「羅刹、進撃」前編
アーサーは動かない骸鬼を見上げた。そしてその足をゴツンと蹴りつける。でもやっぱり反応はないので、アーサーは退屈そうに溜め息。そこにグズィールが歩み寄る。
「ドルタスが作った魔法のお陰だってさ。それが無かったらジェクス達だけじゃ長引いてたって」
「ふーん。まあいい。消えたカルベスが出てきたら真っ先に俺が行くしな」
ふとアーサーは見た。もう骸鬼など見向きもせず、壊れた街での救助活動に専念している翼人達を。しかもホープやシャーク達も手伝いだし、やがて残ったのはアーサーとメアだけ。
「なあ、ナイト元気か?」
「あぁ。相変わらずだ」
2人は揃って骸鬼を見上げる。するとそこにやって来たのは数人の子供達だった。何となく見ていると、子供達は骸鬼に石を投げつけた。やがてアーサーは遠くの山を眺める。
「アーサー、そういえば、黒い無人ギガス部隊はどうしたんだ?」
「ん、あっそういえば見てねえな。もう誰かにやられたんじゃねえかな」
「そうか」
「なあ、あれ、何だ」
「ん?」
「あの、山の上。何か気配が」
「え、よく分からない。少し検索するか。・・・あ、居るな、何か。だがここから見てあの大きさだと、かなり大きいな」
「行ってみようぜ?」
それは何となくの暇潰しだった。尾状器官をまあまあ吹かして飛んでいき、数分後。2人は思わず止まった。その巨人は突如として胸元から紫光を光らせた。その瞬間、紫光の球体が弾丸のように飛び出し、街の一角を襲った。爆発が見えれば間もなくして一瞬の衝撃波が2人にも襲い、2人は思わず身を屈める。科学的な爆発ではない、とてつもない紫光の衝撃波だった。一瞬の衝撃波が過ぎ去れば、その中心からは全てを押し退ける熱波のような紫光が広がり、紫がかったきのこ雲が立ち上った。
「・・・・・な、んなん、だ・・・あれは」
「来るぞ!」
熱波が来たので逃げた2人。しかしアーサーは回り込み、山の上に立つ巨人の方へと飛んでいった。
「アーサー!」
「あいつだろ!カルベスだ!」
「そうなのか?」
笑いながら飛んでいくアーサー。その瞬間にアーサーの体が青く燃え上がる。
「オージャソウル!」
最大限のリッショウとオージャソウルでもって、最早アーサー自身がミサイルかのよう。メアが超加速していくアーサーを眺めていくと、山の上の巨人もその紫に光る眼差しでアーサーを捉えた。
「グラバード隊長!緊急事態です!」
やって来たのはロードスター所属の草鉄の人間。
「只今、ここから北西約20キロの街シセンザにて、大規模な爆撃を受けました!」
「何だって」
「科学的な爆発ではなく、紫の光の爆撃で、恐らくはカルベスかと。しかし爆撃してきたものは、約20メートルの巨人だそうで」
「20メートルの、巨人・・・」
グラバードの話がちょうど聞こえない距離の辺りで、ヘルはふと鼻を利かせた。
「(あれルア、アーサーとメアは?)」
「え、見てないけど」
「独立自警団!ここから北西20キロ地点に新たなカルベス一派のものが現れた!ジェクス達と向かってくれ!救助はロードスターに任せて問題無い」
「はい!」
パッとやって来たルア達とジェクス達。しかし皆は呆然とした。街の一角に出来た小さな“街の穴”。そして、巨人。イシュレは瞳を虹色に光らせた。
「あれは、とてつもない・・・テムネルの塊」
「(えっ)」
1匹で走り出したヘルをルアは追いかけた。その先に居たのは、血だらけで倒れて気絶しているアーサーとメアだった。
第61話「羅刹、進撃」
治癒玉がクルクルして、アーサーとメアは目を覚ました。
「(もう大丈夫だよ?)」
「クソッ・・・カルベス!」
「え」
「あれだ、あのでかい奴、多分カルベスだ」
「(そうなの?何か、特大の骸鬼っぽいけど)」
その瞬間、巨人の胸元の水晶体が紫に光った。
「あれ来るぞ!逃げろ!」
アーサーに振り返るジェクス。ルアとヘルは一瞬で緊迫を共有する。アーサーが、逃げろだなんてと。するとジェクスは手をかざした。それは見えない壁。何も知らないテリッテ達が逃げる間もなく、そして紫光の球はルア達全員が居る方に向けて放たれた。ジェクスの光壁はとてつもない紫光の衝撃波を受け止めると一瞬で亀裂が入った。
「くっ・・・」
すかさず手をかざすイシュレ、エストーン、レヴァク、ゼフォン、そしてイエン。亀裂は埋まったが、マガツエルフ以外の皆は身を屈めた。何故なら自分達の周りは紫光と轟音と飛んでくる瓦礫に囲まれて、動けなかったから。紫光は過ぎ去っても粉塵が霧のように立ち込めていて、テリッテはただキョロキョロしていたがそれから、目を見開いた。やがて粉塵も消えていくと、そこには街の壊滅が広がっていたから。つまりそれは大勢の死傷者がまた出たという事。──さっき助けたばかりなのに!
「凄まじいテムネルだな。どうなってる」
そうガグナが呟く傍ら、ゼフォンはジェクスにアイコンタクトをして前に出る。
「ウリネック!エター!」
2体の精霊を憑依させると飛んでいったゼフォン。ゼフォンが遠ざかるほど巨人の大きさが際立っていき、黄金の拳を光らせるゼフォンなど米粒のよう。それからジェクスが理解したのは、拳が届く事なくゼフォンはバリアのように発生した紫光に弾き飛ばされたという事。更には巨人が掌から放った紫光のレーザービームの直撃を受けてしまったという事。
「ゼフォン!」
木造の建物を破壊するほどの勢いで墜落したゼフォンのそばに転移したジェクス。
「そんなものか、マガツエルフ」
「(喋った!やっぱりカルベスなんだ。でも何であんな姿に)」
その瞬間、巨人カルベスは転移した。といっても数メートル先のゼフォンのそばに。しかも直後に紫光を全方位に放ち、周囲の全てとジェクスを押し退けて。
「くそおっ」
「しかしまだ私には余白がある」
気絶しているゼフォンは宙に浮くように、一瞬で巨人カルベスの胸元まで引き寄せられた。転がったジェクスにイシュレが手を伸ばす傍ら、ガグナはふと思い出した。それはミスカエルの事。──まさか、あいつ・・・。それから紫光に覆われたゼフォン。レヴァクが息を飲んだ直後、ゼフォンを覆う紫光の球は巨人カルベスの胸元に吸収された。
「ゼフォン!」
ジェクスの声は虚しく消えていき、巨人カルベスは天を仰いだ。それはどこか痙攣のような反応。大きすぎる存在感の巨人カルベスに誰も何も出来ない沈黙。やがて巨人カルベスの漆黒の鉄皮には白い筋が浮かび上がり、紫光をたぎらせるアイガードの周囲にはそれぞれ7色の光の筋が一本ずつ放射状に浮かび上がった。
「フ・・・フフッ・・・フハハハハハッ。遂に手に入れた、マガツの力!これで私は、世界を支配出来る!」
「支配だと?」
ジェクスがそう声を漏らしたからか、巨人カルベスはジェクスの方を見下ろした。
「ロードスター!色々と根回しに走り回ったようだが無駄だったな。絶大な力の前では多勢に無勢、その塵は山とすらならん」
「カルベス!」
声をかけたアーサーを見下ろした巨人カルベス。その態度や素振りのクセはやっぱりカルベスだと認識させられたが、それよりもルアはふと思った。見た目は巨人だが精神状態、つまり中身は人間なんだと。
「デュープリケーター。私は最早カルベスではない」
「はあ?」
「私は、羅刹」
「羅刹・・・・・」
そう声を漏らしたのは野次馬のように集まる住民達。そして野次馬と同じように巨人カルベスを眺めるラングエイ。
「羅刹とは、鬼神の名。しかしその原初は、人類で初めて血剣を為した者。血剣術もマガツの力もありふれたものだ。しかしいつの時代も先駆者は偉大であり、無敵である。この絶大な力は、歴史に刻まれるだろう。今この時貴様らが、いや全ての者が私を下す事など叶う訳もない」
「話が長えからお前はやっぱりカルベスだな」
「今より私はこの地に制裁を下す。異次元の向こうから来た弱き野次馬は身を引いた方が良い」
「何だと?」
「ゼフォンを返せ!」
瞳を虹色に光らせ、声を上げたジェクスを紫の眼光は見下ろした。
「血肉となった者は死んだも同然。それはこの世の道理だ」
「くっ・・・」
「(ねえルア──)」
こそこそと話しかけてきたヘルに近寄るルア。
「(今の内にさ、精霊に集まって貰おうよ。イエンと戦った時のアレ)」
「アレって、ああ、アレ、何とかフォーメーション。ねえペルーニ」
1歩踏み出したカルベス。それだけでズドンと轟音が響き、地震のように大地は揺れ、瓦礫が転がった。どこか遠くを見ながらそのまま歩き出そうとした矢先、カルベスの前にパッと数人が現れた。紫の眼光は冷静に見下ろした。その内の1人、突き刺さるように見上げられたその年季の入った眼差しを。
「ファウンデイル」
「貴殿の狙いは分かっている。大方、各族本部を踏み潰そうとでもいうのだろう。しかしその目論見にどれだけの意義があることか」
「勝てぬと分かっても、時にそのプライドは身を突き動かす。分からぬものでもない。しかし私の目的はそんな安いものではないがな」
「つまらんな」
「この期に及んで、羅刹をつまらんと」
「その姿は貴殿の虚無心の成れの果てでしかなかろう?」
「・・・黙れ」
「貴殿は、幼少から血剣族を憎んでいたな。以前の羅刹にも相応のプライドがあったはずだが、貴殿の眼差しには迷いが見える」
「戯れ言を。迷いなどない。この時を望んでいた!見ろ!この街の様を。どこに迷いが見えるというのだ!」
「憎しみの成れの果て、それ自体が迷いとも言えよう」
「力が全て。血剣族に生まれ、それを学んだ。私はあぶれ者だった。この力は血剣族の影が集約したものだ、その責任を取らせる」
「取らせる・・・。まるで首を取られるのを望んでいるかのようだな」
「それでもいい。それもまた血剣族が影と憎しみを飲み干す方法の1つと言える。しかしそれが出来るのか?決して叶うまい。貴様らはこのまま、憎しみの集約に呑まれ、消え去るのだ」
カルベスは掌を向けた。直後に紫光が輝き、レーザービームが放たれた。一直線に街を抉ったその跡の上にファウンデイルはもう居ない。転移されるくらいの事は分かっている。しかしそれでもそれは“威嚇射撃”でもある。
「ルア」
振り返るルア。戻ってきたペルーニはケリーを連れてきた。その精霊は正にこの前“アレ”をした精霊だった。
「えっとあの」
「ハドロンだ」
「あそうそう、ハドロン・フォーメーション。もうアレしかないと思う」
「あぁ。もう霊王の承諾済みだ。このシエネイラという地には精霊との交流は少ないが、それでも放っておけない。あれも、世界にとってはバチルスだ。精霊たちよ!集え!」
ヘルとルアは顔を見合わせた。もう大丈夫だと。あの力があれば、勝てると。カルベスはふと辺りを見渡した。いつの間に、30体近くの精霊が集まっていたから。
「今ここに!ハドロン・フォーメーションの解禁を宣言する!」
「シューガーのあの現象か。霊気が膨れ上がるのを感じる。なるほど、精霊は世界の守護者なのだな。だがダークエルフの霊気を持つ私に、精霊の力は届かない」
「それはどうかな」
声を上げたのはジェクス。
「マガツの力は、ダークエルフのテムネルからも逸したものだ。マガツになるって事は、ダークエルフのテムネルという殻を破く事だ」
「ふん、羅刹にそんな常識は通用しない」
「あ?」
「私は殻を破ったのではない。新たな概念を作ったのだ」
「は?」
すでにケリーは飛び上がっていた。葉っぱの鎧を纏った精霊ケリー。しかし膨れ上がった霊気を纏うその存在は見るだけで気迫が凄まじい。そして拳は振るわれた。直後ペルーニはふと目を見開いた。空気と霊気がぶつかって震えて広がって消えていく。つまり、ケリーの拳は受け止められたのだ。しかもその瞬間にカルベスの手から紫黒のテムネルが弾け、ケリーは吹き飛んだ。
「(そんな・・・ダークエルフのテムネルが)」
「バカな」
空中でクルッと後転し体勢を立て直してケリーが呟くと、そんな精霊をカルベスは鼻で笑った。そしてその直後、カルベスは全身から紫黒のテムネルを爆発させた。攻撃性は無く、噴煙のように瞬く間に広がった紫黒のテムネル。精霊たちはどよめいた。膨れ上がった精霊たちの霊気が弱まっていったから。
「元より、私のこのテムネルはダークエルフのものではない、新しいテムネルだ。そして今しがたマガツの力も加わり、更に常識を遠ざけた」
「(ダークエルフのテムネルとマガツのテムネルが混ざった、新しいテムネル・・・。あれ?でもボクの霊気とルアの霊気、強いままじゃない?)」
「あ、うん、そうかも」
「だが多勢も過ぎれば煩わしい」
そう言うとカルベスは手を伸ばした。それは誰でもないどこか。強いて言えばゼンマイの街の方。すると直後、動かない骸鬼がカルベスの足元に転移してきた。と言ってもカルベスが引き寄せたんだと誰もが理解した。それからカルベスの体から滲み出た紫黒のテムネルの一部がスーっと流れていき、骸鬼の背中に吸い込まれた。紫光が灯る骸鬼の眼。
「(あっ骸鬼が)」
カルベスの体から滲み出る紫黒のテムネルの一部はカルベスの頭上にも流れていった。次第にそれは4つに分かれ、モヤモヤと人型となり、地上のものと全く同じ骸鬼となった。ドスンッと着地する4体の骸鬼。
「何だと・・・」
「これより進撃を開始する。血剣族よ、憎しみの集約に呑まれるがいい」
それからカルベスは見物した。5体の骸鬼たちと戦う血剣族、マガツエルフ達、ロードスター軍、独立自警団を。
「強くなってやがる・・・」
オージャソウルを纏うアーサーは深呼吸した。当初よりも痩せ細った骸鬼だが、物理的な力も、放つ紫光の圧力も上がっていて、たった5体なのにカルベス討伐隊全勢力でもってしても足止めが精一杯。でもそこでアーサーは短い方の尾状器官の中に入れてしまっていた、リッショウボールを取り出した。それを握りしめたアーサーの眼差しに宿る闘志が燃え上がる。──いくぞ!・・・。
「うおおお!──」
ドカンと音がして思わずシャークやアルファが振り返った。アーサーの姿が見えなくなるくらいその体は青炎に包まれていた。
「アーサー?」
「はああっ!」
パリンッと瞬時に硬化した青炎。全身をコーティングする鎧程度だったものが、尾状器官の手は3倍くらい巨大化したかのように分厚くなり、短い方の尾状器官も噴射口が広がり、しかも“尾状器官状の剣”が腰から2本伸び、背中にはブースターが形成された。
「フウ・・・色々作れたぜ」
「アーサー、それ、リッショウボール?」
「あぁ」
ズゴオンッとアーサーはブースターを吹かして瞬時に飛び去った。そして超加速のまま尾状器官の拳で骸鬼の顔をぶん殴れば、骸鬼は勢いよく倒れ込んだ。生唾を飲んだアルファ。するとアルファは呼吸を整えながら“青い電気”で全身を包んだ。
「グローソウル!」
青い電気が鎧となって硬化してアルファの全身を覆うと、6本の尾状器官は電気を溜め込み、まるで蛍光灯のように輝き光り出した。
「アルファも作ったのか」
シャークが聞けば、アルファは頷く。着地したアーサーの隣に並んだアルファ。顔を合わせれば2人は頷き合い。立ち上がった骸鬼を見据えた。




