「(テリッテ!)」
熱波の後は大小の瓦礫が飛んでくる。だからヘルは広範囲に光壁を張った。ドカドカと光壁が叩かれる中、リッショウボールを使っていたテリッテ達はすぐに立ち上がる。
「ふう、みんな大丈夫?」
「大丈夫です」
「すごいやリッショウボール」
ヘルはふと振り返る。それは自分達と戦っている骸鬼弐式。骸鬼弐式でさえこの衝撃波には身を屈めて硬直していた。自分の味方にも攻撃しちゃうなんて、なんて迫力。しかしそう思った矢先、骸鬼弐式は紫光を全身にたぎらせた。──ん?・・・。そして直後、骸鬼弐式は先程よりも格段に速く殴りかかってきた。それを光壁でガツンと受け止めるヘル。
「(急に強くなった)」
すかさずヘルが翼から単発の光弾を返せば骸鬼弐式は吹き飛ぶが、紫光のお陰なのかダメージが少なくすぐに殴りかかってきて、それでもヘルは果敢に攻防を繰り返していく。
「もしかしてさっきの衝撃波、骸鬼にとってはアップデートなのかも」
そうイシュレが口を開く間にも、エストーンが骸鬼弐式のパンチを受け止め、そこにレヴァクが光弾を放っていく。吹き飛んで倒れる骸鬼弐式だがすぐに立ち上がり、レヴァクとエストーンはイシュレに振り返る。
「アップデート?」
「さっきよりも強くなってるでしょ?さっきの衝撃波を浴びたからだよ」
「そうか。オレ達を攻撃しながら骸鬼をパワーアップさせたのか」
「ま、勝てるけどな」
そう言ってエストーンがロケット弾を作り出すと、先手を打つように骸鬼弐式を蹴り上げて真上に吹き飛ばし、素早くロケット弾をぶん投げた。空中での激しい爆発はヘルやルア、アーサー達も振り返るほどで、更に吹き飛んだ骸鬼弐式が絶方の陣の天井にぶつかったところで、エストーンは鼻の下を擦った。
「へへっ決まったよな?」
「うん決まった」
落ちていく骸鬼弐式。大きなダメージを受けたからか背中のテムネルの羽も消えていて、やがて轟音を立てて墜落するが、カルベスから放たれた紫黒のテムネルに覆われると再び立ち上がった。
「おい、また来たぞ」
「おかしいな。テムネルを浄化するロケットにしたのに」
「また入れられたんだよ」
「くー、やっぱりカルベスを叩かないとダメか」
殴りかかってきた骸鬼弐式。受け止めたのはペルーニのクウカクの壁。そこにすかさずルアが光矢七層を撃ち放てば、それは骸鬼弐式の胸元を貫通した。体の所々を痙攣させながらゆっくり墜落したが、それでも骸鬼弐式はゆっくり立ち上がり、ルアをその眼差しに捕捉する。
「光矢」
止めの1発。それは額に突き刺さり、そして骸鬼弐式はゆっくりと機能停止した。
「ふうっ。でも倒せたってすごいね」
「うん」
「ペルーニ、ちょっとお願いしていい?」
「ん?」
それからルアはヘルの下に飛んでいった。テリッテ達が怒涛の連携攻撃を仕掛け、最後にヘルが脇腹の砲身からの双火光柱で止めを刺せば、骸鬼弐式はもうガタガタだった。
「(そっちも倒したんだ)」
「うん、ちょっと作戦」
「(ん?)」
「どうしたの?」
テリッテがルアにそう問いかける。
「さっき、濃縮魂子ボールでカルベスに攻撃したんだけど1発じゃ弱いから、ヘルとの合体技でやろうかなって」
「(まじで?危険じゃない?ボク達が死んじゃうかも)」
「大丈夫、作戦あるから」
ガタガタの骸鬼弐式はテリッテ達に任せて、ヘルはルアを乗せてカルベスに近付いた。しかしそこに新しく作られた骸鬼弐式が立ちはだかり、ルアは応戦していく。
「(このスタイル久し振りだよね)」
「うん」
ルアは7本の光矢を連射する。それはブスブスと骸鬼弐式のボディーに突き刺さり、それだけで機械の体は鈍っていく。
「(何かすごいよね。精霊の力って。ボク達のリッショウだってまだ2段階目なのに)」
ヘルの光刃一爪が頭部に直撃すれば骸鬼弐式はふらふらして、ルアの光矢がまた7本刺されば、まるで意識の消耗が体現されるように光源がチカチカしていく。
「何かこの骸鬼弱かった」
「(B品?)」
「あはは」
「(えっへへへ)」
カルベスは上空に紫黒のテムネルを溜めていく。それが何の為かは分からないが、ガグナは飛んでいった。しかしカルベスにレーザービームで阻まれ、それからジェクスもイエンも必死のカルベスの猛攻に何度も地面を転がった。そして紫黒のテムネルの巨大な球が出来上がると、カルベスはそれを全身に纏わせた。まるで水を被ったように鉄皮を覆うテムネルはやがて硬化して鎧となった。これまでの攻防で少しダメージが溜まっていたカルベス。しかしその直後から背筋を伸ばし、やれやれといったように深呼吸すれば、明らかに態度が変わった。
「いくら精霊の力で強くなろうが、私と貴様らとでは根本が異なるのだ。この魔法と機械の体は生物的な弱さを逸脱した。痛覚も無ければ疲労も無い」
少し息の荒いイエン達。立ち上がれはするが、擦り傷と打撲が蓄積した体では、徐々に勝機が薄れていくのが本能的に分かった。
「イエン!」
そこにやって来たのはルアとヘル。すでにカルベスは拳を振り上げていた。イエンの声に振り返るルアとヘル。直後に拳が叩きつけられると同時に紫黒の衝撃波が放たれた。地震のように地面が揺れて建物は砕けて舞い上がる。その瓦礫、土埃と共に紫黒の衝撃波が駆け抜けていく。
「(イエン、居た)」
自分達は融合光壁で何とか耐えられたから、イエン達が危ない。だからルアはすぐに治癒玉を発射し、それが向かった所で倒れているイエンを発見した。幸い、隠れられる物陰は沢山だと、ヘルはイエンを連れ込む。
「(これ使って)」
ヘルが魔法の手で自分のサイドポーチから取り出した物を、イエンは両手で受け取る。
「これ、濃縮魂子ボール」
「(火のやつ。イエンが使ったら凄まじいと思う。反動には気を付けてね)」
「うん」
「フッ・・・絶方を敷いたかファウンデイル。しかしこの私には、羅刹にはそんなものは──」
目を見開いたのはファウンデイルだった。遠くから監視していれば、急にカルベスは“火山が噴火したような爆炎”に呑まれて倒れ込んだ。しかもその爆風は絶方の端にまで届いて、ファウンデイルを始め、絶方の外はざわついた。
「(・・・ふう、やっぱり危ないや、濃縮魂子。ルア?どこ?)」
「ヘル?」
「(いた。イエン?)」
ふとヘルが目を留めたのは、空に伸びたイエンの脚だった。逆立ちしているように瓦礫に埋もれていて、でもすぐに自分で瓦礫を退かすと、起き上がったイエンは呆然とした。
「(大丈夫?)」
「うん」
「小癪な!一体、何をしたというのだ」
「すごいなそれ、でもまだ大きなダメージはないな」
「(あ、ガグナ?マガツになったの?)」
「あぁ。お陰で精霊の力を借りられるようになってもっと強くなれた。それでもカルベスは手強い。何か手は考えてるのか?」
「うん、一応。血剣の人達が壁を作ってくれてるから、もっと強い攻撃をしようと思って、その為の濃縮魂子を作ってるの」
「そうか」
立ち上がりながら、カルベスは辺り一面に紫黒の衝撃波を放った。それはまるで怒りそのもののよう。
「精霊の力ごときが!」
そう地面を殴れば紫黒の衝撃波は駆け巡る。最早絶方の中は街並みの跡形も無い。それから背筋を伸ばしたカルベスは深呼吸。
「痛みを感じないとか言う割に、すげえ苛立ってるな」
ボソッとジェクスがそう言う間にも、カルベスは“無い髪を掻き上げる”。それは明らかに冷静さを失っている態度だと、ファウンデイルは飛ばした視線を突き刺す。
「鎧も分厚くなったし、さすがにマガツの力だけじゃ足りない。もう濃縮魂子しか手は無さそうだから、オレ達が時間稼ぎしてやる」
「うん」
ガグナとイエン、ジェクスが飛び掛かっていっても、やはり分厚い鎧のせいか、マガツでもただの打撃ではダメージにならない。それでも気を逸らすくらいは出来ていると思った矢先、ジェクスは拳を受けて激しく墜落し、イエンとガグナは紫黒の衝撃波に飛んでいった。すかさず治癒玉を発射しようとしたルアだが、マシンガンのように襲ってくる紫黒の弾に逃げざるを得なくなる。そして気が付けば瓦礫に埋もれていた。とっさに光壁で体を覆っていたから瓦礫は痛くないが、確実にカルベスは強くなってると、ルアはすぐにヘルを捜した。
「うおおおおお!」
「(ん、アーサー)」
青光の弾丸そのものと化したアーサーがカルベスの顔面に激突した。大きくよろめくカルベス。しかし紫黒の衝撃波、レーザービームの怒涛の攻撃に逃げきれず、飛び回っていたアーサーは墜落した。ルアとヘルがアーサーに駆け寄ると、アルファ達もやって来た。
「くそお・・・」
その直後にアーサーのリッショウは萎んでいき、オージャソウルは元に戻った。
「まじか・・・くそ。グズィール、すぐ作ってくれ」
「(あ!)」
ヘル達を襲った紫黒の球。その爆発はきのこ雲を作り、絶方の天井さえ震わせた。閃光、衝撃波、きのこ雲。そしてその爆風はテリッテ達にも襲いかかり、テリッテ達はそのまま瓦礫に埋もれていく。
「・・・みんな!」
最初に立ち上がったのはマスカット。翼の力の気配で居場所は分かるので、瓦礫を退かすと出てきたのはクロム。それから5人が合流したところで、リッショウは元の強さに戻っていった。
「時間切れか」
「また作らなきゃ」
「でも、リッショウボール使ってもさ、骸鬼は倒せても、カルベスは」
そうマスカットが不安を語れば、その恐怖は全員に感染する。目を泳がせるテリッテ。
「ルア達と合流しよう。みんなで集まった方が、手伝える事もあるよ」
歩き出したカルベス。何故なら邪魔者が居ないから。それからテリッテ達が辿り着いたのはまだ倒壊はしていないとある大きな建物。
「ルア!」
テリッテに頷くルア。テリッテは安堵と同時に不安を募らせた。何故なら逃げて隠れているという状況だから。
「さっきの、大丈夫だった?」
「何とか耐えられた」
「ルア」
「ペルーニ!出来た?」
「うん。はい、赤が光火柱で、白が光壁で、紫が浄化」
「もう濃縮魂子しかねえよな。ルア達先に行ってくれ。俺達全員で力注いで、さっきよりも強いリッショウボール作る」
「うん」
「(待って)」
「え?」
「(アーサーのスーパーリッショウ、待った方がいいよ。最初に作った濃縮魂子ボールで足止めは出来るから、一気に叩こう)」
「そうだね、じゃあ時間稼ぐから」
カルベスは拳を突き出した。標的は絶方の壁。その衝撃音だけで絶方の外の人達は身を屈める。それでも壁は破壊されず、外の人達は少し安堵するが、次にカルベスは拳に紫黒のテムネルを溜め込んだ。そして拳が叩き込まれるとその爆発で絶方のドーム全体が振動し、やがて拳との衝突点からパラパラと光の壁が崩れ落ちた。逃げ出す野次馬。ファウンデイルでさえもその眼差しに諦めを宿らせたその時、カルベスの手は絶方の壁の穴から離れた。閃光と衝撃。よろめきながら後ずさっていくカルベス。ファウンデイルは眼差しを突き刺す。そこにいたのは、ルアとヘルだった。
「行くよ」
「(うん)」
光壁を張るヘル。それは限りなく自分達の体に密着させた。同時にルアはプリマベーラのシリンダーに入っている濃縮魂子ボールに意識を向けた。
「光矢!」
シリンダーに充満した濃縮魂子が一瞬にして輝き、光矢となって発射された。凄まじい威力と反動。カルベスは再び衝撃を受けて後ずさり、ルアとヘルは吹き飛んだ。
「(ちょっとは抑えられた?)」
「うん」
紫黒の衝撃波、レーザービームが来てもルアとヘルの融合光壁なら逃げる事もない。それは余裕となり、ルアとヘルは再び融合光弾で反撃し、そしてルアの濃縮光矢で止めを刺した。
「なかなかの力だな、独立自警団」
「(何か効いてない気がするけど)」
「足止めは出来たでしょ」
「(そうだけど)」
アーサー、アルファ、シャーク、グズィール、メア、ホープが全員で一点に魔力を集中させて作っている光の球。そこにテリッテ達も力を注いだ。光の球はより濃く、大きくなり続ける中、ホープが球の中心に意識を向け、魂子を抽出していく。
カルベスが紫黒の球を作り出した時、足元から打ち上げられたロケット弾がカルベスの顎に直撃した。放り投げられた紫黒の球が消えていき、爆風がカルベスの視界を遮っている間にイエンがルア達の元にやって来る。
「イエン、大丈夫?」
「うん。あの、濃縮魂子ボール、くれない?」
「(いいよー。はい火のやつ)」
「ありがとう」
「(あ、リッショウボールも使う?)」
「リッショウって、ルア達が使ってる魔法?」
「(うん)」
「え、出来るのかな」
「(出来るでしょ。簡単だし)」
紫黒の衝撃波がジェクス達を襲っていく。しかしイシュレとレヴァクの融合光壁の中に居れば防げるので、ジェクス達のそんな攻防が続く中、イエンはカルベスを遠く眺めた。それは自分の中に巡る気の火力を上げるイメージ。その火力を上げる力の源を背中に置くイメージ。初めてのリッショウと共にリッショウボールを使ったその瞬間、イエンの存在感、気迫が爆発した。思わず顔を向けるカルベス。“存在感”がイエンの足元の全てを粉々にして、絶方のドーム全体を震わせた。
「(・・・ヤバイ)」
呟くヘル。同時にイシュレはふと振り返りイエンを見つめた。
「何あれ、物質が耐えられてない。次元が崩壊しちゃう」
「おいおい、何したらああなるんだ?」
読んで頂きありがとうございました。
お互いに進化し、激化していく戦い。
ちなみにジェクス、イシュレ、エストーン、レヴァク、イエン、ガグナ、ルアで7人の侍的なイメージでした、最初は。
しかしそこで、新たな力が生まれます。




